キックボクシング
インタビュー

【REBELS】引退カウントダウンの北川“ハチマキ”和裕「負け続けても応援してくれた人たちの前で、燃え尽きる覚悟で戦って、勝つ姿を見せます」

2020/10/26 14:10

REBELSチャンピオンとしての野望と挫折。その後に味わった連敗地獄

 REBELSでタイトルを手にした時、ハチマキは「チャンピオン」としてタイトルの価値を上げるべく、ひそかな野望を抱いた。

「キック界はタイトルを獲ったら終わりで『防衛しない風潮』があるじゃないですか。僕はそれはしたくなかったです。ライト級の時は減量がきつすぎて、絶対に真似したらダメですけど、水抜きを最大で1日7kgやって死ぬかと思いながらクリアしたり(苦笑)。でもタイトルを獲る前に階級を上げると減量を言い訳にするみたいで嫌で、ライト級タイトルを獲ってすぐ返上してしまったんです。だから、スーパーライト級ではどんどん防衛戦をやって、ベルトの価値を自分で上げよう、と。『他団体のチャンピオンを全員倒してやる』と思って、初防衛戦の相手は当時J-NETWORKチャンピオンの鈴木真治選手。勝って、防衛出来ました」

 他団体のリングに積極的に出場したのも価値を上げたい一心だった。「スック・ウィラサクレック」でゴンナパー・ウィラサクレックと、NJKFではテヨンとWBCムエタイ日本統一王座戦で対戦した。

「ゴンナパー選手は当時WPMFの世界チャンピオン。『俺が勝てば、世界チャンピオンよりREBELSのチャンピオンが強い』となると思いましたし、テヨン選手とのWBCタイトルマッチもそうでした。どちらも負けてしまったんですけど」


 2連敗の後、REBELSに戻り、潘隆成とノンタイトル戦で戦って敗れた。
 ハチマキには、1つの思いがあった。

「ベルトを獲るまでは上の選手と『自分の名前を上げる試合』をやってきて、自分が上に行くと『ハイリスク・ローリターン』の試合を避ける選手がいますよね。気持ちはめちゃめちゃ分かるんです。『なんでうまみのない試合をやらないといけないんだ』って。だけど、自分が上の選手とやらせて貰ってきたんだから、何の得も無い試合でもちゃんとやって、ちゃんと勝つ選手こそ偉いと思うんです。僕は潘君に負けてしまいましたけど(苦笑)」

 3連敗で後が無くなり、次の防衛戦はチャンピオンとしての実力と選手としての価値を問われる大勝負になる。
 そう思った時、ハチマキは大胆な行動に出る。憧れの人、音楽家・プロデューサーの梶浦由記さんを試合に招待したのだ。

「ちょうど30歳になる時で『いつまでもやれるものじゃない。これで終わりでもいいように覚悟を持ってやらないと』と思っていて。性格的に自分からどうこうは出来ないんですけど(苦笑)、あの時だけは『後悔したくない』と思ってお願いしたら、会場に来ていただけることになりました」


 ハチマキにとって、梶浦由記さんに「自分の試合を観て貰う」のはずっと描いていた夢だった。
「キックボクシングを始めた頃に梶浦由記さんを好きになって、デビューしても新人の頃は入場曲が使えないから『早く梶浦さんの曲で入場したい』というのもモチベーションだったんです。入場曲を使えるようになると、毎回『梶浦さんのどの曲で入場しようか』と考えて、選曲するのが楽しみでした」

 2016年6月1日、『REBELS.43』で渡辺理想に判定勝利して2度目の防衛に成功。勝ち名乗りを受けて、試合後に憧れの梶浦さんに直接祝福して貰うという、人生で最高の瞬間を迎えた。
 ただ、この試合を最後に、ハチマキは勝利から遠ざかり、連敗街道を歩むことになる。


 もしもあの試合で辞めていたら、と思うことはないか、と聞くと、ハチマキはきっぱりと否定した。

「周りにも『夢がかなっちゃったじゃん。これ以上、やることはないでしょ』って言われたんです。確かに、一番観て貰いたい人に観て貰えて、それ以上はないんです。だけど、それで夢がかなって満足して辞めたら、梶浦さんをガッカリさせてしまうんじゃないか。もっともっと頑張っていかないといけない、と思ったんです」

 それに、とハチマキは付け加えた。
「チャンピオンになったら、挑戦を受けて防衛戦をして、負けて獲られるまでが仕事だと思うんです」

 ハチマキは、生真面目で、不器用で、誠実に「REBELSチャンピオン」の責任を果たそうと戦い続けた。思うような結果は出なかったが、その姿勢が伝わり、どんなに負けてもREBELSファンは応援することをやめなかった。
 体調不良で長くリングから遠ざかり、1年8カ月ぶりの復帰戦が『REBELS.57』。
 この時のことをハチマキは今も鮮明に覚えている。


(写真)2016年6月1日、REBELS-MUAYTHAIスーパーライト級王座2度目の防衛に成功

「入場曲が流れた時、会場の声援がもの凄くて、入場前に泣いてしまいました…。声援のありがたさというか『こんなに応援してくれるんだ』って。
 その試合も負けてしまって、梶浦さんが観に来てくれた試合の後から6連敗してますけど、それでもずっと応援し続けてくれる人たちに、今回こそ勝つ姿を見せたい。見せないと…」

 コロナ禍は、6月のNKBで引退していたはずのハチマキに「REBELSラストマッチ」をもたらしただけではなく、もう1つの「追い風」を吹かせた。

「僕は練習で追い込むことには自信があるんですけど、前回の試合も怪我が多くて全然追い込めなくて、思うように動けないと練習が本当につまらないです(苦笑)。それで『もういいかな』となったのもあるんですけど、6月のNKBの大会が中止になって、だましだましやってきた箇所を病院で検査して、リハビリもしました。今は練習でしっかりと追い込めるので、練習していても楽しいです」


 対戦相手は現REBELSチャンピオンの良太郎。相手にとって不足はない。
「知らない相手とやるよりもモチベーションが上がりますし『新旧王者対決』ですからやる意味があると思いますし、いい相手だと思います。
 僕は、油断したらダメだと思って、ずっと対戦相手を過大評価してきたんですけど、今回はフラットに良太郎選手を見て、今まで対戦してきた相手を考えても、選手としての実力は僕が上回ってて、劣るところはないかなと。自分の力を出せれば、差はあると思います。

 くよくよするタイプなので、連敗して期待を裏切るたびに本当に心が壊れるんじゃないか、と思うこともあったんですけど、結果で否定され続けても、応援して貰うことで自分という存在を肯定して貰えるのはありがたかったです。これだけ負け続けて、これだけ応援して貰える選手も珍しいと思います。これは上を目指してる選手なら絶対に言っちゃいけないと思いますけど(笑)、もう辞めるって言ってるから言っちゃいます。

 引退試合は来年のNKBでやります。だけど僕は今回は今回で、燃え尽きるくらいの気持ちでやります。
 客席にずっと応援してきてくれた人たちがいて、その人たちの前で自分が迷いなくパフォーマンスを出して、とにかく勝つ。勝つ姿を見せます!」

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