MMA
インタビュー

【TTF】KIDさんの思いを胸に──『格闘代理戦争』出身スソンがプロMMAデビュー=本日19時から大会生配信

2020/06/27 04:06

科学的なテコンドーの動きを活かすのにはMMAの土台が必要

――スソン選手の中にはKRAZY BEEのいろいろなエッセンスが入っているように感じます。打撃のKRAZY BEEのこだわり、伝統派空手やテコンドーを採り入れるオープンマインド、身体作りも……。スソン選手の名前を最近聞いたのは、ONEで高橋遼伍選手がタン・リーと対戦する前に、テコンドーをバックボーンに持つリーについて、「ウチのジムの後輩に、リーと全く同じ流派のテコンドーをやっていたスソンがいて、リーのバックスピンの動きについて聞いている」と話していたんです。

「あのとき、自分が怪我していてリハビリ明けくらいで、あんまり動けなかったんですけど、できる限りの打ち込みとかは協力させてもらって。もっと高橋さんとスパーとか、一緒にやらせてもらいたかったです。タン・リー選手は手足が長いから、対戦相手はステップをうまく使わないといけない。ただ前に出ても、手足が長い上に、テコンドー特有の間合いのコントロールが本当に上手いので、タン・リーよりももっと早くステップで小刻みに動かないいけない、という難しさがあるように感じていました。ローやカーフも蹴りながら前にプレッシャーをかけていくスタイルに対し、手足の長いところから攻撃されてしまう。ほんとうにタン・リー選手、強いです」

――あのときは高橋選手が蹴り足を取ってからの飛び込みに打撃を合わせられた。タン・リーの身体の強さも感じました。いま、MMAでテコンドーの動きを採り入れている選手が目立ちます。MMAの中でどう活きると感じていますか。

「テコンドーのいいところって、間合いのコントロールであったり、足をうまく使えるところにあると思います。ただ、テコンドーの技をそのまま総合に活かすのは結構、難しいんです」

――それはどんなところが難しいんですか?

「例えばテコンドーの競技の中でやっている技。回転蹴りであったり、蹴りを連続でパンパン蹴るとか、そういう動きは総合ではリスクが多過ぎる。総合のベースがあった上で、フィジカル、レスリング、柔術も出来た上で、テコンドーの技術を使えればいいのですが、それがないまま、テコンドーのスタイルだけで総合をやると弱点しかない。負ける可能性が8割はあって、自分もずっとその8割で負けていたように感じています」

――MMAの土台が出来ている上で、テコンドーの動きが活きていると感じるのは?

「柔軟性やフィジカル面が一番大きいかなと。例えば、片足を持たれたときのバランスであったりとか、蹴った後のパンチであったり。タン・リーがよくやる追い突きとかもそうだと思います。MMAの中では、技としてはシンプルにならざるを得ない。いかにシンプルに一撃で倒せる技をスピーディーにやるか。テコンドーの表面的な、一般的にすげえといわれるようなダイナミックな技を総合とかで出すのは、ちょっと意に反しているように思います。テコンドーは元々、一撃必殺のシンプルな技を科学的に引き出せるようにした競技なので。『人間の持ち得る力を最大限に利用するにはどうすればいいか』という考え方からなんです」

――科学的、というのは力学的なものでしょうか。

「重力であったり、あとは脱力からの集中であったり呼吸ですね。全ての動作に、吸って吐くという呼吸の動作が全部決められています。脱力しているときに吸って、集中、この技の決めになる瞬間に吐き切る。それによって横隔膜を収縮させて、身体を一気に硬直させる。そこに力を一点に集中させる」

――息を吐くことによって打撃力を高め、防御時にはダメージも最小限に抑える、と。脱力と呼吸はスタミナにも関わってきますね。重力は落とす、ということでしょうか。

「『サインウェーブ』というのがあって。最大の運動エネルギーは質量×速度で生まれるので、空手の型でいう正拳突きが、テコンドーでは1回上に上がってから、そこで空気を吸って、落ちる瞬間に吐きながら、地面に落ちる瞬間に一点に集中させるです」

――質量を増加させると。MMAの中ではそのいったん浮く動きが難しそうですが、堀口選手は飛び込みのなかでも死に体になることはない。テコンドーの体を下げると同時に打撃に体重を注ぎ込む動きは、MMAの中でも使っているのですか。

「いや、まだ自分はそこに達していないです。まずはMMAの土台が出来てからじゃないと、そこの応用はできないかなと思っています」

ペスカタリアンは自分に合っている

――なるほど。そして、スソン選手は、KIDさんや朴光哲選手のようにビーガンだとも聞いています。

「はい。ペスカタリアンです」

――ということは、肉は食べずに魚は食べていると。ご自身の身体に合っているのですか。

「自分はずっと高校生くらいのときから、長友佑都選手(糖質量をコントロールしながら、良質の脂とタンパク質を摂取するファットアダプト食事法を実践)や、ノバク・ジョコビッチ(グルテン不耐症のためグルテンフリーを実践)の食事方法に影響されて、パフォーマンスを上げるために小麦粉を止めたり、健康的な食事について実践していました。そういうのを調べていたら、KIDさんや朴さんがビーガンをやっていることも知って。ただ、日本だとビーガンをやるのが難しい面も多くて。外食が難しい。落ち着いたらペスカトリアンが一番、自分には合っていました。日本人の体質にも合っていると思います」

――ペスカタリアンの場合、乳製品や卵は食べると聞きますが。

「僕は食べないです。1年前くらいまで卵や乳製品とかも食べていたんですけど、いまは一切、動物性は、魚以外は止めました。最初はパフォーマンスのためだったんですけど、だんだん世界の環境問題とかもいろいろ考えてそうすることにしています。動物を食べることのデメリットが大きいので」

