2023年3月10日(日本時間11日)に米国カリフォルニア州サンノゼのSAPセンターで開催の『Bellator 292』にて、優勝賞金100万ドル(約1億3千万円)の「Bellatorライト級ワールドグランプリ」(5分5R)が開幕する。
日本ではU-NEXTでライブ配信される同大会で、GP1回戦の2試合が行われる。
ひとつは、Bellator世界ライト王者のウスマン・ヌルマゴメドフ(ロシア・16勝0敗)と、元UFC世界ライト級王者のベンソン・ヘンダーソン(米国・30勝11敗)による、GP1回戦&ライト級王座戦。
もうひとつは、RIZINワールドGP2019優勝のトフィック・ムサエフ(アゼルバイジャン・20勝4敗)と、7連勝中の強豪アレクサンドル・シャブリー(ロシア・22勝3敗)によるGP1回戦となる。
シャブリーは、ACB、Fight Nights Global等、ロシア主戦場時代から強い圧力と破壊力ある打撃を誇り、右の打撃だけでなくスイッチしての左フック、左ヒザも対戦相手に脅威を与えている。
UFCとの契約を目指していたが、2021年5月にBellatorデビュー。アルフィー・ディヴィスに判定勝ちすると、12月にボビー・キングも渋い塩漬けにして判定勝ち、2022年6月の前戦では元王者のブレント・プリマスを2R、右ストレートからの左フック、パウンドでTKOに下した。
対するムサエフは、RIZINのGPでダミアン・ブラウン、ジョニー・ケース、前Bellator王者パトリッキー・フレイレを下して優勝。コロナ禍のなか、2021年6月に1年6カ月ぶりに復帰し、ホベルト・サトシ・ソウザに三角絞めで一本負けも、2022年7月の前戦でBellatorに初参戦し、当時ライト級1位のシドニー・アウトローを27秒、TKOに下し、衝撃デビューを飾っている。
フロリダATTでも練習するロシア西部のロストフ・ナ・ドヌ出身のシャブリーと、フロリダのキルクリフFCで練習するコーカサスのムサエフによる、強豪同士の潰し合いで、準決勝に進むのは?(text by Isamu Horiuchi)
自分ではストライカーだと思っている
──ここまで22勝のうち11のKOと7つの一本勝ち。極めて高いフィニッシュ率を誇るシャブリー選手です。最初に経験した格闘技は?
「小さい頃から空手をやっていたよ。松濤館流を5年ほどね。その後、16歳の頃にMMAを始めたんだ」
──リョート・マチダ選手や堀口恭司選手と同様、伝統派のバックグラウンドを持っていたのですね。
「そうだ。その後もタイボクシングの練習も積んできた。だから自分はストライカーだと思っているよ」
──あなたの所属はロシアのペレスヴィエット・ファイトチーム。ですが、フロリダのATTでも練習されているのですよね?
「そうだ」
──ペレスヴィエットファイトチームには、ONE Championshipのフェザー級に参戦し、現在までMMA無敗の戦績を誇る注目のシャミール・ガザノフ選手もいますが、一緒に練習をしているのですか?
「僕のチームメイトであり、スパーリングパートナーさ。もう4、5年一緒にやっているよ。柔術が上手く、強力なアナコンダチョークの使い手だ。戦いへのモチベーションも高い。大きな可能性を秘めており、やがてONEの王者となると思うよ」
──そしてATTでは、やはりこのトーナメントにエントリーしているシドニー・アウトロー選手(※後に薬物検査に引っかかり欠場が決定)と チームメイトですね。彼とも一緒に練習を?
「ああ、もう2年ほど一緒に練習しているよ。昨年、前回の試合に向けても一緒にキャンプを張ったんだ。グレイト・ガイだ。今回同じトーナメントに出場するけど、遺恨などはまったくないよ」
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キョージはあの体格を考えるとものすごく力が強い!
──ATTで堀口恭司選手と練習されたことは?
