ゾーンに入る平田に「私も行くときは行ける」
――なるほど。ところで中村選手は、現在もお仕事をしながらファイターをやっているのですか。
「はい。いまもネイリストをやっています」
――ネイリストということは、ご自身の爪も……。
「たまにつけるときもあるんですけど、試合前になるとやっぱり邪魔なので取って、今は何も爪についていない状態です」
――では、お客さんのネイルをケアしたりカラーリングしながらも、ご自身はノーケアで「紺屋の白袴」になることも?
「そうですね(笑)。でも、お客さまは大体もう、私が格闘技をやっていることを認知してくださって、『あれ、試合が近いの?』みたいな感じで、北海道で試合をしたときは職場の人やお客さんも応援に来てくれました」
――普段はそのネイリストのお仕事をされてから、毎日練習に向かうと。どのくらいの時間から始めていますか。
「朝10時からお店が開くので準備をして、だいたい夜の8時から8時半くらいに練習を始めて、終わるのは12時前後ですね」
――夜の24時頃までジムにいて、帰ってご飯を食べて寝て、また朝から仕事場に向かう。ハードな日常生活ですね。
「時間のことで言ったら、ちょっともう時間が足りなくてやきもきする部分はあるんですけど、でも充実していて楽しいですね」
――もともと格闘技経験は無く、たしか小学生の頃にやっていた剣道時代から、右足前のサウスポー構えになったと仰ってましたね。9月の永尾音波戦では、オーソながら左の攻撃が強い永尾選手の外足を取っていたのが印象的でした。あの試合のタッチグローブのときに永尾選手がパンと上にグローブを弾いたじゃないですか。あれで顔つきが変わって、打ち合いでもアグレッシブに圧力をかけていった姿を見て、気が強いなと感じました。
「ああ、あれでちょっとスイッチ入ったような気がしますね。ただ、行き過ぎちゃうときもあるので、そこらへんも上手く行くところは行って、行かなくていいところはちゃんと冷静に判断できるようにはしたいなとは思っています」
――続く古澤みゆき戦は、判定0-2のマジョリティ・デシジョンで負けました。2018年12月の「GRACHAN 37.5 × D-SPIRAL 22」では腕十字で一本負けした相手に、今回は判定に持ち込み成長を見せたものの敗れたのは、あのバックハンドブローを受けたことが響きましたか。
「バックハンドブローが直撃しちゃって、あれが判定を左右した要因かなと思っています。打撃戦になるかなとは思って練習していたんですけど、思ったよりも古澤選手の打撃が重くて、ちょっと手こずったというのはあります」
――後半はテイクダウンを奪い、チョークも狙いましたが届きませんでした。
「2R制でちょっとラウンドが足りなかったなとも感じています。2年前と比べていい試合が出来たかなとは思うんですけど、勝ちたかった。まだ技術の一つひとつがうまく必要な場面で出せていないので、もっとその場に適応した技を出していきたいなと思っています」
――もともと打撃に興味があった中村選手が、格闘技を始めるうちに寝技にハマっていった。試合で見せる組みの攻防、がぶりからのニンジャチョークなどの動きでそれがよく伝わってきます。しかし、これまでの中村選手の試合で展開を変える動きだった組みの部分で強いのが、今回の平田樹選手です。
「そうですね。組みは本当に平田選手の得意分野だと思うので、なるべく組みつかれる前に対処しながら、打撃で上回っていきたいなと思っているんですけど、最悪、寝た場合でも、自分の出せる技というのはちゃんと意識しながら戦いたいです」
――「最悪、寝た場合でも」の部分には、時折見せる足関節も含まれるでしょうか。
「そうですね。自然と出やすい技だったりはします。寝技は常にやっているので、平田選手の動きも考えながら、本当に一瞬の隙を狙っていってもいいと思っています」
――2020年2月に北海道は新型ウイルスに関して、日本国内で初めて緊急事態を宣言したこともあり、ほかの地域よりも大変だったと思います。もちろん、その大変さは今でも続いていると思いますが、中村選手は2月、5月、9月、12月と試合に臨んできました。どのように格闘技に取り組んできましたか。
「新型コロナウイルスで最初の緊急事態宣言のときは、ジム自体もお休みしていて、自分でどうにかトレーニングをしたり、ジムが開いてからも、出来る限り人を減らして練習を続けてきました。試合がずっとあったので、いつも通りにはいかなくても、練習は続けられた。そのことが本当にありがたかったです」
――人は減っても、注意しながら練習を続けてこれたと。練習と異なり、試合に臨むことは怖くはないですか。
「怖いというのはないですね。そわそわしたような、緊張した感じは常にあるんですけど、試合に向けて臨んでいる練習とか、本番に向けての取組みというのがすごい好きなので、試合が決まったら毎回楽しみの方が大きいです」
――それは試合に向けた練習を積み重ねることで、自身が強くなっている実感があるからでしょうか。
「そうですね。試合相手が決まると、その対戦相手に合わせて考えながらやっていくので、またちょっと戦い方が変わったり、自分の新しいスタイルみたいなものが出来ていく。それを試合でぶつけていく。それが面白いですね」
――今回の対戦相手の平田選手は、試合ではゾーンに入ったように、相手を飲んで一気呵成に攻めることがあります。
「格闘家としては凄いなと思いますね。やっぱり戦うことに向いているんだろうなと。そういった面では、私も行くとき行けるというのは自分の中であるので、しっかり噛み合えばいいなと思っています。実力とか経験とか全部、今の段階では平田選手のほうが上回っていることが多いと思うので、いかに実力以上のものを発揮して、食らいつけるか。いろんなことがあった2020年に4試合を戦ってきました。それぞれの試合に向けて、日々を過ごしてきました。気持ちだけは折らずに向かっていきます」
――今回のポスターを見れば分かる通り、大会自体がONE Championshipで活躍中の平田選手ありきの大会になっています。ポスターに対戦相手やほかの選手は写真が入らない。そんな大会のメインに出場する中村選手としては、どんな気持ちで臨みたいと思っていますか?
「まず、自分が挑戦者ではあることは間違いないと思っています。現段階で周りや世間一般では“完全な噛ませ犬”と思われていると思いますし、自分でもそうだろうなという認識はあるんですけど……そこでどうにか爪痕を残して、番狂わせを起こせたらなと思っています」