MMA
インタビュー

【RIZIN】金太郎の告白──「僕はイップスじゃない。試合で前に出られなかったのは……」

2023/04/06 20:04
「『イップス』になってます。昔当たり前にできてた前に出ることができません」──RIZINで4連敗を喫した金太郎について発した「周囲の言葉」が、金太郎自身の言葉として拡散されている。金太郎に確認すると、「イップスではないです。あの試合で前に出られなかったのは別の理由がありました」と、それまで口を閉ざしていた金太郎が、明かした。  2023年4月1日(土)丸善インテックアリーナ大阪(大阪市中央体育館)にて『RIZIN.41』が開催され、第5試合のバンタム級(5分3R)では、3連敗中の金太郎(パンクラス大阪稲垣組)と、DEEP同級暫定王者の石司晃一(フリー)が対戦した。  オーソドックス構えの石司に対し、サウスポー構えの金太郎は、互いに立ち位置の取り合いで慎重なスタンドの攻防から、最終ラウンドに石司が組んでバックコントロール、接戦をスプリット判定で制した。  試合後、金太郎を心配する周囲が、「イップス」だとSNSで発したため、一気にそれが事実として拡散された。それは本人の意図するところだったのか、金太郎に聞いた。 試合1週間前に左の拳を剥離骨折していた 【写真】試合から5日経った左の拳の腫れはまだ引いてはいなかった。 ――『RIZIN.41』で石司晃一選手と対戦した金太郎選手ですが、試合後、ネット上で「イップス」になっていたというコメントが出ていて、それはご本人がそう感じていることなのか、確認したく連絡させてもらいました。 「周りは心配してそういう風に言うんですけど、やっぱり僕は競技者やから、僕にしか分からないことがあるんで、そこはこういう場でしか言えないなという気持ちがあって取材を受けさせてもらいました」 ──イップスは、「集中を必要とする場面で極度に緊張を生じ、無意識に筋肉の硬化を起こし、思い通りのパフォーマンスを発揮できない症状」だといわれています。かつてはイチロー選手も体験したという、この症状にかかっているという言葉が、金太郎選手本人ではないSNSから拡散されてしまい、ネット上では金太郎選手の言葉のように広まっているので、話せる範囲で事実を確認させてもらいたいと思いました。 「正直、イップスではないんです。攻め手を欠いたのは気持ちの問題ではなかったです」 ──周囲からは、試合前に万全ではなかったことも聞いています。ファイターは誰しもが万全ではないにしても、その程度もある。試合後にそれを言うのは躊躇われるかと思いますが、今回の騒動には、それも関係しているのではないですか。 「何を言っても言い訳になるので言わなかったんですけど……そこまで聞いているなら。試合後の会見でも言わなかったんですが、イップスと誤解されているようなので……今回、前に出られなかったのは怪我の問題が大きくて。武器というか、自分は左ストレートが得意なんですけど、その左の拳を試合前に剥離骨折して、試合中にもまた痛めてました」 ――そうだったんですか……痛めたのはいつ頃に? 「試合の1週間前ですね。それも治したばかりの左ヒジが影響していて、前回の堀口選手との試合後に──関節ねずみってわかりますか?」 ――はい。関節の中に、軟骨や骨のカケラが遊離して、関節の間にねずみがはさまると痛みとともにヒジが動かせなくなる。 「前回の試合後に、その手術をして関節ねずみを除去したんです。治して、左ストレートがしっかり伸びるようになってたんですけど、それが試合の3週間前に急にまた再発して……」 ――ヒジが伸びなくなった。 「はい。急に左のストレートが伸びなくなって、すごい痛みが走って。その時点で試合をどうしようかって話になったんですけど、昨年ぎっくり腰で欠場してしまったことがあったので、そのときの自分の不完全燃焼さというか、そのときのやるせない気持ちを覚えてたので、何とかまっすぐ左手が伸びない分、左のオーバーハンドを使って戦おうという意識に変えたんです。いつも打たない左のオーバーハンドをかなり練習して、だいぶいい形になってきて、当たり出したところで、最後の練習で左のフックを打ったときに相手の頭を殴ってしまって……」 ──一番の武器の左拳を最終日に痛めたと。 「だから、今回は自分に運がなかったと思っていて。イップスで身体が動かなかったのではなくて、怪我があって左ストレートを打てないから、ああいう試合になった。それでもみんなどうにかして試合をするわけで、自分の場合は、1ラウンド目の1発目の左ストレートで、ものすごい痛みが走って、身体に。1ラウンド目からイップスとか関係なく、打つ制限が身体にかかってしまってたんです。ヒジにも拳にも痛み止めの注射を打って出たのに、1発目で“打てない”って」 ――それで序盤から入れなくなっていた。 