MMA
インタビュー

【ONE】青木真也が好きな、最後の格闘技「“ゼロイチ”でものを作って戦うこと」=1月28日(日)有明でノースカットと対戦

2024/01/24 17:01
 2024年1月28日(日)、東京・有明アリーナにて開催されるONE Championshipの日本大会『ONE 165』(ABEMA PPV ONLINE LIVE配信)ライト級戦で、セージ・ノースカットと対戦する青木真也が本誌のインタビューに応じた。  13歳下の元UFCノースカットとの対戦に向け、会見後の個別インタビューで聞いたところ、話は意外な方向へと進んでいった。それは、青木真也が“最後”と言ったことに繋がる、20年間愛してきた“優雅で感傷的な”格闘技についての言葉だった──。 チートしてまで勝つことに何の意味がある? ――ノースカット選手と会見で対峙しました。183cmで筋肉質ですが、実物を見ていかがでしたか。 「ノースカット、どうだろうね。組んでみてないしね。でもサイズは別に去年のロシア人のほうが全然、大きいです」 ――サイード・イザガクマエフは……大きすぎました。正直、あれは理屈が分からないところがあります。Eagle FC、UAE Warriorsでもウェルター級で戦っていて、基本、水抜き無しのONEでライト級で戦えるというのは、いったいどんなからくりなのか、と感じます。 「デカいなと思ったし。その意味では、結局試合の話すると、“抜け道”されるのは嫌ですね」 ──イザガクマエフはその後、契約を解除されましたが、原因は不明です。ONEはドーピングチェックを導入していますが、WADA基準でやる抜き打ち検査が出来る団体は、限られるのが現状ですね。 「オリンピックのようにやるのは難しいし、それでもいたちごっこなわけだから……。RIZINのあの木村ミノルの件があって以来、逆にやり方によっては『あ、バレないんだ』と考える選手が出てきてもおかしくない」 ──計量写真を見てそんなに腹筋が割れるのかとか、5Rまったく動きが落ちないなんてありえるのか、ということが増えています。 「ドーピングでいうと、もう言っても仕方ない領域まできてますよね」 ――青木選手はヘルシーな状況でずっと戦ってきた。それは競技人生のことも、その後も続く人生のことも考えて、何よりどう生きるかという格闘技観のなかで戦ってきたように感じます。 「俺は、正直やんなきゃ勝てないなって思ったことはあるけど、別にそれをやって意味ある? と思ってしまいますね。減量ですらそう思います。無理してチート使って落として、パッと戻してまで勝つことに何の意味がある? これは本音です」 ――自分の動きがよく出来ることが重要なのに、相手より大きいこと、より力強いことが重視されている。ドーピングに関しては、マーク・ハントは「それを使っているヤツらは目覚めが悪いだろう?」という言い方をしてました。 「格闘技だけではなく、スポーツが変容している。YouTubeで中田英寿とトッティが対談していて、興味深いことを言っていました。サッカーにもすごいお金が入ってきて、いろいろな投資が入って値段が上がった。凄まじい額を稼げるようになって、いつの間にやら“速く走れる”とか“スタミナやフィジカルが強い”ことが重視され、どんどんサッカーが面白くなくなったと憂いていて……。 (※トッティ「いまはフィジカル重視だ。テクニックではなくすべて機械的に“どのくらい走れて、どのくらい速くて、どのくらい身体が強いか”だ。GPSをつけて100キロ走ったとか、100回ダッシュしたとか、サッカーと走ることは別だ」、中田「そうだね、そこが問題なのに分かっていない人が多い」、トッティ「サッカーは楽しいものなのに。スタジアムに行けば素晴らしいプレーが見られる。ところがいまはひたすら走って走って……めちゃくちゃだよ」、中田「ファンタジーあるプレーはもう見られないね」)  結局、格闘技もお金が入ってきて、より稼げるようになって競争が生まれて、それを奪い合うために、チートで身体を強くして、同じような戦い方ばかりでつまらなくなる。結局“ゼロイチ”で生み出すようなものじゃなくて、高く積み上げて積み上げての争いになってるから、その争いが強化していって、最終的に勝利至上主義になっていく。となると、ドーピングみたいなものになっていくし、究極、格闘技が面白くなくなる」 ――それは格闘技の多様な強さ、深さが追及されなくなって、結果的に弱くなっていくようにも感じます。もうそれは格闘技じゃなくても良くなってくる。 