MMA
インタビュー

【UFC】カラフランス「NZのラグビーチームで脳震盪からの回復指導を受けられた」×エルセグ「王者との試合であのレベルで戦える確信を得た」

2024/08/16 17:08
 2024年8月18日(日)豪州パースのRACアリーナにて『UFC 305: Du Plessis vs. Adesanya』(U-NEXT配信)が開催される。  2023年に2度ナンバーシリーズが開催された豪州大会。今回は、全12試合中、10試合でオセアニア勢が出場する。 ▼フライ級 5分3Rカイ・カラ・フランス(ニュージーランド)24勝11敗(UFC7勝4敗)125lbs/56.70kgスティーブ・エルセグ(豪州)12勝2敗(UFC3勝1敗)125.5lbs/56.93kg  メインはUFC世界ミドル級タイトルマッチで、2023年9月にショーン・ストリックランドに判定負けして王座陥落した同級2位のイズラエル・アデサニヤ(ナイジェリア/City Kickboxing)が、2024年1月にストリックランドに判定勝ちで新王者となったドリカス・デュ・プレシ(南アフリカ)に挑戦する。  コ・メインのフライ級戦では、4位のカイ・カラ・フランス(ニュージーランド)が、7位のスティーブ・エルセグ(豪州)と対戦する。  カラフランスは、2016年にRIZINで和田竜光に判定負け後、8連勝。MMA24勝11敗でUFC7勝4敗。オクタゴンで3連勝後、ブランドン・モレノとの「UFC世界暫定王座決定戦」でKO負け。続くアミル・アルバジ戦でも敗れたものの、スプリット判定の惜敗だった。  その後、2023年9月の豪州大会でマネル・ケイプ戦が組まれていたが、「トレーニング中の脳震盪」により欠場しており、今回が1年2カ月ぶりの復帰戦となる。  メディアインタビューでカラフランスは、脳震盪からのリハビリ体験、昨年2月のUFC豪州大会の前日に生観戦したEternal MMAでのエルセグの試合、モカエフがリリースされ、朝倉海が参戦の可能性のある新フライ級戦線について語っている。 フライ級が消滅するかもしれないと言われていた時期に、この階級を守ってきた自負がある ──2023年9月のマネル・ケイプ戦は脳震盪で試合を辞退しましたたが、今の調子は? 「最高の気分だよ。素晴らしいキャンプだったし、時間を取ってファイトから離れたことで、頭がすっきりしたんだ。6カ月間、コンタクトスポーツを控えたことは、自分にとって最善の選択だったと思う。専門家たちの言うことを聞くのは、自分を守るためには必要なことだね。ファイターやアスリートは、自分の限界を知らずに無理をしてしまうことがあるけど、時には立ち止まる方が良いんだ。次の1年だけでなく、これからの5年間を見据えてベストを尽くしたいんだ。  今まで以上に体調が良いと感じている。これまでの戦いで蓄積したダメージを癒す時間ができたし、父親や夫、そしてUFCファイターとしての責任をバランスよく取れるようになった。今は元の自分に戻って、体も癒され、戦闘モードに入っているよ。みんなに自分が世界で最高のフライ級ファイターの一人だということを再確認させる準備ができている」 ──身体の怪我と違って、脳をリハビリする、回復までにはどんなステップを踏んだのでしょうか。 「当然ながら脳は一つしかないから、できる限りのことをして確実に回復させる必要がある。それは、あまり無理をしないことも含まれている。最初の処方は、ただ歩くことだった。それが神経科医や脳震盪の専門家からの指示だったんだ。そこから少しずつ負荷を増やしていった。バランステストや眼球運動テストなど、いろいろなテストをやった。神経科医と一緒に、まるで試験のように感じたよ。  3時間くらいのテストがあって、パズルや記憶テスト、絵を描くテストを受けたんだ。絵の上手さを見るわけじゃなくて、マルチタスクがどれだけできるかを調べるためのものだった。最初のテストでは実際あまり良い結果が出なくて、僕の年齢や教育レベルに対して50%くらいしか取れなかった。でも、4~5カ月後に同じテストを受けたときは、98%くらいの結果が出たんだ。つまり、回復することは分かっていたんだけど、時間が必要だったということだね。  それに、復帰への道筋と自信を持つために、頼れるチームがあったことは本当に幸運だった。自分がコーチを手伝っているウォリアーズのチームだ(オークランドを本拠地とするプロラグビーリーグクラブ)。ニュージーランドのラグビーチームで、国内でもトップレベルのチームなんだ。