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インタビュー

【RIZIN】斎藤裕はなぜラーメン屋を開業したのか──「格闘家のセカンドキャリア構築を体現し、プロを目指す若者を応援したい」「『和牛白湯』で激戦区・秋葉原に“風穴を開ける!”」「朝倉未来選手とは──」

2024/12/17 16:12
 初代RIZINフェザー級&第10代修斗世界フェザー級王者の斎藤裕(パラエストラ小岩)が、東京・秋葉原にラーメン店『麺ZINさいとう』をオープンする。クラウドファンディングが2時間で目標金額を達成したことが話題となったが、ラーメン愛好家の斎藤は「イロモノ扱いから、まずは1回来てもらうため」の募集だったという。現役ファイターでありながら、斎藤はなぜラーメン店を開業したのか。12月19日(木)のプレオープンを前に「公開練習」ならぬ「公開麺習」を行った斎藤に聞いた。 クレベル戦後に『湯切りパウンド』というワードが生まれた。いまは『本当においしいのかな?』という世間の声に応えたい ──『麺ZINさいとう』ついに開店、おめでとうございます。プレオープンを目前に控えていますが、ここまでたどり着いた流れを教えていただけますか? 「ありがとうございます! 実は今年7月の試合よりも前から商品開発をずっとしていまして、本当のことを言うと1年以上前から試作していたのですが。それで、試合後に物件を決めることになり、2軒目でここ秋葉原に決まり、それから朝倉未来選手とのコラボも決まったので、入居日を早め、一気にお店の準備をしたのですが、それが11月中旬くらいでしたね」 ──準備期間1カ月でプレオープンとは、いざ動き出すと早いですね。 「そうですね、物件を決めるまでには2カ月くらいかかりました。ここがダメだった場合の候補も見繕っていたところ、無事に決まって。そしてコラボのこともあり入居日を3週間前に早めて、そこから並行してクラウドファンディングの準備も、という感じで、同時進行でいろんなことが一気に進みました。ゆるやかに進んでいたものが、この1カ月はバタバタと一気に加速させた感じです。秋葉原という場所になったのもすごくいいんです」 ──ラーメン激戦区に飛び込みました。 「激戦区のなかにあってもさらに厳しいエリアですからね。ラーメンだけじゃありませんし。実はもともと別のところで、インバウンド需要も視野に入れていました。だからこの土地をずっと狙っていたというわけではなくて、巡り合わせとタイミングなどが色々重なり、競合がいたけれどクリアしたので、秋葉原に御縁を感じています。ここで“風穴を開けたい!”と思ってます」 ──開店の条件が揃ったところで、肝心なのはメニューの中身。「和牛ラーメン」という攻めた内容になった経緯は? 「もともと『豚骨でやるか』という話で、2月には本場の福岡に行って、2日間でラーメン5杯くらいを食べたんですけど、ラーメンとサウナの繰り返し、みたいな感じで(笑)。その後、自分がタイで1カ月練習しているあいだにメニュー開発が加速していて帰国した頃に『和牛の良いものができそうなんだよ!』って話になっていて、『え? そうなんですか!』って。浦島太郎状態(笑)。『豚骨は……?』と聞いたら『もう豚骨の時代じゃない』と返されてしまって(笑)。それから試食会を重ねに重ね、ちょっとずつ味を改良して、行き着いたのが今のメニューです。結構珍しいですよね。和牛を使っているお店は都内にもあるものの、出汁をとるまでの難易度が高くてなかなか踏み出せないジャンルなんです。何しろ出汁をとるための牛の確保から始まるわけですが、そこでオトンバの社長がルートを持っていたことで食材の確保ができて。さらに、イトウさんという、名店で働いてきた腕のある方に改良を重ねていただいてできたものなので、これって、なかなかできないことなんですよ、ここまでのものを作るのは」 ──牛の出汁というと、いわゆるテールスープ、コムタンやソルロンタンのようなスープを想像していたのですが、より濃厚で深いコクがあり、ちょっとびっくりしました。 「和牛というとあっさり、さっぱりとしたスープの印象があると思いますが、しっかり白濁とした『和牛白湯』というジャンルが確立できるんじゃないかなという期待を持っています」 ──まだジャンルの競合は少ないですか? 「和牛でやるとなって色々なお店に行ってみましたが、インバウンド需要を考慮していたり、高単価で“ラーメン一杯にこの金額を払うか?”と思わされるお店が多かったんですよね。