MMA
インタビュー

【UFC】ゴールキーパー出身、ジョージアのロマン・ドリッゼ「今は昔と違って“怒り”で戦うんじゃなくて“どうすれば勝てるか”をちゃんと考えられるようになった」

2025/03/16 07:03
【UFC】ゴールキーパー出身、ジョージアのロマン・ドリッゼ「今は昔と違って“怒り”で戦うんじゃなくて“どうすれば勝てるか”をちゃんと考えられるようになった」

(C)Zuffa LLC/UFC

 2025年3月15日(日本時間16日)米国ネヴァダ州ラスベガスのUFC APEXにて、『UFC Fight Night: Vettori vs. Dolidze 2』(U-NEXT配信)が開催されている。

 メインイベントはミドル級の5分5Rで、8位のマービン・ヴェットーリと12位のロマン・ドリッゼ(ジョージア)が、2023年3月以来、2年ぶりの再戦に臨む。

▼ミドル級 5分5R
マービン・ヴェットーリ(イタリア)19勝7敗(UFC9勝5敗)8位
ロマン・ドリッゼ(ジョージア)14勝3敗(UFC8勝3敗)12位

 前戦では圧力をかけるドリッゼの強打にヴェットーリが苦しむも、アウトキックボクシングの手数で上回り、ヴェットーリが判定勝利を収めている。

 ドリッゼはミドル級に落としてから4連勝後、ヴェットーリとナッソーディン・イマボフに連敗も、マジョリティ判定で敗れたイマボフは、その後4連勝でイズラエル・アデサニヤもTKOに下しており、ドリッゼがトップ戦線の力を持つことは確かだ。

 2024年6月には対戦相手が欠場したライトヘビー級のアンソニー・スミスの相手に名乗りを上げ、階級上でも判定勝ち。10月にはケビン・ホランドの腕十字に担ぎパスを合わせてホランドを負傷TKOに追い込んでいる。

 UFC世界バンタム級王者メラブ・ドバリシビリ、フェザー級王座を返上したイリア・トプリアと同じジョージア出身のドリッゼにその遍歴を聞いた。

ゴールキーパーの経験は、特に反射神経にすごく役立った

──ドリッゼ選手はジョージア出身で、青年期にトルコでゴールキーパーとして活躍したということですが、どのリーグでプレーしていたのでしょうか。スュペル・リグ、TFF1.リグなどがありますが。

「そうだね、自分はジョージア人だけど、トルコでプレーしていたんだ。16歳のときにサッカーの学校に入って、18歳でトルコに行って、トルコのスュペル・リグで試合をするチームに入団した。最初はトラブゾンスポルで、最後はアンカラグジュだった」

──トップリーグじゃないですか。トラブゾンスポルは、ビッグ3(ガラタサライSK、フェネルバフチェSK、ベシクタシュJK)に次ぐトルコ第4のクラブだと

「そう。両方ともスュペル・リグのトップチームだよ。でも、トラブゾンでは最初セカンドチームだったし、アンカラでもスタメンじゃなかったんだ。チームはすごく良かった。でも自分にはちょっと実力が足りなかったし、満足できなかった部分があったんだ」

──なるほど。ゴールキーパーって、フィールドプレイヤーと異なるポジションだと思いますが、空間把握能力や、跳んだり、すぐに立ったりという動きがMMAに活きていることはありますか。

「質問の意味はすごく分かるよ。ゴールキーパーの経験は、特に反射神経にすごく役立ったね。反応を鍛える練習をたくさんしたし、MMAでいえばスクランブルに近い。正しいポジショニングをとるという意味でも格闘技に活きている。あと、当時からプロのアスリートだったから、身体もちゃんと鍛えてたんだ。それがMMA始めたときにはすごく助けになったよ」

──ところでゴールマウスを守っていたドリッゼ選手が背後にネットではなく、ケージを背負うようになる前には、先にグラップリングから入ったのですよね。

「そう。20歳の時にウクライナで船舶工学を学ぶために留学して、大学に入ってからグラップリングの練習を始めたんだ。サンボやブラジリアン柔術など、グラップリングのトレーニングを始めた。カザフスタンで行われたADCCのアジア大会にも出て、日本人の選手も何人かいたよ。その後に世界大会にも出た。名前は覚えていないけど日本人選手とも試合したよ。UWW(世界レスリング連合)っていう国際レスリングの団体がやってる大会で、最初はヨーロッパ選手権で勝って、次に世界大会。場所はフィンランドだった。

 その日本人選手がすごく礼儀正しかったのを覚えてる。自分もジョージアの伝統的な家庭で育ったから、礼儀をすごく大事にしてるんだ。昨日もベガスで時計を買ってたら、日本人の店員さんがいて、その接客が本当に素晴らしかった。最後にお辞儀してくれたとき、『ああ、こういう文化はちゃんと日本の人に根付いてるんだな』って感じた。私たちの言葉で『母乳と一緒に育つ』って言うんだけど、そういう礼儀や規律ってそういう文化から生まれるんじゃないかなって」

