2020年11月6日(金)、シンガポール・インドアスタジアムにて事前収録された「ONE:INSIDE THE MATRIX Ⅱ」 の放送で、若松佑弥(TRIBE TOKYO M.M.A)がおよそ1年ぶりの試合で韓国のストライカー、キム・キュサンと対戦する。
大会前、若松はZOOMでの囲み取材に応じた。ONEフライ級公式ランキング4位のコンテンダーは、いかに1年ぶりの試合に臨むのか。同階級で活躍し、TRIBEでも肌を合わせる和田竜光(日本)と同ジムで練習に励むONE女子ストロー級の三浦彩佳(日本)、チームラカイのジェへ・ユスターキオ(フィリピン)のコメントを併せて紹介する。
「ONE: INSIDE THE MATRIX Ⅱ」は、11月6日(金)午後9時30分(日本時間)より、ONE Championship公式アプリ、またはABEMA格闘チャンネルで視聴が可能。
若松佑弥「子供が生まれて、また戦う理由が変わりました」
――日本を出る前のPCR検査、シンガポールに着いてからもPCR検査で、結果が出るまでは、ホテルの部屋で滞在しているそうですね。
「ホテルではトレーニング以外は部屋から出られないので、ずっと部屋の中でいろいろやってます。ストレッチをしたり……」
――ストレスが溜まりそうです。大丈夫でしょうか。
「トレーニングのときだけ、別部屋でミットを持ってもらったりは出来ていますし、自分は逆に“全集中”して試合に向けれるので、今までよりいいですね。外に出るといろいろなこと、他のこともやらないといけないので、部屋も動いたりできるスペースがあるくらいは広いので、自分のやりたいことができるというか」
──2連勝中の若松選手ですが、2019年3月にデメトリアス・ジョンソンに敗れて以来、どのような変化がありましたか。
「DJと触れたことによって、自分も組みが出来るんだと思ったし、今後も強化したいと思いました。今年(2020年)に入ってから、レスリングを練習に取り入れて、寝技もたくさん練習しています。そういった意味では、DJ戦からすごい変わったと思う。(2019年8月に)ジェへをKOして、あの舞台で勝てたことも経験に繋がっている。子供も生まれて、また戦う理由が変わりました。それで軌道に乗っているのかなと思います」
──お子さんが生まれてどんな変化がありましたか。
「1年前の生活とはガラッと変わりましたね。子供を抱っこしながら休憩したり、お風呂に入れたり。子供がいなかった時は、自分が一番大事というか、自分のことに頭を使っていました。でも、子供は1人じゃ何もできないので、自分と嫁さんしかいないと思って、頑張れるようになりました。
人生って『輪廻天生』(何度も生まれ変わってくること)じゃないですか、だからこれは頑張るべきだなと。格闘技だけにならないで、子育てもしっかりして、そうやって人は成長していく。自分は割と短気な性格でした。でもそういう人間面、人間性に関しても優しくなれたり、気持ちに余裕ができました。練習とかでも俺が頑張らないと食わしてあげられない。そういう意味でも、すごいモチベーションになっています」
――練習への向き合い方にも変化がありましたか。
「うまくいかないなか、いくら身体を作っても、やっぱり自分が(海外へ)行かないと試合が出来ないし、勝てないとお金ももらえない。そういった意味で、自分が犠牲になって家族のためにやらないとという責任感が増しました。そこはけっこう前と違って、頑張るのは当たり前だなと思って。試合まで頑張るというよりも、普通に試合も『仕事』だと思って今まで通りやるつもりです」
――お子さんが10カ月。渡航もあり隔離生活も長いため、離れると寂しい気持ちもありますか。
「寂しいですけど、テレビ電話をしたりしてるので大丈夫です。心配もありますけど家にいるので、こっちも1人で集中できる。今までよりも集中できてますね」
――1年ぶりの試合の率直な気持ちは?
「素直に嬉しいのと、半分は突然(試合が)無くなるかもしれない不安もありますね。PCRとかもあるので。だから、最後まで油断できないなという思いです」
――ここ1年はどういったトレーニングをしてきましたか。
「基本的には変わらないんですけど、トライアスロンを採り入れたり、あとは寝技、組み技ではレスリングの大学の強い子たちが来てグラップリングをやったり、食事も前よりシビアになりました。走りもいっぱいやったし、結構やれることは全部やってきたって感じですね」
――トライアスロンというのは大会ですか?