『麺ZINさいとう』の通常メニューは一律1,000円なので、価格帯でも勝負できると思っています」 ──和牛系では倍以上の値段で提供している店があると思うと、破格のリーズナブルさですね。ただ、珍しいという期待もありつつですが、舌が慣れている味でないと想像しづらい分、最初の一歩を踏み出してもらうハードルにもなりませんか? 「それ以上に、(アスリートが手がけた店という点で)『本当においしいのかな?』というのが世間的な声だと思うのです。だからたくさんの人にまずは食べてもらいたいので、クラウドファンディング(以下クラファン)のリターンとして無料券をつけています。プロモーションをしっかりして、RIZINにも協力してもらって、朝倉未来選手にも来てもらったりと話題性ではトレンドにはなっているので、ここから先は味での勝負になっていきますね。どうしてもイロモノ扱いする目で見られている部分はあると思っていて、それはプロモーションのうえで仕方がないかなと思っていますが、まず1回来てもらって、リピーターになってもらえるかが、肝ですね」 ──イロモノ扱いではないにしても、名義貸し程度の関わり方なのではないか? と思われそうなところです。 「このために会社を起ち上げ、自分自身が役員になっていて、ゆくゆくは自分が先頭に立って会社としても形にしていくという構想があって、しっかり中に入ってやっているんですよ」 ──クラファンはまたたく間に目標を達成していましたが、そもそも目標の金額設定が決して高くありませんし、リターンの内容も参加しやすいラインアップでした。どういう狙いがありましたか? 「どちらかというとプロモーションとしての位置付けが強いです。資金調達として、この金額が達成できないとやっていけないというようなことではなく、まず来てもらいたいというのがあったので、7、8割をプロモーションで考えていました。だからリターンもやさしい金額に設定しました。これに関しても、たくさん協議を重ねて決めたのですが、先ほども言ったとおり、たくさんの人に来てもらいたいというのが主旨なのと、子どもたちにもお小遣いや、この季節ならお年玉を使ったりして来てほしい、という狙いがあります」 ──子どもだけでも入れるというのはターゲットが広いですね。 「かなり広く設定しています。高単価で絞ってやるより、誰でもみんな来てくださいという感じで」 ──その気軽さがある一方で、味わいはリッチであるという。 「僕は素人なんですが(笑)、一緒にやってくれている人がその道のプロフェッショナルなので、もうイチから教えてもらっていて。名店出身の方なので、英才教育を受けている感じです。いきなり教えてもらえたのがイトウさんでよかった」 ──厨房のなかで色々と指導を受けていましたね。 「なんとか、言われたことが抜けていかないように頭をおさえながらやっています(笑)」 ──こうやってイチから何かを教わるというのは格闘技を始めた初期の頃以来なのでは? 「そうですね、アマチュアの頃とかプロの初期の頃以来ですよね。キャリアを重ねていくとそういう機会がなくなってくるので。新鮮ですし、大変ですけどやりがいがあります。たくさんの人を巻き込んでいるので」 ──ところで斎藤選手、もともと料理は得意だったのですか? 「……うーん、性格が面倒くさがりなので、やらないんですよね(笑)。できあがったものをそのまますぐ食べたい! みたいな。レンチンでOK! みたいなタイプなので(笑)」 ──それがまさか厨房に立ち、鮮度を気にしながら綺麗に盛り付けをして……。 「1年前にはこうなっているとは想像できなかったですよね。クレベル戦後に『湯切りパウンド』というワードが生まれ、プロモーションが加速して……、人生わからないものだなとは思います」 [nextpage] ピークを過ぎていても、辞めてからやることがないから続けなくてはいけないような選手もたくさんいると思う ──その話を受けて。セカンドキャリアと言ったときに、あくまでも現役選手生活は続いているなかでこうした新規事業に取り組み始めたことには、どのような思いがあったのでしょうか。 「本当にいろんな思いがあります。選手ですから、僕の人生は『勝敗ありき』で進んでいくもの。だから、7月に勝っていたらこの店が年内にオープンすることはなかったですね。あったとしても、もう少し違う形でのプロモーションになっていたと思います。7月に勝っていれば、大晦日に出場することも見据えて進んでいくストーリーが生まれていたと思うので。選手でありながら、ということについては色んな視点もありますけど、現役を終えて取り組むよりも、自分が築いてきたネットワークだったり、人脈であったり、自分がずっと発信してきたことだったり……、そういうものを今のうちに形にするのはすごく大事なことだと思っています。  