「全部一緒じゃないですか。なぜ格闘技をやってるのか、面白くなくなってきていて。僕が最近感じているのは、やっぱり今の格闘技にクリエイティブする隙間が無いんですよ。じゃあ、誰が面白くなくしてるのか。みんなジャッジだと言う。判定基準がそうしていると。じゃあ、そのジャッジを作ったのは? みんなが“分かりやすくエキサイティングな試合をしなさい”とした。オリンピックスポーツと一緒ですよね。柔道は? 組み合って投げてエキサイティングにして、人が見るのに飽きないものにしなきゃいけない。だから、どんどんルールを分かりやすく、偏ったものにしていった結果です」 ――それを望んでいるのは観客だと。 「そう。客なんですよ、結果的に。なので、それがちょっと行きすぎている感じはしてますね、僕は」 [nextpage] やっぱり「ファイトする」、探求することをやっていきたい ――そんななかで、今回のONEで青木真也の格闘技を見せる。ところで今回のメインが武尊vs.スーパーレックなこともあり、試合はリングで行われます。ケージの技術を磨いてきた青木選手にとって、このことはどう影響しますか。 「リングであることに対しては、まったくどうでもいいよって。それはケージのほうが楽ですよ。でも、別に状況が違うからといって、そうじゃなきゃ嫌だとか──すごい競い合いの中で、その違いも含め、勝ち負けという結果は出るけれども、その勝ち負けにそこまで固執してないのかもしれない。それは昔からですね。競技化してどっちが勝った、みたいなことにどんな意味がありますか、ということをずっと言ってた人だと思うんです」 ――でも「勝敗」は大事にはしてきましたよね。そこを疎かにはしなかった。 「大事にはしてますよ。大事にはしてるけど“それだけ”になったときに今、面白い試合というか、クリエイティブが生まれているかというと、生まれてないわけじゃないですか。だから勝ち負けのみに執着することの疑問は常にありますからね。だから、自分が好きな格闘技、自分が思ってる格闘技をやって、試合をするというだけですね」 ――青木真也が信じる格闘技をやるだけだと? 「潔さはあります、だから。それで負けたんだったらしょうがないじゃんみたいなのはある」 ――今回の相手がそれをぶつけるべき相手かどうかは分かりませんが、でもMMAを40歳になって、27歳のプロスペクトと試合をするとは、想像できていましたか。 「面白いよね。まさかここまでトップレベルとされるところでやれるとは思わなかったです」 ――それはやっぱり、これまでの選択がそうさせたんじゃないですか。 「選択もそうだけど、ここまで続けている人はいるけど、トップレベルである程度のコンディションで整えてできると思わなくて。『じゃあ青木さん、これ最後の試合って引退するんですか』というと、そういうことじゃないんですよ。結局、僕が言いたい“最後”というのは、この1年、(MMAの)試合をしていませんけど、契約下にあって、こうしていつ試合が来るか分からないなか、僕の場合は、常にトップコンディションを作り続けているわけで、それがもうもたなくなってくると思ったんです。ずっとトップコンディションでいられなくなったから、自分の定義するトップリーグの一つにい続けて、そのリーグの戦いの、輪の中心にい続けるのはちょっとしんどい。だから、もう次の試合が“トップパフォーマンスで見れる・やれる最後なのかな”という気持ちがある。『引退』とかって言われると、ちょっと違うんだよなって」 ――誰に聞いても──武田光司選手が青木選手と練習してその強さを語り、あるいは先日話した原口伸選手も「もうボコボコにされました」と言う。練習と試合は異なるものの、それが青木選手の現在地ではないですか。 「彼らは、僕をすごくよく使ってて(苦笑)。要は怪我させられないと思ってるんですよ。絶対になんかあったときに俺がカバーするから。練習してて追い込まれるけど、必ず怪我させないように極めてくれるし、けど思いっきりぶつかっていけるという練習相手の感覚なんです」 ――それは、受けるほうは大変じゃないですか。 「だから僕がたとえば何かあって怪我させると、『うわ、お前かよ』って絶対言われるのもあるし。とにかく『怪我しない、させない』という認識なんですよ。だから、原口さんでもちゃんとやって返す。武田さんはトフィック・ムサエフとやる前とか、練習来て、組みだけで5本、6本、7本独占してやって帰るみたいな感じでしていて」 ――そんなことができる40歳はそうそういない(苦笑)。本当にいい練習相手ですね。 