メインメニューの和牛白湯タンメンを提供する斎藤。お世辞抜きに美味しい…(C)ゴング格闘技
初代RIZINフェザー級&第10代修斗世界フェザー級王者の斎藤裕(パラエストラ小岩)が、東京・秋葉原にラーメン店『麺ZINさいとう』をオープンする。クラウドファンディングが2時間で目標金額を達成したことが話題となったが、ラーメン愛好家の斎藤は「イロモノ扱いから、まずは1回来てもらうため」の募集だったという。現役ファイターでありながら、斎藤はなぜラーメン店を開業したのか。12月19日(木)のプレオープンを前に「公開練習」ならぬ「公開麺習」を行った斎藤に聞いた。
クレベル戦後に『湯切りパウンド』というワードが生まれた。いまは『本当においしいのかな?』という世間の声に応えたい
──『麺ZINさいとう』ついに開店、おめでとうございます。プレオープンを目前に控えていますが、ここまでたどり着いた流れを教えていただけますか?
「ありがとうございます! 実は今年7月の試合よりも前から商品開発をずっとしていまして、本当のことを言うと1年以上前から試作していたのですが。それで、試合後に物件を決めることになり、2軒目でここ秋葉原に決まり、それから朝倉未来選手とのコラボも決まったので、入居日を早め、一気にお店の準備をしたのですが、それが11月中旬くらいでしたね」
──準備期間1カ月でプレオープンとは、いざ動き出すと早いですね。
「そうですね、物件を決めるまでには2カ月くらいかかりました。ここがダメだった場合の候補も見繕っていたところ、無事に決まって。そしてコラボのこともあり入居日を3週間前に早めて、そこから並行してクラウドファンディングの準備も、という感じで、同時進行でいろんなことが一気に進みました。ゆるやかに進んでいたものが、この1カ月はバタバタと一気に加速させた感じです。秋葉原という場所になったのもすごくいいんです」
──ラーメン激戦区に飛び込みました。
「激戦区のなかにあってもさらに厳しいエリアですからね。ラーメンだけじゃありませんし。実はもともと別のところで、インバウンド需要も視野に入れていました。だからこの土地をずっと狙っていたというわけではなくて、巡り合わせとタイミングなどが色々重なり、競合がいたけれどクリアしたので、秋葉原に御縁を感じています。ここで“風穴を開けたい!”と思ってます」
──開店の条件が揃ったところで、肝心なのはメニューの中身。「和牛ラーメン」という攻めた内容になった経緯は?
「もともと『豚骨でやるか』という話で、2月には本場の福岡に行って、2日間でラーメン5杯くらいを食べたんですけど、ラーメンとサウナの繰り返し、みたいな感じで(笑)。その後、自分がタイで1カ月練習しているあいだにメニュー開発が加速していて帰国した頃に『和牛の良いものができそうなんだよ!』って話になっていて、『え? そうなんですか!』って。浦島太郎状態(笑)。『豚骨は……?』と聞いたら『もう豚骨の時代じゃない』と返されてしまって(笑)。それから試食会を重ねに重ね、ちょっとずつ味を改良して、行き着いたのが今のメニューです。結構珍しいですよね。和牛を使っているお店は都内にもあるものの、出汁をとるまでの難易度が高くてなかなか踏み出せないジャンルなんです。何しろ出汁をとるための牛の確保から始まるわけですが、そこでオトンバの社長がルートを持っていたことで食材の確保ができて。さらに、イトウさんという、名店で働いてきた腕のある方に改良を重ねていただいてできたものなので、これって、なかなかできないことなんですよ、ここまでのものを作るのは」
──牛の出汁というと、いわゆるテールスープ、コムタンやソルロンタンのようなスープを想像していたのですが、より濃厚で深いコクがあり、ちょっとびっくりしました。
「和牛というとあっさり、さっぱりとしたスープの印象があると思いますが、しっかり白濁とした『和牛白湯』というジャンルが確立できるんじゃないかなという期待を持っています」
──まだジャンルの競合は少ないですか?
