2025年8月9日(日本時間10日朝5時~)米国ラスベガスのUFC APEXにて『UFC Fight Night: Dolidze vs. Hernandez』(U-NEXT配信)が開催される。
日本から風間敏臣がUFC2勝目を目指す同大会のコメインでは、フライ級10位のスティーブ・エルセグが出場。当初の対戦相手のパク・ヒャンソンが、平良達郎と急遽対戦したため、ランク外のオデー・オズボーンとバンタム級で対戦する。▼バンタム級 5分3Rスティーブ・エルセグ(豪州)12勝4敗(UFC3勝3敗)135.5lbsオデー・オズボーン(米国)13勝8敗(UFC5勝6敗)135.5lbs※パク・ヒャンソンは8.2平良達郎と対戦
MMA11連勝から、王者アレシャンドレ・ パントージャ、カイ・カラフランス、ブランドン・モレノとトップ戦線を相手に3連敗。気づきを得た“アストロボーイ”は、パクとは構えも体躯も異なるオズボーンといかに戦うか。そして平良vs.パクをどう見たか。U-NEXTと本誌が聞いた。
平良達郎はすごく辛抱強く無駄な動きがない
──今回のファイトキャンプも豪州で行ってきましたか。
「そうだね。豪州パースのホームジム『Wilkes Martial Arts』で練習してきたよ。基本はうちのジムの仲間たちとだね。でもセブ・ザライ(Sebastian Szalay=RTU2025フェザー級1回戦でバーエゴン・ジェライスーに判定勝ち)が来て何ラウンドか一緒にやってくれたし、ロッド・コスタ(Eternal MMAバンタム級王座戦で伊藤空也と対戦)とジャック・ベッカー(RTU2025ライト級でパク・ジェヒョンと対戦)も今回のキャンプを通して助けてくれた」
──フライ級以上の選手とも組んでいるのですね。今回、試合の1週間前に対戦相手が変わりました。準備についてはどう感じていますか?
「試合のキャンセルや変更、入れ替えとかにはすごく慣れてる。UFCでの期間だけじゃなく、キャリアを通してずっとそうだったからね。だから特別なことじゃないんだ」
──たしかにモレノ戦もアスー・アルマバイエフ戦のキャンセルでしたし、その前にもマット・シュネル戦もキャンセルでしたね。しかし、今回は当初のオーソドックス構えのパクと違い、オズボーンはサウスポー構えです。
「相手がサウスポーになったことに関しては、確かに準備としてはちょっと厄介だけど、俺には長い間ずっと一緒に練習してるサウスポーのスパーリングパートナーがいるから、日常的にサウスポーの動きは見てるし、そこまで心配はしてないよ」
──今回、アルバジ選手が欠場した際に、エルセグ選手にも平良達郎選手との対戦オファーがあったのでしょうか。
「ああ、本当だよ。俺には平良と戦う別の機会は、今まで一度もなかった。その話が初めての機会だったんだ。受けなかった理由は、すぐにラスベガスに飛んで体重を落として計量まで全部やるのに、明らかに1週間未満しか猶予がなかったからさ。まずそこへ行くこと自体がすごく大変だったし、もし間に合ったとしても相手はめちゃくちゃ強い選手だって分かってた。だから彼とやることは、自分をとても不利な状況に置くことになる。だから、出るべきじゃないと判断した。もちろん、平良とはぜひ戦いたい。彼は素晴らしい選手だし、すごくリスペクトしてるよ。でも今回は、タイミングが合わなかっただけさ」
──もともとパク選手と戦うために準備し、研究もしていたと思うのですが、その上で平良選手とパク選手の試合をご覧になって、どのように感じましたか?
「データだけ見ると、すごく拮抗した試合になるように見える。パクはリアネイキドチョークでのフィニッシュが多いし、シャノン・ロスやヘルナンデスとの試合では、打撃でも良く見えた。平良も打撃で色んな場面で良い動きを見せてるし、バックからのフィニッシュは本当に危険だ。
でも、試合をもっと注意深く見ると、少なくとも僕には、平良の総合的な柔術がずっとシャープに見えたよ。ディープハーフの使い方とか、細かい部分でかなりレベルが高いことをやってるし、打撃も無駄がなくて綺麗で、すごくタイトだった。全部があるべき場所にある感じで、すごく辛抱強いよね。無駄な動きがない。
それに対してパクは、バックから攻めるときやフィニッシュはいい感じに見えるけど、それ以外だと平均的に見える、もちろん“UFCレベルでの平均”って意味だけどね。打撃は強く当ててるように見えるけど、被弾しやすいし、リーチの活かし方や間合いの取り方も上手くないと思う。だから個人的には、平良がかなり楽に勝つと思ってたよ」
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モレノ戦からスタンスを修正した
(C)Zuffa LLC/UFC
──再起を果たした平良選手を高く評価されていますね。翻って、あなたの前回のブランドン・モレノとの5戦では、2R、3Rはスタンドで競り合いましたが、後半はモレノのラウンドになりました。あの試合での手応えと課題をどのようにとらえましたか。
「ディフェンス面では改善が見られたと思う。たとえば、左フックに対するディフェンスとかは良くなったと思う。序盤は相手のオーバーハンドをもらったけど、後半はそれを抑えられた。でも正直、全体としては自分のパフォーマンスは良くなかったね。自分にすごくガッカリしたよ。
たぶん一番大きな要因はメンタル面のせいだと思う。相手のグラウンドの話を頭の中で膨らませすぎたし、カイ・カラ・フランスにKOされた記憶も頭にこびりついてたんだ。自分が誇れる戦い方ができなかったし、試合後は本当に自分に失望したね」
──後半にスタンドでコントロールされたモレノ戦の経験から、次戦に向けてどんな修正をしましたか?
