元ミドル級王者のロックホールドがブラホヴィッチにアゴを折られたように、アデサニヤも潰される可能性がある
――そして迎え撃つ王者ヤン・ブラホヴィッチは、パワーを前面に出した、まさに“重量級”という選手です。
「カテゴリーとしてはライトヘビーですけど、スタイルとしては“ザ・ヘビー級”ですよね。UFCのチャンピオンだから、もちろん技術レベルも高いものを持っていますけど、パワー、突進力、拳の硬さというのが一番の武器という。だからこそ、アデサニヤとの試合がマッチしたのかもしれない」
――パワーvsテクニックという、わかりやすい図式。
「同じライトヘビー級でも、例えばドミニク・レイエスがチャンピオンだったら、ちょっと話が違ってくると思うんですよ」
――レイエスも技術レベルの高いストライカーですから、打撃vs.打撃、テクニックvs.テクニックで、パワー面ではアデサニヤがやや不利という感じになりそうです。
「だからレイエスがチャンピオンだったら、ライトヘビー級に挑戦してなかったかもしれない。ブラホヴィッチがチャンピオンだからこそ、気持ちがそっちに向いたんじゃないかな」
──圧倒的なパワーの差を技術で覆すことができるか、というテーマですね。
「そういう気がしますね。そこを試してみたいというか。ただ、すごく危険な賭けだとは思いますけどね」
――前回ブラホヴィッチは、かつてジョン・ジョーンズとほぼ互角の戦いをしたドミニク・レイエスを完全にKOしています。
「それも正直、ワンパンチですからね。左フック一発で倒して、その後の追撃のパウンドはオマケみたいなもの。だから当然フィジカルは強いし、身体も頑丈で重さもある。打撃もスピードがあったり、タイミングをうまくズラしてカウンターが上手いとかではなく、いつ何時でも倒せるパンチを打つことが出来るという、その強みをブラホヴィッチは持っていますよね。要は身体が疲れたり、体力が削られていても、逆転することができる選手なので」
――アデサニヤの打撃を受けても、一発や二発で倒れることも考えにくいと。
「そうなんです。打たれ強いし、ハートも強い。前に出る圧力もかなりのものがある。打撃にしてもタックルにしても直線的な動きが多くて、そこに自分のフィジカルを乗せることが出来ている。だからその強みが発揮できているんだと思うんですよね」
――自分の強みを最大限に出せるスタイルが、ここに来て確立された感じでしょうか。
「だと思いますね。37歳という年齢でチャンピオンになれたということは、自分のフィジカルや持っている技術に、試合のやり方やメンタルがしっかりマッチした状態なんだと思います。要は、自分が器用じゃないことを認識した上で、“これなら勝てる”という形を見つけたんだと思います。こういうタイプの選手はなかなか崩れないんですよ」
――迷いがないわけですね。
「自分の強みも弱いところも十分に分かった上で、出来上がったものなので。自分のやり方に自信を持っているのが、試合を観ていても伝わってくるんです」
――2019年7月に元ミドル級王者のルーク・ロックホールドをKOして以降、それが顕著です。
「あれも前に出るパワーで圧倒して、最後は左フック一発で意識を飛ばしましたから」
――まさに元ミドル級王者が、ライトヘビー級の洗礼を受けた形ですね。ロックホールドはあれでアゴを折られて、あの試合以降は事実上の引退状態です。
「だからアデサニヤがああなってしまう可能性も十分あるんですよ。とにかく、ブラホヴィッチのあの前に出る圧力とタフネスぶりは、相手にとっては本当に嫌なものなんです。あれだけフィジカルの強い選手が、常にプレッシャーをかけ続けてくるというのは、恐怖さえ感じると思うんですよ」
──その対戦相手にとって嫌な感じは、PRIDE全盛期のマウリシオ・ショーグンにも似ています。
「そうかもしれない。あの前に出てくる力によって、技術が無力化されるというかね。ブラホヴィッチは、そういう強さがあるからこそ、いまベルトを腰に巻いてるんだと思います」
――では、この試合のポイントをひとつ挙げるとすれば、どのあたりになりますか?
「アデサニヤサイドから考えると、当たり前のことですけど、いかに相手の攻撃をもらわず、自分の攻撃を当てるのか、ということですね。ブラホヴィッチの打撃には、一発で意識を飛ばす力があるので」
――アデサニヤは、ここまでMMA20戦全勝ですけど、試合の中でけっこう相手の打撃をもらってはいます。
「ケルヴィン・ガステラムとのミドル級暫定王座決定戦(2019年4月)なんかは、とくにそうでしたよね。これまでアデサニヤは、多少効かされたとしても、打たれながらも打ち返して倒せる自信を持っていると思うんですよ。でも、ブラホヴィッチの打撃をもらったら、同じようにはいかないと思うので。今回ばかりは、顔を触らせないというのが鉄則だと思うんです。ブラホヴィッチの打撃は、ガードの上からでも効く可能性があるので」
――となると、ブラホヴィッチはある意味、アデサニヤの天敵のような存在かもしれません。
「そうとも言えるし、そのブラホヴィッチを倒したら、アデサニヤの強さは本当に次元が違うということを証明することになるだろうし。その両面ですよね。ブラホヴィッチは、やっぱり重量級は技術も必要だけど、パワーと打たれ強さと拳の硬さがものをいう世界だということを見せつけるのか。それともアデサニヤが、前人未到の域にさらなる進化を見せるかどうか」
──ミドル級王者のまま、ライトヘビー級も制するということは、あの絶対王者と呼ばれたアンデウソン・シウバも成し遂げていないことです。
「だから、ここでアデサニヤがミドル級とライトヘビー級の同時制覇を成し遂げたら、“史上最強”の呼び声も一気に高まるでしょう。いずれにしても、ものすごい試合になるんじゃないかと期待しています」(取材・文/堀江ガンツ、写真/Getty Images)
【放送日程】
『生中継!UFC‐究極格闘技‐ 怒涛のトリプルタイトル戦!アデサニヤ、ライトヘビー級王座奪還なるか』
3月7日(日)午後0:00[WOWOWライブ]※生中継
(WOWOWオンデマンドで同時配信)
3月12日(金)深夜0:00[WOWOWライブ]※リピート
(WOWOWオンデマンドで同時配信)
【UFC259 主な対戦カード】
▼UFC世界ライトヘビー級選手権試合 5分5R
ヤン・ブラホヴィッチ(ポーランド)
イズラエル・アデサニヤ(ナイジェリア)
▼UFC世界女子フェザー級選手権試合 5分5R
アマンダ・ヌネス(ブラジル)
メーガン・アンダーソン(豪州)
▼UFC世界バンタム級選手権試合 5分5R
ピョートル・ヤン(ロシア)
アルジャメイン・スターリング(米国)
▼ライト級 5分3R
イスラム・マカチェフ(ロシア)
ドリュー・ドーバー(米国)
▼ライトヘビー級 5分3R
チアゴ・サントス(ブラジル)
アレクサンダル・ラキッチ(セルビア)
【出演】
ゲスト解説:村田夏南子(UFCファイター)
解説:高坂 剛、堀江ガンツ
実況:高柳謙一