2025年5月10日(日本時間11日)カナダ・ケベック州モントリオールのベル・センターにて『UFC 315: Muhammad vs. Della Maddalena』(U-NEXT配信)が開催され、28歳の新王者が誕生した。UFC世界ウェルター級王者“JDM”ことジャック・デラ・マダレナ(豪州)とは何者か?
パース出身のマダレナは、兄の影響でボクシングに興味を持ち、ラグビーに取り組んだ。
「小さい頃から、いやもっと前から、兄と一緒にボクシングやケンカの練習をしていたんだ。僕たちはいつもボクシングに夢中で、兄は僕のキャリアに大きな影響を与えてくれた。
8歳でラグビーを始め、6年生から12年生まで学校生活を通してラグビーを続けたよ。14歳の時にボクシングジムに入会したのも兄のジョシュの影響で、当初はラグビーシーズンに向けて体力強化を目的としていたんだ。でもすぐにボクシングという格闘技に虜になってね。ラグビー選手としてのキャリアを終えた後は、フルタイムでMMAのトレーニングに転向したんだ」(マダレナ)
ビクトリア州メルボルンのセント・ケビンズ・カレッジと西オーストラリア州パースのアクィナス・カレッジにも通い、商業の学位取得を目指した。プロファイターになる前は、「オフィスでクライアントのアカウントを管理していた。でも戦いの方がずっと面白いよ」という。
マダレナは2016年、19歳で地元豪州のEternal MMAでプロMMAデビューを果たしたが、最初の2試合で敗れている。
試合前の会見では、「理想的なスタートではなかったけど、そこから多くを学んだ。技術的にもメンタル的にも成長できたし、それ以降は連勝を続けてる。MMAって勝つ方法も負ける方法も多いし、誰だって負けることはある。でも俺はその段階を乗り越えて、今は前進あるのみだよ」と振り返っている。
国内で圧倒的な強さを見せ、さらに英国を拠点とするCage Warriorsでも勝利を収めたことでメジャーリーグからの関心を集め始めると、Eternal MMAでウェルター級王座を獲得。2021年シーズンのダナ・ホワイトコンテンダーシリーズで、アンジェ・ルーサに勝利し、UFCと契約を結んだ。
プロデビューから2連敗後は、負け無しの18連勝で戴冠。UFC8戦目でベルトを巻いた。これは偶然にも、同じ豪州のアレクサンダー・ヴォルカノフスキーが2019年にマックス・ホロウェイを撃破し、フェザー級王座についたときと同じ試合数だった。
試合前、アリエル・ヘルワニの配信に出演したヴォルカノフスキーは、マダレナの勝利を予測していた。
「ジャック・デラはスクランブル能力に優れているのでベラルにとって素晴らしい対戦相手だと思う。ベラルがテイクダウンを奪ったとしても、長く押さえ込むことはできないと思う。ジャックの打撃は多彩で攻撃範囲も広い。様々なボクシングスタイルを巧みに組み合わせ、パワフルで強い男だ。ベラルを倒せるとは言い切れないが、後半のラウンドでフィニッシュできるだろう。多くの人はベラルが後半のラウンドで優位に立つと考えているだろうが、私はジャックにとって後半のラウンドの方が有利だと思う。ジャックはテイクダウンに慣れてきて、より立ち上がり、そしてもっと攻撃を仕掛けるようになる」
ベラル・ムハメドは最終ラウンドこそクリーンテイクダウンを奪ったものの、そこからのマダレナの反撃は、ヴォルカノフスキーの予想通りだった。この試合、初めて背中を着いたマダレナは、そこから立ち上がり、自らニータップでテイクダウン狙い。これは投げ返されたものの、すぐに立ち上がって左右から三日月蹴りを打ち返している。
それは前戦でギルバート・バーンズの組みを前転で振り解いて立ち上がり、ヒザ蹴りを突き刺したシーンを彷彿とさせるスクランブルの強さだった。
スイッチするスタンスから伸びのあるジャブを軸に、頭の位置を巧みに合わせてボディブローで相手のテイクダウン狙いにもプレッシャーをかけつつ、距離を支配。コンパクトで威力のあるパンチと蹴りを上下に打ち分けるその戦いは、UFCウェルター級のベストボクサーと言っていい。
判定は3-0(49-46, 48-47×2)でマダレナが王座奪取。ロバート・ウィテカー(※ニュージーランド出身)、アレクサンダー・ヴォルカノフスキーに続く3人目のオーストラリア人UFC世界王者となった。
怪我による空白期間も乗り越え、ムハメドの6年間にわたる11戦無敗の記録を終わらせたマダレナ。
試合後には、さっそく現UFC世界ライト級王者でUFCパウンド・フォー・パウンド1位のイスラム・マハチェフ(ロシア)が、「ダブルチャンピオンになる時が来た。行くぞ」「お前はヴォルクじゃない。違うレベルを見せてやる。ベルトを綺麗にしておけ」と階級上の王者に宣戦布告した。
