MMA
インタビュー

【修斗】加藤丈博、五味隆典、大沢ケンジの遺伝子を継ぐ“押忍”木下タケアキ「根こそぎ比べ合おう」=5月31日(日)『ABEMA』

2020/05/28 21:05
 2020年5月31日(日)『ABEMA』テレビマッチとして行われる「プロフェッショナル修斗公式戦 Supported by ONE Championship」第1試合で、興味深いカードが組まれている。  加藤丈博率いる武心塾出身で、極真世界連合(KWU)世界大会準優勝。プロデビュー前に『格闘代理戦争』で、韓国MMAの超新星ユン・チャンミンを左上段廻し蹴りで失神KOに下した木下タケアキ(和術慧舟會HARTS)が、北海道の“野生児”西川大和(西川道場)と対戦する。  KO勝利後、残心を取り十字を切る木下は、MMAにも挑戦した加藤丈博を師に持ち、少年時代に五味隆典の胸を借り、大沢ケンジのもとでMMAファイターとなった空手家だ。  佐山聡、中井祐樹の系譜を持つ父子鷹の西川大和との戦いは、幼き頃から「格闘技で生きる」ことを心に決めた両者の信念をぶつけあう戦いになる。17歳と23歳、日本MMAの未来を担うかもしれない新鋭同士の戦いに注目だ。 競技の中だけで空手を考えるというのは薄かった ――さきほど和術慧舟會HEARTSでの木下選手の空手衣を着たオンラインクラスの動画を拝見していました。試合1週間前の練習はピークを過ぎてどのような状況でしょうか。 「もう練習は切って、今日(17日・日曜日)は僕がジム番に行くだけですね。火曜が最後のスパーで、木曜日はサーキットで息上げで終わりました」 ――練習相手も限られるかと思いますが、どのようなメンバーでしょうか。 「今はコロナのこともあるので、結構少なくて。ここ最近、ガチ練習でやるのは、江藤公洋さんと中田大貴くん。基本この3人で練習することが多いです」 ――江藤選手が入るということは、レスリングもやり込んでいるということですね。 「それはもう、バッチリです」 ――“押忍”が代名詞の木下選手は、極真系のフルコンタクト空手出身と聞いています。 「加藤丈博師範が創設された武心塾で空手を始めました。代表はもともと極真城西支部にいて、大山総裁が亡くなられた後、全日本ウェイト制軽重量級で優勝などの実績を残し、独立をして、武心塾を立ち上げたようです」 ――加藤師範は、タイで国際式で王者になったり、東洋太平洋ボクシング(OPBF) でもランカーでしたね。木下選手は格闘技自体を始めたのも武心塾だったのでしょうか。 「はい。5歳から武心塾に入りました」 ――ほんとうに幼少時から空手を続けているのですね。武心塾の加藤師範には『ゴング格闘技』でも何度かお話をうかがっていますが、空手以外にも総合格闘技の取材でお会いすることも少なくありませんでした。特に五味隆典選手が出稽古で武心塾に通っていましたね。 「はい。五味さんが来られていたとき、僕は中学生くらいでした。火曜日の夜が武心塾に他の格闘技の人たちが集まって練習する時間で、けっこうなメンバーが揃っていましたね。五味さん、鈴木信達先輩、論田愛空隆さんの師匠の遠藤雄介さん、竹内出さん、プロボクサーとかも来ていて」 ――猛者たちが集まって来るのを遠目に見ていたわけですね。 「それが……『お前、出ろ』と言われまして(笑)。その人たちが何者なのかよく分かっていなかったんです。それに所詮、子供なので皆さん気を遣ってくれましたが、強さを感じるというか、いろいろ教えてくれることに対して、楽しく混ぜていただきました」 【写真】五味と加藤の対談が掲載された『ゴング格闘技』2005年12月号。武心塾にて。 ――極真系ということですが、加藤師範は木口道場に出稽古に通い、PANCRASEにも出場(2002年にアライケンジと対戦)するなど、総合格闘技の経験があります。そのエッセンスは、若き木下少年の中にも入っているということはありますか。 「その影響はデカいですね。そもそも師範が空手に対して、総合とか、ボクシングとかをやっていましたし、信達先輩も総合格闘技を戦っていました。