「トライアスロン、自分でやってるんですよ。市民プールみたいなところに行って、泳いで、トラックで走って、自転車で移動してみたいな。いろいろな局面の環境で身体を動かすみたいなイメージでやっています。総合格闘技なので、いろいろな動きが必要だなと思って。あとは全身運動をやって、血管を増やすというか、スタミナを上げるようなイメージでやってます」
――高地トレーニングのような効果があるわけですね。それは誰かのアドバイスがあったのでしょうか。
「自分で何となくトライアスロンがいいんじゃないかなと思ってやりました。大会に出るというのは無くて、別にそれで競争するというよりも、自分たちは格闘技をやってるので(それに結び付くように)。息抜きみたいな感じでやってます」
――この間、ご自身の中で一番成長できた点は?
「パワーですかね、力。組みの力とかも全然、上の階級とかでもいろいろ出来るようになってきたのがあります。グラップリングでも、グラップラーと勝負できるし。パンチ力も上がりました」
――そのパワーは筋トレの数値ではなくて、組み力などが上がったということですか。
「持って生まれた本能的な身体の使い方とかが、自分の中で解釈して出来るようになりました。グラップリングとか組みに対してのきっかけを掴んだ。前はすごい嫌々やってたんですけど(苦笑)、最近は結構、グラップリングでも勝負出来るというイメージになりました。
それに青木(真也)さんのクラスも週一で練習していて、打ち込みみたいなのを繰り返しているので、寝技の技術も前より上達したと思います。最後は開き直って、相手というよりも自分との戦いなので、そこまで相手を意識していないです。誰であっても自分より強いって思っているから、出来ることは全てやっています」
――身体の使い方はパンチにも活きていると。
「そうですね。戦い方。野性的になれたっスね。技術ばっかりやっても、やっぱり自分の良さが消えてしまう場合もあるので、そういった意味で、技術と自分が元から持っている力とうまく両立出来て、練習とかでも出ました」
――それを試合で出すのが楽しみですね。
「そうですね。単純にどうやろうとかじゃなくて、倒したいというか、打ち負かせるみたいな感覚です。小手先ばかり考えちゃうと、痛みだったりも出てきてしまうかもしれないので、自分が考えないでも、相手を狩りに行くみたいな感覚です」
――2019年10月の前回の試合(キム・デファン戦)の1Rで右の拳を痛めました。あれは打撃の練習再開までどのくらいかかりましたか。
「自分が打ったパンチでいっちゃったんですが、2カ月くらいでけっこう完治できて、思いっきりパンチいけましたね」
――ハードパンチャーゆえに拳を序盤に痛めた。でもその試合を戦い抜いて判定で勝利したことに関しては得たものがありましたか。「あの試合はすごい自分的に思い出したくないくらいですけど、タイミングでああやって外れることもあるんだなと。右が使えなかったので、ジャブで行こうと切り替えたのは、自分的にはいいんですけど、外から見てたらつまんない試合だなと思ってもいました。ただ、自分の中では一番いいジャブだけで距離を取ってという選択は良かったんじゃないかなと、今思えば思います」
――キム・キュサン選手をどうとらえていますか。
「ストライカーで自分と同じ階級とは思えないくらい身長が高い(179cm)なと思いました。今まで対戦した中で一番背が高いと思うので、そこが今までと違う印象です。綺麗なボクシングをする選手で、自分のように動きまくる選手ではない印象です。典型的なアウトボクサーだな、と。寝技もしっかり出来ると思うし、すごい強い選手だと思う。久々の試合だと思うので、お互い全力で戦って熱い試合にしたいです」
――キム・キュサン選手のユスターキオ戦を見ると圧力をかけ続けている。あの圧をどうとらえていますか。
「それがちょっと引っかかるんですけど……かといって(キュサンも)結構被弾してるので。あとはユスターキオ戦はリングだったじゃないですか。なので、ケージだったらもっと足を使えば、たぶん捕まえられないんじゃないかなって思いますね。あとはテイク(ダウン)も混ぜながら組んだりして、それも想定して練習してきました」
――さきほど「典型的なアウトボクサー」と評していましたが、近づくと長身ゆえに首相撲からのヒザ蹴りもある。長身の選手とも練習をしてきたのでしょうか。
「180cm近くある選手と首相撲もやってきました。ケージでオープンフィンガーグローブのスパーリングは思いっきりは出来ない。実際、ケージのあの広さでオープンフィンガーで自分を捕まえるって、なかなか難しいと思うので。そこは動き回って自信を持ってやりたいですね」