それに対していろんな声が挙がるものだとも受け入れていて。朝倉未来選手もブレイキングダウンを始めとしていろんなビジネスを手がけていて、良い/悪いを置いて、できる範囲で取り組んでいくことは必要なのかなって。でももしそれに全フリしてしまったら、選手としてはいったん区切りをつけ、選手後の人生という話になる……格闘家はその辺りの考え方がとても難しいと思うんです。選手としてのピークを過ぎていても、辞めてからやることがないから続けなくてはいけないような選手もたくさんいると思います。だからといって、『辞めます』と言ったあと企業で雇ってもらえるかというとそういうわけでもない。個人的なツテがあれば就職もできるかもしれませんが。ジムを開業するにしても、都内を見渡しただけでももう飽和状態ですよね、もちろんひとつの道だと思いますけれど。  自分はRIZINに出場したり、YouTubeチャンネルも伸びてきたこともあるので、自分なりのひとつの道を示せるかなと思ったんです。僕ががんばってこの店をしっかり繁盛させ、ゆくゆくは地方展開や海外展開をしていったら、他のファイターたち、たとえばキャリアを終える人であったりと自分と繋がりのある選手たちに働いてもらったりしてこのプロジェクトに関わってもらえたらと。野球選手にも人脈がありますが、社会人野球を終えたあとに迎え入れる体制を整えることも視野に入れています。自分だけではなく、たくさんの人を巻き込んで、みんなでいい方向にいきたいというプロジェクトなのです。矢面に立つ僕自身は色々と言われることもありますけれど、そういうものにも慣れてはきたので、いいかなって」 ──クラファンのイントロダクションのなかに「若手を支援する」というキーワードがありましたが、それは端的に言うと選手をやりながら安定収入を得るための雇用を支えるという方向性なのでしょうか? 「若手の話については、『地方から上京してくるような人たち大歓迎!』という考えです。自分が秋田出身で、東京に来た時に親も身内もいないし友達もいなくて、住むところも仕事もないという状況でしたから、地方の選手が東京に出てくるにあたってのハードルって、段階としては三段階くらいある、ものすごく高いというのが意識としてあって。自分との繋がりがある上で、にはなりますが、18歳とか19歳くらいの子が来てくれたら、最初はアルバイトという形にはなると思いますが、選手として自分の持っているYouTubeで取り上げたりもできますし、人伝てにでも、ボクシングの優秀な選手がいれば働きながらお店でもプロモーションできて、YouTubeチャンネルも使ったりもできる。そして『チャンピオンになったら卒業』みたいな設定をして、一人前になったら大丈夫! と送り出せるような仕組みをつくりたいんです」 ──その若者たちを選手として斎藤選手の手で育成することも検討しているのですか? 「それよりは、生活を支えていくことですかね。野球やサッカーみたいにメディアに取り上げられるメジャースポーツで一流になっていくのとは違いますし、その一方で自ら発信していくことができる時代ですから、このお店と関わっていくことが、若手の格闘家やボクサーにはいいんじゃないかと思ってのことです。お店で働くことは顔を売ることにも繋がりますしね。営業活動の場としても使ってもらいたい。ファイターに近しい僕たちとしてはシフトも柔軟に対応して、試合前に練習に集中したいというときに、お店に入る時間を減らして集中させてあげる、というようなこともできたらいいと思うし、お客さんにチケットを買ってもらうこともできるかもしれませんし。できることはたくさんあります。若い選手にとってプラスになるようにしてほしいですし、そのプロモーションを僕が手伝えるというのは大きいです。どんどん立派になって巣立ってほしくて、『ここで働いた人は出世する』という看板を掲げたいんですねよ、スポーツに限らずアーティストや俳優さんなども含めて。夢を持った若者を応援したいから、それを、僕たちと関わると得があるんだと思ってもらえるようにしたいですね」 ──それだけ、環境を変えることには不安が伴うということを実体験として感じていると。 「ええ、地下鉄の乗り方もわからなかったので。自分は先輩方に恵まれて引き上げてもらったので、今度は僕の番だなと。そういう役割が来るものですね、年齢を重ねると。心ある先輩方に恵まれてやってきたので、僕が返して行く番になりました。37歳ですからね。ファイターとしてもそうですし、世間的にもいい歳ですよ。会社に就職していたら中間管理職の世代ですよね(笑)。