MMA
インタビュー

【UFC】王者パントージャ「いまのATTには犠牲と勝利の匂いがする」×挑戦者カラ・フランス「ベルトを持たずにラスベガスを出るつもりはない」

2025/06/29 08:06

カラ・フランス「マオリの血が俺のスーパーパワーの源」

──前回パースで勝ったとき「タイトルショットを与えるカイ(朝倉海)を間違ってる」と言って話題になりましたが、あれからどう過ごしていましたか? また、今回の試合はいつから決まっていたんでしょう? 多くの人がマイアミでのイベントに出ると予想していたと思いますが、結果的にインターナショナル・ファイトウィークでの参戦になりました。

「ラスベガスに戻ってこられて最高の気分だよ。ずっと辛抱強く待ってきたけど、それが報われたね。UFCから『マイアミには出さない、少し先にしよう』って言われたとき、これは何か大きな話になるなって感じてたんだ。そしたら案の定、インターナショナル・ファイトウィークで、アレシャンドレ・パントージャ(フライ級王者)とのコーメインイベント。ファンにとっても大きなカードのひとつになるはず。俺たちなら盛り上げられるってUFCも分かってる。パントージャにはリスペクトしてるけど、俺はあいつの首を獲りにいく。ベルトを持たずにラスベガスを出るつもりはないよ」

──堀口恭司とUFCの再契約の噂が出ていたとき、「また誰かに自分のタイトルショットを奪われるんじゃないか」と感じたりしましたか?

「そこはもうコントロールできないことだから気にしてない。俺が集中するのは自分のことだけ。試合に出てなかった間も、ずっとジムには通い続けてきた。去年の終わりに朝倉海(フライ級14位)のタイトルマッチが決まったとき、“次は絶対に俺だ”って思ったし、実際に試合後にパントージャにDMして『次は俺だろ? やろうぜ』って送った。そしたら、あいつも“やろう”って返してきた。トップのファイターと戦いたいって姿勢を見せたんだよ。そして、俺がスティーブ・エルセグ(フライ級9位)を1Rで倒したことで、一気に最有力になった。『次に誰が来る?』って話が出るたびに、俺の名前が出る。俺のスキルセットはパントージャにとって厄介なはず。9年前に一度戦ったけど、あのときは俺はまだ子どもだった。今は違う。家族もいるし、家族を養うために戦ってる。メンタルも、魂も、フィジカルも、キャリアの中で今が一番いい状態なんだ」

──あなたは長年戦ってきましたが、メディアやファンは“ストーリー”に注目します。9年前にパントージャと戦ったとき、彼が将来UFC王者になると思っていましたか?

「彼はあのシーズンの“ナンバー1シード”だったしね。俺は唯一ノックアウト勝ちをして、勢いに乗ってパントージャと戦った。あのときから“こいつはしばらくUFCでやっていくだろうな”って思ってたよ。王者になったのも驚きじゃない。あいつはすごくオールラウンドだけど、一番の強みはタフさと打たれ強さ。ダメージを受けることを全然気にしてない、むしろ好きなんじゃないかって思うくらい。追い込んだと思ったら、そこからギアを上げて逆にこっちがやられる。だからしっかり準備してきたし、一度戦ったことがあるのも大きい。あのときは2Rのエキシビションマッチだったし、9年前と今を比べることはできないけどね。それに当時は、今のようにシティ・キックボクシングでは練習してなかった。タイで練習してたけど、あの試合後にニュージーランドの地元に戻って、ユージン(ベアマン ※シティ・キックボクシングの創設者)の下で本格的にやるようになった。あれが俺のキャリアの転機だった。タイでも大事な経験を積めたけど、帰国してから本格的に俺のスタイルが進化したんだ」

──今までも大きなキャンプを経験してきたとは思いますが、これまではチームメイトも同時期に試合を控えていて、コーチ陣が分担して対応しなければいけないこともありました。今回は完全にあなた中心のキャンプになったと思いますが、その変化はどう感じましたか?

