すごろくで言ったら振り出しに戻った
――1回戦の相手がカン・メンホンというクンクメールの最強選手に決まりました。
「クンクメールって言うのもよく分かんないですけど、試合映像を見た感じでは、しっかり身体も強くてガンガンくる選手っていう印象は持ちましたね」
――クンクメールはカンボジアの国技で、ムエタイに似ている競技のことだと思いますが、111戦82勝ってすごい戦歴があります。
「そういうキャリアのある選手が、わざわざ日本に来てくれてやるというのは本当感謝だなと」
――そこも感謝なんですね。金子選手は、この階級の絶対的王者とも呼ばれています。いち挑戦者みたいな形で挑むこのトーナメントっていう思いがありますか?
「そういうのを含めても感謝ですよね。やっぱ特別扱いするんじゃなくて。何も変わらない試合というか。振り出しに戻るというか。そこは逆に感謝だなと」
――特別扱いをされたくないという思いもあるんですか?
「特別扱いされたいという思いは別にないですよ。ただ、こういうことが起きるというのは、もう感謝だという、それしか言いようがないなっていう。それが結局は、のちのち自分のためになるっていうことなんじゃないのかな」
――玖村将史選手は、4回目の対戦をアピールしています。
「4度目までできるという、そこがまた感謝だなと。4度闘えるっていう。そこに対して感謝を持ちながらやっていこうかなと思っています」
――前回の3回目(金子の2勝1敗)で、決着がついたと思っているのではないのでしょうか。
「もう決着がつきましたけど、僕はチャンピオンなんで。そういう何回でも勝つまでやるというのが挑戦者なので。そういうのも含めて、そういう状況に対しての感謝だなと一つ思いますけどね」
――玖村選手にも感謝していると。さすが金子選手ですね。
「決まったことをしっかりやる。そこに対して、しっかり仕上げるというのがチャンピオンとしての仕事だと思っているんで。チャンピオンだから、僕とやりたい選手もいるし、それがチャンピオンとしての宿命なので。K-1というものを選んだ僕の宿命だと思ってます」
――カッコいい!日々練習している時に感謝というのは転がっているという感じですか。
「もちろん。一つひとつのことが感謝です。その僕の一つひとつの動きだったり、それが感謝で成り立つものなんで。そこを忘れないで、最終的には無でやります。その無でやる為には感謝が必要だなって。無で作っていく過程には感謝は必要なんです」
――そこが凄いと思います。日々の感謝を実感してやるって言葉では言えるんですけど、一つひとつのことを意識して実感する、その感性は凄いとしか言いようがないです。
「やっていけば、本当に自分と向き合っていけば分かります。感謝がなければたどり着けないという、一つひとつの動きに」
――雑音みたいなものって入ってこないですか? 例えば悪口言ってるとか、自分に対して名乗りをあげてくる相手に対してとか。
「それは別に雑音じゃないです。そういう仕事なんでチャンピオンって。逆にそれがなかったら対戦相手がいなくなっちゃうんで。それを雑音だと思ったことないです」
――アンチファンの書き込みとか、そういうの全然目にしない?
「見たことないですね、アンチっていうのは。いたとしても別に、それぞれ意見があるんで気にならないというか。それも一つの意見なので、別にわざわざ見ないようにするわけでもないですし、見た上でこういう考えもあるんだなって。それでおしまいです」
――例えば、今回のトーナメントに新世代の大久保琉唯選手が入っていることについて、批判の声も出ていたりするようです。
「人に対してのそれは、なんとも思わないですよ。僕も、なんで入ってるんだって思ったですけど、ただ、それは決まったことなんでなんとも。それに対して言われても言われなくても僕の問題じゃないんで」
――例えば金子選手からしたら、「何で入ってんのお前」みたいなイライラはないですか?
「イライラはないです。あー、入ってんだくらいですね」
――関係ない?
「関係ないですよね。そういうもんじゃないですか」
――世界最強トーナメントの格が落ちてしまうみたいな、そういう感覚は?
「そもそも格があると思ってないですよね、このトーナメントに対して。振り出しに戻ってるんで。だから格とかないですよね」
――世界一を決める振り出し?
「振り出しっていうか、僕のやってきたことの振り出しに戻ったなって。鈴木戦が終わって、そして鈴木戦の前に戻ったみたいな。すごろくで言ったら」
――積み上げてきたのに、振り出し戻る。それは辛く苦しいことではないですか?
「それはそれで面白いなって。振り出しには戻ったけど、ただこのトーナメントをどう制するかで、ここの道は違いますからね。同じ道は進まないですから。同じ結果でも。3年前か2年前かのトーナメントで優勝して進んだ道と、このトーナメントは違います。振り出しに戻ったけれども、この道はまた違う道になってますから」
――なるほど。
「同じように見えてまた違うんですよね。振り出しには見えるけど、厳密にはめちゃめちゃ違うんじゃないのかっていう」
――金子選手は、独特の世界観を持っていますよね。つい、いろいろなことを聞いて答えを求めすぎてしまいます。
「答えを求めすぎると、またおかしなことやっちゃうんですよ。なんとなくでいいんです」
――今の時代、結構答えを求めるじゃないですか。これは何?どういうこととか聞いてしまう。そういうのは、ご自身の中では価値観としてはない?
「自分で考えて、自分で分からないと意味がないと思ってて。答えを聞いちゃったら、そこの面白さがなくて。もし、そこを何年後かにこういうことだってなれば、そっちも面白いかなと俺は思うっすね」
――例えば、インターネットで何でも調べられるじゃないですか。
「それは良くない。良くないというか、面白さが減っちゃう。だから僕は、それ(答え)は言わないです」
――自分で見つけていくものだと。
「見つけられる人は見つけるし、分からなかったら分からないで、ずっと分からないままだと思うし。ただ、それを見つけた時に面白いじゃないですか。ああ、そういうことだったのかとなると思うので」
――自然体というか。ニュートラルに感じるままに生きているように見えます。
「そうですね。思ったことを本当に言ってる。感じたこと。それを口に出すことによって、それが本当に生きてくるんで」
――でも答えは出さない。
「まあ、そうですね。FROGとか全部、死神とかも僕の中で思っただけじゃ生きてなかったので。それを会見で言ったことによってそれが生きたので。それを生かすのもやっぱり自分次第ですけど」
――鈴木戦の前は、「死神」がテーマでしたね。
「最初は訳がわからなくても、試合が終わってみたら死神だったじゃないですか。それでいいんです」
――ストーリーが繋がると。
「繋がるんですよ。その繋げるまでが、会見から試合終わるまでのそれが仕事なので。もう会見で答えを言っちゃって、答えがそこで出ちゃったら、試合終わっても面白くないじゃないですか。意味が、意味でなくなっちゃいます。そこで死んじゃうんで。答え言っちゃったら」
――そこは、ファンも金子ワールドを楽しんでほしいところですね。
「わかんなかったらわかんないんですけど、なんとなくでいいんですよ。完全理解しないで、なんとなく分かるじゃないですか、この死神とか。なんとなくですけど、それでいいのかなと思っています」