大晦日RIZINでの朝倉海(トライフォース赤坂)との再戦で、カーフキック(ふくらはぎへのキック)を効かせて、RIZINバンタム級王座を奪還した堀口恭司(アメリカントップチーム=ATT)が、“カーフキック禁止論”に異議を唱えた。
地上波生放送により、世間一般に「カーフキック」を知らしめた堀口。「その前から流行っていたというか、みんな使ってましたけど……一般的に、ああいったRIZINのライブで蹴っちゃったから流行っちゃいましたね」と、自身のYouTubeで語り始めた。
本誌の取材には、高校時代に出場していた全日本空手道連盟のポイント空手に下段蹴りが無かったことに触れ、空手のステップを顔面パンチ、さらにローキックにも生かしたことを明かしている。
堀口の過去の試合を振り返ると、2012年12月の「VTJ 1st」イアン・ラブランド戦(※写真下)で、アウトサイドローキックを足首を立てて蹴っている姿を確認できる。
「イワン・ラブランドとやった時もローを蹴っていました。前足(での蹴り)が多かったかもしれないですけど、右でも蹴っていたと思います。試合・試合で使い分けていましたし。左右どちらが得意とか、不得意はなかったので。ただカーフっていう意識はなかったですけどね。カーフはいつだったかなぁ……ヒザをケガする前ですけど、(ATTで)ジョズエ・フォーミガに蹴られたんです。左足をバシって。感覚的には平気だったのですけど、もう踏ん張れなくなっていて。これは凄い威力だなって思いました。それからですね、自分も使うようになったのは」と堀口は語る。
堀口が言う通り、ATTの名将マイク・ブラウンは本誌のインタビューに「MMAにおけるカーフキックは、僕らATTで始まったと確信しているよ。2011年あたりに、ウチのジムでみんなが使い始めた記憶があるよ」と証言している。
米国に帰国した堀口は、日本で聞かれるようになった“カーフキック禁止論”について、「昨日もUFCでATTの選手がバンバン、カーフキック使って、(相手が)10発以上蹴られて立っていましたけど、やっぱりすごい効いてましたね。そういうのを見てて、アメリカの人たちから、『カーフキックを禁止にしろ』なんて一回も聞いたことないし、格闘技なんだから、ローキック見たいなものだから、そりゃ使うでしょっていう感じです」と、違和感を覚えたことを語り始めた。
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「総合」をやっているのにカーフは禁止だよというのは──
「総合格闘技で流行っている技ですよね。はっきり言って、総合格闘技でカーフキックを禁止にしたら、(それを)『総合格闘技』というのか、というのもあるじゃないですか。“総合”をやっているのにカーフキックは禁止だよというのは、“ちょっと違くないか?”ってなりますよね。“すべてにおいて強くて対処できないとダメ”っていうの(前提)で総合格闘技をやっていると思う」と、MMAファイターとして、カーフキックを禁止にしたら、“何でもあり”のなかで攻防を競い合う総合格闘技の意味が無いと語った。
格闘技ではどの技も“危険”だ。RIZINでは、サッカーキックも関節蹴りも許されている。
「関節蹴りとかもRIZINでもありですし、ありでいいと思います。強いて言えば……カーフキックより関節蹴りの方が危ないんじゃないかな、とは思いますね」という堀口は、「格闘技って“どれが危ないか”よりも、“倒し合う”スポーツじゃないですか。そこを禁止にしたら、もはや格闘技やるなってどんどんなっていきますよね。『足無しで手だけにしろ』とか、どんどん限定される」と、総合格闘技ではなく、別競技になってしまうことを危惧。
その上で、今回、日本でカーフキック禁止の声が挙がったのは、対処法が無い必殺技と思われていること、技が地味であることが原因ではないかと、堀口は分析する。
「『禁止にしろ』という人は、たぶん対処の方法が無いと思っているから禁止にしろ、と言っているのかもしれないですね。それと、インパクトが薄すぎて簡単に倒しちゃったって見られたのか。せっかく強いもの同士なのに、簡単に倒しちゃったというのが、見てる人からすると『なんだ、カーフキック無くせよ、あんなセコい技じゃ』って始まったんだと思います。いいか、悪いかは……みんなの期待を裏切ったっていう感じですかね」と、再戦での激闘の期待が大きかったなかでのローキックによる圧勝劇に不満があったのかもしれないとした。
しかし、シーソーゲームの激闘だけが格闘技ではない。そして、カーフキックに限らず、様々な技の研究とそれを巡る“攻防”が、総合格闘技の醍醐味のひとつで、競技の進化も推し進めている。
それでも、もし、カーフキックが禁止になったら──と問われた王者は語る。
「もし禁止にされても、別に自分とかはほかの技もいっぱいあるし、そのために引き出しもどんどん培っているんで、まあ、何の問題もないです」。
カーフキックが無くても、カーフキックを使わなくても、堀口恭司には「第2、第3のプラン」があった。そして朝倉海にも、カーフキックのカットが出来ていれば、複数のプランがあったはずだ。それぞれが心技体のすべてを賭けて、引き出しから武器を出し合い、攻略し、相手を制する──その勝負において、大怪我から復活した堀口には、武器を使いこなすだけの力量と経験があった。
あらためて総合格闘技でカーフキックを「禁止にしない方がいい?」と問われた堀口の回答は、「堀口恭司/Kyoji Horiguchiチャンネル」にて、見ることが可能だ。