だから、競技の中だけで空手を考えるというのは薄かったですね、そのときから格闘技としてとらえていました」 ――2015年にロシア・ハバロフスクで行われたKWU(極真世界連合)「第2回極真世界空手道選手権大会」で準優勝という実績が光ります。調べたらカザフスタンのメレ・シュノフに延長判定の末に敗れていますが、階級は-80kg級でした。それに顔面殴打を再三、受けてますね。 「でもそのときのほうが今より軽いくらいでした」 ――えっ? 修斗ではフェザー級(65.8kg)で、今回の試合は当日計量のライト級ですよね。 「そのとき70kgくらいしかなかったんです。それで-80kg級で世界の巨人たちとやってました(苦笑)。でも、そういう経験もHEARTSに入って、強い人がいっぱいいたので、すごく良かったですね」 空手をしっかりやれるまでやってから総合に行きたかった ――うーん、木下選手の“押忍”ぶりが見えてきました(笑)。2015年の時点ではまだHEARTSに入っていなくて、どのような未来図を描いていましたか。 「空手をやりながら、手に職をつけておこうと思って、学校で建築の専門知識を学んだり、若干の社会人志向はあったんです(苦笑)。でも世界大会があったり、いろいろあって、“俺これ(格闘技)しかできねえな”と在学中に気付いてしまってですね……」 ――格闘技しかできないと。 「それに前々から、中学生の空手の頃から顔面(あり)はやりたかったんです。でも、よく空手から他競技に転向する人がいるじゃないですか。その転向するタイミングが自分にはあんまり気に食わなくて」 ――気に食わない? 「空手をしっかりやれるまでやって、極めてないのに移ってしまうのかと。自分はとにかくやれるまでやってから顔面もやろうと決めていたんです。どうしても顔を叩く・叩かれるのをやりたかった。僕の同級生で柔術をやっていたやつがいて、高校を卒業してすぐにHEARTSに入っていたんです。彼は、僕がずっと顔面をやりたいと言っていたのを知っていたので、世界大会後、『じゃあ、HEARTSに入れよ』と勧められて、入門を決めました」 ――それで和術慧舟會HEARTSに入門したのですね。 「はい。2017年から2018年頃です。KWUで準優勝になった頃、空手で自分のようにトップの試合に出る選手は周りにいなくて、一人浮いているように感じていました。ところが、HEARTSでは総合なのでボコボコにやられて。でも、やられることに驚きは全く無かったんです。まあそうだよなと。最初のほうは、寝技とかでも女性にやられるんだろうなと想定していて、その通り、女性の紫帯の人とかに極められたりして、それが新鮮でもありました。空手のときは、僕だけが強かったので。何より、大沢(ケンジ)さんの教え方が驚きでした。分かりやすくて、すげえ、天才だなと思って」 ――大沢代表の喜ぶ顔が目に浮かびます(笑)。フルコンタクト空手で世界2位の木下選手ですが、MMAではJMMAF、アマチュア修斗にも出場していますね。2017年の関東選手権でライト級3位(工藤諒司が優勝、椿飛鳥が準優勝)。続く全日本選手権では補欠戦でした。 「アマチュア修斗からやれたのは良かったのですが、もっとやりたいくらいなんです。アマ修の全日本取りたいです、今でも」 ――『格闘代理戦争』でのユン・チャンミン戦での抜擢もあって、いち早くプロでという考えではなかったのですね。 「『格闘代理戦争』が初めてのパウンド有りの試合でしたし、ボス(大沢代表)の言われるがままに出て、ボスの策略通りに動いたら、ハイキックが当たって。事前のインタビューでは、『これで勝っても負けてもアマからやります』と言っていたのに、プロで試合をすることになって……すごくありがたいんですけど、アマチュア修斗で全日本はやはり取りたかったです」 チャンミン戦の蹴りは、気持ちを殺して、殺して打ったもの ――なるほど。しかし『格闘代理戦争』では、「無条件でKOかサブミッションで勝つ」と宣言していたユン・チャンミンのテイクダウンを受けながらも、立ち際の蹴りを柔術立ちでかわして立ち上がり、そのまま左ハイキックを当てました。