©Lemino/SECOND CAREER/NAOKI FUKUD
2026年5月2日(土)、東京ドームにて『THEDAY』(Lemino配信)が開催された。
5万5千人を集めた同大会のメインイベントでは、32戦全勝同士、日本ボクシング史上最高のスーパーファイトとして、世界スーパーバンタム級4団体(WBA・WBC・WBO・IBF)統一王者の井上尚弥(大橋)と、WBA&WBC&WBO同級1位の中谷潤人(M・T)が対戦した。この試合を、両陣営と本誌解説員の鈴木秀明氏のコメント、リングサイド公式カメラマン福田直樹氏の写真とともに振り返る。
試合は、前半から慎重な展開に。身長165cm、リーチ171cmの井上に対し、身長173cm、リーチ173~176cmの中谷はサウスポー構えで、オーソの井上とは喧嘩四つ。
スーパーバンタム級2戦目で28歳の中谷は、大きなフレームを活かし、サウスポー構えで後ろ重心。上から打ち下ろすことで近い距離になるよりも、低い構えで長い足を広げて腕でもブロック。遠い位置からジャブを放ち、井上に簡単には踏み込ませなかった。
その中谷相手に、33歳の4団体統一王者も右で入るのではなく、左ジャブで攻めていった。
本誌解説員の鈴木秀明・STRUGGLE代表は、「フェイントの掛け合いや、距離の取り合い、お互いがどう動くかといういうことを想定して、それぞれが多く練習してきた。相手の出方によっていろいろ変化しながら、ものすごい攻防が最後の12ラウンドまでずっと続けられて、しかも二人とも集中力を切らすことがなかった」と高い集中力の攻防が続いたといい、そのなかで「無敗」を守った井上の勝因を「“井上選手の強引さ”」と評した。
「届く感じがないところを強引に踏み込んでみたり、一手目のアクションで届かないところを二手目のアクション、さらにその後のパンチで当てるなど、様々な試みをしていて。この展開を踏まえてしっかり練習し、実戦で本当にこれだけ出していける、試合のなかでいろんなチャレンジをして当てに行くっていう、その強引さであの勝ちを引き寄せたのかなと思います」とした。
互いにクリーンヒットが無いなか、双方ともに反応よく、バックステップでも外すなか、それでも好戦的だったのは井上で、自らアクションを起こして削っていく。空振りなどワンミスも許されないなか、その打ち終わりを中谷もずっと狙い、井上のジャブを受けるも崩れず。仕掛けた井上もスタミナを落とさない。
結果的に、1~4Rのジャッジは3者ともに井上につけるラウンドに。
中谷の左が待つところに入っていく危険があるなかで、井上が仕掛けていく姿勢に、鈴木氏は「出した後にすぐ避けるとか、すぐ避けるパターンだと、またそこを狙われる可能性があるため、一瞬止まって避けたりとか、もう本当にギリギリの攻防の中で、井上選手は火中の栗を拾いに行くというのをやりながら、こんな大きな試合で守ることなく、自分から試合を作って勝ちを獲りに行った」と振り返る。
中盤以降、中谷が反撃に転じる。力強く先に出て井上が下がる時間も見られるも、そのとき井上は「温存していた」という。
「1から4Rはある程度あの距離で戦ってポイントをピックアップできたかなっていう感覚でした。そこから微妙に強めながら、そこもなんとなく取れたかなって、陣営ともポイントは大丈夫ということで。8~10Rで中谷選手もプレスを強めてきたのでそれを攻撃で迎え打つのではなく、少し体力を温存しながら受けに回ってポイントをピックアップできればいいけど、できなければ別に自分の中では譲ってもいいかなっていう感覚でそこら辺のラウンドは戦ってました」(尚弥)
しかし、9Rに中谷は右アッパーでとらえると、10Rに右フック、左ストレートをヒット。井上に効かせていたかに見えたが、攻勢に出たところで偶発性のバッティングにより、中谷が眉間から出血。そして続く11Rには、井上の右アッパーが目に。「左眼窩底骨折」がこのラウンドだったことを中谷は明かしている。
12Rのジャッジは2者が116-112、1者が115-113の最大4P差の3-0で、井上尚弥が判定勝ち。4団体統一王座の7度目の防衛に成功し、男子歴代最多記録を更新。世界戦の連勝も28に伸ばし、自身の持つ男子歴代最多記録を塗り替えた。戦績は33戦全勝(27KO)。中谷は33試合目で初黒星を喫した。
鈴木氏は「この規模の大会を、日本で日本人同士が本当に実現させた、ビッグファイトを東京ドームでやったというのは、すごいこと。そして、これだけの熱を生み出し、緊張感のあるラウンドで、判定でもお客さんはみんな満足しているように見えます。派手なKOだけじゃないんですよね。その技術と流れと、二人のアスリートのぶつかり合い、激しい倒し合いだけじゃなくて、これがボクシングっていう動きを見せてくれて、感銘を受けました。どの階級になるか分かりませんが、僕はもう一回、再戦を東京ドームで見たいなと思ってしまいます」と、今後の両者にも期待を寄せている。