――ユスターキオ戦でキュサンは試合中に鼓舞するように雄叫びを挙げていました。気持ちの強さをどうとらえていますか。
「まあ、強いは強いんですけど、みんな気持ちは強いと思うので。あれは自分が勝ってると思って雄叫びを上げたと思うので、そこでキム選手が、雄叫びを上げている暇があれば、もっといかないとって思いましたね」
――11月に藤沢彰博選手を倒したショートの右アッパーというか、長い手足なのにコンパクトにも打てます。
「あれなんかアッパーというよりフックみたいな感覚ですかね。右ストレートでも内側からいつも打っているので。藤沢選手、結構ガードを固めて中に入るタイプだったので、たぶんキムもけっこう低く構えてそれを狙ってたんじゃないかなと。それで藤沢選手も見えてなかった。自分はあの距離では戦わないですね。あそこまで近くないので」
――いかに勝とうと考えていますか。
「自分の持っている本能というか、自分の戦い方で相手にダメージを負わせてしっかり倒したいなと思っています。もちろん自分の持ち味の打撃を使いながらも、全部において圧倒していきたい。1R KOもあれば、判定でも勝つ自信はある。色々なプランを考えていますが、1、2Rで倒しにいこうかなと思っています」
――MMA10勝3敗のキュサンは、2019年5月にユスターキオに判定負けし、若松選手は1R TKO勝ちしている。その意味で、王座戦を目指す若松選手には圧勝が期待される試合かもしれません。
「格闘技なので、何があるか分からないので、もちろん自信はあるし、絶対勝たないと、という気持ちはあるんですけど、相手も全て賭けてくると思うので、そこは油断できないし。自分も全然油断してないというか、全集中で相手をぶちのめすだけです」
――若松選手は今回の試合をきっかけに今後をどう考えていますか。
「この前の大会(10月9日)で、(リース)マクラーレン選手がKOしていた(vsアレクシ・トイヴォネン)ので、あれもたぶんマクラーレンにとっては勝たないといけない試合だと思って、あそこでああいう勝ち方が出来ていた。自分も圧勝するというか、全ての面で何もさせないで倒さないといけないなというプレッシャーみたいなのはありますね」
──日本のファンに向けてメッセージを。
「技術云々よりも、自分のスタイルとか、他の選手と違うんだ、というのを見て欲しい。格闘技だけじゃなくて、自分が今まで生きてきた1年間の発表会みたいな感じで、成長したところを見せたいです。今までの格闘技というよりも、自分の持った野生的なパワーで、1Rから倒しに行こうと思うので、今までとは違った戦い方を見せられると思います。楽しみにしていてください」
◆和田竜光「キュサンは攻撃が当たりづらそう」
「(若松の武器は)踏み込みの速さと、肩の入ったパンチ。肩が入っているから遠い位置からパンチが伸びてくるイメージです。そしてそれが速いからもらっちゃう。キム・キュサンはディフェンスは上手ではないけど、リーチがあって距離が遠いので攻撃が当たりづらそう。試合予想はユーヤのKO、もしくは判定勝利です」
◆三浦彩佳「心技体すべてにおいてパワーアップした」
「(若松のこの1年間をチームメートとして見て)なかなか試合が決まらない中でも、ずっと準備してきている佑弥くんを見ていました。試合がなかったこの1年間でさらに心技体すべてにおいてパワーアップしたと思います。(若松の強さは)一撃で倒す破壊力。1Rで圧倒的にKOで勝利してくれると思います」
◆ジェへ・ユスターキオ(フィリピン・チームラカイ)※若松佑弥、キム・キュサンと対戦「ユウヤとの再戦に興味がある」
「非常にエキサイティングな試合になる。僕は両選手と対峙したので、お互いがどんなパフォーマンスをするか考えがある。この戦いでは、経験が大きな役割を担うと思う。ユウヤはキムよりもはるかに多くの経験を持っている。それがこの試合で発揮されるだろう。しかし、もちろんこれはMMA(総合格闘技)なので、サークルの中では何でも起こり得るし、誰もが勝つチャンスを持っている。
(勝敗予想は)難しい選択ではあるが、ユウヤ・ワカマツがユナニマス判定で勝利するだろう。両選手ともに、とてもアグレッシブでお互いにKOを狙っていると思う。より良い距離で試合をした選手が判定勝利、そうでないとすれば、2人ともKOで試合を素早く終わらせられる選手だから、勝者を予想するのは難しい。この試合の勝者と対戦することは何も問題ないけど、正直なところ、ユウヤとの再戦の方に興味があるね」