(C)ゴング格闘技
2020年9月10日(木)東京・渋谷O-EASTにて、『ROAD to ONE 3rd:TOKYO FIGHT NIGHT』が有観客で開催され、ABEMAを通して世界同時生中継される。
そのメインイベントでは、江藤公洋(和術慧舟會HEARTS)が、第2代&第6代ONE世界ライト級王者の青木真也(Evolve MMA)と対戦する。江藤は、レスリングをバックボーンとするMMA17勝5敗2分の実力者だ。
5日のインスタライブでは、チームクラウドの上迫博仁を通して江藤と縁のある秋山成勲が、大沢ケンジHEARTS代表と対談。江藤の知られざる強さを語りながら「じっくり見て行くと青木君の型にハマってしまうから、そうならないように若さと勢いで行ってほしい」(秋山)と勝機を語っている。
果たして、江藤はジャイアントキリングを成し遂げるのか。それともそれは番狂わせですらないのか。会見後に話を聞いた。
江藤「そんなに人って変われるものじゃない。上手くいかないときに、どうできるか」
――青木真也選手との試合を聞いたのはいつくらいでしたか?
「1週間くらい前(※会見は8月17日)でしたね」
――二つ返事ですか? それとも少し考えましたか?
「1日くらい考えました。でも大沢さんと話して、『この状況下で試合を受けないという選択肢はない。ノーという返事はないよね』という話になって、受けたという感じです。もちろんその中に、『マジか? 自分にオファーが来るんだ』という驚いた気持ちもありましたし、試合をするということの恐怖心というか、怖さも一気にきました」
――江藤選手のバックボーンは柔道とレスリング(2006年・宮崎・福島高校3年時に全国高校生グレコローマン選手権74kg級優勝&国体・少年の部フリースタイル74㎏級優勝)ですよね。専修大のレスリング部(全日本学生選手権&全日本大学選手権 74㎏級2位)では上迫博仁選手が先輩にあたると。
「そうです。自分が後輩で、同じ寮で1年生のときは同じ部屋でした」
――上迫選手はどういうどういう先輩でした?
「いや、普通にいい先輩でしたよ(笑)。真面目でしたし、ずっと付き合いがありましたから、大学卒業後、『ウチのジムでもレスリングができる』ということで、和術慧舟會HEARTSを紹介されました。プロデビューも、試合が決まっていた上迫先輩が怪我をしてしまって、先輩の勧めで代役出場したのが、プロデビュー戦だったんです。本当に、周りの人たちに感謝しています」
――専大では古くは高阪剛選手が柔道部、近年ではほかに中村K太郎選手に……。
「佐藤天選手も同時期に柔道部でしたね。同じ寮でした」
矢地くん、武田光司選手もそうだし改めて専大出身の格闘家多いな。笑 https://t.co/jE0PRrYfVl
— 佐藤天 Takashi Sato (@satotenten) September 7, 2020
――そうでしたね。佐藤天選手も。猛者が揃っていたわけですね。ところで、青木選手とは練習で何度も肌を合わせていますね。最後に一緒に練習をしたのは?
「最後に練習をしたのは、3週間前とかですね」
――そんな直近まで! ロータス世田谷ですか。
「ロータスです。TRIBE(TOKYO M.M.A)でも練習することもあったので、その中で、青木選手が試合をすると、SNSで発信していて『誰と戦うんだろう』という感じだったのが、『こっちに話しが来るんだ?』という驚きがありました」
――その状況の上で判断をしたわけですね。
「そうですね。戸惑いはめちゃくちゃありました。でも、このタイミングで青木選手が試合をする。自分も今回は色々な感情が沸きましたが、それを吐き出して当日に向かえればいいと思っています」
――「ONE Warrior Series」で3連勝して、2019年7月に本戦デビュー。パク・デソン戦の敗北があって、2020年2月には練習仲間でもあったアミール・カーンをリアネイキドチョークで極めました。この間の変化をどのようにご自身ではとらえていますか。
「やっぱり昔に比べて、少しずつ力を出せるようにはなってきているのかなと思っています。それでもムラがある。それが自分の心の弱さの部分だったりしたところもあると思うので、成長していく中で、次の試合はどこまでその気持ちや力を出せられるような状態を作れるかだと思っています。自分がファイターとして生きていく中での一つの課題だと認識していました」
――相手もあるなかで、常に力を出せるというのは、どの選手にとっても難しいことだと思います。課題と言えば、デソン戦は警戒していたハイキックに対し、ガードも上がっていたけれど、もらってしまった。あのときはどう考えていましたか。
「あの場面は、ラウンドが終わったときに集中力が切れたところがあったんです。1ラウンドはいい展開で、その中でやっぱりテイクダウンの展開をもうちょっと混ぜた方がいいなと思ったんですけど、ラウンド間で意識が散漫になってしまった。いい感じで進めている中で、でも自分はタックルに行けていないなという部分が……。アップの時点で、タックルの動きが良くないと感じた、マイナスのイメージを自分で作ってしまったんです。
試合になって思いっ切り行けばテイク出来ると思っていればもっと行けたんですけど、やっぱり失敗したらどうしよう? という不安の中で、打撃、打撃になってしまった。その中で2ラウンド目にタックルに行かないとって思ったところで、意識が下に向いてしまった。色々なことを考えすぎちゃって、全部中途半端になったのが、あの結果でした」
