MMA
インタビュー

【Bloodsport】ジョシュ・バーネットが語る、プロレスはどこから来たのか「世界に普遍的なものがあるとするならば、それは暴力であり、格闘であり、闘争なのだ」=6月22日(土)両国国技館

2024/04/18 10:04

観客の感情を掴むことができなければ、観客からお金をもらうことはできない

──ムエタイのようにボディキャピタルを損ねないように戦うものであったものが、そうでなくなった。となると、プロレスにおいて観客がファイトに影響しているということですか。

「まあ、ある意味ではそうなのだが、観客のためにやるということは決してないということだ。こちらがやることに対して観客が来るという関係性であって、観客自体は自分が求めているものが何かは分からない。あれがいい、これがみたい、こうしてほしい……、もしそういうものに応じてやったりしたら、観客は買ってくれない。それがあって彼らにクリエイターになる能力があるなら、自分で生み出せばいいだけだからだ。あくまでも観客は観客であり、驚かされる側だ。彼らが望むのは我々につくりだす側の取り組みをしてもらって、自分ではやり方が分からない感覚を味あわせてもらうことであって、こちらが観客たちには全く予測できないような経験を与えることなんだ。

 こう考えてみよう。マジシャンは客席に行って『さあ、どんなマジックをやってほしい? どのトリックが見たいんだ? このトリックでどんな体験をしたいんだ?』なんて聞いてきたりはしない。その要望に応じて『さあどうぞ』などとはしないはずだ。マジシャンはマジックを生み出し、そのマジックを使って、ショーを作り上げるのだ。トリックがあってそれによって得られる体験に観客は引き込まれていく。

 そして忘れてはならないのは、それがボクシングであったり(日本語で)“総合格闘技”、あるいはキックボクシングであれ、それがプロレス以外の格闘技であったとて、観客のために戦うのであれば、それはエンターテインメントだ。純粋に戦うだけだとは言えない。

 そう、単に戦う、それは目的として名誉や復讐、正義に反するものといった問題のために戦うことに駆り出された人間は、観客など必要としない。ただやるだけだ。誰かに知られようが、見られようが気にしない。戦う理由そのものが、目撃者や誰かの娯楽、そういったものの欠如を伴わないところから派生したものなのだ」

──たしかに、観客の前で見せる点においては同じです。我々が動物で、血なまぐさい世界で生きていることを定期的に思い起こさせる──プロレスのコンセプトは、いつ頃、どこで生まれたのでしょうか。

「競技だったりリアルファイトにおける、エモーショナルなコンテンツを提供したいと思った人たちによって始まったということだろう。まあ、実際もともとプロレスはリアルファイトであったし、MMAやグラップリングとの違いは何もなかった。しかしながらここで指すプロレスは現代、あるいはポストモダンのタームで考えるプロレスだが、それは観客もだし、試合それ自体の感情的な部分をより昂らせる方法を利用したり見つけるところにあって、今やプロレスには、お金のために観客を操作しようとするようなきらいもあるけれど、どうあれ観客の感情を掴むことができなければ、観客からお金をもらうことはできないわけだ」


(C)Bloodsport

──かつてそれは格闘家たちがやっていた?

「もともとは。ただ、あるところでそれは収まった。それはゴールドダスト・トリオのトゥーツ・モント(※1920年代初頭から中期にかけてレスリング業界に革命を起こした米国のプロレスラー・プロモーター)とかそういう奴ら、ユーコンとかのように、観客を騙して金を巻き上げようとして不正な賭けをさせたりしていて、“どうだどうだ”と挑戦を煽って、“フッカー”とか“リンガー”がカネを戻したりっていうことをしていた。他にも、そういうフッカー、リンガーを使って、本当は強い方の選手を『あいつはあんまり良くないな』なんて言って騙しては打ち負かすというようなことをしていた。それ以外については、観客を操作するような感じで片方を信じ込ませたりして、賭けを混乱させるようなことをやったりもしていた。公開計量や公開ワークアウトをやるのもそのためで、競馬の前にパドックで馬を連れ回して見せるようなものと同じだ。『おお、あいつはマジで強そうだな、あいつに賭けよう』とか印象操作をするところから始まっていた。20世紀初頭の話だ。

 とはいえ、ただ人を騙して金を巻き上げようとしているだけだと考えるような皮肉な話ではなくて、さっきも言ったように、まず観客の感情に影響を与えられなければ、観客からお金を払ってもらうことはできない。広告は必ずしも事実や数字を伝えるだけのものではない。ある商品に対して、ある種の感情を抱かせることで、その商品を買いたいと思うほどの良い気分にさせることだろう? プロレスリングは当時は、見ている人の感情や信念を操作して、そう思わせようとしていたのだ。アスリートへの信頼を作り上げ、その信頼を操作する。この場合、あるいはそうでなければ、こう言えるかもしれない」

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