「いくつか修正した。まずスタンスを研究してかなり色々試したよ。そのうえで、より攻撃的に動けると思うスタンスに戻した。今は半身のブレイデッドなスタンスも武器として持ってるから、いつでもそこに行けるし使えるよ。でも少しスクエア気味の構えの方がキックを使いやすいし、右も少し速く届く。レスリングも使いやすい。スクエア寄りの方が、ブレイデッドより上手くできることがいくつかあるんだ」
──たしかに。被弾する面積は狭くなりますが、奥の手が遠くなりますね。
「そういう点で、自分にはスクエア気味の構えのほうが合ってるんだと思う。もう一つは、自分の能力をもっと信じること。相手を過大評価しすぎてたんだ。長くやってるスーパースターだから、僕の知らないことを全部知ってるんだろうと決めつけてた。でもそうじゃない。僕はすごくハードにやってきた。傲慢に聞こえるけど、俺はすごく強い。だから自分を信じて、自分のレベルを見せに行くべきだと思ってるよ」
──新しい対戦相手のオズボーン選手はパク選手よりリーチが長いですが、その点への準備はできていますか?
「ああ。僕はリーチが短い相手とか、背が低い相手とやることも多いけど、トレーニングの大半はリーチの長い相手を想定してやってるんだ。だから、背が高いか少なくともリーチの長い相手の方が、背が低い相手よりむしろやりやすいかもしれない。彼は特に序盤はすごく爆発力があるし、経験も豊富だ。だから、気を引き締めていかないといけないのは分かってる。でも、試合が長引けば長引くほど、自分に有利になると思ってるよ。だから、彼を深い水の中に引きずり込むのがプランだ」
──オズボーン選手はバックボーンはレスリングですが、グラップリング・柔術ではエルセグ選手につけ入る部分があるのでは?
「100%そうだね。グラップリングは、あいつが一番苦手なところだと思う。僕は、UFCでは自分のグラップリングを十分に見せてない。テイクダウンが取れなくても、組みの展開で彼を疲れさせられるのは分かってるから、少しずつ彼から奪っていくよ。僕の方がフィジカル的にもスタミナ的にも上だし、もし上を取れたら彼にとって本当に大きな問題になるだろう」
──今、フライ級には新しい選手が続々と出てきてますね。ジョシュア・ヴァン選手ももうすぐパントージャ選手とタイトルマッチをやると言われていますし、日本人選手も平良、堀口恭司、朝倉海、鶴屋怜と4選手が参戦しています。これからのフライ級戦線で、どのように勝ち上がっていこうと考えていますか?
「つまらない答えだけど、“試合に勝ち始める”ってことだね。誰を当てられても気にしない。もちろんトップの連中と戦いたいけど、その権利は自分で勝ち取らないといけない。だから相手をどんどん持ってきてくれ。チェックボックスを一つずつ埋めていくよ」
──最後に日本のファンへメッセージをお願いします。
「日本のファンのみんな、いつもサポートありがとう。みんなに楽しんでもらえるような試合を見せるつもりだ。U-NEXTで僕の試合を見てほしい」
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会見でのエルセグ「ポジティブなセルフトークが効く『俺ってストロングだぜ』って」
(フライ級からバンタム級戦に変わり)今回はバンタム級の試合だから、しっかり食べられるのが嬉しいね。UFCの栄養チームが素晴らしい仕事をしてくれるおかげで、体重はすごくいい感じなんだ。試合週なのに、炭水化物も食べられてる。コーヒーも許可されてるんだ。周りのみんなも証言してくれると思うけど、俺はすごくハッピーだよ。それがいいパフォーマンスにつながることを願うよ。
(試合展開は)ほとんどの場合、俺が彼をサブミットすることになると思う。でも、彼をひどく疲れさせて、スタンドの打撃で大ダメージを与えるっていう展開もあり得るね。どうなるかは、まあ見ててくれよ。(これまでの王座戦やメインの5Rの経験で)25分戦えるっていう自信は、間違いなくプラスに働くね。25分いけるって分かってるから、15分ならすごくハードにプッシュできる。
(強豪相手に3連敗中だが)そのことを考えすぎるとパフォーマンスに悪影響しか及ぼさないと思うんだ。だから、俺にコントロールできるのは自分の行動だけ。それに集中するよ。