──そういうお話を聞くと、小さな機微が試合に作用して、その一つひとつとファイターは戦って生き残っているのだとあらためて感じます。続くアミール・カーン戦ではその反省を生かせたではないですか。
「あの試合は上手く出せました。でもそれが今回もそうなるとは限らないですし、あの試合の勝利で驕ることは無く、以前の自分に戻ってしまうかもという恐れと向き合ってやっていくしかないと思っています。
現実としては、技術の部分などの精度は上がっていると思うんですけど、前回の試合で変われたとか、Warrior Seriesで3連勝して変われた、ということはあんま考えない。結局、そんなに人って変われるものじゃない。上手くいかないときに、どういう風な戦い方、組み立てをすればいいのかということを考えていきたい。
弱い部分も受け容れて、弱い自分とどう向き合って試合に向けて作り上げていくか。だから、弱い自分を克服出来たとはあまり考えていないです。そういう自分がいるんだということを受け容れて、それと付き合いながらどうしていくのかという話だと思っています」
──レスリング出身ですが、カーン戦での上からの組みも独特なように感じました。首を巻いての大外刈。あの形はよく練習でも使うのでしょうか。
「結局引き出しはいろいろ持っていて、あのときはああいう状態になっただけだという感じなんです。他にも色々な展開の作り方はあるんですけど、前回は“これしろあれしろ“”というよりは、自然にやりながら出たものですね」
――177cmの江藤選手と180cmの青木選手。ともに組み技を軸としながら、やはり江藤選手はレスリングがベースにあるというのは大きな違いのようにも感じます。
「そこの部分でどういうふうな展開になるのかなって。結局、青木選手が全部が全部高い水準で出来るというのは分かっているので、その中で、一番切り崩せる場所というものを今やっているという感じです。戦績を見れば分かると思うんですけど、試合で穴のあるタイプではないですし、そこを考えると、その中で自分たちの中で作戦を立てて、その小さな穴を通すという感覚ではいます」
――全て高い水準を持っている相手だけど、小さな穴を通すと。今回チーム戦でもありますね。HEARTSの大沢ケンジ代表含め、同日に同門の猿田洋佑選手も内藤のび太選手と対戦します。
「普段一緒に練習させてもらう中で、モチベーションを上げるという部分で、お互いがお互いを釣り上げて、高いところでやれているので、そこはすごい有難いです。チームとしっかり試合に向けて作り上げていきたいなと思っています」
――この大会、この試合の主語は青木選手になります。その状況をひっくり返したい、という気持ちもありますか。
「そこの部分で難しいことは特に考えていないです。自分は雑念を持ってしまうと駄目なタイプなので、いつも以上に、自分の試合に向かって素直に思っていることを発言していきます。相手が誰だからというよりは、ただ自分の持っているものを出すというところに集中していきたい」
――なるほど。ちなみに和術慧舟會HEARTSだと一番よく組むのはどの選手になるのでしょうか。
「一番組むことが多いのは上迫さん。それに涌井忍選手とか。出稽古は今ちょっと(青木と)かぶっているので、もう行かないようにして、他でも今頼んでマンツーマンでやっている人もいるんです」
――打撃パートですか?
「いや、もうMMAファイターで、間違いなく日本でトップクラスだなという選手とマンツーでやらせてもらっています。その部分でどれだけ試合に向けていい仕上がりを作れるかだと思っています」
――差し支えなければ、どの選手か教えていただいてもいいですか。
「聞いてみます(携帯で確認し)……大丈夫とのことでしたので。実は、中村K太郎選手とマンツーマンでトレーニングさせていただいていました」
──!! 背格好も似ていて、寝技師でもある。専大、慧舟會繋がりでもありますね。
「はい。対策云々ではなくても、いろいろな気づきがあります」
――うーん、さらに楽しみになってきました。ところで、インスタでは美しい「江藤家の食卓」シリーズも拝見しています。日本での有観客での大会となると、ご家族にも試合を見せられますね。
「そうですね。でもそこも、あんまり考えすぎないようにしています。みんなで試合に向けて作り上げていっても、リングの中に入ったら孤独と向き合ってからやるしかない。勝ったらみんなで喜べるし、負けに関しては一人だけのものにしたいんです。周りの人の協力が足りなかったとか、こうしとけば良かった、ああしとけば良かったと周囲に思ってほしくない。作り上げてもらって、手伝ってもらったものには感謝しかないので、負けたら負けたで、自分が足りなかっただけ。負けたときに周囲が責任を感じる必要も無いし、あくまで長い人生の一つのポイントというだけで、でもそのポイントの一つひとつを大事にしたいと思います」
――そのポイントとなる今回の試合は、江藤選手のMMAファイターとして集大成の試合なのか、どんな位置付けになりそうでしょうか。
「集大成というのは、たぶん辞めるときだと思うんです。なので、今回の試合に関しては、チャレンジさせてもらえる試合だなというのは感じながらも、自分がどこまで力を出せるか。変に気負いすぎても駄目ですし。そこは難しくは考えないように戦います」