いろんな経験があって、ずっとカスタムし続けてる
──コクエイコーチが、佐藤選手に合った動きをアドバイスしてくれると。本誌で高島学さんがインタビューしてくれましたが、あの中で印象深かったのは、コクエイさんが「教則動画とかはあまり見ないと。試合を視る」と。試合はときに手順を省くときもあるじゃないですか。それでも試合から動きを学べるというのは……。
「ああ、たぶんそこで“使える技”なわけじゃないですか。いっぱい教則とかでも、なんか実際に使えるかどうか微妙な技っていっぱいあると思うんですよね。だから、実際のシチュエーションで使えているものから拾った方が効率的だし、実用的だからだと思うんですけど」
──「試合が最も生生しいから」という言い方をしていましたね。
「そういうことですね。まあ、あとちょっとたぶん楽しいんだと思う。どういう流れでその技に入るかとか。たぶんそういうことが楽しいんだと思います。教則ってただ技を教えるだけだから、それが見てて退屈なんだと思います(笑)」
──互いに100%の動きのなかで生きる動き。実戦で両者が上手くいかなかったことも含めて、想像力が必要とされますね。
「そうですね。イマジネーションを確信にするためにも試合を視ている」
──そうしたMMAの探求を経て、あらためてアグレッシブさを増したいまのキム・スーチョルというファイターの強さをどうとらえていますか。
「一般の人が見ても強いし、僕から見てもめっちゃ強い。嫌なタイプだなと思いますね。何でも出来るし、常にフィニッシュに向けてずっと動き続けるから怖さがある。嫌な相手ですよね」
──普通は怖くて行き切れないですよね。そこで行き切れるのは……。
「もらっても、完全に意識を飛ばされて戦えない状態にならない限りは、最後まで倒しに来る。たぶん、自分のことを信じきっているんだと思いますね」
──その“嫌な事”をさせない動きがいまの佐藤選手にはあるのではないですか。
「どうだろうな……。なんか彼って、例えばですよ。普通、ジャブを見せたらちょっと警戒してサークリングするなり、パンチもらったちょっと1回外して考えるとかするんですけど、彼はそういうのはあんまりないですよね。フェイントがあまり効かなかったり、前蹴り見せたところでそのまま来たりもする。そういうのは想像つくんで……、それを全部“させない”のはたぶん無理だなって思ってるいます。その上での戦いとして、考えています」
──相手が押し付けてくるところをいかにさばいて、自分の展開に持っていくか。
「そういうゲームメイクもやっぱり考えていますね。ずっと試合が決まってから、彼をどう攻略しようかを組み立ててます。トライ&エラーを練習で繰り返して、“あっ、これはうまくいく”“これはうまくいかなさそうだ”とか“もっとこうくるかもしれないな”とか、シミュレーションして、そういう考え方で試合に臨んでます」
──コクエイコーチは「前回のよう血まみれの試合にはさせない」と。
「彼にはそれが見えているのかもしれない。後から気づくことも結構あります。“ああ、このこと言ってたんだな、あいつ”っていうのは」
──そのためのゲームメイクや、練習をされてきたと。練習相手は基本、FightBase都立大に来る選手ですか。
「練習パートナーを今回グランドスラム横浜の髙城(光弘)くんにお願いして、スーチョルの映像を見てもらったうえで、スーチョル対策として真似もしてもらいましたね」
──スーチョルのように突っ込んでくるスタイルをPANCRASEで戦っている髙城選手が行ったと。あのスーチョルの首相撲も?
「はい、ずっと一緒に月火水。毎日スパーをお願いして。彼はそういうスタイルが出来る選手で、組み際の打撃も髙城くんは上手いし、ヒジやヒザも出せる。スイッチもするし、組み際の削り、ガードで上に乗った時の体重のかけ方とかも上手いんで、一番近い気がしました。僕がやってる、練習してる子たちの中で。スーチョルのヒジ・ヒザ、サッカーボールも」
──これまで韓国では、カン・ギョンホ(後にUFC)、キム・スーチョル、ムン・ジェフン、キム・ミンウと強豪ばかりと対戦してきました。
「カン・ギョンホ、強かったですね。ファブリシオ・アンドラージと並んで強かったですね」
──あの国際戦を、アウエーで20代前半で経験したことは、今どう活きていますか。
「なんだろうな……難しい。あのときはちょっと技術的に差があるのをすごい感じましたし、カン・ギョンホとやったときはフィジカル的にも感じたんです。ちょっと歯が立たないなっていうのを感じたんです、あの時。“変えていかないと、トップでは戦えないな”って」
──そこから佐藤選手の今のスタイルが出来て、さらにアグレッシブになったスーチョルと戦う。
「そうですね。いろんな経験があって、やっぱり、ずっとカスタムし続けてるっていうか。自分も。ここに、まあここまで来たなあっていうのはありますね。ずっと登ってる感覚ですけど、自分の中で」
──ホームの韓国だと、スーチョルは一段またギアが上がるかもしれないですね。それを最終的には上回る必要がある。
「そうですね、ちょっと“借り”はあるんで、韓国に。ROAD FCでは1回しか勝ってないんで、ROADのチャンピオンをブッ飛ばせば、あの頃の、自分で振った複線を回収できるかな、と」
──韓国ファンにとっても、格闘技が好きな人は、佐藤選手の戦いを覚えているファンは多いです。
「はい、やっぱりすごい好意的ですね、韓国の人たち。駒杵もBLACK COMBATで試合してますし、ROADのセコンドで行ったり、ONEの韓国人選手との試合も見たとか言ってくれますから、格闘技やってる選手だったりにはもう覚えてもらえて、みんな好意的に声をかけてくれます」
──そんな韓国でどんな試合になりそうですか。
「いや、もうなんだかんだ言っても、激しいのは確実ですから。ちょっとRIZINに来てから塩っぽい試合ばっかりしちゃってるんで。確実に“甘め”の試合にはなると思います、どう転んでも。見合う時間が3秒もないような試合にはなると思います。自分でも外から見ていたい試合だなあと感じています……いろいろやって来ましたが、キツいことするつもりでいますよ」




