徹底研究してきた朝倉、組み技で攻め続けたクレベル
スタンドやグラウンドで手数は多くなくとも有効打を見せた朝倉。手数多く、テイクダウンを再三仕掛けて試合を動かしていたクレベル。
本誌は今回、勝負のキーになるのは、「いかに立ち合い」「いかにトップを奪うか」になると予想していた。
「引き込んで極める」イメージの強いクレベルだが、近年は、4年前の朝倉戦とは異なり、安易に引き込むことはなく、たとえ寝技に持ち込んでも組み技のトランジションから、トップを奪うことで試合を優位に進めてきている。
斎藤裕戦でのテイクダウンに合わせたスイープ。鈴木千裕戦でのハーフガードからの4の字スイープ、フアン・アーチュレッタ戦でのリバースクローズ。バックサイド50/50からの足関節と、最終的に上になること・バックを獲ることでのパウンドや極めのダメージ、またはそのプレッシャーで相手を後手に回させてきたといえる。
今回の試合でも、スタンドで細かい蹴りで圧力をかけたクレベルは、3Rを通してタフな仕掛けを続けていた。押し込み、ボディロックでテイクダウンを再三、トライしている。このとき、何度か崩された朝倉だが、リングのコーナーも使い、クレベルの左の差しを右腕で小手に巻いて、ニーシールドで相手に腰を引き付けさせず、バックに回られないように防御。さらに、テイクダウンで押さえ込まれないように、下になってもクレベルのパスガードの際で足をバタフライガードで跳ね上げてスイープし、立ち上がっている。
試合前から、クレベルの動画を研究して「癖を掴んでいる」と語っていた朝倉は試合後、「テイクダウンは取らせないと思っていたんですけど、思ったよりクレベルのテイクダウン能力が高くてびっくりしてますね。当初の予定ではテイクダウンは取られないだろうから、引き込みだけを注意していました」と語り、試合後の本誌のインタビューに、バックを譲らないことを徹底していたことも明かしている。
左で脇を差して小外刈りで崩してくるクレベルに、右の小手を死守して足を外に置いて向き直る。
「完全にバックにつかれてからも得意なんですけど。得意になった、というのかな。四の字フックとか研究して、かけられた状態から逃げるというのをずっとやってきたので。まあただ、クレベルは寝技はちょっと異次元なのでなるべく取らせないということを徹底してやっていましたね」と際の攻防を振り返る。
そして、テイクダウンされても押さえ込まれないこと。クレベルのテイクダウンに下になりかけるも、JTTでの黒帯柔術家・竹浦正起らとのトレーニングで、パスガードを許さず、トップからはクレベルの三角絞めを徹底研究して対策を練ってきた。
「クレベルって、三角絞めに関しても、右足を入れる方しかやってこないんですよ、過去の試合を見ても。斎藤(裕)選手がクレベルの手の内側にヒジをついていて。そうすると、クレベルは手のここ(上腕の部分)に足を入れてくるのですけれど、内側に入れておけばまあ取られてないと研究していて思って。練習でも徹底してやってきたので下から極められることはないかなと思いました」
極めを防ぎながらパウンド・ヒジを狙う。たとえ、下になっても、慌てて首を差し出すようなスクランブルではなく、体を入れ替えることに成功している。
「僕はスイープは結構得意なのですが、そのうちのただひとつというだけです。特別やってきたわけではなくて、そもそもテイクダウン取られない予定だったので。まあでもグラップリングの練習とか、あえてテイクダウン取られた状態の練習とかは、クレベルの対策とは関係なしでずっとやってきたので、それがまあ活きたのかなとは思いますね」と、ディフェンス面での進化を語っている。
対するクレベルは、「自分の頭の中では自分が勝っているとずっと思っていた。なぜならRIZINの判定というのはどれだけアグレッシブだとか、どれだけフィニッシュに向かって自分が相手を攻めているのかというのがポイントになるので」と、「アグレッシブ・ジェネラルシップ」でも試合をコントロールしていたのは自分だと主張した。
ダメージもアグレッシブも差が無い場合、この試合をより支配していたのは、どちらになるのか。RIZINの公式ルールでは「ジェネラルシップ」に「スタンドポジション及びグラウンドポジションに占めた時間割合を考慮して評価を行う」とも記されている。3人の審判は、リングの3方から、メインイベントをジャッジしていた。
24年11月号の本誌『ゴング格闘技』(NO.334)で、JMOCの松宮氏は、MMAのジャッジの多様な視点について、下記のように、サッカーに例えて語っている。
「MMAというのはノックアウトやタップアウトという“ゴール”があって、それを目指していくスポーツだと。これは他のスポーツでも同じですよね。例えばサッカーでも最終的にゴールを目指す。だから、いくらボールポゼッションをしていてもシュートを打たなきゃ意味がない。そして、何回シュートを打ったってゴールに入れなきゃ得点にならない。MMAで言うなら、ボールポゼッションが『ジェネラルシップ』で、シュートを打つのが『アグレッシブ』、ゴールが『ダメージ』になるかもしれませんが、サッカーとMMAの違いというのは、ゴールに“強さ”のリアリティが求められる。ゴールの数を競うのではなく、ノックアウト、タップアウトの1回で終わってしまう。そこに向かっての攻防をどう評価をするか」と語っている。
ゴール=フィニュシュに向かうこと。互いに異なるアプローチで、相手を支配し、アグレッシブに戦うことで、ダメージを負わせようとしていたメインは、5分3Rのなかで、朝倉未来がクレベル・コイケに判定2-1で勝利。これで両者は、1勝1敗となっている。





