ハニがどんなにキツいことをしてきても譲るわけにはいかない
──ビクター、お久しぶりです。いま遠く後方に映ったのは、ジョシュ・バーネットですか?
「ああ、ジョシュ? あっちにいるよ、ほら。(バーネットがグローブなどを出しながら遠くから手を振る)。俺たちは数時間前にこっち(ラスベガス)に着いて、UFCのファイターズチェックインを済ませて、これからちょっと体を動かすんだ。ギアも整い、食事も整い、全部準備ができたからね、練習に入れる」
──そんな練習前にすみません。少し試合について聞かせてください。
「もちろん、何でも聞いてくれ」
──前回のアビダビでのバシャラート戦は厳しいローブローを受けました。ダメージが心配でしたが、その後の回復具合はいかがでしたか。
「腫れが引くのに4日間くらいかかって、歩くのもままならなかったし、氷を当てていなくてはいけないし、しんどかった。空港でも嫌な顔をされたりして、いい気はしないよな。まあそれは仕方ないんだけどね、みんな試合が見たくて来ていたんだからさ。金的を蹴られて続けられないなんてクソだよな。ただドクターもジョシュも揃ってみんな俺のタマの腫れっぷりは見ていたからさ(苦笑)、“どうすりゃいいんだよ”って感じではあったよ」
──2Rにノーコンテストとなったあの試合、1R目の喧嘩四つでもバシャラートのローがビクターの急所に入っていませんか。
「多くの人は1Rの一発目はよく分かってないと思うけど、一発目は蹴られてはいなくてローブローじゃない。でも何ていうか、向こうが足を引いて、相手が技を出す時にかすめるような感じだった。ただ、そこで何が起きたかっていうと、ファウルカップが動いてしまったんだ。1Rを見直してもらうと分かると思うよ。1R後のインターバルの間もずっとカップの位置を直しているのも映ってるんじゃないかな。それで2Rに突入したのだけど、ちょこっと俺のそのナニっていうかアソコがハミ出ちゃっててさ。それで相手の蹴りが俺のファウルカップに当たった時に、ただその衝撃だけではなくて、カップと足の間で、挟まった俺のアレがガチっと噛んじゃうような感じになって、ヤバすぎた」
──……うっ、想像するだけで、腹が痛くなります。練習再開はいつ頃出来たのですか。
「まあ、それからわりとすぐに再開したんだけど、気軽に歩けるようになってからは基本的にトレーニングに復帰した。ただ再開して腫れは引いててもちょっと微妙で、敏感になっている感じだった。時間がかかったのは──男なら分かると思うけど、小便をしたあとにちょっと振るだろ? パンツに残尿が着かないようにさ。その動作をしようとすると、全部位を回り回ってめちゃくちゃ痛いんだよ。その痛みがなくなるまでに結構な時間を要した」
──弱い部分が打撲したわけですから、辛いですね。しかし、それがこのスポーツの一部でもあるという。
「そう、だからそういうのが残っててもしっかりトレーニングはしていた。質問の答えとしては、1週間以内には練習再開できてたかな」
──旧車をレストアする写真を見て、気分転換が必要なのかと思ってました。
「まあその、クルマに携わったことのある人なら分かる気がするんだけど、リラックスするためにやることじゃないね。古い車では、たくさんのカットがあって、ヘッダーをエンジンやその他もろもろに取り付けようとしているときに、作業できるスペースが1/4インチもなかったら、悲鳴を上げてそのクルマを罵倒して、その場から立ち去らなければならないんだ。リラックスするためというより、情熱があるからやっていること。リラックスしたければ、温泉に行ったり、食事に行ったりするほうがいい」
──ああ、それは地道な作業ですね。何はともあれ回復させてトレーニングに臨んだ。カリフォルニアのCMMAではどんな練習が出来ましたか。
「いいトレーニングができたよ。チャド(・ジョージ)もジョシュもハニ・ヤヒーラとは絡みがあってね。しばらくここにいたからさ。だから、情報はたくさん持っている。ただ、すべての試合はその試合ごとに違うから、誰かとの試合である戦い方をしたからって、それを自分にもしてくるなんて限らないわけだし。だからCMMAでの練習も常に変化を取り入れることを重視していて、常に新しい人が入ってくるような環境になっているんだけど。ジョシュが出場した巌流島でラファエル・ロバトJrと対戦した岩﨑大河もちょうどここに来たばっかりで、今週末には日本に帰っちゃうんだけどね。そういうわけで、レスリングの選手から、タイガみたいな空道の選手まで、いろんな選手が来て練習をしているんだ」
