「引退試合」と伝えずに戦うつもりだった
2018年には弟の山本“KID”徳郁ががんで他界。その12日後にKIDの願いでもあったRIZIN出場を取り止めることなくリングに上がり、アンディ・ウィンとの再戦で勝利するなど苦難を乗り越え、「年齢はただの数字」と、強豪に挑み続けた。
そんななかでの突然の「引退宣言」。その経緯を榊原信行RIZIN CEOは「突然」ではなく、山本のなかに試合前にラストマッチを公表することに逡巡があった、と明かす。
「突然、ということでもなく、この5月6日で引退試合をということを事前にアナウンスして(試合に)臨むのはどうかな? というのが美憂の思いだった。気持ちとしては、彼女が言っていた通り、100%の気持ちとフィジカルを作って臨むということが、だんだん出来にくくなってきているし、“この次の試合で引退かな”というのは、この数試合前から、彼女はそういう思いを持ちつつやっていて、『もう1試合をやって区切りにしたい』と」、強豪相手に連敗のなかで、終わりを意識していたという。
その試合を、やり切って引退を宣言したいという山本に、榊原CEOは、事前にファンと思いを共有したいと「引退試合」を公表するように話したという。
「我々からすると本人が引退試合だと腹が決まるのであれば、きちっとそれを事前にファンにもアナウンスして、“これがMMAラストマッチだ”と分かって観るのと、あとで“あれが引退試合だったんだ”と聞かされるのとでは違うと思う。だから事前にファンに伝えようと美憂に話しました」
榊原CEOは、山本の意向には、KIDの教えが感じられるという。
「彼女は“KID”(山本徳郁)の影響が大きいと思うのだけど、KIDも引退試合とは決めずに、試合が終わったあとに“ああ、ここがラストだ”と思ったときがラストだ、という風な感じだったから、彼女もKIDから教えてもらったように行きたい、というのもあったんですけど、いろいろ相談をして、ここを区切りとして事前にアナウンスしていく、ということになりました。そのなかで伊澤星花選手にオファーをして、彼女もそれを受けるうえで特別な思いがあると思うので、それぞれの生き様を見せてくれる、いい試合になるんじゃないかなと思います」
現王者の伊澤は、栃木県下野サンダーキッズレスリング出身で、山本とは23歳差がある。
会見ではレスリング時代からの憧れの山本のスピーチを聞いて感極まったのか、涙を浮かべながら、「大好きな山本美憂選手の引退試合の相手として選んでいただいて、本当に嬉しく思います。山本美憂選手と山本“KID”選手は凄く仲が良くて、私も弟の風我がいて凄くずっと憧れていた選手です。そんな選手と最後の試合が出来ることが出来て本当に嬉しいので、山本選手の格闘技人生の中で一番最高の試合を一緒に作って行きたいと思います。山本選手、よろしくお願いします」と意気込みを語った。
親子ほども歳の差がある両者の対戦は、女子格闘技の「継承」の一戦にも見えるが、そう甘くないのが“クイーンビー”たる所以だ。
「最後までトップアスリートと戦いたい」と山本が指名したのが現王者の伊澤で、2022年大みそかに伊澤が苦戦したパク・シウは、KRAZY BEEで山本とともに伊澤対策を練っていたこともある。山本は、現役最後の試合に「100%の情熱」ですべてを出し切るつもりで、伊澤との試合に向かう。
「女子格のこれまでと未来を担う、とても大きな試合になると思います。特別な思いで見届けてほしい」と語った榊原CEO。山本美憂vs.伊澤星花の最初で最後の試合は、長男アーセンの復帰戦と同日に行われる。