2024年4月29日(月・祝)、東京・有明アリーナにて『RIZIN.46』が開催され、セミファイナルのバンタム級(61.0kg)戦で、リオ五輪グレコローマンレスリング59kg級銀メダリストの太田忍(THE BLACKBELT JAPAN)が、元フェザー級王者の牛久絢太郎(ATT/K-Clann)と対戦。
階級を落としてきた牛久に、太田は打撃を当てさせず、組んでも肩固めで押さえ込んで、判定3-0で勝利。芦澤竜誠戦のKO勝ちに続く連勝を飾り、MMA戦績を6勝3敗とした。
2Rにスタンドの肩固めのクラッチから強引に首投げの形で投げた太田に、体勢を入れ替えた牛久がマウントからバックを奪ったものの残り1分を極め切れず。
1、3Rで太田はボディロックで組んで投げて、肩固めを押さえ込み的に使い、コントロール。相手の立ち際にはグレコのがぶりからがぶり返しで押さえ込み、と自身の「強みを押し付ける」盤石の戦い方で勝利し、フェザー級上位戦線に存在感を見せた。
試合前の本誌インタビューでは、「僕はまだ3年ですから。そのレベルの選手で僕より打撃で劣っている選手はいない。僕はやること変わらないから、自分の得意な部分を一方的に押しつけるだけ」と語っていた太田。
牛久とはともに上組みを得意とするが、グレコ出身の太田にとってその展開はお手のもの。「そこで僕がアドバンテージがあるから、向こうは選択肢も減ってくるだろうし、お互いにやりにくい」としながらも、「(牛久に)テイクダウンされることはない。上を取ったらたぶん返されることもないから。下からの極めのギロチンと三角絞めに対してしっかり上からプレッシャーかけておけば問題ない」と語っていた通りの展開となった。
2022年7月に元谷友貴に判定負けしたが、2023年以降は、4勝1敗。うち倉本一真、瀧澤謙太、芦澤竜誠は初回でフィニュシュしている。
太田は、「倉本選手や瀧澤選手との試合みたいな勝ち方だと、見ているほうも運営側も“ラッキーかな”と思っちゃうこともあるかもしれないから、牛久戦はしっかり勝ちたいと。まあでも“ラッキー”は失礼な話ですよね。だって僕はその試合をするためにずっと準備して、何万回練習してきてるんだって話ですけど。ちゃんと自分の技術を見せたうえフィニッシュを狙う中で相手を圧倒できるような試合ができればいいかなと。本当にちょっとずつ、『MMA』のMくらいできるようになった」と着実に手応えを得ている。
牛久戦前は、自身との試合を怪我でキャンセルした井上直樹が、佐藤将光と対戦することに不満を隠さなかった。
「僕の試合をキャンセルした井上直樹がどうして佐藤将光選手とやるのか。あのとき僕は、勝つつもりで準備してたし、あのときの井上直樹がそのまま試合に出てきたらたぶん俺は勝てたと思います。それが、3月に井上vs.佐藤になった。それはRIZINの運営側の思惑もあるだろうし、言ったら僕より井上直樹のほうが強い、格上だというふうに評価されているんだと思います。ナメんなよって思うし。だけど、僕の評価ってそうなんだなというふうに思って自分の中で飲み込んでいます。そうならやっぱり実力を見せていくしかない」
そういう覚悟の上で臨んだ牛久戦で完封勝利。井上vs.佐藤戦の感想を聞くと、「すごいなと思いましたね。試合が組まれたときはいろいろ思いましたけど、最後のテイクダウン、トップキープの差で井上直樹選手が勝った。ほんとうにレベルの高い試合だったし、僕が牛久選手に勝って、井上直樹選手とやることも十分できると思っています。しっかり喧嘩を売りたい」と語っていた。
牛久戦後の会見では、「打撃への対応が追いついてきたから、佐藤戦まで目を背けて後回しにしていた細かい技術に取り組むことが出来た」と進化に手応え。
今後について、「フェザー級の元RIZINチャンピオンで元DEEPチャンピオンという実績のある選手に、自分的には完勝できたかなと思っている。またひとつ上のレベルの選手とやって、今年の年末にタイトルマッチができればいい。次は、今日勝ったキム・スーチョル選手でもいいですし、名古屋で対戦がかなわなかった井上直樹選手でもいい」とした。
UFC行きが間近と言われる王者・朝倉海を頂点に、中島太一にKO勝ちしたキム・スーチョル、佐藤将光に判定勝ちした井上直樹、元谷友貴に判定勝ちしたヴィンス・モラレス(※5月24日の『Tuff-N-Uff 137』出場)、2連勝中のアラン“ヒロ”ヤマニハと、バンタム級の次期王座争いは混とんとしてきている。
「僕は誰とやりたいとかよりも『チャンピオンになりたい』から。チャンピオンという形、称号が“一番”の証明になるので」という太田は、難敵・牛久を下し、7.28『超RIZIN.3』出場もアピール。秋にもう1試合を越え、「年末にタイトルマッチ」を望んでいる。朝倉海後のRIZINバンタム級で、年内に頂点への戦いへと駒を進めるか。