ラグビーでは頭部の衝撃や脳震盪に対処することが多いから、彼らはすべてを経験してきている。彼らから指導を受けられたのは本当に大きかったし、感謝しているよ」 ──アメリカフットボールの選手たちがテストを受けて初めて“実は脳震盪を抱えたままトレーニングやプレーをしていた”と気づくことがあります。あなたも知らずに脳震盪を抱えたままキャンプや試合をしたことがあると思いますか? 「100%あるね。慣れてしまうんだよ。ただ、本当にひどいものになると、一歩引いて“これは回復させる必要がある。無理をしてはいけない”と考えざるを得なくなる。脳震盪はどれも違うから、一律の対処法はないんだ。まだキャリアが続いていて、ここに戻ってこれたことは幸運だと思っている。ベストなパフォーマンスを発揮し、これからの5年を見据えることができる。そして、家族生活とトレーニングのバランスを取ることが非常に重要だと感じている。さらに、デロード(負荷軽減)週間やリカバリーに重点を置き、試合当日に向けて最高の状態を目指すことに取り組んでいる。キャンプでは無理をしないようにしているんだ」 ──豪州出身のスティーブ・エルセグ選手と対戦することになりました。14年前から軽量級で戦ってきたベテランとして彼のことをどうとらえていますか。 「面白い話があるんだ。1年前、パース大会でアレックス・ペレイラがイスラム・マカチェフと戦ったとき、その『UFC 284』で僕もアレックス・ペレスと試合をするはずだったけど怪我をしてしまった。だから、そのイベントではゲストファイターとしてパースに来ていたんだ。パース大会前夜に『Eternal MMA』というローカルイベントを観に行っていて、そこにUFCのマッチメーカーであるミック・メイナードがいて、スティーブ・エルセグがメインイベントに出ていたんだ(※エルセグが平井総一朗に1R リアネイキドチョークで一本勝ち)。  そこで、彼がUFCに引き抜かれる瞬間を観客席で見ていたんだよ。その後、彼はUFCですべてのチャンスを最大限に活かし、猛烈なスピードでランキングを駆け上がってきた。そして、前回のパントーハとのタイトルマッチでは、僕としては彼が判定で勝ったと思ったくらい、チャンピオンに近づいたんだ。彼については良いことしか言えないよ。彼は良い人だし、才能もあって、タフな挑戦者だ。でも、僕はこのフライ級で長く戦っている。この階級が消滅するかもしれないと言われていた時期に、エキサイティングな試合をして、階級を守ってきた自負がある。だから、こうして復帰してトップファイターたちに挑戦するのは、とてもクールな気分さ」 [nextpage] モカエフは勝ち続けていたけど、UFCはレスリングやグラップリング大会じゃない ──最近のフライ級の状況をどう感じていますか。ムハンマド・モカエフがリリースされ、新たに朝倉海との契約が報道されています。 「フライ級にとっては面白い時期だよ、特に挑戦者たちにはね。誰もが誰とでも戦えるし、誰でもタイトル挑戦のチャンスがある。だから、パースのカードで戦いたいとチームに伝えたとき、スティーブの名前が上がってきて、すぐに戦うべきだと思ったんだ。ベルトを争ったばかりの相手と戦いたいと思っていたからね。彼の地元で彼を倒せば、タイトルマッチへの道筋が明確になる。でも、今はもちろんスティーブとの試合に集中している。彼を軽視するのは愚かだし、このスポーツに長く関わっているからこそ、すべてのエネルギーを目の前の試合に注ぐべきだとわかっている。  ただ、フライ級の現状を見ると、たくさんの選手が登場して、素晴らしい成果を上げてきた。モカエフも確かに勝ち続けていたけど、ここはレスリングやグラップリングの試合じゃないんだ。最低限のことをして勝つだけじゃダメだ。これはエンターテインメントのスポーツであり、痛みを伴うビジネスだ。観客はそのハート、勇気、全力で挑む姿勢を見たいんだ。ノックアウトを狙うだけじゃなく、なぜ自分がメインイベントやコメインを張るべき選手なのかを示さないといけない。だからこそ、自分とスティーブがこのポジションにいるんだ。僕たちは観客が期待外れに感じないように、誰もが話題にするような戦い方をする。それが僕たちの役目だ」 ──脳震盪との戦いも含め、休養期間中にあなたのマオリのルーツや伝統に触れることは役に立った? 「自分が何をしたいのか、どこに向かっているのかをより意識するようになった。そして、これがすべて以前に起こったことだと理解することができる。