記者からの厳しい質問が続き、最初はニコやかだったヒクソンは険しい表情に
1986年10月に創刊され、30年以上の歴史を誇る格闘技雑誌『ゴング格闘技』が、秘蔵写真と共に過去4月にあった歴史的な試合や様々な出来事を振り返る。46回目は2000年5月26日に東京ドームで開催される『コロシアム2000』の船木誠勝(パンクラス)戦に備えて、恒例の山籠もりをするため4月29日に来日したヒクソン・グレイシー(ブラジル)の記者会見での出来事。
(写真)夕刻に成田空港に到着したヒクソンは浴びせかけられるフラッシュにも笑顔で対応
いつも以上にニコやかな笑顔を浮かべて成田空港にその姿を現したヒクソンは、カメラのフラッシュを浴びながら休む間もなく午後6時から近くのホテルでの記者会見に出席。この後、5月2日夜には長野県白馬村に入り、同24日まで山籠もりを敢行するという。
(写真)ホテルへ向かうリムジンに乗り込んだ後も、カメラへ向かって笑顔でポーズを作ったりした
「山で特別なことをするわけじゃない。今までやってきたことの確認作業をして、自然からエネルギーをもらうだけだよ」とヒクソン。
最初は「体調? 今は73%だよ。これから試合までの27日間で1日1%ずつアップさせて、試合当日には100%の状態にもっていくつもりさ」と珍しくジョークで始まった会見だが、徐々にヒクソンの表情からは笑顔が消えていくことになる。
『PRIDEグランプリ』(5月1日・東京ドーム)を控え、一足早く来日していた弟ホイス・グレイシーへの応援について聞かれると、不満げに「私には私のスケジュールがある。ホイスも同じだろう。多分、電話することもない」と素っ気ない返答。同日の昼にホイスが「ヒクソンは僕の宿泊先を知っているから、彼が来日したら電話があるはずだよ」とコメントしていたのとは対照的だった。
(写真)最初はヒクソン流ジョークも交えて質問に答えていた。会見とはいえ、公の場でヒクソンが笑顔を見せるのは大変珍しいことだった
次いで、やや太めの身体を指摘されると「体重は今88.3kg。ベストだ。これから減らすかどうか、分からない。状況しだいだが、今は(この体重で)満足している」とムッとした顔。
さらに、対戦相手の船木が今回のヒクソン戦へ向けて取り入れたヨガ特訓について問われると、バカにしたような表情で「確かに武道と同じでヨガを学べば何かしら向上できる。だが、一朝一夕で見に付くものではない」とピシャリ。自分のヨガと一緒にするな、と言わんばかりだった。
(写真)会見が進むにつれて不機嫌そうな表情へと変わっていったヒクソン
極めつけは、船木が提案しているヒジと頭突きの使用でもめているルール問題への質問が出た時だった。ヒクソンは沈黙してしまい、ヒクソンの口からは何も語られなかった。
なぜこのような会見になってしまったかと言えば、ホイスが『PRIDEグランプリ』決勝トーナメントでの桜庭和志戦において、ルール変更をごり押ししたことが影響していたからだ。いつまでも好き勝手はやめてくれ、という空気が報道陣に漂っており、グレイシーに対する風当たりがキツくなっていた時期だったのである。この会見で場内の雰囲気は何処となく気まずいものとなっていた。グレイシーバッシングを浴びせられてしまったヒクソンは気の毒だった。