MMA
インタビュー

【ONE】37歳になった青木真也「ただ試合をするだけではなく、より多くの人の“自分ごと”になるような“物語”のある試合を」

2020/05/12 17:05
 5月9日に誕生日を迎え、37歳になった元ONEライト級世界王者、青木真也。プロ格闘家として、青木にとってこの1年は激動の時であった。  2019年3月31日に開催されたONE Championship初の日本大会のメイン。ライト級世界タイトルマッチで、王者のエドゥアルド・フォラヤンに肩固めで一本勝ちし新王者に就いた青木は、大会後の会見でONE新世代エースのクリスチャン・リー(米国/シンガポール)を挑戦者として逆指名した。  両国国技館での大会からわずか1カ月半後のシンガポール大会(5月17日)での防衛戦では、クリスチャンを相手に、序盤から主導権を握り、最強の挑戦者から腕十字で一本を極める寸前まで追い詰めたが、2Rにまさかの逆転TKO負け。同じEVOLVEジム所属で弟のように慕う20歳のクリスチャンを試合後の控え室で祝福した。  そして、10月13日のONE2度目の日本大会では、元ONEフェザー級世界王者のホノリオ・バナリオをダースチョークで一蹴。出場日本人選手にとっての”トリの大一番“を見事に締めくくってみせた。  2020年に入ってから新型コロナウィルスの感染が拡大し、一気に自粛ムードが高まる中、4月17日に日本で無観客で開催された「Road to ONE:2nd」のメインに出場。  日本グラップリング界のトップ選手・世羅智茂(CARPE DIEM)とケージグラップリングで戦い、時間切れドローに終わったものの、試合後のマイクで、「いつ死んだっていいんだよ、辞めてもいいんだ。日々いやなことと向き合って、クソみてぇな世の中と戦っていくんだ。生きるっていうのは目の前にあることと戦うことだ」と咆哮し、存在感を示した。  日本で、同じ1983年生まれの有名人といえば、芸能界ではシンガーソングライターの宇多田ヒカル、俳優の山田孝之、嵐の松本潤や二宮和也、スポーツ界にはサッカーの日本代表GK川島永嗣、ボクシングの元WBC世界フライ級王者の八重樫東と、各界でも大きく活躍している名前が挙がる。  新型コロナウイルス感染拡大から、世界中の人々が将来に不安を感じ、また、ウイルスの収束を求める中、業界の風雲児と呼ばれて久しい 37歳の“青木真也”はいま、何を考え、何を思うのか。ONEジャパンが聞いた。 大切なことは自分で考えて動くということ。驚くほど自分の生活は変わっていない ――コロナ自粛で苦労したことは? 「苦労はしていません。僕自身が全く変わっていないから。そして、色々と気づいたことはあります。今回のコロナの騒動は、解釈は人それぞれ違うと思うんです。僕には僕の解釈がある。そして、人には人の解釈がある。大切なことは、自分で考えて動くということ。そういう話だと思います」 ――周囲の意見や動きに意識しすぎることなく、自分が何をすべきかを問われている? 「はい。問われる状況になっているけれども、誰一人として自分で考えてないですよね」 ――(みんな)流されているかもしれません。 「はい、流されていますよね」 ――青木選手自身は寧ろ、自分の生き方を再確認できた? 「いや、そういうのはないです。驚くほど、自分の生活が変わってないので。」 ――練習仲間とか、周囲は? 「当然、家族を大事にするとか、感染したらっていう危険回避の選択をする選手も当然いるし。それはそれで否定はしません。僕にとっては関係ないことじゃないですか。それは各々の優先順位です。その優先順位という、何が一番大切でどういう生活をするのかということに関していえば、コロナ関係なくもっと早くに分かっている事だから。自分が特に変わらないっていうのは、そういう意味ですね」 ――自分がやるべきことを日々粛々とやっていると。 「はい、その通りです」 徹底的に勝敗にこだわる。そこに感情を揺さぶる価値が出てくる ――キャリア50戦以上。数々の王座を獲得し、現役を続けながらも、世界レベルで既にレジェンドの称号も手にした。その青木選手にとって勝敗とは? 勝敗を超えるものとは? 「その質問は、勝敗を超えた試合みたいなものが存在するって考え方ですか?」 ――そうですね。その様な試合を意識していますか? 例えば、心を揺さぶるとか、観た人間が一生心に残るとか。私はその様な試合は存在すると考えます。 「それで言うと、当然、勝敗を超える試合はあります。観た人間の心を、感情を揺さぶるものです。でも、プレーヤーが最初から勝敗を越えようと思ってやるのは、何の価値もないと思う。要は、徹底的に勝敗にこだわるからこそ、その勝敗ってものに感情を揺さぶる価値が出てくると思う。多くの人たちが勘違いしている様ですが、勝敗を超えた試合なんてものは、極論では、そもそも存在しないんです。徹底的に(勝敗に)こだわるからこそ、そこに勝敗を超える所に何かが生まれる。そう考えます」 ――例えば、試合序盤から互いが殴り合う様な試合が過去の名勝負として人気があります。青木選手にとって、あの様な試合はどう映る? 「僕の価値観では、盛り上げれば良いんだと思ってやっているのであれば、“格闘技”としては逃げだと思う。最初から勝敗を超えるとか、闇雲に殴りあって観客を盛り上げるっていうのは、僕の価値観の中では、一番ズルイというか、逃げというか、 横着をしているというか、僕はそう思います」 ――自分のONEでの試合の中で、観客の心を揺さぶった試合は? 「全てにそれなりの手応えはあるけれど、それは感じた(観る)側の問題だと思います。