チャンピオンはどこへ向かうか。両陣営の試合直後のコメントと、一夜明け全文は以下の通りだ。
井上尚弥「脳のスタミナが凄く削られた」
――試合を終えての今のお気持ちからお願いします。
「ホッとしてます」
――それだけ精神をすり減らしてプレッシャーもかかる一戦だったということでしょうか。
「そうですね。歳も33になって、日本人のパウンド・フォー・パウンドでランキングしてる、下から上がってきた選手と戦うというのはやっぱり負けられない気持ちというのが今までの試合と全く違う。やっぱりそういう重圧だったり、そういう雰囲気があったので、自分の中で張り詰めたこの5月2日までだったので、ひとまず今日は勝てて本当にホッとしてます」
――試合全体を振り返ってのプランはどうだったでしょうか。
「プランはプラン通りでしたね。中谷選手がそう出てくるなら今日の戦い方、というところでした」
――ということは相対してみて何か想像と違う部分だったりは感じなかったんでしょうか。
「想定内という入り方でした」
――真吾トレーナーはどう見ましたか?
真吾トレーナー “中谷選手次第”っていうところが全部できたと思うんですよ。前半は逆に尚弥になかなかパンチが当てられなかったんじゃないのかなって。だから空間をしっかり尚弥の方が支配してたのかなっていう。練習通りしっかりできたと思います。
――今終わったばかりで、先ほどリング上で「ちょっと休みたいな」という話もあったばかりなんですが、今後について少し教えてもらえますか。
「自分の口からは今言えることはないのかなと思います。あとは大橋会長を含め、また今後のプランっていうものがあると思うので、またそこから始めていきたいと。今は僕の中では白紙です」
――大橋会長、『THEDAY』どんな1日になりましたか。
大橋会長 やっぱり、戦前に「日本最高の技術戦になる」って言いましたけど、この2試合とも本当になったと思うし、井岡選手がああいった形で2回もダウンするっていうのも想像もつかなかったと思うんですけど、最終回も井岡選手効いたんだけど、行った瞬間にものすごい右を合わせてきて井岡選手らしさも出してきたなと。技術的に凄いなってのも見せましたし。
あと中谷選手も本当にいい選手で、終盤の攻撃、左ストレート、左アッパー、本当に怖いボクサーだったので、またこれから必ず世界チャンピオンに返り咲いて、また日本のボクシング界を盛り上げていく男になると思います。そんな今日は1日でした。
――中谷選手も素晴らしいチャンピオンであった選手であり、そして今日も素晴らしい試合を見せてくれたと思うんですけれども、彼のこれからについてはどうお考えですか。
「気持ちも強い選手でしたし、その中で高度な技術も含まれてたので、必ずまたスーパーバンタム級でチャンピオンになる選手だなというのは今日戦って感じました」
──拓真チャンピオン、試合を振り返っていかがでしたか。
拓真 自分の中で、ずっと張り詰めてた12Rであって、なんかすごいあっという間な12Rでしたね。
──憧れを超えた瞬間だったかと思いますが、その辺りどうだったんでしょうか。
拓真 そうですね、やっぱり素直にすごい嬉しい結果で終わってよかったです。
──ダウンを2Rと3Rに奪いました。最初は一気にラッシュをかけて、3Rは冷静に右アッパーだったと思いますが、ダウンシーンをご自身で振り返っていかがですか。
拓真 あの最初のダウンシーンっていうのはもう本当にスパーリングから練習からずっと練習していたパンチなんで、それが本当に自然に出たなっていうのと、3Rの右アッパーっていうのは、自分の得意としてるパンチであって、それでダウンが取れてよかったです。
──どんどん倒せる選手に進化していっているという気もするんですが、その辺りどうですか。
拓真 そうですね。まだまだ全然物足りない部分もあるんで、またこれから修正していきたいと思います。
──那須川天心選手が挑戦権は持っている現状をどう感じていますか。
拓真 終わったばっかなんで、ちょっと何も考えたくないですけど、まあ、全然決まれば、前回同様、しっかり倒すだけです。
――拓真チャンピオン、向こうのペースに引いてボクシングをした。あれはカウンター封じというか、こっちのカウンター狙いとか、あえてああいう作戦を取ったんですか。
拓真 そうですね。あえてあの戦い方に変えたっていう感じですかね。
――試合の中で?