「だからいいように使われてて。別に金よこせって言わないけど、なんかちょっとくらい俺に言ったほうがいいよって(笑)。そういう練習相手になりつつあって、それくらいの技量ができちゃうようになったんですよね。いまだにトップパフォーマンスでいられるのは、唯一の誇りだけど、だんだんそれがキツくなってきたのと、あと、別にやるのはやれるんだけど、練習も好きで続けるんだけど、試合するとめちゃくちゃ仕事が増えるわけですよ、みんなプロモーションができないから。そうなると、俺がやるのか、みたくなると……いまの状況で、そういった仕事にそこまでしがみつこうともあんまり思ってないというのもあるんですよね」 ――でも、本当にやることが多いMMAの中で、自分の強さが進化していることも感じているのではないですか。 「ある。組み合わせもあるし、まだ“やってる妙”の面白さはあるんだけど、新しい子たちが出てきて、リズムが違う。リズムとか発想が違う。あともう一つ言えるのは、僕って、たとえば昔からゼロイチのものを作ってきた。技術体系でも。マイキー・ムスメシが言った“アオキロック”とかも本当にそうで、自分がクリエイティブとして作ったものが、今、ゼロイチが出来なくなった。それはたぶんマスコミとかもそうですよね」 ――たしかに、ゼロからイチをつくるような手間暇をかけられる状況が減ってきています。 「難しくなった。時代の流れもある。時代の流れで格闘技でも整理されちゃって“隙間”が無くなった。じゃあ今、ファーストコンタクトで引き込むって、知ってはいても怖くてできない」 ――……それは勝利を求めるファイターであるということでもあると思います。 「知ってはいるけど怖くてできないです。そのくらい賢くなっちゃって、成功体験もしたけど、失敗の体験もあって、引き込むようなことが出来なくなっていますよね。それはやっぱり弱さだと思うんですよね」 ――ある種の弱さかもしれませんが、一か八かで試合をしない強さではないですか。 「強さでもある。でもやっぱそうなると作れなくなってきてるから。去年、修斗で後藤丈治対須藤拓真さんの試合(※須藤が内ヒールフックで勝利)があったときに、“ああ、こういう作り方でこうやって足関節を取れるんだ”と思ったときに、“この技術は分かるけど、俺はこの戦術できねえな”と思ったんですよ。そのときに、もう若い子たちの発想とは違うなと思いましたね」 ――その須藤選手は次戦でその仕掛けを齋藤奨司選手に凌がれ敗れています。青木選手は試行錯誤を重ねて、ボトムになるかもしれないリスキーな仕掛けを、トップからの仕掛けに作り直して一本を取ってきたのではないですか。 「リスキーだから、僕もやれって言わないけど、こういう発想あるんだなって」 ――現在進行形のアオキロックも含め、これまでゼロからイチを作ってきた青木選手の格闘技が見られる、見せることが出来る最後の試合になると考えていいですか。 「今回はまだいけるんだろうなと思ってはいる。まだいけるんだろうなと思ってるからこそ、勝負もするし、トップリーグのその上のトップコンテンダーでいるのは難しいかもしれないけど、やっぱり“ファイトする”というか、追求することをやっていきたいんです。イメージが湧き辛いと思うけど、イチローが引退するとき『探求者になりたい』と言ったけど、そういう世界観に近いものがあります」 ――その探求を人と人が文字通りフルコンタクトする格闘技で、やると。その点で、セージ・ノースカットは正直、未知数で怖さもあります。 「どこまでのモチベーションがあってやっているのか分からないけど、でもさっき言ったように去年、イザガクマエフとやったのがけっこう俺の中で大きかったんですね。この大きさはキツいなと思ったのがやっぱりあって、そういった意味での強さは、なんか見えた感じはするんです」 ――その種の強さが、ノースカットにもあるかもしれない。 「まあ、なんだろうな……格闘技で『本物』みたいなことをみんな言うじゃないですか。でも今や、本物も偽物もなくて、誰もがてめえの好きなことやってるわけで、『本物』云々と言うこと自体が、自分で偽物であることを言ってしまっているような気がして……。僕は、自分が思っていた格闘技が出来ているし、自分がかっこいいと思う格闘技を出来てるとは思うんですよね」 ――自分が思うところの格闘技を次の試合で……。 「次の試合で一生懸命やるんで、観てみてください!」
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