──UWWだと濱岸正幸選手でしょうかね。しかし、なんだか恐縮します。ドリッゼ選手はその経歴でいくと、MMA自体を始めたのは、決して若い頃からではないのですね。

「そう、27歳か28歳の時にMMAの練習を始めた。2016年にプロMMAデビューして、WWFCなど、ウクライナでの試合を中心に6勝0敗でUFCと契約したのが2020年。そこから5年戦ってきてトップファイターとしてもう3年かそれ以上経っていて、今回が2度目のメインイベントだから。みんな『ずっと今のために頑張ってきたんでしょ?』って言うけど、ほんとに偶然で。サッカーを辞めてからウクライナに勉強しに行って、趣味でグラップリングを始めたから。それで、27、28歳のときに『MMAの試合にも出ない?』って契約オファーが来て、気づいたらプロに。それから2年くらいでUFCと契約したんだ」

──ミドル級に落としてから4連勝して、その後マーヴィン・ヴェットーリとナッソーディン・イマヴォフに連敗しました。あの経験はどう活きていますか。

「自分にとっては気持ち的には勝ちも負けも関係ない。それで自分の価値が決まるわけじゃないから。ただ、ファイターとしてはすごくいい経験だった。正直マーヴィン戦も自分が勝ったと思ってるし、イマヴォフもすごくいい試合したけど、自分も悪くなかったと思う。でも、今は昔と違って“怒り”で戦うんじゃなくて、“どうすれば勝てるか”をちゃんと考えられるようになった。そこが成長したところかなと思うよ」

──前回のヴェットーリ戦は、1、3Rは手数がほぼ互角でした。ローキックはあまり評価されないように感じていましたが、実際は……。

「いや、影響はゼロ。全く問題なかったんだ。試合中も終わった後も何も感じなかったし。正直、判定がなんでそうなったのか、今でもわからない。相手のことはリスペクトしているから、相手にどう思うこともないけれど、あの判定はどうしてああなったのかは理解できない。ローキックは試合中も試合後もまるで何も効いてなかったよ」

──イマヴォフ戦では5Rのフルラウンドを経験しました。さらにエクストリーム・クートゥアーでのミドル級の猛者たちとの練習もあり、5Rの自信はありますか?

「うん、全然大丈夫。5Rっていうのもちゃんとわかってるし、どうやってスタミナ使うかもわかってるからね。相手が何してきても対応できる準備はできているよ」

──柔術、さらにサンボの技術もMMAに取り入れてますよね? レッグロックも得意かと思いますが、近年は重いパンチを武器としています。それはいまのMMAで勝つための動きなのですよね。

「なぜ、あまりグラップリングをしないのか、って質問だろう? サブミッショングラップリングが必要な場面なら使うよ。でも、自分はパワーにも自信があるんだ。UFCで8勝して、5つがKO。7割近くKOだから、自然とそっちに頼ることが多くなるよね。でも必要なら組みも厭わずやるよ」

──2月にイマヴォフがイズラエル・アデサニヤを2R TKOに下しました。結果、イマヴォフとマジョリティ判定だったあなたの評価もそれほど落ちてはいません。今回勝てばタイトルに近づくと思いますか?

「正直に現実を理解した上で言うと、今回だけじゃまだだと思う。でも今回勝って、あと一回勝てば、もうタイトル戦線に入るだろうね。トップ5の選手たちも皆タイトル挑戦に値してチャンスを待ってる状況だ。ただ、自分がこの試合勝って、次も勝てば一気に近づけるはず」

──ところで、メラブ・ドバリシビリ、イリア・トプリアとジョージアルーツで世界王者が2人もいます。のみならずギガ・チカゼやズビアド・ラジシュビリなども。なぜジョージアの選手は強いのでしょうか。

「他の人はわからないけど、自分のことを言うなら、やっぱり生まれ育った環境だと思う。ソ連崩壊後の大変な時代で、食べ物も、教育も、何もかも不足してた。でもそれが自分たちを強くしたんだと思う。今は自分も子どもが3人いて、その頃の経験があるから、今も子どもたちを守りたいと思うし、電気もなくて食事もなくてということを経験したから。今でもパンが足りないからと一斤を売ってもらえず半分しか買えなかったりした事をすごく覚えている。そういう厳しい経験が自身を強くしているのではないかと思っているよ」

──幾度もの他民族支配にさらされる歴史がありますね。2008年にはロシアが軍事侵攻するなかでも伝統文化を守り通してきた。そのなかでのハングリーさが、あなたを強くしていると。最後に日本のファンにメッセージを。

「日本には行ったことないんですけど、絶対行きたいですね。いつ行けるかも分からないのですが、文化も伝統もすごく好きで、日本の方の立ち振る舞いが好きです。特に田舎の方が好きでYouTubeとかでいっぱい見て日本の文化を学ぼうと思ったりしています。すごく興味深いので、自分の国の文化と通ずるものがあって、同じように強く、真の漢である事が必要な気がするんです。いつか絶対行って、ファンの人たちとお話しする機会があるといいなと思っています。アリガトウ!」

MAGAZINE

ゴング格闘技 NO.336
2025年1月23日発売
巻頭は再びW王者となったサトシ&クレベル。特集2024年ベスト&2025期待の選手では、平良達郎、堀口恭司、福田龍彌、桜庭大世、海人×吉成名高、朝久泰央×大久保琉唯。3.23 ONE 武尊、ロッタン、若松佑弥、DJ分析も
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリアブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア

関連するイベント