戦場で戦うのは、自分の血筋にあることだと思う。僕はその現代版に過ぎないんだ。だから、マオリの価値観に触れることで、世界にどう向き合うかが分かる。  今、自分には子供がいて、彼らもマオリの伝統的な学校で学んでいる。これは本当に素晴らしいことだよ。人生についての視点が広がり、何が大切かを優先できるようになる。それは、自分たちの文化、アイデンティティ、そして自分たちが何者であるかを大切にすることだ。ファイターであることは僕の仕事でありキャリアだけど、戦いが終わった後の人生もある。勝ち負けに囚われるのではなく、グローブを外したときの姿によって評価されるんだ。今はとても良い状態にいるよ。バランスが取れていて、落ち着いている。冷静で、今この瞬間をしっかり受け止めることができている」 ──この大会はニュージーランドのMMA史、そしてUFC史にとっても特別な瞬間になるでしょう。パイオニアの一人として、PPVのメインカードで複数のニュージーランド人が戦うことを誇らしく感じますか。 「言わずもがなだと思う。自分たちが期待されていること、そのプレッシャー、そして肩にかかる重みを感じている。母国ニュージーランド、そしてジムのシティ・キックボクシングを代表しているんだ。でも、そういうプレッシャーには向かっていく。逃げることはない。この状況で戦えることは特権だし、戦える期間には限りがあるから、それを理解しているんだ。みんな少しずつ歳を取り、少しずつ賢くなっているけど、自分たちがやっていることには意図がある。そして、これから起こることに対して十分に準備ができている。  この瞬間はニュージーランドにとって大きな意味がある。今年、オリンピックでニュージーランド代表が最高の結果を出してくれたことにも感謝しているけど、今度は僕たちがそのステージに立ち、世界にニュージーランド人のスキルと勇気を見せる番だ。僕はこの環境に身を置いて、このルーティンを楽しんでいる。ファイトウィークを迎えて、すべてを受け入れ、プロセスに従っている。毎日ルーティンをこなしながら、少しずつ試合に近づいていくことにワクワクしている。前にも言ったように、試合に臨み、勝利を手にする準備はできているよ」 ──ベテランのあなたがフライ級タイトルマッチを経験していないのに、先にエルセグ選手が挑戦者になったことに苛立ちはありませんでしたか。 「自分の階級のファイターが、これほど成功するのを見るのはクールなことだよ。僕が休んでいる間に、彼はブラジルで世界タイトルを争い、本当に戴冠が目前だったんだ。MMAでは、試合以外だけじゃなく、その準備期間を含めてプレッシャーや消耗が激しい。僕は1年間それを経験していないから、そこが違いになると思う。フレッシュな状態で戻ってきたんだ。疲労感や燃え尽き症候群がなく、精神的にも肉体的にも、そして感情的にもスピリチュアル的にも新たなスタートを切れる。今の自分は最高の状態にいるし、試合に向けて準備万端だよ」 ──この試合は次期タイトルマッチ挑戦者決定戦になりうると考えますか。 「100%そう思っている。これまでの試合は期待に応えられないものもあった。このフライ級では、誰がエキサイティングな試合をできるかが重要だ。UFCと世界に“自分が次の挑戦者だ”と知らせることが大事なんだ。この試合に勝てば、タイトルマッチに挑戦できると確信しているよ」(※8月18日(日)朝7時30分~U-NEXT配信) [nextpage] スティーブ・エルセグ「どこで練習しても、自分が強く望むなら、活躍できることを証明していく」 ──王者アレクサンドル・ パントーハとのタイトルマッチを終えて、生活に変化はありましたか。 「正直言って、生活は全く変わっていないよ。たくさんの教訓を学んだし、あのパフォーマンスから多くの自信を得たんだ。自分の望む結果にはならなかったけど、あのレベルで戦えるという確信を持てたし、5ラウンドを戦い抜いてペースを保てることも分かった。だから、望んだ結果は得られなかったけど、試合から多くの良いものを得たんだ」 ──このパースでの大会のオファーが届いたのは? 「パースで開催されることは知っていたけど、どれくらい前にカイの名前を聞いたかは覚えていない。でも出場したかったし、UFCも僕が出場することを歓迎していたみたいだ。パース出身の選手が参戦するのは良いことだからね。だから、ケガをしていない限り、誰とでも戦うつもりだった」 ──カイ・カラフランスの印象は? 「彼は非常に優れたファイターだよ。