僕からどの試合に手応えがあったかって言うのは、一概には言えないです。全て、それなりに手応えもあったし。ある程度のキャリアあってから(ONEに)加入していますから、それなりの力量がついてからやっていますからね」 ――私自身、青木選手のONE全試合に感動した。中でもクリスチャン・リーとのタイトル防衛戦(2019年5月17日/シンガポール)が強く心を揺さぶられました。 「事前に感情を揺さぶる “作り”があります。僕は誰よりもその作りを大切にしてやっています。敢えて言うと、誰一人も力を貸してくれない中で、インタビューだったり、記事を自分で持ち込んだりしてやってきた訳なので。それをやってきた中で、自分の全ての試合に感情を揺さぶられたって言うのは、僕の勝ちですね。誰よりもそこに意識や価値を置いて、そこに美意識を持ってやってきたから」 ――あのクリスチャン・リー戦では、何を見せたかった? 「あの当時、嘉島唯さんが書いたインタビュー記事(「突然の解雇、敗北、リベンジ、若手への嫉妬──孤独な格闘家はなぜ闘い続けるのか」)がありますが、そこに全て書いてあります。自分がどのような思いで試合をするのか。あの試合で言えば、作りのテーマとして、36歳の同世代が若手の台頭に悩み、上からの締め付けに悩み、その中でもいろんな選択がある中で敢えて戦う、勝負の選択をする、そういう世界観を作った。それを試合で表現したから、まさに自分の美学を追求した試合ではありますよね。極論すれば、やらなくていい試合だったとも言えるし」 ――“やらなくていい”とは? 「3月31日の試合で王者になったばかりなので、やらなくてもいい試合ともいえるじゃないですか」 ――そういった意味で、試合が決まった時に周囲は驚きました。 「そういう意味で、あの試合は自分の見せたいものは作れたと感じています。全ての試合も結果がどうであれ、後悔の気持ちはあまりないです。(自分の世界観を)ちゃんと作れてきたと思うので」 僕の概念では引退は存在しない。日常を切り取ったものが試合 ――“青木真也”としてのプロ格闘家とは? 「僕は“自分の物語”を作っています。それは唯一無二のもので、僕にしかできないことをやっていると思う。そういう意味で言えば、日本の格闘技界やマット界を見ても、なかなか居ない存在だと思うし、自分を定義するプロ格闘技はここ2年、3年はちゃんとできていると思います。ただ、周りの理解がなかったり、まぁ、理解を求めている時点で甘えかもしれません。ですが、自分の物語や自分の作っていくことに対して、はっきり言って、孤軍奮闘しています。正直、今はそれにちょっと疲れている感じはありますね」 ――その“青木真也”が作ろうとしている物語とは? 「やはり、感情を揺さぶるものです。物語をそうさせるには、僕の一番のアドバンテージと言ったら、自分自身の歴史だと思います。ただ試合をしているだけではなく、より多くの人の“自分ごと”になるようなものに、その“物語”がなればと思います」 ――「Road To ONE:2nd」の試合後、“いつやめたっていい”という発言がありました。青木選手にとっての引退とは? 「引退っていうのは、僕の概念では、極論、存在しません。引退とは“試合を止める”ことを引退と言うから。スポーツ選手のセカンドキャリアみたいな言葉があるじゃないですか。それは“選手生活が終わったら、生まれ変わる”みたいな世界観ですよね。僕にはその考えはない。たまたま、試合をしなくなっただけ。昔から言い続けていますが、日常を切り取ったものが試合なんです。日常を切り取ったものが、試合じゃなくて違う形で出すようになる。つまり、引退っていうのは“ただ試合をしなくなる”それだけのことです。だから、引退ということを特に考えたことはないです」 とにかく、試合がしたい。目の前にあるものをコツコツとやる ――今、試合で誰と戦いたい? 「どういった選手と戦いたいっていうのは、ありません。誰でもいい。とにかく、試合がしたい。その中で、単純にコツコツやって、自分の物語を見せていこうと思っています。勝つことも失敗することもコンテンツに繋げていける、その自信はあります」 ――青木選手のInstagramで、グラップラーの岩本健汰選手や山中健也選手との練習が幸せという表現を使っていました。幸せとは? 「幸せというのは、自分がどう感じるか、主観的なものだから、難しい問題ですよね。僕自身は、実はずっと幸せなんか感じる事はないのかもしれないし、もっと言うと、そういうものを感じたら、一つ終わりなのかもしれない」 ――甘えてしまうから、ということですか? 「いえ、満足してしまう。これもよく言うんだけど、バルセロナ・オリンピックで岩崎恭子さんが(14歳で)『今まで一番生きた中で、一番幸せです』って言ったんですよね。金メダリストやプロのスポーツ選手は、人生における頂点みたいなものが、人よりも早く来るじゃないですか。だから、ある意味、とても辛い生き方だと思います」 ――今、したいことは? 「(試合以外は)なんとも答えるのが難しい部分ではありますね。今は色々とあっても目の前にあることをコツコツとやる。それはそれでいいのか、充実しているのかもしれない。そう思っています」  インタビューの合間に青木の口から何度か出てきた“孤軍奮闘”。格闘技に純粋に向かい合う男が、この先の見えない時代、世の中に救いを求めるのではなく、救いを与えようとしている姿が見えた。(協力:ONE Championship)
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