――畜産がもたらす環境問題なども考えているのですね。しかし、ファイターにとっては、試合で強くあること、身体を動かせることが重要ななかペスカタリアンでどんないい影響がありますか。

「例えば、内臓は胃もたれは一切ないです。内臓が軽い。動物性の、お肉を食べたりすると、胃の中で消化をするために、ある程度分解をするんですけど、分解できない物質があって、そのことで内臓が炎症を起こすとされています。その炎症によって、疲労が抜けにくくなったりするのは避けたい。それに、内臓にダメージが蓄積していくと、歳を取ったときにも悪影響があると考えています。元々人間の腸って、肉食動物に比べてめちゃくちゃ長いじゃないですか。ゴリラとかサルのように、元々の野生の身体を維持するためには、たぶん草食のほうがいいんじゃないかということで、ベジタリアンになってから、2年近くにはなります」

――玄米をミキサーにかけたりは?

「そこまではしないです。朴さんの域は、ちょっとまだ自分には早いかなと思ってます(笑)」

今このタイミングで試合をするしかないと思っていた。TTFを開催してくれて感謝しかない

――さて、MMAでは今回の「TTF CHALLENGE 08」がプロデビュー戦ということになります。どんな自分を出したいですか。

「MMAの選手として、テコンドーを使える選手という部分はありますが、さきほども言った通り、技術的にはやっぱりMMAの土台があった上で見せられるものなので、テコンドーだけにこだわる感じは自分の中では無いんです。ただ、自分の持ち味として、蹴りをうまく使いたいなという気持ちはあります」

――今回の対戦相手の真人ガーZ選手はサウスポー構えのごりごりのグラップラーのように感じますが、動画なども見られていますか。

「もうずっと、徹底的に研究しています。相手の印象は、やっぱ寝て極めるというスタイルだと思うので、かつての自分が苦手だった部分を超えたい。やるからにはもう超えている自信はあります。ケージレスリングも先輩方にやられて(笑)。自分は元々腰の強さに自信がありますから、自分本来の力というか、元々の持っているものをしっかり出せればまったく問題ないと思っています」

――長南亮代表による「TTF CHALLENGE」がこのコロナ禍のなかで復活した。そこで試合が出来ることについて、どのように感じていますか。

「最初にTTF CHALLENGEの試合の計画みたいなものをツイッターで見たんです。佐藤将光さん(※KRAZY BEEに出稽古)がリツイートしていて。それを見る前に、自分の中でも、今このタイミングでプロデビューしないと強くなれないという思いがあって。コロナ自粛の中で、モチベーションも簡単には続かない。まだアマチュアで、スポンサーもついてないし、練習環境とかを整えるのもすごく難しくて、多くの選手がそうだと思うんですけど、アルバイトをしながら格闘技を続けている。でもそんな片手間のままだと、自分が最終的に目指す、ONE ChampionshipやUFCのチャンピオンになることは難しい。その目標に近づくためには、プロデビューして、しっかり自分の実力をみんなに見てもらって、スポンサーについてもらって、練習環境を整えてもっと強くならないといけないという気持ちがありました。

 そう考えてやろうと決めた朝に、佐藤さんのリツイートが回ってきた。ここしかないと思いました。6月まで1カ月か、と一瞬早いなとも思いましたが、自粛の中でもずっと自主トレーニングは続けていたので出場したいと。ジムは閉鎖されていましたが、山に走りに行ったり、公園でメディシンボールとかを使ってフィジカルをやったり。それに、矢地(祐介)さんも見ているフィジカルトレーナーの稲垣純弘さんについていただき、浜辺でトレーニングをしたりしていました。KRAZY BEEの若手3人で稲垣さんに、週に1回お願いして」

――フィジカルは鍛えていた。対人練習は最近になって出来た感じでしょうか。

「そうですね。対人は本当に6月に入ってから始めました。ただ、期間が短いといっても、相手も同じ条件ですし、これからもそういうタイミングは絶対来ると思うので、いつ試合しても同じだと考えていました。そんな中で、本当にありがたいことに、この時期に長南さんがTTF CHALLENGEを企画してくれた。このタイミングで試合が出来ることに感謝しかありません。今回は当日計量で水抜きもしなくて免疫力を下げずに試合に臨むことが出来ますし、ベストコンディションで戦います」

――メインで出る岩﨑大河選手もプロMMAデビューということで注目されています。注目度でも負けたくないですか。

「そこはもう別に考えてないです(笑)。今回は『格闘代理戦争』に出ていたときのように魅せようとは思っていないので。もう動きで、試合で見せたいと思っています。それに、たぶん試合が終わったら、自分のほうが注目度が上がると思います」

――力強い言葉です。スソン選手のみならず、真人ガーZ選手も含め、今回のすべての出場選手がそれぞれの思いを抱いて、試合に臨むのだと思います。最後に、「PIA LIVE STREAM」による生中継を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。

「ずっと応援してくれている方々、ありがとうございます。結構、いろいろなことがここ2、3年の間にあって、ずっと自分は谷を経験してたんですけど、やっと這い上がるチャンスをいただきました。やっと山のふもとに立てた。ここからまだまだ山あり谷ありだと思うんですけど、月日をかけて、着実にトップに立てる自信があるので、今回の試合も応援をよろしくお願いします!」


「KRAZYBEE沖縄」ジム支援はこちら

MAGAZINE

ゴング格闘技 NO.335
2024年11月22日発売
年末年始の主役たちを特集。UFC世界王座に挑む朝倉海、パントージャ独占インタビュー、大晦日・鈴木千裕vs.クレベル、井上直樹、久保優太。武尊、KANA。「武の世界」でプロハースカ、石井慧も
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリアブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア

関連するイベント