マダレナは会見で、「ウェルター級には優秀な選手がたくさんいると思う。イスラムのこれまでの実績を考えれば、ステップアップしたいなら挑戦してみる価値はあると思う」とし、次期王座挑戦者に? と問われると、「それは僕の判断ではない。UFC次第さ」と答えているが、イスラムの前述の言葉を聞き、「獲りに来てみろよ」と受けて立つ構えだ。
UFCの公式SNSでは、マダレナが試合後にUFC首脳陣と会話する様子がアップされている。
マダレナは「次はパースでマハチェフとだろ?」とホームでの階級を越えた戦いについて聞くと、ダナ・ホワイト代表は「これから解決していくよ」と返答。マッチメーカーでもあるハンター・キャンベルCEOからの「感謝してる」の言葉に「ありがとう、ハンター。また近いうちに話そう」と語り、「この階級を救ったな」と締めている。
UFC世界フェザー級王座を返上し、ライト級転向を発表しているイリア・トプリア(ジョージア/スペイン)と、マハチェフとの試合もファンが期待する1戦だが、トプリアにはチャールズ・オリベイラとの試合の声も高まっている。
果たして、マダレナvs.マハチェフは実現するか。トプリアも含めたこの3者のカードは、今後数週間で、重要な局面を迎える可能性がある。
マダレナは試合後、「イスラムを打ち負かすことは……そうだね、これは始まりに過ぎない」と語っている。
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また初心に戻って練習を続ければ、次の試合ではもっといい僕が見られる
──勝利おめでとうございます。戦争のような試合でした。このような試合になると思っていましたか。
「ああ、タフな戦いを期待していたよ。明らかにね。彼はいいファイターだし、プレッシャーファイターだし、レスリングも上手い。だからタフな試合になると思っていたよ」
──ベラルがいつものようにテイクダウンの応酬に来なかったことに驚きましたか?
「そうでもなかったよ。彼は『テイクダウンを狙わない』って言ってたけど、僕はテイクダウンを期待していたんだ。ただ、それに合わせてロールしてやるって」
──ベラルとの試合では、ケージを背にした状態が少なくなかったですが、テイクダウンは終盤までされませんでした。
「ケージに近づかないようにしようと思っていた。彼はケージ際で最高の仕事をするような気がする。だからケージから離れようとしたんだけど、彼はただ歩いてきて、ケージに押し付けてきたんだ。でも、僕のフットワークは、彼が入ってくるたびに、彼を殴ってケージから離れることができるような気がしたんだ」
──最終5R、彼はひどく傷ついたように見えました。何を考えていましたか?
「ああ、ギルバート・バーンズのように、試合終盤にフィニッシュを決められたら最高だと思っていたんだけどね」
──かなりいい仕事をしたが、ジャッジに委ねたらわからない。判定前にはどう感じていた?
「試合を終えたとき、何度かコーナーに聞いたら、『間違いなく君の勝ちだ』と言っていたよ。だから、ただ待っているだけだよ。
──リング上でダナと言葉を交わしたようですが。
「彼はただ、喜んでいたよ。嬉しかった」
──イスラム・マハチェフはXで『ダブルチャンピオンになる時が来た』と言っているようですが、彼が望んでいる試合はあなたのようです。それが一番理にかなっていると思いますか?
「それは僕が決めることではないだろう。UFC次第さ」
──ジョン、この試合のコンディションは理想的ではなかったですよね? 怪我からの復帰戦であったり、遠征でもありました。
「ああ、もちろん理想的な状態ではなかったけど、正直なところ、今にして思えば、休養になって良かったと思う。また火がついたような気がする。でも、そうでなかったら、僕はただ試合に打ち込んでいただけだったと思うから、少し休んだら、また馬に乗れるよ」
──スイッチフットワークで彼を混乱させましたか。
「スイッチして打撃して、テイクダウンできると信じていた。それはできたと思う。だから、すべてがうまくいった。ベルトを獲ったときの感覚はイメージしていたけど、ベルトを獲った瞬間は特別なものだったよ。世界No.1のファイターを倒したからかなりいいことだよ。でも、まだ始まったばかりだ。
勝利を積み重ねること。本当にフィニッシュを狙ったんだけど、連続フィニッシュができるチャンピオンになれたらいいね。今夜はフィニッシュできなかった。でも、また初心に戻って練習を続け、この試合から多くのものを得て、次の試合ではもっといい僕が見られると思う」
──オーストラリアにはもう一人のチャンピオンがいる。パースでUFCが計画されていますね。
「それは理にかなっていると思う。ヴォルクとイスラムが2年前にパースで戦った試合は素晴らしいものだった。ちょっとしたストーリーだね」