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レポート

【UFC】元パンクラス女王がコロナ禍で亡くなった祖母に涙の勝利捧げる

2020/09/06 09:09
【UFC】元パンクラス女王がコロナ禍で亡くなった祖母に涙の勝利捧げる

(C)Chris Unger/Zuffa LLC

 2020年9月5日(日本時間6日)、米国ネヴァダ州ラスベガスの「UFC APEX」にて、「UFC Fight Night: Overeem vs. Sakai」が無観客&ライブ配信で開催された。

 プレリミナリーの第2試合では、第2代パンクラス女子ストロー級王者のヴィヴィアニ・アラウジョ(ブラジル)が出場。夫のマーク・デ・ラ・ロサとともに夫婦でUFCに参戦するモンタナ・デ・ラ・ロサ(米国)と対戦した。

 日本のパンクラスでの戴冠を経て、2019年5月のブラジル大会でUFCデビューしたヴィヴィアニは、10日前の急遽のオファーの上に2階級上のバンタム級での初陣を3R、KOで勝利。同7月の2戦目はフライ級でアレクシス・デイヴィスに判定勝ち。しかし12月のジェシカ・アイ戦では、アイが5ポンドの大幅体重超過。それでも試合を受託したヴィヴィアニが判定負けを喫している。

 当初、ヴィヴィアニは、2020年6月27日に米国テキサス州オースティン大会でジェニファー・マイア(ブラジル)と対戦予定だったが、新型コロナウイルスに関連する渡航制限のため、両選手ともにブラジルから出国出来ず、8月1日のラスベガス大会に試合は延期されていた。

 しかし、今度はヴィヴィアニ自身がパンデミックとなっていたブラジルでコロナに感染。「軽い症状」で済んだものの、8月大会を回避せざるを得なかった。

 そして、そのパンデミックは彼女の家族を襲った。

 ブラジルのブラジリアでトレーニングを積んでいたヴィヴィアニに、地元でシャーガス病(アメリカトリパノソーマ病)と闘っていた79歳の祖母ルシアさんが、コロナウイルスに感染したことで、合併症により亡くなったとの知らせが届いたのだ。

 事前インタビュー動画でヴィヴィアニは、厳しい時期をこう振り返っている。

「祖母はシャーガス病を患っていて、それがコロナで悪化した。それは私たち家族にとって非常に悲しい瞬間でした。その後、私自身もコロナに感染して大変でしたが、今は大丈夫です。この病気は多くの家庭を壊滅させている悲しい病気ですが、私たちの家族は強いです」

 ヴィヴィアニは祖母の死にもかかわらず、前に進んでマイアと戦うことを決意していたが、愛すべき人が逝った2日後に新型コロナウイルスの陽性反応が出ていた。

「コロナの症状が軽かったので、自分はとても恵まれた人間だと思っています。風邪の症状と軽い頭痛だけで、14日間自主隔離のために休みました。医師の許可が下りるとすぐにトレーニングに戻ってきて、今は100%の状態になっています」

▼女子フライ級 5分3R
○ヴィヴィアニ・アラウジョ(ブラジル/126lbs/57.15kg)
[判定3-0] ※30-27×2, 29-28
×モンタナ・デ・ラ・ロサ(米国/125.5lbs/56.93kg)

 ヴィヴィアニと対するモンタナは、UFC4勝1敗の強豪。2019年6月にアンドレア・リーに敗れたが、2020年2月の前戦でマラ・ロメロ・ボレラに判定勝ちで、再起を飾っている。

 試合前にヴィヴィアニは、「モンタナはグラップリングを好むけど、私のコーチと私は彼女の試合をよく研究しました。彼女はスタンドにもグラウンドにも多くの穴があります。私は非常に鋭いボクシングを駆使して、彼女をイラつかさせるために距離を保って戦おうと思います。でも、もし彼女がグラップリングをしたければ、私のレスリングと寝技も負けずに鋭いです」と自信を示している。

 1R、ともにオーソドックス構えから。フライ級でも決して大きくはないヴィヴィアニは、先に圧力をかけて右ロー。さらに右オーバーハンド、右のカーフキックで踏み込むが、そこにテイクダウンを合わせたモンタナ。ヴィヴィアニはすぐに立ち上がり、逆に組みを仕掛けてパンチを入れて離れる。

 モンタナの左右を距離で外すヴィヴィアニ。鋭い左ジャブ、左オーバーハンドを突き刺し、モンタナに鼻血を出させる。モンタナの組みにも対応。突き放すと右ロー。モンタナも左ローを蹴り返すと、ヴィヴィアニはラウンド終了間際にダブルレッグに入る。

 2R、いつものように上下に身体を揺らしステップするヴィヴィアニ。右ローを当てると、モンタナはその打ち終わりを狙う。さらに右のカーフキックにモンタナの左足が流れる。右のスーパーマンパンチを見せるヴィヴィアニ。さらにサウスポー構えから左足で踏み込んでの左ストレート。オーソに戻し左ジャブの刺し合いでモンタナのアゴを上げさせる。

 続くヴィヴィアニの右カーフキックにバランスを崩すモンタナ。しかしモンタナも左の上下の蹴りで反撃。ジャブの刺し合いで勝るヴィヴィアニ。アゴが上がるモンタナの出血が多くなる。詰めるヴィヴィアニにモンタナは左サイドキックで距離を取る。

 3R、ジャブ&ローから入るヴィヴィアニ。モンタナは左フックの飛び込みから組んでダーティーボクシングで右アッパー。離れたヴィヴィアニも反撃。圧力をかけ直すと、モンタナの左をかわして右ボディストレート! さらに左ジャブをヒット。さらに左ジャブを当てると前に。右オーバーハンド。組んで押し込むモンタナに左で差し返して離れるヴィヴィアニ。モンタナもワンツー&ローで押し返すもヴィヴィアニはかわす。後半が課題だったヴィヴィアニだが、息切れせずに試合を終えた。

 判定は3者ヴィヴィアニを支持。右足を少し引きずりながらオクタゴンを降りたヴィヴィアニは、バックステージインタビューでは、祖母を亡くしたことを涙ぐみ、年内にトップランカーとの次戦を希望した。

 公式インタビューで勝因について、「戦略はすべてのラウンドで勝つこと。相手とスタンディングで戦っていた時は最高に調子が良かった。立った状態だとすべてが思い通りに進んでいたし、グラウンドになれば勝てるのは分かっていた。相手がパワフルなのも自分の戦いに自信を持っているだろうことも分かっていたわ」と振り返ったヴィヴィアニ。

 続けて、「今年はたくさんトレーニングをしました。それは私にとって非常に困難でした」と、コロナ禍の中、試合の延期もあり、練習を続ける難しさを振り返ると、亡くなった祖母について聞かれ、「この勝利は祖母のために、私たちが持っていたすべての歴史のために、そしてこの困難な瞬間を通過しなければならなかった家族全員に捧げたい」と涙ながらに語った。

 また、今後について「次の試合の相手は考えていない。このまま練習に取り組んで、11月か12月には新たな対戦相手に挑戦する準備を整えていたい」と、UFC女子フライ級ランキング8位からのステップアップを望んだ。

 日本で女王に輝いたヴィヴィアニは、世界でもベルトを巻くことが出来るか。ランキングの一つ上には同じ日本帰りのロクサン・モダフェリ、その上には体重超過を受けて敗れたアイ。さらに王者ワレンチナ・シェフチェンコを頂点とするランカー5人が待っている。

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