「そうですね」 [nextpage] 試合前に予約していた手術を、来週します ――試合を見直すと、左の蹴り、ヒザもカウンターのいいタイミングで入れていたりもする。それは左ストレートが使えなかった影響もあったのですか。 「いつも僕あんまりパンチをもらわないんです。練習で強いスパーリングをやるときも、あまりパンチをもらわない。それは足を使って避けて、自分のタイミングで打つから。だから、ガンガン行くときと、カウンターを取るときで、試合中でもガラッと攻め方も変わる。  ただ、今回は左手をあまり使えないから、やっぱり出せるパンチが少なかったので、足を使いながら、ほんまにいいタイミングのときしか打たなかった。パンチの数が少なかったのも、これ以上拳を壊してしまうと、このラウンドを戦えなくなるな、という防御反応が身体に働いてしまって。蹴りとかでごまかしながら、最悪なパンチはもらわないようにしていたという感じなんですけど、やっぱりそれじゃあ勝てない。どうしてもそういう戦いやと判定になるなと」 ――なるほど。石司選手は終始、間合いを詰めてきた。それでなおさら打つタイミングが難しくなっていたこともありますか。 「いや、いつもの感じだと前に来てくれるほうがやりやすいです。自分も連打を打つのが得意なので。石司選手みたいにデカい選手に遠い距離で戦われるとけっこう厄介で、一発当てるのも大変やと思うんですけど、ただ、前に来てくれたから、まだミドルが当たったり、ローが当たったり、ちょっと交差したり、そういう展開があった。もし、石司選手が後ろにも下がるタイプやったら、正直お互いなんもできずに終わってたんちゃうかなと思います」 ――そのくらい手数を絞らなければいけなかったと。石司選手も「カウンターを狙っているのを感じたけど、予想以上に打ってこなかったので、自分も相手のペースに合わせてちょっと見すぎてしまった」と語っていました。その動きは、イップスによる影響ではなかったのですね。 「そうですね。もし気持ちが折れててイップスの怖さがあったら、たぶん試合に出れないです。このヒジの手術から始まって拳の怪我をして、それでも“うまく戦えば勝てるやろう”という変な根拠のない自信もあったので。そこは届かなかったんですけど、自分的にも、試合を受けた以上、自信もあったから、この状態でもまあなんとか勝てるように出来ると思って出てるし。直前の剥離骨折とかは、もう直前すぎて、こんなところで断れるわけがないという、自分のプライドもあったので。試合で前に出ようとも思ってたんですけど、序盤の左ストレートを打ったときに──初めてその痛みを無視して思い切り試合で開放したので、リミッターを外して打った1発目に、予想外の痛さが走ったという、それで手数を絞ってタイミングを待つ形になった感じですね」 ――そんななかでも勝ち切らなければならないのが試合で、MMAではほかのプランもあったかと思います。テイクダウンを混ぜることに関してはあんまり考えなかったですか。 「いや、めっちゃ四つの作戦はあったんですよ。相手は身長がでかかったので、ウエストがけっこう細いイメージなので、四つ組みでテイクダウンを狙ってたんですけど、左ストレートを打ったときに、頭から吹っ飛ぶくらい、激痛が走って。下手に組むと、手を使うじゃないですか。だから、その作戦も1ラウンドの1分目くらいで一気に無くなった。だから、正直、立ちでも組みでもいくつかのプランを考えてきたんですけど、変更せざるをえなかったです」 ――簡単には思い通りにさせなかった石司選手の強さもあるなかで、結果はスプリット判定負けでした。試合直後には、「“思い通りにいかんな”と。それは全部自分次第なので、言い訳なく、みんなを喜ばしたい気持ちはあるんで。簡単に“またやります”とは言えないけど、信じてくれる人のためにも、やらないとなって思っています」と語っていました。まずは怪我を治すことからでしょうか。 「実は、試合前から予約していた左ヒジの手術を9日後に行います。拳は、めちゃくちゃ腫れたので試合終わってすぐ病院に行ったんですけど、手術の必要はなく、腫れがひくのを待てばいいと。ヒジは内視鏡の手術なので、メスは入れないから、どちらも1カ月くらいあれば完治する予定です」 ――結果としては、四つ黒星が並んだ形です。いずれも強豪相手ですが、いったん怪我を治す必要がありますね。 「そうですね。ファンにも心配をかけてしまいましたし、今回はタイミングが悪かっただけで、幸いめちゃくちゃ大きい怪我ではなくて、手術をすれば治る怪我なので、しっかり治して、次もし試合できるなら、8月とか9月とかくらいに復帰して、完璧な状態で、全員黙らしたろうって思ってます」
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