ものすごく爆発力があって、テイクダウンディフェンスも一流だし、パンチもかなり強力だ。だから、注意を怠らないようにしなければならない。でも、僕の方が上だと思う。日曜日の朝にそれが明らかになるだろう」 ──パントーハ戦と比べて、試合へのアプローチは異なりましたか。 「そうでもないよ。2人とも大きい軌道のパンチを打ってくることが多いんだ。カイは常にテイクダウンを狙ってくるようなファイターではないから、より打撃に集中して準備した。でも、現実的に考えて、もしカイが打撃で不利に感じたら、テイクダウンを狙ってくる可能性もある。だから、テイクダウンディフェンスにも引き続き取り組んでいるけど、大部分は立った状態での戦いにフォーカスしているんだ」 ──この試合が5ラウンド制であることを希望していましたか。 「そうだね。パントーハ戦で5ラウンドを戦った後、また5ラウンドをやりたいと思ったんだ。5ラウンドが自分に合っていると思う。パントーハ戦でラウンドを重ねるごとに優位に立てたことで、他のファイターに対してもフィニッシュできると感じたからね。5ラウンドは自分に合っていると思う」 ──パントーハより先に復帰することには驚きは? 「全然驚いてないよ。彼はまず休養が必要だと言ってたし、僕は多くの試合を戦うのが好きだからね。だから全く驚きはない」 ──ムハンマド・モカエフのUFCリリースについては? 「人が落ち込んでいる時に追い打ちをかけたくはないけど、彼はいくつかの行動を起こした結果、ファンやUFCに好かれなかったんだと思う。だから、気の毒には思うけど、彼自身の行動が招いた結果だと思うよ」 ──あなたはメキシコの文化が好きだからメキシコ人と戦ってみたいと言っていました。なぜでしょう? 「メキシコのボクシングには素晴らしい選手がたくさんいるんだ。フリオ・セサール・チャベス、カネロ・アルバレス、そしてマニー・パッキャオと戦ったマルケス。本当に素晴らしいボクサーたちだし、彼らは戦士だ。結局のところ、俺が好きなのは戦士らしく戦う姿を見ることなんだ」 アウェイで戦うことに慣れてしまって地元で戦うことに少し違和感を感じているくらい ──昨年パースで開催された『UFC 284』の前夜、エルセグ選手はエターナルMMAで戦っていましたね。そして今、地元パースでUFCのコメインイベントに出場することになりました。感慨も? 「面白いもので、あまりにも早くアウェイで戦うことに慣れてしまって、今週地元で戦うことに少し違和感を感じているんだ。ファイトウィークなのに自分の家にいて、普段と同じ場所でトレーニングをしている。ちょっと変な感じがする。UFCで戦う1年以上前はここで戦うことが普通だったのにね。でも、すごくワクワクしているよ。家族や友人、応援してくれている人たちがみんな試合に来てくれる。彼らのために良い試合を見せるのが楽しみだよ」 ──注目を浴びるようになって生活に変わりは? 「大部分は変わっていないけど、時々本当にクールなことを体験する機会があるんだ。イーグルスに会ったり、先日ワラビーズに会ったり、子供たちが夢見るような経験をすることがある。でも、それ以外の時間は以前と同じで、朝トレーニングに行って、一日中そこにいて、家に帰って寝るだけだよ」 ──あなたがコメインイベントで戦うことは、パースのMMAに大きな意味があるのでは? 「本当に大きな意味がある。少し前までは、『もし強くなりたいならアメリカに行かなきゃいけない』とか、『ここでは無理だ』とか、そんなことを言われ続けてきたんだ。だけど、ジャック・デラ・マダレナや僕が結果を残して、そして今後はパースから出てくる若い選手たちが台頭してきている。どこで練習しても、自分が強く望むなら、活躍できることを証明出来ていると思う」 ──カイ・カラフランスはどれくらいタフだと感じていますか。 「本当にタフだよ。誰と戦っていたか思い出せないけど、リアネイキドチョークが完全に極まっているのに、諦めずに最後まで戦い続けていたんだ。僕ほどでないことを願うけど、心から強いと思う」 ──あなたのUFC契約前の最後の試合はパースでした。今回は家族が応援に来る? 「僕はとても恵まれているんだ。家族がブラジルやベガス、ニューヨークにも旅行して応援に来てくれたんだよ。いつも僕のそばにいてくれる。その点で僕は本当にラッキーだ。今回の試合は、みんなが飛行機に搭乗しなくて良いのがありがたいよ」
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