キックボクシング
インタビュー

【UFC】UFCで最初に新型コロナウイルス陽性をカミングアウトしたライマン・グッドが、赤十字に抗体を提供

2020/04/22 00:04
 初代Bellator世界ウェルター級王者で、現在はUFCで活躍中のライマン・グッド(米国)が、新型コロナウイルスに感染し、陽性だったことを明かした。現役UFCファイターで同ウイルスの陽性だったことを明かした選手は初めてとなる。 “サイボーグ”の異名を持つほど屈強な身体を持つグッドは、現在34歳で、MMA21勝5敗1無効試合の戦績を誇る。Bellatorで2009年に世界ウェルター級王座を獲得するなど8勝3敗の好成績を収め、2013年10月の「The Ultimate Fighter Season 19 Elimination Fights」にミドル級で参加。2015年からUFCにウェルター級で参戦し、2019年11月の『UFC 244』でチャンス・レンカウンターに3R TKO勝ちするなど、3勝2敗と勝ち越している。  ニューヨークのスパニッシュ・ハーレムで生まれ育ったグッドは、米国で最も感染者数が最も多いニューヨーク在住で、ニュージャージーのジムで練習を行ってきた。  UFCのダナ・ホワイト代表が開催を強行しようとしていた2020年4月18日の『UFC 249』でベラル・ムハマドと対戦予定だったが、大会の延期が発表される前に「負傷欠場」に。インタビューによると、グッドはUFCには新型コロナウイルスに感染し陽性だったことを伝えていたという。  3月23日の月曜日に倦怠感などの異変を感じたグッドは、すぐにトレーニングから離れ、同居する恋人と共に検査を受けに行き、陽性の結果に。コーチにも陽性の結果が出たが、同じUFCファイターのシェーン・ブルゴスら練習仲間には感染しておらず、グッドと恋人、コーチともに現在は快復しているという。  UFCファイターで最初に新型コロナウイルスに感染したことをカミングアウトしたことについて、グッドは「当初は、2週間後に『UFC 249』があるなかで迷惑をかけたくなかったから、メディアには怪我だっていう話にしておくしかなかったけど、快復してから表に出て、みんなに『自分は良い状況にいる。でもこれはみんなにとっての安全の問題なんだ』っていうことを、伝えたいと思った」と語る。  その後、グッドは再び検査へ行き、赤十字の求めに応じ、自らの抗体を提供した。「悲しいけど多くの人がこの病気で生き残れていないから、この陰性を陽性の人のために使いたい」と、患者に投与されることで一人でも多くの命を救おうとしている。  グッドは言う。「何が起きても前向きでいて、自分がこういうことになった機会を利用して、『そういうもんだからさ』ってみんなに言いたい。僕は幸いにも克服することができた。だから、『乗りきろうよ』と。『繋がっていよう、前向きでいよう、乗り越えられる、もっといい時がやってくるんだ』って言いたいんだ」  以下は公開された動画から、ESPNのアリエル・ヘルワニ記者の質問にグッドが答えたものだ。現役のファイターやアスリートにとって非常に示唆に富んでおり、一問一答から出来るだけ多くの言葉を紹介したい。 【写真】感染から共に完治した恋人とのツーショットを投稿したグッド。「暖かい日もあれば、寒い日もある。困難な時は周りとの絆を強くする。ヒステリーがあなたと周囲の人に入り込みませんように。繋がっていよう。より良い時代が来る」と記している。 ──まずは、COVID19に感染した状況を教えてもらえるかな。 「4月18日に開催予定だった 『UFC 249』のためのトレーニングキャンプで残り2週間というとき、COVID19の感染とその拡大を避けるために、限られたジムの人だけとトレーニングをしていたんだけど、ウイルスに感染しないようにという最大限の努力も虚しく、陽性だった。  陽性だと分かったから、すぐに周りのすべての人に知らせたよ。ファイターとしてハードなトレーニングをしているなかで怪我したりすることはしばしばあるけど、今回は悪いことにスパーリング中に身体がいつものように反応できていないな、と感じ始めていて、検査をした方がいいかなと思ったんだ。  何かがおかしいとは思っていたんだ。アスリートだから自分の身体についてよく分かっているし、残念な結果が出て、マネージメント、コーチ、チームはじめ全ての接触があった人に連絡をしたよ」 ──どんな初期症状があったのかな。 「はっきりと覚えているのが、3月23日の月曜日の朝のことだ。いつも月・水・金はハードなスパーリングを予定しているんだけど、月曜の朝、自分が自分ではないような感じだった。まるで自分の身体が“NO”と言ってるみたいな。それから具合がどんどん悪くなって、これはもしかして……と思った」 ──身体が弱って倦怠感を感じたようだけど、呼吸が辛くなったり、咳が出たりした? 「よく言われる初期症状のなかでは、僕は咳は無かったんだ。ただスパーリングしてる時にちょっと息が荒くなったりしたよ。いろんなことが次々と起きるんだけど、僕の場合は咳は最後の症状だった。