「最高だよ。コーチやチームメイトが全力で俺に集中してくれた。だからこそ、逃げ場がない。俺が中心にいて、タイトル戦に向けて準備してるっていう感覚がすごく強い。シティ・キックボクシングのチームには本当に感謝してる。コーチ陣もチームメイトも、毎日俺をプッシュしてくれた。今年に入ってからずっとがむしゃらにやってきた。俺はラグビーリーグチームのレスリングコーチもしてるんだけど、今年初めにラスベガスでそのチームの試合があったのに、行かなかったんだ。自分の“タイトル”を獲ることのほうが大事だったからね。集中して準備する、それだけだった。だから今、心身ともに完璧に整ってる。悪いポジションに何度も置かれて、そこから抜け出す力もついた。

 プロデビューは17歳。今は32歳で、まさにキャリアのピークに来てる。浮き沈みもあったけど、こうしてまたタイトル戦まで這い上がってきた。パントージャのことはリスペクトしてるけど、俺はベルトを持ってラスベガスを出るつもりだよ」

──別のインタビューで「試合中に自分の攻撃に見とれてしまう瞬間がある」みたいなことを言ってましたが、それって具体的にはどういうことですか? ただ、パントージャのような相手にはそういう“余裕”を持ってはいけない気もします。

「俺は自分のKOパワーを本気で信じてる。だから時々、一発か二発当てた時点で“仕留めた”って思っちゃう瞬間がある。でもパントージャ相手にはそれじゃ足りない。あいつを倒すには10発、20発の決定打が必要になる。そういう戦いになるのは分かってる。だから火の中に飛び込む覚悟でいる。下がる気は一切ない。真っ向から打ち合うつもりだし、自分の全てのスキルを見せるよ。『俺は倒れない、俺はここにいるぞ』っていう姿勢を見せる。パントージャがテイクダウンを狙ってきても、俺にはこの階級で最高のテイクダウンディフェンスがある。レスラーだろうが、グラップラーだろうが、“クリンゴン”(『スタートレック』に出てくる宇宙人)だろうが、何度も止めてきた。ファンが観たいのはノックアウトだろ? 俺はそれを届けるよ」

──あなたはマオリの文化やルーツを大事にしています。でも近年はMMAの新しいファンも増えて、その部分をまだ知らない人もいると思います。

「俺の文化、マオリの血を持つ者としてのアイデンティティ、それを世界に見せたいんだ。ニュージーランド、アオテアロア(=マオリ語でのニュージーランドの名称)の誇りでもあるし、それが俺たちをユニークにしてる。オクタゴンに上がるとき、ただ戦うだけじゃない。“俺がどこから来たか”を知ってほしいし、“俺は自分のルーツを誇りに思ってる”ってことを伝えたいんだ。 DC(ダニエル・コーミエー)から『どうしてそんなにKOが多いのか?』って聞かれたとき、“それがマオリの血なんだよ、それが俺のスーパーパワーだ”って答えた。それが俺の真実さ。だから今回の試合も、国を背負って戦いに行く。みんなを誇らしくさせてみせる」

──今回のパントージャ戦は彼にとって4度目のタイトル防衛になりますが、これまで彼が戦ってきた挑戦者と比べて、自分はどこが違うと思いますか?

「スタイル的に相性はいいと思う。あいつはタフだし前に出てくるタイプ。“テイクダウン狙い一辺倒”じゃなくて、打撃で来るはず。そういうファイターなんだよ。“やり返す”ことにこだわるタイプだと思うし、そこは俺もリスペクトしてる。5Rの激戦になるだろうけど、どこに転んでもいい。どんな展開になっても受けて立つよ」

──パントージャはこれまで一度もフィニッシュされたことがありません。それでもあなたは「仕留める」と言っていましたが、どういう場面に付け入る余地があると見ていますか?

「疲れてきたときにちょっと雑になるんだ。手が下がったり、スクランブルや打撃の間のやり取りでスキが出る。そういう瞬間を見逃さずに仕留めたい。俺にはすでに12個のKO勝利がある。『フライ級のマイク・タイソン』って呼ばれてるし、その名に恥じない戦いをするつもりさ」

──今週末はビッグカードでのコーメインイベントですね。メインイベントの予想も聞かせてください。

「コメインに選ばれたのは光栄だよ。昨夜UFC PIでイリア・トプリア(フェザー級3位)に会ったときも、『俺たちが最初にパーティーを盛り上げるから、あとはあなた達が締めてくれ』って言ったんだ。俺はチャールズ・オリベイラ(ライト級2位)が大好きで、“ピープルズ・チャンピオン”だと思ってる。でもこれはブラジル勢 vs. 俺たちって構図でもあるからね。面白くなるよ。心ではチャールズを応援してるけど、頭ではイリア。あいつのボクシングはUFCの中でもトップクラスだし、パウンド・フォー・パウンドで見ても最もパンチが重い選手の一人。どっちが勝つかは分からないけど、まあ、今のが俺の答えさ」

──あなたは子供の頃いじめられていた経験や、感情的に辛かったことについて語ったことがあります。今、世界タイトルに挑もうとしている自分を、当時の少年カイ・カラ・フランスが見たらどう思うと思いますか?