あの上段の蹴りは空手ですか? 「空手ですね。あの試合は、とにかく立てというのがあって、そこがありきで、攻めはもう本当に上は振るなという大沢さんの作戦がありました。とにかく上は我慢しろと言われて、序盤はミドルとかインローしか出さなくて。たぶん、それで当たりました」 ――なるほど。たしかにチャンミンの右のガードは下がっていました。温存していたんですね。それにしてもカウンターにもなっていたとはいえ、あの間合いでステップ無しでハイキックが打てるのはすごいです。 「ハイは……たぶん気にしないで出せるので。僕、空手のときから、上を狙おうとすると駄目なんですよ。上を狙わないときが入るので、そこを気持ちを殺して、殺して、ようやく空いたので。散々やってきたことが出せました」 ――チャンミン選手が糸が切れたようにヒザから崩れるKOでした。あの後、秋山成勲選手が真っ青な顔でケージの中に入っていったのを覚えています。 「ええ、これ以降、この人に会えねえなあと思いました(苦笑)」 ――その後は、修斗でプロ昇格ということになり、藤木龍一郎戦でドロー、久保村ヨシTERU戦の初戦はダウンを奪いながら、グラウンド状態でのヒザ蹴りで反則負け。2戦目はもらってすぐに立ちに行ったところに追撃をもらいました。自分よりキャリアのある選手と対戦したことはどんな経験になりましたか。 「心構えは全部の試合で勉強になったんですよね。デビュー戦も、相手のほうが被弾は多かったんですけど、そこで行けなかった自分の気持ちもあるし、久保村戦のときも……やっぱり気持ちのところで遅れを取っていた。総合格闘技をよく分かっていない状態だから、気持ちの部分もついていきていない。そういう部分でほんとうに勉強になりましたね」 ――藤木戦のときに、左を避けて右を合わせに行く打ち方や、あとは前足の右のかけ蹴りなどもサウスポーなのに強いなと感じていて、もしかしたら……。 「すごいスね。よく見てますね。右利きです」 ――動画では繰り返し見れますから。左右どちらでも打てると。右利きサウスポーは五味隆典選手と同じです。いつから右利きサウスポースタイルだったんですか? 「中学生のときくらいからですね。加藤師範がユニークで『サウスポーは天才が多いから、お前サウスポーにしろ』って、ある日突然言われまして。それで『押忍』と言って、サウスポーになりました」 (西川は)根性はある、でも根性じゃ退かねえぞと ――ここでも「押忍」が! しかし、加藤師範のひらめきであんなにシャープな左の蹴りと突きが生まれたのですね。ここまでアマチュアで2勝2敗1NC、プロ2勝2敗1分け。一つは反則失格もありましたし、ユン・チャンミン戦はヒジは無いものの防具無しの試合でした。そして今回、対戦する西川大和選手は、ローカル大会も含めての8勝3敗5分です。HARTSにも出稽古に来たことがあるそうですね。手合わせもされたのでしょうか。 「それが無いんです。ちょいちょいHARTSに来てくれるんですけど、彼が来る時間帯が土日の通常営業の時間で、自分は土日はその前の時間のプロ練しか出ていなくて、一緒にやれたことはないですね」 ――ニアミスしていた。これまでの試合も踏まえて、どういう印象を持っていますか。 「根性がある。そして、一応僕よりはMMAを知っている。でも、組みは組んでみないと分からないですけど、打撃とかは……それほどでも無いんじゃないかなと思っています」 ――これまでの立ち技の試合でも距離感と出入りの手数で上回る試合もありました。 「そうですね……縦のラインがすごく硬くて上手なんですけども、横は対応できていないことがままあるかな、と。なので、技術的なものはそこまでかなとは思うんですけど、ただ、さっき言った根性と、若いけどキャリアが多いので、よくMMAを知っている。そこでひっくり返せるんだなという印象が強いです」 ――オープンフィンガーグローブでのムエタイ戦でしたが、ベテランの緑川創選手と判定まで持ち込んでいます。あの試合をどう見ましたか。 「緑川選手、リスクを負えば全然倒せた試合だと思うんです。ただ、ベテランということもあるんでしょうね。