でも大したものじゃなかった」 ──人によっては、「病院は混んでる」とか「余計に病んでしまうから」と言って検査に行かずに、そのままウイルスと戦うという選択をする人もいるようだけど、何が君を検査に行かせたのかな。その動機を教えてほしい。 「最も大きな判断要因は、周りの人たちの安全だよ。自分がコロナかもしれないとなったら、周りの人にはそうなってほしくない。みんなに安全でいてもらうためには、自分が検査する必要があった」 ──教えてくれてありがとう。それで、検査はどんな感じだったのかな。 「こちらこそありがとう。この機会に感謝してるよ。もう快復していて、100パーセント治ったんだ。自分の周りの人や社会にも不安を増長するようなことをしたくないけど──というのも、これはパンデミック(世界的な感染流行)なんだ。現実に起きていること。人を不安にさせるようなことや煽るようなことを言いたくはないんだけど、みんなにいかに自分は快復できたかを知ってほしい。格闘家としてそのリスクも伝えたい。  検査は、ドライブスルーテストで行われ、車の中で4時間待たされた。軍人がたくさんいたよ。長い綿棒を鼻腔に入れて検査をした。数日後に検査結果がくるんだけど、僕とガールフレンドは陽性だった」 ──同棲しているのかな。お互いに辛い状況で支え合ったことだろうね。 「お互いに身を寄せ合っていたよ。ただ、たぶん僕が彼女にうつしたんだと思う。すぐには初期症状が出なかったし……。ガールフレンドのエレナは、お茶を入れてくれたり出来る限りの手当てをしてくれたよ。お互いのために家で出来る最善を尽くしていたよ」 ──治して再度テストをし、陰性だった? 「そう。100パーセント。今は万全だよ。打ち勝った。だから、この抗体を赤十字に寄付しようと思っている。悲しいけど多くの人がこの病気で生き残れていないから、この陰性を陽性の人のために使いたい。それからチームメイトには、誰にも感染拡大させたくないしね」 ──ガールフレンドも陰性になった? 「うん。治ったよ」 ──よかった。赤十字に寄付っていうのはどういうことだろう? 「抗体を持った血を提供し、十分な抗体かどうかをテストする必要があるんだ。というのも、みんなそれぞれウイルスの反応はちょっとずつ違うから、赤十字が血液検査の設備を送ってくれる。抗体が症状が厳しい身体のウイルスに効果があれば、快復できる」 ──最初の検査の話に戻すけど、陽性と分かってどんな気持ちになったかな。特にこの1カ月は人類にとっては10カ月、いや10年みたいなワイルドな時期だった。ナーバスになったり、不安を感じたりしなかった? 「いや。ニューヨーク、ニュージャージー(※ライマンが所属する「チーム・タイガー・シュールマン」はニュージャージーのジム)で起きていることから考えれば驚くことではないし、そういう世界を今、生きている。社会をネガティブな感情と恐怖が取り巻いているけれど、とにかく自分と彼女は前向きでいて、克服することだけを考えていた。実のところ、一番心配だったのは、チームメイト、コーチ、それから自分と接触のあったすべての人のことなんだ。病気を拡散してしまったら責任がある。だから疑しく感じた時点でトレーニングを中断する決断をして、みんなからは離れるようにした」 【写真】広大なUFCパフォーマンス・インスティチュートで復活に向け練習を再開したグッド ──チームメイトやコーチ、周りの人の検査結果はどうだった? 「彼女と残念ながらコーチも陽性だった。ほかのチームメイトは誰も感染していなかった。スパーリングパートナーのたとえば、シェーン・ブルゴス(UFC6勝1敗・フェザー級)、ブラッドリー・デジー(元Bellator、MMA10勝6敗)とか、みんな大丈夫だったよ。コーチも良くなって、コンタクトがあった、すべての人がみんな大丈夫さ。気づいてすぐに検査にいったから拡散せずに済んだのだとと思うよ」 ──最も辛かった症状は何? 「すごく衰弱したこと。呼吸が苦しくて、正直言ってすごく怖かったのは、身体がいうことをきかない、というか……、身体が自分のいうことを聞きたくないという感じだった。それが一番キツかった。アスリートだから、自分の身体は自分の重要なポイントをチェックするようなものだったのに、自分の身体のすべてがどっかへ行ってしまったような感じだった」 ──病院にはまだ通ったりもしているのかな。 「陰性と分かったあとは、必要な情報のために連絡をするくらいで、とにかく隔離されてなきゃいけない。家にいて、オンラインでリサーチして症状をクリアにする解決を手伝ったりとか。症状らしきものが完全に無くなるまでとにかくひたすら家にこもったよ」 ──陽性と分かってから陰性になるまでどれくらいかかった? 「僕の場合は1週間だった」 ──普段の生活は過ごしやすくなったかな。 「もちろん完璧に。すごく気分も良いし、身体が新しい感じでクリアになったことを教えてくれる。それで、赤十字が抗体の寄付にあたって情報を必要としているんだ。2回目の検査は応急手当て室みたいなところで行われて、これが不思議なことに、陰性を検査することは“NO”と言われがちなんだ。