(フライ級の盛り上がりについて)フライ級の層の厚さは間違いなく増していると思う。5年前とは比べものにならないよ。UFCが優れたフライ級の才能たちと契約しているのもあるけど、このスポーツ自体が人気だから、格闘技を始める人が全体的に増えてるんだろう。だから毎週いい試合が見られるのさ。
(対戦予定だった平良達郎について)平良は、この階級で最高のファイターの一人だと思うよ。すごく若くて、とてつもなくスキルフルだ。あの試合がああいう展開になるだろうとは正直思ってた。将来的には、俺がいいパフォーマンスを何回か見せた後で、タイトルをかけて戦うか、その前に戦うか、とにかく最高のヤツと戦いたいんだ。それは繰り返し言ってることだよ。
(アレシャンドレ・パントージャvs.ジョシュア・ヴァンは)ヴァンがチャンスを得たのは、急なオファーを受けていい選手たちを倒してきたからだと思う。だから彼を軽視するつもりはないよ。若くてボクシングも上手い。でも、パントージャは彼にとって荷が重すぎると思う。ヴァンは一発で倒すようなパワーパンチャーじゃないし、テイクダウンディフェンスは悪くないけど、パントージャのテイクダウンは完璧なテクニックというより、奇妙なトランジションから仕掛けてくるからね。一度バックを取られたら終わりだと思う。だから、ヴァンにとってはいい機会だけど、彼の思い通りにはいかないだろうな。
(UFC 301でのアレッシャンドリ・パントージャ戦の教訓は?)一番大きな収穫は、彼らトップファイターたちが、俺が見たことのないようなことをしているわけじゃないってことだ。ブランドン・モレノも、カイ・カラ・フランスもそう。彼らが持っていて、俺が持っていないものなんて何もない。ただ目の前にいる一人の男に過ぎないんだ。これまでは、彼らを少し神格化しすぎていたかもしれない。それが自分のパフォーマンスに悪影響を与えていた。もうそんなことはしないよ。
(相手を神格化しないためには?)ポジティブなセルフトークさ。ダサく聞こえるかもしれないけど(笑)、これがすごく重要なんだ。“魔法の言葉”って言われるのには理由がある。『彼はすごい』なんて言ってると、頭の中でそうなってしまう。逆に『あいつなんてクソくらえだ、俺がスティーブ・エルセグで俺が主役なんだ、俺ってストロングだぜ』って言えば、それが頭の中で響き始める。もちろん、やりすぎると傲慢になったりするから自制しなきゃいけない。もっといいのは、周りに自分を律してくれる人がいることだね。幸運なことに、俺の周りにはそういう人がたくさんいるんだ。
(アレクサンダー・ヴォルカノフスキーとジャック・デラ・マダレナの2王者を含めた、豪州MMAシーンの盛り上がりについて)ものすごくエキサイティングだよ。特にパースではみんな大騒ぎさ。ジムにはたくさんの人がいるし、みんな興奮してる。特にジャックがタイトルを獲った時は、すごいニュースになったね。俺も4人目のオーストラリア人チャンピオンになりたい。そして、オーストラリアを偉大な格闘技国の一つとして地図に刻みたいんだ。
(9月27日の豪州パース大会にも?)ああ、100%そのつもりだ。対戦相手が何人かキャンセルになった時、パース大会にスライドするかとも思ったんだ。もちろん、この試合で怪我をするかどうかにもよるけどね。でも、パースで戦いたいよ。間違いない。もしパースで試合が組まれなかったら、年内はもう試合をしない可能性が高いかな。とはいえ、柔術の大会には出ようと思ってる。UFCに入る前はよくやっていたし、できるだけ多く試合をこなすことはすごく助けになるからね。
(「タイトルを獲るまで禁酒する」と話していたが、結婚式が控えていても可能か?)ケイラ(婚約者)に「飲まない」って言う勇気は俺にはないよ。だから、結婚式ではたぶん飲むだろうね(笑)。そして、それ以外の日はすべて禁酒デーだ。
(以前、バックステージで俳優のトム・ハーディに会っていたが、彼とスパーリングはしまたか?)いや、してないよ。でも、すごくクールな出来事だった。彼がわざわざバックステージに来てくれたのは、俺が彼に気づいて挨拶したのに、彼が何かしていて返せなかったから、失礼だと思ったからなんだ。俺を無視したわけじゃないってことを示すために、わざわざ会いに来てくれた。すごくクールなことだと思ったよ。
(ドラマ『The Office』の登場人物マイケル・スコットに似ていると言われることについて、スティーブ・カレル本人に会ったことは?)俺が言えるのはこれだけだよ。俺たち二人が、同時に同じ部屋にいるのを見たことがあるかい?(笑)