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ペトロシアン、ムサシらアルメニアファイターたちが紛争に抗議

2020/10/06 22:10
 アゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突が発生してから1週間が経ち、両国のファイターたちにも緊張が走っている。  報道では、軍事衝突により両国で約200人が死亡したとされ、1994年の停戦合意以降で最大規模の衝突となっている。トルコが支援するアゼルバイジャンとロシアと軍事同盟を結んでいるアルメニアとの間で緊張状態が続いている状況だ。  アゼルバイジャンを代表するファイターであるトフィック・ムサエフの前線入りは既報の通りだが、コーチであるルスラン・エフェンディエフ氏は教え子たちの徴兵に「いまアゼルバイジャンとアルメニアの間で起きている悲惨な事実を皆に知ってもらいたい」「兵士や選手たちが一刻も早く、家族の元に戻れるようにしてあげたい」とのメッセージを本誌に託している。  一方、世界のアルメニア系ファイターたちも、今回の軍事衝突に抗議の声を挙げている。  1985年にアルメニアの首都エレバンで生まれたジョルジオ・ペトロシアン(イタリア)はSNSで、ユニセフアンバサダーのミッキー・タルヤンの「世界の平和と安全保障が脅威に晒されています。今日止められなければ、私たちの子供たちが危険に晒され、明日にはあなたの子供たちが危険に晒されるかもしれません。国際社会には、軍事行動を止め、世界の平和を守るために可能な限りのことをしてほしい」というコメントをリポストしている。  ペトロシアンは、幼少時にアルメニアがアゼルバイジャンとの紛争に巻き込まれたことで「電気も食べ物も無い」生活となり、父と兄と共にイタリアに移住を決意。1991年、スロベニアとの国境近くの小さな町ゴリツィアにたどり着き、ようやく必要な支援を得て、1年半後にアルメニアに残っていた家族を呼び寄せている。 「シェルターに滞在している時も、パンチやキックができるスペースを見つけて自分でトレーニングしていた」というペトロシアンにとって、「最も重要なことは謙虚さ」だという。  ONEフェザー級ワールドGPを制し“ドクター”と呼ばれるペトロシアンは、ONE Championshipのインタビューに、「多くの人は謙虚さを持っていない。自分はそれを誇りに思っている。なぜなら、自分は(キックボクシングで)全てを勝ち獲ったけど、それでも16歳の小さな男の子だった時の自分がいる。自分がここまで成し遂げるためには、前を見るだけじゃなくて過去を忘れないようにすることが大事だった。決して過去を忘れないことがね」と語っている。 「決して過去を忘れない」という“ゲヴォルグ”ペトロシアンにとって、アルメニアで起きていることは、自身のことだ。SNSでは、#peaceforarmenian のハッシュタグで抗議の意を表している。  元DREAM二階級制覇王者のゲガール・ムサシも、祖国のために平和を祈っている。  アルメニア人の両親が亡命したイランのテヘランで生まれたムサシ(モサシアン)は、イラン・イラク戦争に遭い、4歳の時にオランダ・アムステルダム郊外のライデンへと移住。戦争の影響で住処を転々とした経歴を持つ。  ボクシングからオランダで人気のキックボクシングに転向し、副業として、バウンサー(用心棒)の仕事をしながら、2003年に「2 Hot 2 Handle」でプロMMAデビューを果たした。  2018年5月の「Bellator 200」では、Bellator世界ミドル級王者ハファエル・カルバーリョに挑戦。1RTKO勝ちで王座を獲得したムサシは、「このベルトをアルメニアの人々に捧げます」と、米国にも中継されたロンドン大会のケージのなかで語っている。  その後、ローリー・マクドナルドを相手に初防衛に成功。2019年6月にハファエル・ロバト・Jrに5R判定負けで王座から陥落も、同9月にリョート・マチダをスプリット判定で下し、再起を遂げた。  2020年10月29日(日本時間)30日には、ロバトJrが返上した同王座の決定戦として、二階級制覇を目指す世界ウェルター級王者ドゥグラス・リマを相手に、ムサシは王座返り咲きを狙う。  そんな最中での紛争に、ムサシは「私たちの国のために祈り、団結して侵攻を止めなければならない」と訴えている。  UFCライト級の注目選手アルマン・ツァルキヤンは、「アルメニアの人々は戦争に備えているが、私たちは戦争を支持する者ではない」と記す。  ジョージアのアルメニアン・コミュニティに生まれ、幼い頃に両親がロシアのハバロフスクへ移住したことでロシア国籍を得たツァルキヤンは、ロシアで育ったアルメニア人ということになる。  タイで習得したムエタイをロシアで培ったフリースタイル・レスリングに活用して戦うツァルキヤンは、2019年4月のUFCで、ダゲスタン出身でコンバットサンボ金メダリストのイスラム・マカチェフとの白熱のレスリング・マッチを繰り広げ、「ファイト・オブ・ザ・ナイト」を受賞している。  コーカサス出身ファイター同士による高度な一戦は、解説のジョー・ローガンも賞賛するなど、格闘技ファンを魅了した。ダゲスタン出身のハビブ・ヌルマゴメドフ、キルギス出身のヴァレンチーナ・シェフチェンコらの活躍で、東スラブのみならず、中央アジアのファイターたちも刺激を受けている。  そんな様々なルーツやバックボーンを持つ選手たちが、一堂に会して、互いのすべてをぶつけあうのが格闘技だ。相手と戦うことは、その多様性を知ることでもある。  1992年から94年のナゴルノカラバフ戦争では、約3万人の死者と100万人が難民になったとされ、その時はアゼルバイジャン側にも多くの難民が出ている。新型コロナウイルスのパンデミック、原油価格の暴落もあり、社会のストレスが高まるなかで、愛国心を利用する者も現れ、周辺国の思惑も様々だ。  五輪では、理念としてスポーツの政治的中立を求めているが、一方で、あらゆる差別に反対するという原則も憲章に盛り込まれている。心身ともに痛みを知るファイターたちの声は、どこまで届くか。
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