一方、フェザー級から落として敗れた牛久は「1Rは相手に力を使わせようと思っていたけど、僕がすごい(腕が)パンパンになっちゃって」と、RIZINバンタム級転向初戦で異変があったことを明かし、「力が入らなかったというのがあって。それがリカバリ(の問題)なのか原因が分からず、調べます」と語っている。
[nextpage]
太田忍「次はキム・スーチョル選手でも井上直樹選手でも」
──試合後の率直な感想を。
「勝てて安心しました」
──試合後のマイクがあっさりしていましたが。
「まあ嬉しかった、久々に勝って嬉しかったですけど、判定で勝って、メインの前に会場が温まっているなかで、僕がだらだら喋るのもな……と思ったのでパッと終わらせました」
──戦う前の牛久選手のイメージと戦った後で違う部分はありましたか。
「試合前には、左ミドルだとかハイだとか左のスイッチしてレベルチェンジしてからの大きい打撃っていうのが結構、印象的だったので、それをちょっと警戒していたのですけど、うまくタックルのフェイントとかも入れてそれを出させないように戦えたので。もっとアグレッシブに打撃が来るのかなと思ったけど、うまく出させないように戦えたなっていう感じですね」
──いつになくグレコローマンレスリングの技術が活かされた試合運びだったと思いますがご本人的にはいかがでしたか?
「グレコの技術ですか? 何かやりました?」
──四つで押し込んで、横からがぶって返して……。
「ああ、そうですね。グレコの技術というか、佐藤将光選手との名古屋の試合であそこでテイクダウンしてトップキープできなかった、コントロールできなかったのが敗因だったのでそこをしっかりやってきました。牛久選手も多分、僕とやるなら同じような作戦を組んでくるんじゃないかと想定して、そこでしっかりテイクダウンして、肩固めの状態であったり、自分のいいポジションでキープして戦うことを練習してきたので。2R目ちょっとバックをミスって取られてしまった場面はありましたけど、まあ練習通りかなという感じですね」
──敗れた佐藤戦がいい課題になって、今日に活かされたということですか?
「本当にそうです。あの試合があったから、目を背けてたじゃないですけども、そこの細かい技術というのを後回しにしていた。もっと打撃をやらなきゃいけないだとか、僕に足りないところがありすぎて後回しにしていた部分を、打撃への対応が追いついてきたというのもあるのですけど、そこにも取り組む余裕が生まれたというか、追求できるような練習になってきたことが大きいと思います」
──そのひとつがテイクダウンからのコントロールであったと。スタンドは、バックからアキレス腱を蹴るという珍しい攻撃をしていましたが、あれは狙っていたのですか。
「あれは狙ってないです。あんな性格が悪いように見えるような技をやるのは、僕は実際好きな技ではないです。ただ牛久選手の足の位置がよかったので、ディフェンスにすごい適した位置だったので、少しでも嫌がらせて、あの体勢を変えさせたいと思ったときに、そこにアキレス腱があったので。で、ちょっと嫌がっている素振りがあったので。普段は練習でもやらないし、まあ日常生活でやるなんて、そんなのやらないですけど、認められているRIZINだから使った技です」
(C)Keisuke Takasawa
──今後の展望・目標を。
「去年から言っていますけども、タイトルっていうのを狙っていきたいという風に思っています。牛久選手はすごく強い選手で、フェザー級の元RIZINチャンピオンという実績もありますし、元DEEPフェザー級チャンピオンという実績のある選手に、どういう風に見えたかは分からないですけど、自分的には完勝できたかなと思っているので、またひとつ上のレベルの選手とやって、今年の年末にタイトルマッチができればいいなと思っています。そのためにしっかり試合をクリアしていけたらいいと思っています」
──試合前に言っていたグアム旅行には気持ちよく行けそうですか?
「そうですね。グアムの前に、GWの3日から伊勢まで彼女の家族と旅行で運転しなきゃいけないんですよ、目にヒザをもらってしまったけどちょっと下なので無事運転できそうなので、足とかも全然ノーダメージなのでよかったと思います。でも昨日、どこかの記事で見たのかな、(公開計量のマイクで)榊原さんに『勝ったら(フライトを)アップグレードするためにボーナスください』と言ったのですが『聞かなかったことにする』と仰ってたので、この後お会いしてもうちょっと押そうかなと思っています」
──そう言えるだけの結果だったという自負があると。
「それに関しては一本・KOじゃないので『また今度だな』って言われるかもしれないですけど、言うのはタダだと思うので。アスリートはやっぱり腰が命なので『エコノミーで行かせるんですか』と『ファーストクラス、ビジネスクラスのほうが、『超RIZIN.3』でいいパフォーマンスができます』という説得をしようかと思っています」
──(苦笑)。7月28日の『超RIZIN.3』への出撃宣言でもあると?
