帰ってきた柔術の鬼神「誰かがこのタイトルをかけて戦うのは正当ではない」
ギリギリまでの減量のダメージとリカバリーの難しさ、さらに本計量後の公開計量でもファンの前で計量ミスを謝罪したメンタルをサトシは心配した。いつものように戦いに向かえるのかと。
「フェイストゥフェイスも(下を向いて)全然違ったし、試合の日は彼の頭(気持ち)が心配だった。試合当日の朝までは彼はまだ普通ではなかった。リングチェックもやってなかった。でも、彼がバンテージを巻いてからは普通に戻った。スイッチが入った」
バンテージを巻いてオープンフィンガーグローブを着け、セコンド勢とハグをかわしたクレベルは、マットに跪いてから、リングインした。その表情はすでに鬼神と呼ばれるものだった。
20パーセント減点。判定になれば挑戦者に有利な状況下、クレベルは鈴木につけ入る隙を与えず。鈴木の打撃に自らも左右を振って、シングルレッグ(片足タックル)からボディロックでテイクダウン。すぐにマウントを奪い、三角絞め狙いから腕十字に切り替えて、タップを奪った。
試合後、クレベルは400gの体重超過を「ときにコントロールできないことがある。神がそうしたかったのだと思う」と振り返り、「どの時点で勝てると確信したか?」の問いには、「勝ちを確信したのは昨日。(体重)オーバーした瞬間、自分は絶対に勝つと確信しました」と語っている。
そして、手放したベルトを再び取り戻す決意を示した。
サトシは、コンディションが良くないなか、それでも強さを見せたクレベルを「レベルが違う」と評した。
「400gオーバーしたけど、試合ではまた魅せたね。レベルが違う。彼の気持ちは分かる。ベルトを獲るまで道が長かった。今回頑張ったけどしょうがない。絶対に今年中にベルトを取り戻せるから頑張りましょう」
クレベルも王座戦について、自身に優先権があると信じている。
「正当に考えて、朝倉選手とケラモフ選手の勝った方とタイトルマッチをやるのが正しいと思います」
ベルトを剥奪された元王者が、変則王座戦で一本を極め、ベルトを取り戻すべく、次戦で王座戦が組まれた例がある。
2022年5月の『UFC 274』で当時のライト級王者シャーウス・オリヴェイラ(ブラジル)が0.5ポンド(226g)体重超過。王座を剥奪されたオリヴェイラは、変則王座戦でジャスティン・ゲイジーを1R リアネイキドチョークで極めた。
試合後、ダナ・ホワイト代表は「オリヴェイラは、彼が最強で最高の人間だと証明した。いいか、彼は、漢だ。ただ、ルールというものがある。彼は体重を作れなかった。だがいいか、みんな、プレスだろうがファイトファンだろうが、皆の心に“彼がチャンピオンだ”という意識は、はっきりと存在しているんだ。しかしながら、テクニカルな意味で、今大会の結果において彼はナンバーワン・コンテンダーとなっている」と語り、記者から「どうあれ次のタイトル戦の片側には彼の名があると?」と問われ、「100パーセントだ」と語っている。
その言葉通り、試合を評価し、元王者に敬意を表したUFCは、同年10月のイスラム・マカチェフとの「UFC世界ライト級王座決定戦」の機会を与えている。
大会前日に、榊原信行CEOは「クレベルが勝ってノーコンテストに持ち込むことになれば、次、我々が一旦預かるベルトをかけて、タイトルマッチに持っていけるんだろうなと思います」とコメント。
大会後には、「朝倉未来vs.ヴガール・ケラモフが次期挑戦者決定戦」となり、その勝者がクレベルと「王座決定戦」を戦う流れについて、「そういう流れになるのかなと思いますけれどね」と、大筋で認めつつも、「クレベルがこれでタイトルマッチの挑戦権を得たということでもないのかなと思っているので。そこも含めて7月のケラモフと未来の試合をどうするのかも少し考えて、この先の大会の中でフェザー級のタイトルをどこでどういう形にするかを考えたいと思います」とも語っている。
果たして「空位」のRIZINフェザー級のタイトルマッチは、いつどんな形で組まれるか。
5連勝中だった鈴木を相手に、圧倒的な強さを見せたクレベルは、「今日の試合も自分は負けていない。いま自分の腰に実際にチャンピオンベルトは無いけれども、自分の名前がチャンピオン。誰かがこのタイトルをかけて戦うのは正当ではないと思っています」と語っている。
7月30日の『超RIZIN.2』で勝つのは朝倉かケラモフか。クレベルは、その勝者を待っている。