選手から「無観客でも大会をやらないんですか?」と聞かれることが多いという佐伯代表が、開催をためらう理由を語った
2020年5月5日(火)。本来なら翌日に東京・後楽園ホールで『DEEP JEWELS 29』と『DEEP 95 IMPACT』が開催されるはずだったが、新型コロナウイルスの影響により中止。3月1日に開催した『DEEP 94 IMPACT』を最後に活動を休止している。
「次回大会は今夏の開催を目指す」としている佐伯繁代表に、興行再開の可能性を聞いてみた。
DEEPはなぜ無観客でも大会をやらないのか
――本来なら5月6日に後楽園ホールでDEEPとDEEP JEWELSが開催される予定でしたが大会は中止。5月4日には緊急事態宣言の5月末までの延長も決まりました。この状況にどう思われていますか?
「大会の中止を発表したのが4月7日ぐらいですが、周りの雰囲気やいろいろな話を聞いてその前から中止にしようと内内に決めて選手には伝えていました。2月、3月の状況だと2週間前くらいに中止にするケースもありましたが、1日1日状況が変わっている中で選手の練習が出来ない環境や色んな諸事情を考えると、早めに中止なり延期を発表しないといけないと。それに外国人選手が日本へ来れないことも含めて判断しました。
その分を7月中旬に昼夜興行と大阪を含めて4大会を予定しているんですが、それをやるかやらないかの判断が難しいです。緊急事態宣言がいつまで伸びるかの様子を見ながら考えようかなと思っていたら、4日に5月末までの延長が決まったじゃないですか。これが微妙な日程で緊急事態宣言が終わったとして大会までの1カ月半ぐらいの中で券売や選手のコンディション含めて可能なのか。もしくは5月末に解除されても、また感染が拡大して途中でダメですとなることもあり得るし。
そういう意味では、7月にやる予定も悩んでいます。8月に移行して会場を探すのか、現状答えが出ません。5月大会のマッチメイク自体は8割は終わっていたのですが、“延期”ではなく“中止”としたのは全く同じマッチメイクが組めるか分からないからです。5月の大会もそうですが、選手によっては断るつもりだったという選手もいれば、大丈夫ですとか様子を見る選手もいれば、俺は命を懸けてやるっていう選手もいました。
こういうご時世になって、最終的に主催者が大会をやります、どうしますかってなった時に発表していたカードがそのまま出来るかどうかは選手が選択できると思います。練習環境や仕事に家族など色んな問題もあるし、感染するリスクもあるので仕方がない状況でしょう。もう一度カードを組む時に確認しないといけませんので難しいタイミングですね」
――5月に試合が決まっていた選手が、7月か8月にそのままスライドして出られるとは限らないということですね。
「コロナの情報が1日1日変わっているから、状況を見ないといけないと思って1日中テレビでニュースばかり見ていますよ。暇だし(笑)。そんな中、選手からDEEPは無観客で大会やらないんですかと言われる事もあり、この機会に聞いてもらいたい事があるんです。これはあくまでも僕個人の考え方で色々な人の意見があるのは分かっているし、どれが正解ということもないと思います。
皆さんもご存じの通り、僕は不摂生で太っちゃって決して体が強いわけではないです。コロナが流行してからみんなに『生きてますか?』って心配されます。でも、元々持病がある人もいますし、高齢の方もいますよね。
僕は格闘技って、色んなスポーツ、エンターテインメントの中でも怪我をする確率が高いと思うんですよ。現状、死亡保険や高度障害などの保険以外の保険はないわけですし、負けた方はもちろん、勝った方も無傷ではいられないケースもあります。これまでも試合後に救急車に運ばれたり、大きな病院に行くことになったりとか何度もありました。
僕が大会の開催をためらうのは、この医療崩壊が懸念される状況の中で怪我をしてしまい病院に行き医療に負担をかけることをやっていいのかってことなんです。リングドクターだって現場で診られることって限界があるじゃないですか。病院ではコロナ以外の患者も治療しなければならない状況にあえてまた負担になる事を増やしても良いのでしょうか。これは無観客だろうが同じだと思います。
最近では自宅待機していた軽症者が亡くなってしまい今までとは医療の状況も変わってきているじゃないですか。昨日たまたまニュースを見ていたら、ニューヨークに違う州からドクターが応援に行ってる映像をみました。日本だって元々医療をやっている人は手伝ってくださいって言っている状況である事を理解してほしいです。
僕は不摂生で持病があるので人よりは免疫力も弱く感染したら重症化するリスクが高いじゃないですか。怖いですよ。1日6回くらい体温を測っています。たまに36.8度とかあるとビビッてしまいますね。あと実際に、近しい人が何人かコロナに感染し、危なかった人もいました。すぐに病院で診てもらえなくて入院まで時間がかかったということを聞いたから他人事ではありません。
例えばリングドクターが個人で病院をやっていたり、専門外だとしても他の病院のフォローをしないといけないケースもあると思うんですよ。この医療破壊が懸念される時期にリングドクターをする事も周りから非難される可能性もあるでしょう。そんな状況の中で怪我をする確率の高い試合をやるべきではないと思っています。
もしも自分の子供や家族など大切な方が病気や怪我で病院に行ったら格闘技の試合で怪我をした人がいてすぐに診療できないとなったらどうしますか? 納得できますか。それとこの状況の中で覚悟を決めて試合する選手も誰かに移した時の事ももう一度考えてみてください。自分は良くても他人に迷惑をかけてしまうかも知れないのです」
――アメリカのリングサイド医師協会(Association of Ringside Physicians)は「コンバットスポーツアスリートは試合後に医療処置を必要とすることが多く、すでに圧迫されている医療システムにさらなる負担がかかることを望まない」との声明を出していますが、佐伯代表の意見と同じですね。
「そうなんですか。それは知らなかったです。僕がなぜそういうことを考えるようになったかと言うと、僕は月に3回病院に通っているんですよ。でも、その病院は今、閉鎖されています。コロナ感染者が出たからです。だから僕、病院へ行けないんですよ」
――佐伯代表がヤバいじゃないですか。
「まだ薬が残っているので大丈夫です。他の病院も忙しい時なので迷惑かけたくないし、なくなりそうになったら送ってもらうことも出来るそうなので。でも、感染者が出たとなると再開されても行きにくいですよね。現実として身の近くにそういうことが起きているので、医療関係者に余計な負担をかけてしまうのはよくないんじゃないかと思ったわけです。
もちろん経済活動も大切だと思います。そんな時期に試合する選手やスタッフは感染するかも知れないリスクがあるわけですから本当に凄いです。でも、試合で怪我したら今度は医療に負担がかかるわけじゃないですか。もう覚悟を決めて、どんな怪我を負っても病院に行かないって言うのなら別ですけれど、そういうわけにはいかないですからね」