WBCムエタイ日本タイトルを争う繁那(左)と壱
2025年10月12日(日)東京・後楽園ホール『MAROOMS presents KNOCK OUT.58』にて、WBCムエタイ日本スーパーバンタム級王座決定戦3分5Rで対戦する同級2位・繁那(=ばんな/R.S-GYM)と同級4位の壱・センチャイジム(センチャイムエタイジム)のインタビューが主催者を通じて届いた。
壱「もう反抗期が終わったよ」

6月の森岡悠樹戦でREDのタイトルは失ったものの、再起戦で新たなタイトルのチャンスを得た壱。そこに臨む気持ちは一体どういうものなのか?
──まず前回の試合、6月の森岡悠樹戦を今振り返ると?
「結局、フタを開けてみれば自分のしたいことはできずに、相手の土俵に付き合っちゃって。それって、会長もトレーナーのキックさんも、周りがみんな最初から言っていたことだったんですよ。『お前はどうせ相手の土俵に付き合うんだろ、そしたら絶対負けるからな』って言われてて。僕も付き合って倒れるのは……という気持ちはあったんですけど、僕はガラスのアゴなのでパンチをもらっちゃって、『倒れたら行く』と決めてたので」
──倒れたからいったと。
「はい。で、顔面には当たってないんですけど、頭に当たってちょっと響いちゃって、それで倒れちゃって。キックさんと会長は『もっと落ち着け、チャンスはあるから』って言ってたんですけど、僕はもう『行くしかないな』と思って行きました。それであの結果だったので、僕としてはもうあの試合で、打ち合いはもういいかなと思ったところがあります」
──では、先手を取られたのが全てという感じですか?
「そうですね。もう倒されたら行くと決めてたので。でも結局3Rしかないから、ダウンを取られたら行かないと勝てないなというのはもともと分かってたので。最初から、僕が当てたら僕が勝つし、森岡くんが当てたら森岡くんの勝ちという試合だなってのは思ってました」
──試合後、会長やトレーナーの方の反応はどうだったんですか?
「『こいつ、言うこと聞かねえわ』みたいな。でも僕も分かりますよ、指導者の気持ちは。やっぱり自分の言ったことを実行しない選手なんてかわいくないし、あと誰がどう見ても、僕って元はといえばパンチの選手じゃないと思うんですよね。それなのにONEだったり、12月の横浜武道館だったりで、ちょっとパンチで倒せる味を覚えちゃったんですよね。それでパンチ一辺倒の戦い方になって。最初はKOボーナスをもらえたりしていい時期もありましたけど、でもやっぱフタを開けてみると、去年みたいに安定して勝てないんですよ」
──確かに。
「僕は去年8連勝したんですけど、それ以降安定して勝ってないんです。パンチ一辺倒になってから、全然安定して勝ってなくて。KOする数も増えましたけど、安定して勝ってないっていうのがやっぱり結果だと思うので。僕は今年、3週間おきに3試合やってたんですけど、そこからは4ヵ月間、他の選手にとっては普通だろうけど、僕にとってはすごく長い休暇を経て、自分と見つめ合って考え直したので、それが今回の試合で、結果として出せたらいいなと思っています。会長とコーチには、『もう反抗期が終わったよ』というのを、試合でお見せしたいなと思ってます」
──「言うことを聞きます」と。
「というか…やっぱりパンチで倒すのって楽しいんですよ。盛り上がるし。あと試合が終わった後に痛くないので、次の日遊びに行けるっていう。蹴りまくっちゃうとあちこち痛くて、1週間は練習に参加できないですからね。でもやっぱり、勝ちを重ねるためには、僕はパンチに頼らない必要があるなと。それを会長とコーチにさんざん言われてたけど、それを改めて森岡選手に教えてもらったと思って、今は振り切って生きてます」

──今回はWBCムエタイ日本王座決定戦ですが、改めて決まると、今までWBCムエタイに縁がなかったのはちょっと不思議な感じがしますよね。
「そうですね。まあいろいろあるんですけど、簡単に言ってしまえば縁がなかったですよね。正直言うと、僕は6月の試合の後、山口さんとも話して半年休む予定だったんですよ」
──そうなんですね。
「でも、山口さんから『WBCムエタイの試合をするとしたら、壱君にオファーをかけようと思ってるけどどうする?』って言われた時に、WBCムエタイならやりたいと思って、ちょっと早めですけど、再起戦の決断をしました」
──WBCムエタイは何が魅力ですか?
「僕は『世界チャンピオン』という称号にすごく魅力を感じてて。KNOCK OUTのベルトもメチャクチャ豪華でレベル高いですし、僕はKNOCK OUTのベルトに一番魅力を感じてるんですけど、僕は引退までに『世界』と名のつくベルトに挑戦したいなと思っていて。だからWBCムエタイやISKA、ONEみたいに『世界』の称号は魅力的でしたね」
──なるほど。
「そんな中でこのWBCムエタイの話をいただいて、WBCムエタイの日本チャンピオンになれば、世界タイトルにも進んでいけるんだと思って」
──WBCムエタイは日本、インターナショナル、世界と段階がハッキリしてますからね。
「そうなんですよね。実際に吉成名高選手とか士門選手とか、日本からWBCムエタイの世界チャンピオンも出てますし、その道筋がしっかりしてていいなというのは思いました」
──その相手が繁那選手です。
「はい。僕は繁那選手のことはONEに出るまで知らなかったんですけど、2回出てるのを見て、いい選手だなと思ってて。年齢を見たらすごく若いし。ただ、当たることはないだろうなと思ってたんですけど、ここで当たるのかと。チェックはしてたけど当たることはないだろうなって、何となく思ってた選手だったので」
──繁那選手のファイトスタイルや攻撃面についてはどんな印象ですか?
