MMA
インタビュー

【RIZIN】アーチュレッタが朝倉海に「失望した」理由とは? 「TUFで交錯した扇久保と戦うことになるなんて」=インタビュー全文

2023/07/26 12:07
 2023年7月30日(日)さいたまスーパーアリーナで開催される『超RIZIN.2』で、欠場の朝倉海の代わりに参戦する扇久保博正(パラエストラ柏)と、「RIZINバンタム級(61.0kg)王者決定戦」を争うフアン・アーチュレッタ(米国)が25日、本誌の取材に応じた。  試合から10日前の7月20日には来日を果たしていたアーチュレッタ。「東京に来て、準備万端だ」と絶好調の様子。  しかし、来日直前に朝倉海の左膝内側側副靭帯損傷による欠場を伝えられたことには、失望の色を隠さなかった。  前回の試合直前に、愛娘の手術で来日が困難となるなか、決戦に臨んでいたことを明かしたアーチュレッタは、朝倉海へ伝えたいこととして、「朝倉海、なぜ欠場する羽目になったりするんだ? 君にとって一世一代の試合だった。黄金を手に掴めるかもしれなかった機会を、みすみす指の間からこぼしてしまった。君にはとても失望した。俺たち双方にとって最大の機会をダメにしたばかりか、日本のファンを失望させた」と悲しげに語ると、怪我を完治させての対戦については、トーンダウン。 「とても遺憾なことだが、海は自身の弱さを露呈した。次に戦う機会があったら、彼のどこを攻撃すれば良いか分かった。それは海のハートだ。海は戦士のハートを持ちあわせていない。もし俺たちが戦うときが来たら、それを晒してやるよ」と酷評した。  一方、スクランブル参戦を決めた扇久保に対しては、開口一番「急なオファーを受けてくれてありがとう。君は真のチャンピオンだ。俺は知っている、君が朝倉海を倒し、井上直樹も倒したことを」と、バンタム級GP覇者を賞賛。  TUF24では、レスリングコーチと選手として、扇久保と対面していたアーチュレッタは、扇久保の実力を認めた上で、「だが1点、俺と君には違う点がある。俺は君を倒したキム・スーチョルに勝っている。試合当日は、ともに戦い、互いの“戦士の魂”を試そうじゃないか。俺は自分の勝利を確信している。もう一度言おう、熱い戦いをしよう。俺も最善を尽くす。7月30日は忘れられない日になる。それは僕だけでなく、みんなにとっても。とんでもない地獄の戦いになる。扇久保との戦いが待ち切れない。扇久保をボコボコにして、ベルトを肩にかけて天に掲げて、皆に誇らしく思ってほしい」と、必勝を誓った。  スペイン系とメキシコ系の両親を伴い、来日を果たしたアーチュレッタは、7月30日を戴冠記念日とするつもりだ。  アーチュレッタとの一問一答全文は、以下の通りだ。 僕と娘は一緒に戦い続けている ――今回の来日はいつでしたか。 「木曜日、試合10日前だね」 ――ほかの選手よりは早めの来日ですね。日本のこの夏の気候はいかがですか。湿度もあって体重を落とし辛いという選手もいます。 「砂漠で生まれて暑いところで育っているので、この暑さは逆に、僕にとってはいいことだと思っているよ。前回は体重を落とし過ぎてしまったから、今回はより筋肉をつけて落とすことにしている」 ──ところで5月の井上直樹戦後、予定を早めて帰国しました。体調はいかがでしたか。 「いくつかの要因があるんだ。一つは僕の身体を確実に回復させるため。あれだけの戦いだと消耗は大きいからね。でも大丈夫、しっかり回復した。もう一つは娘のところに戻るためだった。少し前に手術を受けたばかりでね」 ──娘さんのことは試合後のマイクでも話されていましたね。あなたが日本に行く直前に手術をされたとか。 「そう、娘は線維症を患っているんだ。皮膚になんだけどね。何度か手術で除去を試みているんだけど、今回首の上の方に来てしまい、できるだけ早く取り除く必要があった。僕の試合の1週間前だったからちょっと怖かったよ。でも娘は『ダッド、私は大丈夫よ。行って勝って来て!』って言ってくれた。それで僕も俄然試合に向けて気合いが入ったよ。娘が僕の試合を楽しみにしている、大きなモチベーションになったよ。『俺は俺の戦いに、お前はお前の戦いに立ち向かうんだ』ってね」 ──親子がそのような状況下に置かれた時、果たしてあなたのように強い心で仕事に臨めるのか……。娘さんの状況がトレーニングに影響することはなかったのですか。 「イエスであり、ノーでもある。僕らはずっとこの問題と向き合っているから、どう対処するかも分かっているんだよ。彼女が僕のモチベーションであるのと同様、僕は彼女のモチベーションなんだ。彼女のダッドが試合に負けてしまうこともあった。でも、そんな厳しい状況でも前に進み続けなければいけないということを見せてきた。彼女の手術も同じだ。彼女が勝つこともあるけど、時には『奴ら』が勝ってしまうことだってある」 ──……。 「でもそこで諦めちゃいけないんだ。進み続けないと。僕と娘は一緒に戦い続けている。クールなことでもあるよ。お互いに力を与え合っているんだから。