「数回だけね。僕より少し体重は軽いけど、あの体格を考えるとものすごく力が強いよ!」
──これまであなたはBellatorで3連勝を飾っていますが、最初の2戦は判定勝利でした。以前の試合では強烈なスタンド打撃やパウンドでKOやTKOを量産していたイメージが強かったのですが、近年戦い方を変えている面もあるのですか。
「それは、新しい場所での戦いだったことが大きいと思う。それまで僕はもっぱら祖国ロシアで戦ってきた。知り合いも多く、支えてくれる人もたくさんいて、慣れた環境だった。でもBellatorでの戦いには、僕自身にかかる責任が大きい。だから力を出せるようになるために時間が必要だった。でも、前回の試合はしっかりとKOで決めてみせただろ? やっとBellatorが僕のホームのように感じられ始めたんだ。次の試合は僕の力をもっと全開にできるよ!」
──万全の状態で臨む今回のトーナメントでは、再びKO劇が期待できるということですね。
「それに向けて準備しているところだ」
──強豪がズラリと揃うトーナメントですが、一番の強敵は誰だと見ていますか。
「総合的に見るとウスマン・ヌルマゴメドフかな。王者だしね。ただ、彼にトフィック・ムサエフとAJマッキーを加えた3人は同レベルの強敵だと考えているよ」
──初戦の相手でもあるムサエフの評価が高いのですね。
「トフィックは強力なストライカーで、立ち技の攻防に長けている。でも僕はそこに何もプレッシャーを感じてはいない。相手が誰であるかとか、そういうのはもう気にならなくなったんだ。僕はベストの状態にあるし、相手が誰であろうと同じ姿勢で試合に向かうよ」
──この試合で勝つために得に重要な要素は?
「どちらが自分のスタイルを貫いて、ペースを握るかだね」
──もしムサエフに勝てば、準決勝ではパトリッキー・フレイレ対AJ・マッキーの勝者と戦うことになります。実はこの2人にも話を伺うことができて、あなたとムサエフのどちらが一回戦を勝ち抜くと思うかと尋ねたんですよ。そうしたらパトリッキーはあなたがムサエフを倒すだろうと予想し、AJはどちらが勝つかは分からないとのことでした。先程のあなたの見立てでは、AJは元王者ウスマンとムサエフに並ぶ強敵だとのことでしたが……。
「いや、そういうことなら僕はパトリッキーが勝ち上がってくることを予想するよ(笑)。僕らファイターはサポートし合うものだ。彼が僕をサポートしてくれるなら、僕も彼にサポートを返すさ!」
──なるほど(笑)。そして別ブロックから決勝に上がってくるのは、やはり元王者でありロシア同胞のウスマン・ヌルマゴメドフだと?
「その可能性が大きいと思う。でも個人的な希望としては決勝はベンソン・ヘンダーソンと戦いたいね。元UFC王者のレジェンドだから、実現すれば僕にとっても大きな試合となる。でも現実的には、ウスマンが一回戦で彼を倒してしまうと思うよ」
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マカチェフに唯一の黒星を付けたアドリアーノに勝利「アブドゥルマナプ氏が祝福してくれた。一番思い出だ」
──同じロシアのファイターとして、ウスマンと練習したことは?
「彼のチームと一緒に練習したことはあるよ。ただ本人とはないな。当時彼はまだ若すぎたからね」
──ということは、無敗のUFCライト級王者だったハビブ・ヌルマゴメドフのお父さんの、故アブドゥルマナプ・ヌルマゴメドフ氏の元で練習したということですか?
「アブドゥルマナプ氏のことは存じているよ。一度彼が僕を練習に招いてくれたことがあったんだ。ただその後、僕がダゲスタンで練習するときは、彼らのキャンプに参加することはしなかった。我々はお互いを尊重し合う形をとって、あえて交わらないようにしたんだよ」
──なるほど。ではハビブやイスラム・マカチェフらのダゲスタン最強ファイターたちと手を合わせることはなかった?
「いや、彼らとはサンノゼのAKAで練習したよ。2018年のことさ。米国で1カ月くらい練習し、試合で勝利することができた。そしたらアブドゥルマナプ氏も来て僕を祝福してくれたんだ。『君は我々の宿敵を倒してくれた。奴はイスラム・マカチェフら、我々のキャンプの選手たちを倒しているんだ』ってすごく褒めてくれた。それは僕にとって本当に嬉しいことだったよ!」
──そんなことが! あなたが倒した相手とは、現UFCライト級フェザー級王者のマカチェフに唯一の黒星を付けた男、日本のDREAMにも参戦したブラジルのアドリアーノ・マルティンス選手のことですね。その前戦ではルスタム・ハビロフ選手も倒しているので、ダゲスタン勢には天敵とも言える存在だったと。
「そうだ。だから今までの僕のキャリアの中では、あの試合こそ一番思い出深いものとなっているよ」
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ロシア格闘技の強さの秘密? 素晴らしい選手がいればみんなで支えること。どこのチームかは関係無いんだ
──それにしても、近年はあなたを含めたロシア勢がMMAの世界を席巻しています。強さの秘訣はどこにあるのでしょう?