「自分のことを誇りに思うだろうね。あの頃、クラスで一番小さくて、いじめられてた無力な少年が、ファイターとしてだけじゃなく、人間としてもここまで成長したことを。今こうして世界の格闘技の中心、ラスベガスで15年目の戦いを迎えている。これは俺の使命なんだ。もし今何かに苦しんでる子がいるなら、“それは強くなるための試練なんだ”って伝えたい。俺のキャリアも決して順風満帆じゃなかった。負けても、何度でも立ち上がってきた。そして今、歴史を作る時が来た。俺は“マオリとして初のUFCフライ級世界王者”になる」

──誰もがプロファイターになるわけではないと思いますが、あなたのように辛い経験をしている若者にアドバイスはありますか?

「もちろんあるよ。アオテアロアの若者たちに伝えたい。“自分がなぜそれをやってるのか”っていう“理由”を見つけること。別に格闘技じゃなくてもいい。何でもいいから、自分が情熱を持てるものの“なぜ”を明確にするんだ。苦しくなったとき、その“理由”が支えてくれる。それがあると、進むべき道が見えてくるよ」

──長年のチームメイトであるイズラエル・アデサニヤ(ミドル級4位)が、ケルヴィン・ガステラムとの試合での功績で殿堂入りします。あの試合をチームメイトとして見ていたとき、どんな気持ちでしたか?

「イジー(イズラエル・アデサニヤ)のキャリアが花開いていくのを見てきた。UFCの“GOAT”のひとりで、格闘技界のレジェンド。彼の友人として、チームメイトとして、誇りに思ってる。あのときの試合も覚えてるよ。ガステラムとの戦いは、絶対に後退しないイジーの姿勢が見えた試合だった。あれは歴史に残る名勝負だし、彼のレガシーを確固たるものにした。誇りに思ってるよ」

──マオリの文化や伝統を世界に示すことで、ファンにもその一端を教育してくれているように感じます。そこで聞きたいのですが、今回のタイトル戦に向けたキャンプにおいて、マナ(精神的力)やカハ(強さ)といったマオリの価値観が、あなた自身にどれほど力を与えてくれましたか?

「この試合は、俺ひとりのためのものじゃないんだ。今回のキャンプ全体を通して、ずっとそれを意識してきた。UFCの事前番組『カウントダウン』で“何を撮りたいか”と聞かれたとき、俺はすでにカパハカ(マオリの伝統舞踊・儀式)のグループの一員として活動してた。ジェフとニティの指導の下で、ただ“強くなる”ためだけじゃなく、自分のルーツであるマオリ語や、古来の戦いに備える儀式を体験していたんだ。そういった文化に身を置くことで、土地や家族とのつながりがより深くなった。UFCファイターである前に、俺はカイであり、マオリの男であるというアイデンティティを強く感じた。

 だから『カウントダウン』で“何を見せたいか”と聞かれたときに、以前学んだハカを披露することを選んだ。これは俺の“舞台”、俺の“世界タイトル挑戦”にふさわしい形になると思った。そして実際、あのハカを披露した後は涙が出たよ。俺の先祖も、きっと誇りに思ってくれているはずだ。ファイターとしてだけでなく、マオリの男としてここまで来たことを。この試合は特別な瞬間だし、そのエネルギーを受けて、自分のすべてをぶつけたい。俺は他の誰にもなれないし、俺は俺なんだ。世界に向けて話してるんじゃない。俺が話したいのは、自分の“人たち”に対してなんだ。どこから来たのか、誇りを持って生きること。謝らずに、堂々とマオリとして生きること。それが大事だ。今のこの時代、特にアオテアロアでは、そのマナに立ち返って、受け入れることが本当に重要なんだよ」

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