「和牛でやるとなって色々なお店に行ってみましたが、インバウンド需要を考慮していたり、高単価で“ラーメン一杯にこの金額を払うか?”と思わされるお店が多かったんですよね。『麺ZINさいとう』の通常メニューは一律1,000円なので、価格帯でも勝負できると思っています」
──和牛系では倍以上の値段で提供している店があると思うと、破格のリーズナブルさですね。ただ、珍しいという期待もありつつですが、舌が慣れている味でないと想像しづらい分、最初の一歩を踏み出してもらうハードルにもなりませんか?
「それ以上に、(アスリートが手がけた店という点で)『本当においしいのかな?』というのが世間的な声だと思うのです。だからたくさんの人にまずは食べてもらいたいので、クラウドファンディング(以下クラファン)のリターンとして無料券をつけています。プロモーションをしっかりして、RIZINにも協力してもらって、朝倉未来選手にも来てもらったりと話題性ではトレンドにはなっているので、ここから先は味での勝負になっていきますね。どうしてもイロモノ扱いする目で見られている部分はあると思っていて、それはプロモーションのうえで仕方がないかなと思っていますが、まず1回来てもらって、リピーターになってもらえるかが、肝ですね」
──イロモノ扱いではないにしても、名義貸し程度の関わり方なのではないか? と思われそうなところです。
「このために会社を起ち上げ、自分自身が役員になっていて、ゆくゆくは自分が先頭に立って会社としても形にしていくという構想があって、しっかり中に入ってやっているんですよ」
──クラファンはまたたく間に目標を達成していましたが、そもそも目標の金額設定が決して高くありませんし、リターンの内容も参加しやすいラインアップでした。どういう狙いがありましたか?
「どちらかというとプロモーションとしての位置付けが強いです。資金調達として、この金額が達成できないとやっていけないというようなことではなく、まず来てもらいたいというのがあったので、7、8割をプロモーションで考えていました。だからリターンもやさしい金額に設定しました。これに関しても、たくさん協議を重ねて決めたのですが、先ほども言ったとおり、たくさんの人に来てもらいたいというのが主旨なのと、子どもたちにもお小遣いや、この季節ならお年玉を使ったりして来てほしい、という狙いがあります」
──子どもだけでも入れるというのはターゲットが広いですね。
「かなり広く設定しています。高単価で絞ってやるより、誰でもみんな来てくださいという感じで」
──その気軽さがある一方で、味わいはリッチであるという。
「僕は素人なんですが(笑)、一緒にやってくれている人がその道のプロフェッショナルなので、もうイチから教えてもらっていて。名店出身の方なので、英才教育を受けている感じです。いきなり教えてもらえたのがイトウさんでよかった」
──厨房のなかで色々と指導を受けていましたね。
「なんとか、言われたことが抜けていかないように頭をおさえながらやっています(笑)」
──こうやってイチから何かを教わるというのは格闘技を始めた初期の頃以来なのでは?
「そうですね、アマチュアの頃とかプロの初期の頃以来ですよね。キャリアを重ねていくとそういう機会がなくなってくるので。新鮮ですし、大変ですけどやりがいがあります。たくさんの人を巻き込んでいるので」
──ところで斎藤選手、もともと料理は得意だったのですか?
「……うーん、性格が面倒くさがりなので、やらないんですよね(笑)。できあがったものをそのまますぐ食べたい! みたいな。レンチンでOK! みたいなタイプなので(笑)」
──それがまさか厨房に立ち、鮮度を気にしながら綺麗に盛り付けをして……。
「1年前にはこうなっているとは想像できなかったですよね。クレベル戦後に『湯切りパウンド』というワードが生まれ、プロモーションが加速して……、人生わからないものだなとは思います」