これっておかしいだろ? みんな快復したら陰性だと確認したいのに。検査キットに限りがあるから、ということは分かるんだけどね。僕の場合は、抗体の寄付の件があって赤十字が陰性検査を求めたから陰性の検査が出来たんだ」 ──「UFC 249」に出場しなくてはいけない状況にあったよね。UFCには検査結果は伝えたの? 「もちろん。マネージメントとはとても明解なやりとりだった。『とにかく身体のことを考えるように』と言われたよ。とても協力的だった」 ──それを聞けて良かったよ。ダナ・ホワイト代表とは何か話したのかな? 「ダナ・ホワイトって人間は、ご存知のとおりいつだって前向きなんだよ(笑)。彼は『とにかく必要としていることがあるならすぐに遠慮せずに知らせるように』と真摯な対応だった。僕は自分が試合が出来なくなったことのイライラを伝えたら、ダナは『心配するな、きっとすぐに戦える』って。『とにかく今は君と君の家族が健康になることに気を使って、何か必要なことが生じたら連絡するように』と言ってくれたよ」 ──UFCが「UFC 249」の強行開催を巡って批判にさらされたりもしたけど、どう思っていた? 「俺たちはファイターだ。結局のところ試合をするとなったらしなくてはいけないことをする。こんな状況だから悪く言いたい人だってそりゃいるだろう。だけどファイターとして確かなことは、『何があっても試合をしたい』ってことだ。批判したい人たちは世界でもメディアを通してもネガティブが蔓延しているなかでの、憂さ晴らしというのかな、UFCだけ金儲けしようとしているという風になっているよね。多くの人が家庭を養わなければならないなかで残念なことに多くの商売を閉じざるをえなくて、機会を失っている。でもファイターにも家族がいて生活を支えて、食べていかなきゃいけない。だから自分にはUFCに対して否定的な考えはないよ。試合を開催するための最善を模索してくれた」 ──UFCは5月9日に新生『UFC 249』(3大王座戦=ライト級暫定王座決定戦トニー・ファーガソン vs.ジャスティン・ゲイジ-、バンタム級王座戦ヘンリー・セフード vs.ドミニク・クルーズ、女子フェザー級王座戦アマンダ・ヌネス vs.フェリシア・スペンサーを予告もヌネスは欠場を表明)をやると言ってるけど出場する? 「100パーセント快復していてイケると思ってるけど、キャンプの途中だったし、まだ試さないといけないと思っているよ」 (C)Buda Mendes/Zuffa LLC/UFC ──4週間が経って、いまはどんな生活しているのかな。“ステイホーム”しているの? 「もう予定していたスケジュールに戻ったよ。知っての通り、まだフィニッシュしていない試合があって、自分はファイターとしてしばらく稼働してなかったから、オクタゴンに戻る準備はできてるから、屋外の舗道でトレーニングしたりしている。それに、自分にはもうウイルスがなく、感染する心配もないしね。同じようにUFCの試合に向けて準備しているシェーン・ブルゴスもいる。  人生は同じなんだ。何が起きても前向きでいて、自分がこういうことになった機会を利用して、『そういうもんだからさ』ってみんなに言いたいんだ。あんまりみんなに嫌な思いをさせたくないし、めちゃくちゃな状況だって言われたくない。僕は幸いにも克服することができた。だから、『乗りきろうよ』と。『繋がっていよう、前向きでいよう、乗り越えられる、もっといい時がやってくるんだ』って言いたい」 ──ジムは稼働してる? 「コーチに感謝だよ。限られた人数で出来るように工夫してくれている。トレーニングマシンもあるしね。『神の計画なんだ(God's Plan)』っていうメッセージをツイッターでもらったんだ。俺たちはすぐに会えるようになる、家族もみんな安全、そういう時はやってくるさ」 ──UFCファイターで最初に新型コロナウイルスに感染したことをカミングアウトしたことについては、どういう気持ちからだったのかな。 「僕らファイターは、常に多くの人の強さの源であるようにあらねばならないから、人に感染を知らせるのはちょっと弱みを見せるという部分もあって、自分のなかでちょっとこじれた感じがあったけど、ウイルスを克服できたし、前向きでいて動き続けようと思ったんだ。ネガティブなライトを浴びたくなかったし、最初にこのことが起きた時に、2週間後にUFCがあるなかで、迷惑をかけたくなかった。特に他のファイターのためにも、自分のせいで台無しにはしたくなかった。だからメディアには怪我だっていう話にしておくしかなかった……。しかるべき時に、快復してから表に出て、みんなに、『自分は良い状況にいる、でもこれはみんなにとっての安全の問題なんだ』っていうのを、伝えたいと思ったんだ」 ──ナーバスで個人的なことだから、カメラを通さずに取材してもよかったのに、今回、このような形で協力してくれて本当に感謝している。ありがとう。
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