責任は増すが給料が上がらない、的な」 ──先ほどおっしゃったような夢のある魅力的なお店になるためにも商品としてのラーメンがみんなに愛されることが重要ですが、ラーメン店の運営として掲げている目標というのは、ありますか? 「お店としてはやっぱり何らかの賞を獲得することですかね……『ラーメンオブザイヤー』のようなものですとか。そして、やはり海外展開ですね。ラーメン×和牛は世界に誇れるものなので、国内にとどまらず、どんどん外に向けて発信して、外貨を取りに行きたいです」 ──UFCファイターたちも多くがラーメン好きを公言していますよね。マックス・ホロウェイは階級を上げる際に「ラーメンを我慢しなくて済む」と発言していましたし。 「この島国で終わらせたくないですね。無料招待するからアメリカのファイターにガンガン来てもらいたいです。ショーン・オマリーもマックス・ホロウェイも大歓迎ですよ」 [nextpage] ただひとつ思いがあるのは、朝倉未来選手と── ──軌道に乗ったところで気になるのは、格闘家としての斎藤選手の今後です。 「試合に向かっていっているわけではなく、お店のほうに体も時間も取られている状況ではありますが、どういうふうにしていくかは、みんなと相談していかなくてはいけないですね。このお店が忙しくなればなるほどファイターに戻れない可能性があるので、そこは……、1年後お店がどうなっているか。1年前に今の状況も想像できていませんでしたからね。ただ……ひとつ思いがあるのは、朝倉未来選手と柔術で戦いたいというのがあって。これは前向きに考えていまして。決着をつけたいです。ただ練習をちゃんとしないといけないですからね、見せ物でやるのではなく、お互いに真剣にやるのが一番。それもお店次第にはなります」 ──年末は、出店というかたちでさいたまスーパーアリーナにいらっしゃるのですよね、仕込みが大変そうですね……。 「朝7時入りとかで。出場するより入り時間が早いという(笑)」 ──大会の注目カードはありますか? 「現時点で発表されているカードだと元谷友貴vs.秋元強真ですね。元谷さん、よく受けたと思いました。お互いにとってすごく重要な意味を持つ試合になりますよね。『次期挑戦者決定戦』と明言するのもなかなかないですよね。これに勝ったらタイトル挑戦だろうという暗黙の了解のようなものはこれまであっても。キャリアの差があるこの試合を受けた元谷さんにも次のタイトルマッチを約束することでお互いにとってのメリットになったと思いますけれど、どちらが勝つかでバンタム級はかなり動きますよね。フェザー級もいいマッチメイクが色々ありますね」 ──秋元選手はフェザー級との2階級制覇を考えているということで、そうすると斎藤選手と同階級ですが……。 「ゆくゆく上げてくるのでしょうけど、その相手を務めるのは、僕ではないほうがいいと思います(笑)」(intervew by Yuko) 『麺ZINさいとう』のラーメンとは? ・麺は、多くの名店に支持される製麺所、浅草開化楼による特製麺・ライスはもちろん、斎藤がアンバサダーを務める地元・秋田の「サキホコレ」(※プレオープン詳細) 【通常メニュー】 ●和牛白湯タンメン……ヘルシーなたっぷり炒め野菜と食べ応えのある中太麺とが、“企業秘密“だという隠し風味をふんだんに盛り込んだ醤油ベースの和牛白湯スープを媒介に絡まり合う。世代や性別を問わず食べやすい、シンプルさのなかに旨味が詰まった、リピート必至の逸品。 ●和牛まぜそば……濃いめの味付けがされたパンチのきいた太麺と、上に乗った揚げたパン粉をしっかりと混ぜ、パン粉の甘味とのシュクレ・サレの調和を楽しみつつ、卵液をメレンゲのように攪拌した新食感のタレにつけると、トリュフとポルチーニ茸の風味が加わる。香り豊かなトリュフをまずは感じると、麺をすするうち食欲をかきたてる芳醇なポルチーニ茸の旨味が後を引く、リッチで奥深いこだわりの一品。 ※プレオープン期間は、ここに細麺の「和牛白湯ラーメン」が限定で加わる。秋田の名産品いぶりがっこのタルタルソースが添えられたA5ランク和牛の「ユッケ風生ハム」、れんこん、舞茸のピクルスをトッピングとして提供。濃厚なとろとろの白湯スープを味わいながらトッピングで時折さっぱりと口の中をリセットできる、ニクい演出。さらに残ったスープで〆のチーズリゾットを堪能できる。(注:ゴング格闘技編集部は一瞬でスープを飲み干してしまったためにリゾットを食べ損ねる失態を犯す。スープの旨さに気を取られるので要注意だ)
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