「そうですね。ここ勝って『超RIZIN.3』に出たいなと思っていたので、去年もこのペースで『超RIZIN.2』に出て、9月末、10月頭にやって大晦日という、プラン通りに去年できたので、今年もそこにしっかり乗って、試合をクリアすることができれば、必然的に大晦日でのタイトルマッチも見えてくるんじゃないかなと思っているので、しっかりと『超RIZIN.3』にも出たいですし、年末タイトルマッチも見据えたうえで、試合をしていきたいなと思っています」
──『超RIZIN.3』は誰と戦いたいと考えていますか?
「誰がいいですかね? 逆に。今日勝ったキム・スーチョル選手でもいいですし、名古屋で対戦がかなわなかった井上直樹選手でもいいなと思っていますし。当てられた選手とやります」
──バンタム級タイトルマッチに近づけるような相手とやりたい?
「はい」
──鈴木千裕vs.金原正徳のメインイベントはご覧になりましたか。
「見ていました。いや、あの金原さんにあの勝ち方する鈴木千裕ってヤバいっしょと思って。一発めのテイクダウン防いだのが大きかったですよね。で、パウンドアウトっていう。テイクダウンができないからああいう打撃でいくっていう選択になったと思うので、一発目のテイクダウンを防いだっていうのが鈴木千裕選手の勝因なんじゃないかと思っていました」
[nextpage]
牛久絢太郎「もっと立ちにいかなくてはいけなかったけど──」
──試合後の率直な感想を。
「そうですね……まあ、あの……まさかああいう展開になるとは僕も思っていなくて。何かこう、全然こう、1Rは相手に力を使わせようと思っていたんですけど、僕がすごい(腕が)パンパンになっちゃって。ちょっと今、原因を調べています」
──太田選手は試合前と、実際に拳を交えてイメージが変わるところがありましたか。
「イメージ通りで、絶対組みの展開になると思っていたので、そこの対処の練習をずっとやってきました。なので、まあ想像通りではありました」
──フェザー級からバンタム級転向初戦でしたが、この試合でバンタム級での手応えはありましたか?
「そうですね、今現時点ではちょっと力が入らなかったというのがあって。それがリカバリ(の問題)なのか、そもそも……まあちょっと、原因がまだわからないので、色々調べます」
──今回、試合を終えて目標・展望を思い描いていたら教えていただけますか。
「ちょっと僕の想像していた試合内容じゃなかったので、今は何も考えられないですね」
──寝かされそうなところで寝かされずに立ち上がることは、ATTで堀口選手がいろんな体勢でもうまく維持できるのを見習って成果としてあったのでしょうか。
「僕の中ではもっと立ちに行くというか、全然動けてなかったなって。もっと展開的には立って立って、どんどんスクランブルの展開に持っていって、というのをイメージをしていたけど、まだ映像を見ていませんが、動けていなかったなっていうのはありますね」
──テイクダウンするほうが疲れるというのもありますが、ディフェンスしてる側が疲れたのは減量を失敗しましたか。
「失敗かは分からないですけど、僕が下から攻めている展開があったのですけど、そうじゃなくてもっと立ちにいくっていうプランをずっとやってきたんですけど、ちょっとそれを見せられなかったです」
──寝かされたときにクローズドガードを組んでしまったのは本意ではなかったのでしょうか。
「そうですね、あそこはもっと立ちにいかなくてはいけない場面でした。『立たないと』というのがずっと頭のなかではあったんですけど、もちろん太田選手が強いっていうのはありますけど──まあそうですね。すみません、答えになっていなくて申し訳ないです」
──何度か下になった展開の中で、太田選手の肩固めのプレッシャーというか、極めきれずとも押さえ込まれしまった形は、打破が難しかった?
「そうですね……僕の中で、逆にあの場面では肩固め狙われて、そこでちょっと空間作って逃げたかったのが強かったです」
──最後も、自らテイクダウンに入って差し上げられました。力が入らなかったことと関係していますか?
「あの場面では流れがよくなかったので、ちょっと流れを変えないとまずいなというのがあって、行きました」
──「力が入らない」というのは、フェザー級のときに経験があったことですか?
「フェザーの時はなかったので、今は原因が分からないという感じなので。だから、本当に分からないです」
──試合前々日の会見で残り3、4kgというお話がありました。そこの減量はうまく行っていましたか?
「そうですね、ずっと66kg、67kgくらいでずっと練習してきたので、そこが原因じゃないなと。そこじゃなくて、ほんとう原因が分からないので、ちょっと……いろんな人のアドバイス聞きながら、次、修正したいと思います」
──今回は通常から何kg落としたのですか。
「バンタムで初戦というのもあって、僕の中でずっと66kg~67kgくらいをキープしてずっと練習やってきて、そんなに大幅に減量で落としたわけではないですね」