「ロシアの文化と歴史だろうね。国全体において、多くの人がさまざまなスポーツや格闘技に取り組んでいる。ボクシングやキックボクシングも含めていろいろな異なる競技が盛んで、支援の体制ができているんだ。普段違うチームで練習していても、コーチたちが協力し合ったりする。僕の地元でもそうだよ。素晴らしい選手がいればみんなで支える。どこのチームに所属しているかは関係無いんだ。みんながお互いにリスペクトし合う素晴らしいスポーツ文化がロシアにはあるんだよ」
──なるほど。最後に日本のファンにメッセージを
「僕もぜひ日本で戦いたいと思っているよ。大晦日のショーも見たけど、さいたまスーパーアリーナという巨大な会場に大観衆が集まっていた。入場時の選手たちのコスチュームも凝っていて、すごい大会だった。日本にも優れたMMA文化があり、最高のファンがいる。そこで自分の技術をお見せすることができれば光栄だ!」
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Bellator前の空白は、UFCとの契約を待っていたんだ。今思えば、このGPの一員として参加できて本当に良かった
インタビュー後、シャブリーは3月8日に現地での会見に出席。直前の意気込みを語っている。そこでは今回が初めての5R制の試合になること。そのために高地トレーニングを行ってきたことなどを明かしている。
──Bellatorで3勝0敗のスタートを切れたことをどう感じていますか。
「COVID時代の初戦からずっと続いている、感情を吐き出すことができなかった。前回のプリムス戦では、自分らしさを感じることができたんだ。今回のGPは、Bellatorが行ってきたことの中で最高のものだ。他に類を見ない、このトーナメントに参加して、ショーをすることに興奮しているよ。実現したBellatorに拍手するしかない。それに、僕個人としては、5Rを戦うのは初めてなので、そこから王座戦のことなどを学びたいと思っているよ」
──ファイトキャンプを経て、あらためて対戦相手のトフィック・ムサエフをどうとらえていますか。
「トフィックは以前からファイターとして知っていて、Bellatorが彼と契約したと聞いてから、ベルトに向かうために道が交わるかもしれないと思っていたんだ。素晴らしい試合になると思うし、楽しみにしている。こういう試合は、どのリーグでもいい試合になると思う。もちろん、僕はトフィックを過小評価してはいない」
──このGPで優勝することのあなたにとっての意味は?
「これは僕が積み重ねてきた全てのハードワークの期待の表れだよ。子供の頃に空手を習っていた頃まで遡ると、これまで多くの努力を重ねてきたことになる。もし勝てば、これまでのトレーニングが無駄ではなかったと証明できる。僕にとっては、これが最高峰なんだ。すべてのトレーニングが実を結んでここにいる」
──1回戦後の展望は?
「今のところ、今の対戦相手を越えて次のことを考えようとは思っていない。3月10日が第一目標だ。この試合は5R制ということで、僕にとっては非常に重要な意味を持つ。今回の試合に向けて、山での高地トレーニングも多くして、国の反対側で戦う前に、こうした戦いの違いについてもいろいろと考えを巡らせてきたよ。時差のことも考えて、少し早めに入ってきたんだ。もちろん、カリフォルニアは初めてではなく、AKAでトレーニングしたこともあるし、サンフランシスコも見てきたよ」
──現在はBellator3連勝中ですが、その前の2019年12月の『ProFC 66』から1年半ほど試合が空いたのはどんなことがあったのでしょうか。
「UFCの契約を待っていたんだ。そのために活動休止している時間が長かった。今思えば、このGPの一員としてBellatorに参加できて本当に良かったと思う。このイベントに参加できたこと、そしてBellatorでキャリアを積めることが幸せだと、感謝しているよ」