──なんと岩﨑選手もCMMAに。様々なバックボーンの選手がいて、ヤヒーラのグラップリングテクニックも熟知していると。やはり彼のグラップリングがキーとなりそうでしょうか。
「何がカギかって? 重要なのはもちろん、自分が取りたい距離をしっかり取って、組み合うときには自分の都合で組み合うようにするということさ。何しろ向こうはADCCのチャンピオンだから、当然ハニは素晴らしいグラップリングテクニックがある。でも、カリフォルニアにはいいグラップラーがいて、自分は世界でも最高の選手たちと練習してこれたんだ。チャールズとケネディのコブリーニャ親子とかね。グラップリングの技術や知識をしっかり学んでおくことと、その強さに対して備えておく必要があったから。そういうわけで、しっかり準備はしてこれたと思ってる」
──ムンジアル王者5度、ADCC王者3度に輝いたフーベンス・シャーレスことコブリーニャとも練習しているのですね。ヤヒーラとはともにグラップラーで、MMAのキャリアも長いという共通点がありますが、スタイルの違いも感じます。
「まあ、俺たちは二人ともそこそこ歳がいってキャリアも積んできたという共通点があるわけだが、主な違いとして言えるのは、まだまだ自分の方が、ファイトすることを愛してるってことだと思う。おそらくハニは他にやれることがなくてやってる。多くの点で同じように感じている相手ではあるんだけど、そこなんだよね。やっぱ俺が好きなのは、トレーニングができることであったり、コーチと一緒にいられること、チームメイトと一緒にできることだし、戦うことを報酬のためだと考えるのではなく、それ以上に何より自分が好きだからやっているんだっていう事実、それ自体を愛せてることなんだよ」
──MMAライフを、厳しい練習と試合とともに愛していると。しかし、ヤヒーラのあの粘り強いテイクダウンや試合ぶりからもそこへの情熱を感じます。
「それは当然、試合の最中というのはやられたくはないし、最善の戦いをしようと努力をするよ。彼の身になって考えればさ、フロリダの内外にいる多くの観衆であったり、ATTというチームであったり、柔術界というものを背負って代表している意識というものを持っていると思う。彼が何を信じて戦っているかっていう部分だ。そういう部分が、彼の獰猛さのようなもの、つまりその技術を追求するところに現れてくるんだよ。
とにかくグラウンドに持ち込みたいと思ったら何がなんでも力を尽くしてグラウンドに持ち込むんだ。それはもちろん彼にとってそここそが最高の好機だから、なぜならADCC王者だからだ。そういう意味でも彼にきちんと敬意を払わなくちゃいけないし、自分としては、自分自身にもリスペクトを持っていなくちゃいけないと思ってる。彼がどんなにキツいことをしてきたからって譲る場面などないわけで、自分は勝つためにここに上がるわけだから」
──際を譲らない、そこがキーとなりそうですね。ジョシュからのアドバイスも?
「RIZINにアリーシャ・ガルシアが出た時のことって覚えてるかな? 随分前だけどさ。そのとき、『自分の顔をパンチしろ』って。同じことだよ」
──SARAMI戦での競り合いのなかでのヘッドキックをよく覚えています。ヤヒーラとの試合でも蹴りは重要になりそうです。
「そうなるかもしれない。ゲームプランをいくつか用意して臨みはするけれど、最終的に、究極言うと自分自身がそこに立って、誰かと戦って倒すっていうことなんだからね」
──闘魂ですね。試合はどうなりそうですか。
「すごく緊迫感のあるものになると思う。張り詰めた緊張状態のなかで意地の張り合いになって、ひとたびどちらかが優位になったら決着する。そういう試合になるだろう」
──試合前にありがとうございました。最後に日本のファンにメッセージを。
「6月22日のジョシュの『Bloodsport武士道』で日本に行くよ。8日間くらいは滞在するかな。みんながオレに会いに来てくれるんだとしたら、そうだな、ジョシュとやらなきゃいけなくなるかもな(笑)」