これは僕の戦いのキャリアにずっとついてまわっているインスピレーショナル・ストーリーなんだ」 ──今回の手術後の経過はいかがですか。 「赤ちゃんの頃から、何度も繰り返しているからね。がんでは無いから、それが出てくるたびに切って取らなきゃいけない、手術をしなきゃいけないということで、理由も分からないのだけど、手術後、いまは全然元気にしているよ」 [nextpage] 朝倉海は、ハートの弱さを露呈した ――さて、日本では7月17日に朝倉海選手が「左膝内側側副靱帯損傷」による欠場会見がありました。その知らせを聞いて、まず率直にどう感じましたか。 「まず、非常に残念に思ったよ。7月初めに怪我をして全治6週間だと。そこから30日後に試合だった。戦うことというのは──僕も前戦で怪我をした通り、ファイトキャンプも含めて、パーフェクトな状態ということはありえないわけであって、やっぱりそこはウォリアー(戦士)、選手としては、それであっても戦うという意気込みであるべきだと思う。  なぜ欠場する羽目になった? 彼にとっても一世一代の試合だった。黄金を手に掴めるかもしれなかった機会を、みすみす指の間からこぼしてしまったんだ。彼にはとても失望した。俺たち双方にとって最大の機会をダメにしたばかりか、日本のファンも失望させたんだ。  今回、朝倉海が出られなくなったことに関しては、正直言うと、彼のウィークネスというか、弱さをやっぱり露呈したことになって、もし次、彼と戦うことがあるのであれば、やっぱりそこが自分としては勝負ポイントになってくると思う。彼のどこを攻撃すれば良いか分かった。それは海のハートだ。海は戦士のハートを持ちあわせていない。もし俺たちが戦うときが来たら、それを晒してやるよ」 ――怪我はコントロールできる部分とそうでない部分もあるかと思います。ただ、アーチュレッタ選手も朝倉海選手を対戦相手に想定した練習をしてきたと思います。ストライカーからグラップラーの扇久保博正選手に相手が変わってしまって戸惑いや、アジャストメントはいかがでしたか。 「宮本武蔵の考えや教えにあるように、『己との戦い』だ。いかに自分に勝つかということを重要に考えているので、相手がどうであれ、相手が変わろうとも、自分がやるべきことは一緒だと。僕のゴールは、日本でベルトを獲ることで、クイントン・ランペイジ・ジャクソンだったり、ダン・ヘンダーソンであったり、PRIDEで自分が影響を受けた、そういう人たちのように、日本でのベルトを獲るということが自分のゴールであり目的なので、相手が誰であろうが変わらないよ」 ――とはいえ、扇久保博正選手はRIZINバンタム級ジャパンGP 2021優勝者です。彼にどんな印象を持っていますか。 「まずは、ヒロ(扇久保)、急なオファーを受けてくれてありがとう。彼は真のチャンピオンだ。俺は知っているよ。彼が朝倉海を倒し、井上直樹も倒したことを。だが1点、俺と彼には違う点がある。俺は彼を倒したキム・スーチョルに勝っている」 [nextpage] ヒロはパントージャに勝つと予想されていた ──米国で『ヒロ』と呼ばれていた扇久保選手は2016年の『The Ultimate Fighter 24』で、ジョセフ・ベナビデス率いるチーム・ベナビデスに所属し、フライ級トーナメント決勝まで勝ち上がっています。あのとき、アーチュレッタ選手とも練習で組んだと聞いています。 「そうだ。TUF24は『トーナメント・オブ・チャンピオンズ』で、世界中からフライ級の王者が集まっていた。ヒロは日本の修斗のチャンピオンとして参加していたよね。僕は当時、すでに前にいた団体のKOTCの王者で、4回目の防衛戦(※KOTCではフライ、バンタム、ライト、ジュニアウェルター級の四階級を制覇)のときだったけど、ベナビデスが当時のスパーリングパートナーだったので、彼のチームのレスリングのパートナーとか、出場選手たちのコーチというような立ち位置でここに参画した。ちょうど自分もタイトルマッチ前だったから、調整も含めて、非常にいい環境で練習ができたよ」 ――そのときの扇久保選手のことは覚えていますか。 「まだ自分が当時はMMAファイターとしては2年目だった。僕もタイトルマッチ前の練習の一環としてやっている中で、ヒロはすごく強かったし、上手だった。いろいろなものを僕に見せてくれたし、僕もレスリングを教えた。非常にいい刺激を与えあったと思うよ」 ──扇久保選手がTUF24で、3試合を勝ち上がったこと──その準決勝でアレッシャンドリ・パントージャを下した試合をどう見ましたか。 「もちろん覚えている。ヒロは、いまUFC世界フライ級王者のパントージャに判定勝ちした。こういう展開になることを、彼とか彼の周りは、ヒロの持っている能力を見て、確信していたよ。とにかくパントージャをテイクダウンして立たせないようにしてドミネートする。事前にそういうことを言っていて、その通りに遂行したのはすごかった」 ――その扇久保選手とまさか7年後に試合をするとは……。 