「僕はメチャメチャいい選手だと思ってます。若いけどすごく落ち着いてるし、自分に自信があるなというのがファイトスタイルから感じるので。そこはすごくいいなと思ってますね。戦績がまだそんなに多くないから、たぶん怖いもの知らずな点はあるんだろうなとは思いますけどね。怖いもの知らずで自信があるのって大事なことなんですけど、その一番最初の壁に僕がなって、勝てたらいいなと思ってます」
──どう戦ってどう勝ちたいと思っていますか?
「繁那選手は関西中心に戦ってるというのもあって、彼の18戦の戦績のうち、僕が知ってる選手は真琴選手と鈴木貫太選手の2人しかいなくて。真琴選手には負けて貫太選手とはドローになってるんですけど、自分の知らない選手と戦ってきた日本人選手とやるのって、ここ最近では初めてに近いんですよね。だからそういう意味では未知数というか、ONEに出た時にデータが全くない外国人と戦う時ぐらい、しっかりした準備が必要だなという気持ちですね」
──感覚的にそこと似ていると。
「そうですね。それに繁那選手って、YouTubeに動画があんまりないんですよ。だから参考資料があんまりないというのもあって、今回はいつもよりはフリースタイルな感じで挑もうかなと思ってて。いつもはコーチと会長から指導をもらって、それをコーチが噛み砕いて僕に伝えてくれるというスタイルでやってるんですけど、今回はサウスポーだし、自由に戦っていいよという感じなので、僕もちょっと楽しみにしてます。相手の出方を見てから合わせようかなと」
「あと5Rというのが久しぶりなんですよ。5Rで相手がサウスポーというのは、古村光戦以来なんですよ」
──ああ、そうなりますね。
「だからもうちょうど1年半ぐらい、サウスポーと5Rをやってないので、そういう意味でもいろいろ楽しめるかなと思ってます」
──そのサウスポーと5Rというのは、ストレスが溜まる感じではないんですか?
「僕個人的には、サウスポーはあまり得意じゃないんですよ。僕はサウスポーと10戦やってて、6勝4敗なんです。トータルの成績で見るとけっこう苦手なゾーンなんですよ。だからコーチや会長からも『サウスポーということだけは気をつけて』と言ってもらってて。でも逆に、5Rは得意なので。僕、試合でスタミナ切れたことないですからね。長く戦うなら僕のペースになるだろうなと思ってます。僕はガラスのアゴなので、そこだけ気をつければ」
──では5Rの中で経験の差を見せると。
「そうですね。やっぱり一番はそこだと思ってるので。僕も初めてタイ人とやった時に、もう毎ラウンド、本当に不安が募ってくるという感じだったんです。それを繁那選手に体験させたいなという気持ちは一番にあります」
──ここで日本タイトルを獲って、インターナショナル、そして世界タイトルに進みたいと。
「やりたいですね。今は3Rが主流になっちゃってるので、5Rで世界タイトルっていう点では、やっぱりWBCムエタイが今見えてる範囲では一番近いのかなと思ってるので。そこは力を入れていきたいなと思ってます」
──一方で、森岡選手は9月大会でBLACKのベルトも獲りましたよね。あの試合はどう見ましたか?
「やっぱり倒されて倒すっていうのは、ちょっと悔しいけど、さすがだなと思って。でも森岡選手もあの戦い方をしてるとたぶん長くは持たないと思うんですよね。絶対に誰かが首を取る日が来ると思うんですよ。だから誰かがその首を取った後に俺が取るんじゃなくて、自分自身が取りたいという気持ちはあるので、やっぱりそこは複雑ですよね。森岡選手が勝つとうれしいし、俺が挑むまで待っててくれという気持ちもあるんですけど、あのスタイルだといつパコーンってやられるか分からないし、不安もありながら……という感じです」
──ちょっと複雑ですね。
「僕ももうベルトとは無縁の生活をしばらく送るんだろうなと、何となく思ってた中で、このWBCムエタイの話をいただいたので、僕はWBCムエタイの方でベルトを獲ったり防衛したり、世界タイトル戦をやったりしていきながら、森岡選手に挑戦できる機会を見ていこうかなと思っています。周りの気運、周りの声が高まれば、いつでもやるんですけどね」
──では最後に、今回はどこに一番注目してほしいですか?
「僕は今回、倒せるムエタイを見せます。ムエタイってマイナスのイメージというか、『ムエタイって倒さないじゃん』とか、『首相撲ばっかりじゃん』という声をけっこう聞くんですけど、それは違うと。ムエタイの中で倒すテクニックも技術もあるというのを、今回の大会でお見せできたらいいなと思っています。美しさの中にも、試合になるとどうしても出てくるこの凶暴な僕の一面があって、そこはもう何もしなくても出てくると思うので。そのムエタイの美しさと、壱の凶暴な一面のHarmonyを見せたいなと思います。Harmonyを」