“置きに行った”試合だと思いました。緑川選手がアンディ・サワーに勝った試合とか、僕、生で見ていて、ああいった手堅い試合をするのも得意で、そこで本領を発揮する人だから、倒されなかったことが、そこまで評価につながるのかなと思うんです」 ――なるほど。では、長岡弘樹戦のドローをどう見ましたか。 「長岡戦は、長岡選手のことを僕はよく知らないので、分からない部分が多くて……長岡選手の他の試合を見たら、もうちょっと打撃をやってから組んだりしていたのですが、あの試合に関して言うと、結構つくりが粗いというか、本当に組むだけで行ってしまっていて、最初はそれで組めたけど、次から思ったより体力を使ってしまって疲弊した。だから、舐めてた部分もあったのかなと思います。バン・ジェヒョク戦も同じような感じを受けました。ただ、組みの部分では柔術的だなとも感じています」 ――木下選手は舐めずに向き合えると。 「ないですね。それはやっちゃいけないことですから。今回は2R制ですが、西川くんの戦い方がスタミナを削らせる何かがあるのかもしれないですし、2ラウンドとか3ラウンド関係なく、根性じゃ絶対退かねえぞという思いは強くあります」 ――ちなみに「西川大和伝説」的に語られる野生児的なエピソードは気にはなりませんか。 「『探偵ナイトスクープ』に出たとかですよね。一応動画で見て分析しようとしたんですけど探せなくて(苦笑)。まあ、でもちょっとおかしいですからね、彼」 ――おかしい部分では、“押忍”木下選手も負けてないように思います(笑)。 「ちょっとどうかしてる若者同士の戦いですね。人生に置いては冷静な判断をできていないですよね。早いうちから格闘技にのめりこんじゃって(笑)」 “根こそぎ出し合って、根こそぎ比べ合おう” ――いえ、半端じゃなく気合が入っているから強いんだなと感じますし、その一方でともに玉砕覚悟ではない丁寧な試合運びもする。もしかしたら地味な攻防になるかもしれませんが、一瞬で終わるかもしれない緊張感ある試合を楽しみにしています。しっかり空手を経てから総合に転向し、修斗で切磋琢磨してきた木下選手としても負けられないですね。 「そうですね。負けられないですね」 ――加藤丈博と五味隆典と大沢ケンジの遺伝子を継ぐ──と言っても過言ではないトンパチ具合も楽しみにしています。 「はい。何となくろくな人間ができやしないようにも感じますが(笑)」 ――ところで、今回は免疫力を高めるために過度な水抜きをさせない当日計量です。そこに関してはいかがですか。 「僕は減量わりと楽な方です。フェザー自体がそもそもそんなに落としていないので今回は本当、元気いっぱいで戦えると思います。試合1週間前で70.8kgですから」 ――それは大丈夫そうですね。今回、新型コロナウイルスの影響もあり無観客で大会が行われますが、注目の新鋭同士ということで試合が組まれました。どんな試合を見せたいですか。 「まず第一に、大会を開催してくれること、本当にそこは非常にありがたいですね。そこで自分を使ってくれることもありがたいですし。ABEMAと修斗に感謝してもしきれないくらいです。僕はこのご時世でいろいろある中で、無観客であれほど注意を払ってまで、試合をやることに意味があると思っているので……。  まあでも、どんな文脈をつけても、一生懸命やるだけですからね、選手は。MMAってけっこうキャリアが長くないと力を出せない競技だから、若い人同士の試合ってどうかなと思われるところもあって、そういう中で、彼は17歳で僕より全然、歳下ですけど、一応10代と20代前半の戦いを見せられることに意味も価値もあると思うので、若い者同士、目いっぱい出しきって、彼も出してくれると思うので、そこで『餓狼伝』じゃないけど、“根こそぎ出し合って、根こそぎ比べ合おう”という感じで、そういう試合をしたいですね。達者な試合は、たぶんメインの人とかがやってくれると思うので、自分は、しっかり気持ちを出した試合をやりたいと思います。押忍」
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