拓真 そうですね、はい。
――狙いとしては?
拓真 自分の得意とするパターンで結構ハマると思ったんで、試合中にこの作戦で行くっていうのは父に言いました。
――那須川天心戦からの成長をすごく今日見てて感じたんですが、自分自身ではどうですか。
拓真 そうですね。まだまだいいとこも出せたんですけど、物足りない部分もまだまだあるんで。まだノビシロはあるかなっていうのは自分自身も感じてます。
――尚弥チャンピオン、8~10Rは1人ジャッジが中谷に行っていて、8・10Rは2人が行っていた。あの辺で危機感みたいなものもあったのか。それと判定を聞く時にもう勝ったということがあったのか。最後に、今日は伝説の日にできたのか。
「前半からポイントを陣営と確認しながら戦っていて。戦う前から言っていた『今日は勝つ(ことに徹する)』という。その中で8~10R辺りっていうのは捨ててもいいのかなっていう。自分がポイントを取るというか、少し引きながらポイントを譲っても大丈夫かなと思いながら戦ってました。
今日が『伝説の日』になったかどうかというのはちょっと分からないですけど、“やがて”なんでね。ただ僕のボクシング人生というのは今日がゴールではないので、まだまだ伝説を作っていけるんじゃないかなとも思ってるので、今日以上の伝説を今後作っていけたらいいなと思います」
――頭脳戦っていう部分でもいろんな駆け引きがあったりして、頭脳も疲れる試合だったと思うんですけど。駆け引きの中で笑顔なんかも見えたりして、その辺りの心境はどうだったんでしょう?
「今日は体力というか、脳のスタミナが凄く削られたなと。それだけ張り詰めて12R戦った試合でしたね。お互い打って外してという技術戦、お互いが楽しんでるなと試合をしながらそんな感覚で凄く楽しい試合でした」
――あとリング上で「また東京ドームで」という言葉もありましたけども、その辺りはどうでしょうか。
「そうですね、またここで試合が出来たらもう本当にボクサーとして(冥利に)尽きるなと思うので。またそんな試合ができたらいいです」
中谷潤人「井上選手は学ぶ力が凄く強いので学ばせないように戦った」
――試合を終えての感想からお願いします。
「5万5千人のお客さんの前と、PPVで見ていただけている皆さんの前で戦えたことを光栄に思います」
――井上選手と対峙しての印象はどうだったでしょうか。
「いろんなことを想定して準備してきたので、驚きというか、そういったところは特には 感じなかったですけど、さすがチャンピオン。上手さがあって、ボクシングを作っていく、ボクシングはすごく上手だったなっていうのは感じました」
――村野会長からご覧になって中谷選手の戦いぶりいかがだったでしょうか。
村野会長 練習でやってきたことをある程度は出せたんじゃないかなとは思います。ただですね、相手も名チャンピオンですので、簡単には進まさせてくれないと思いましたが、各所各所で付け入る隙があったなとはトータル12Rを終えて感じました。
――結果的にスコアを見ると1Rから4Rまで向こうに行ってるんですけども、それは全く予定していなかったのか、ある程度取られてもいいから相手を焦らすとかそういう作戦だったのか。序盤戦の戦い方について教えてください。
「井上選手は“学ぶ力”が凄く強いので、そういったところで学ばせないっていったところでああいう戦い方になりました。ただ井上選手もそのタイミングだったり、フェイントを入れながら取ってきてたので、そこの駆け引きを楽しみながらやってました」
――検査するのはどちらの目になりますか。
「左の目ですね」
――10Rのバッティングによるもの?
「パンチだったと思います」
――11Rの?
「はい」
※診断結果は「左眼窩底骨折」


