「このMMAというスポーツは非常に不思議なもので、対戦相手として出会うときもあれば、離れることもあって、交錯している。ヒロは、決勝でティム・エリオットに判定負けして準優勝となったが、エリオットやパントージャ、ブランドン・モレノ、カイカラ・フランス、マット・シュネルらがUFCと契約するなか、ヒロはUFCとの契約がかなわなかった。彼はUFCで戦うにふさわしい戦績を残したのに。優勝すれば王者のデメトリアス・ジョンソンへの挑戦権を獲得できていたはずだ。しかし、その後、RIZINで活躍し、GPで優勝し、Bellatorファイターの僕と戦う。こんな邂逅があるなんて、非常に不思議というか、面白いと思うよ。そういったことの繰り返しなんだ。このスポーツは」 ――このパントージャ戦を見ても分かる通り、お互いにストロングポイントが似ています。扇久保博正選手をどう警戒していますか。 「ストライキングとかレスリングとか柔術とか、あるいはキックボクシングのように、一つひとつが分かれてしまうような展開ではいけないと考えている。ヒロのような相手と戦うには、すべてが一つになったような形で戦っていかなくてはいけないし、それが各パーツに分かれたところが弱点になっていくだろう。つまり、まさにミックスト・マーシャル・アーツという、MMAとして一つになったような動き、戦術を含めて、それが体現できるところが、自分にとってキーポイントになるし、それが欠ければウィークポイントにもなりということさ。そして注意すべきもうひとつは、RIZINのルールセットだ。その経験はヒロの方があるけど、僕ももうしっかり頭と身体に入っている」 ――そのMMAとして融合した力を球状としてとらえると、扇久保選手の球より、アーチュレッタ選手の球の方が一回り、大きいと評価することもできるかと思います。それは適正階級も含めて。 「その通りだ。まずはカーディオというか、そういったスタミナの部分においても、彼がこれくらいの円だとしたら、僕はもっと出せるだろうし、もし彼がもっと出せば俺ももっと出す。それは力やスタミナのみならず、テクニックにおいても同じで、彼がテクニックを駆使してきても、僕もその上を出す。どの部分においても、僕が彼が出す以上のものを出していくだろう」 ――扇久保選手にはアーチュレッタ選手の球を突き破る部分もあるのではないでしょうか。 「どうだろう、あえていえば彼の極真空手の蹴りは警戒している。オーソドックス構えから左の蹴りを巧みに使うよね。でも、その蹴りが出ないような距離に詰めていくこと。もし出しても、その瞬間、インパクトのポイントに僕はいないよ」 ──となると、互いのスクランブルの勝負になる。 「互いの“戦士の魂”を試そうじゃないか。僕は自分の勝利を確信している。熱い戦いになるだろう。彼も命がけだろうし、俺も最善を尽くす。7月30日は忘れられない日になる。それは僕だけでなく、この戦いを見るみんなにとっても。とんでもない地獄の戦いになるだろう。ヒロとの戦いが待ち切れないよ。扇久保をボコボコにして、ベルトを肩にかけて天に掲げて、皆に誇らしく思ってほしい」 日本で望まれるチャンピオンになりたい ――日本でRIZINのチャンピオンになることは、アーチュレッタ選手にとってどんな意味を持つのでしょうか。 「この戦いは自分にとって人生なんだ。ファイトキャンプもそうだし、怪我もそうだし、相手が変わること、もしかしたら家族に何かあっても──僕は戦いの場に自分の身を置くこと、それがファイターとしての生き方だし、それ自体が僕の生きる意味でもある。これが僕の人生なんだ」 ――そのベルトを獲ることが出来たら、日本でももっと防衛戦をしてもいいと思っていますか。あるいは米国でRIZINのベルトの価値を高める試合をしていくのか。 「日本で試合することが、非常に大好きなんだ。RIZINのオーディエンスに、格闘技の母国のひとつとしてのファイターへのリスペクトと、格闘技への深い理解がある。憧れた国なので、この国で試合をして行きたいけど、一番重要なことは、この国でいかにファンに求められるか。求められているところで、しっかり自分が結果を出して、そこでまた自分が戦いを望まれて試合をすることが重要だ。もしもそうじゃないなら、米国に戻って試合をすることになる。僕がRIZIN王者として、戦う。それを望まれるチャンピオンになりたい」 ──分かりました。減量に向かう厳しい練習の合間に、インタビューを受けていただき、ありがとうございました。最後に日本のファンにメッセージを。 「今回は、父と母(スペイン系とメキシコ系の両親)も来日するんだ。ファンのみんなには、“俺たち”がタイトルを勝ち獲り、ベルトを肩にかけ、腰に巻いたら、こうして声を挙げてほしい。『スパニヤード! スパニヤード!! スパニヤード!!!』と。それが“俺の日”の証だし、みんなにとっての日にもなる。押忍!」
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