2022年12月31日(土)『RIZIN.40』(さいたまスーパーアリーナ)の「RIZIN vs. Bellator 5対5 全面対抗戦」の大将戦で、RIZINライト級王者のホベルト・サトシ・ソウザ(ブラジル)に判定勝ちしたAJ・マッキー(米国)が、試合後に個別インタビューに応じた。
その回答のディテールを聞くと、あらためてAJがいかにさいたまスーパーアリーナでの試合に準備し、モチベーションを持って臨んだのかが分かる。
前フェザー級王者からライト級に転向して2戦目のマッキーは、サトシと対峙しても大きさは変わらず。どこまでフィットしているのかも注目だった。
「ストップドントムーブ」には驚いた(マッキー)
試合は、1R、サウスポー構えのマッキーが左ミドル、右のサイドキックで牽制。サトシに容易に入らせない展開。サトシは30秒すぎに滑りこんでのロールで前足と頭を掴んで引き込んでクローズドガードに入れることに成功。しかし足を開いたサトシの仕掛けにすぐにマッキーはパス狙い。
なおも下から手足を手繰るサトシをマッキーは定石通り、コーナー下に引きずりスペースを無くして、約3分間をコーナー際での削りに徹底。
サトシも巧みに腰を切り頭を横に逃して三角絞め、腕十字を極めに行くが、すぐに察知するマッキーは両腕、肩を突っ込んで上体を立てて防御。サトシが上のマッキーを抱き寄せて膠着すると、RIZINリングルールならではの「ストップドントムーブ」に。レフェリーは北米もRIZINも裁くジェイソン・ハーゾグ。
中央に移動し再開したこの場面をマッキーは、「自分としてはサトシをリングマット下に当てるようにしたかった。彼は動くことが出来ないわけで、自分が打撃を与えるチャンスだったから。だからレフェリーに止められて、中央に戻されて再開するっていうのは、彼に柔術の技をかける機会を増やすことになったわけだから、『え、俺たちは別にリングアウトしたわけでもないし、何でもないじゃん』って思った」と振り返る。
残り5秒を切り、体を離したマッキーがフットスタンプを落としたところでゴング。「自分のジムにはケージのみでリングが無いから、知り合いのジムのリングで練習してきた」というマッキーが、RIZINルールをモノにしていることがうかがえた初回だった。
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2R、3Rは極めるチャンスがあったけど、手が疲れていた(サトシ)
2R、ジョニー・ケースや鈴木博昭と打撃も磨いてきたサトシは強い右ハイ、右フックをガード上ながらヒット。しかし、その連打にマッキーもカウンターの左ミドル、跳びヒザを合わせに行くと、左ミドルを効かせてダウン気味にサトシを押し倒す場面も。
サトシは立ち上がり、マッキーの打ち終わりに詰めてシングルレッグからボディロック、小外がけから脇を潜るとスタンドでバックに。
後ろから左足をかけると、マッキーは両足をかけられる前にスクランブルで前転をして外そうとするが、そこについていくサトシはグラウンドで胴にボディトライアングル(4の字ロック)をセット。
サトシの頭の位置が高く極め辛いなか、マッキーはたすきがけの組み手を作らせず。約2分間を防御で凌ぐ。
残り1分で右手で首投げで巻き込み、正対して胸を合わせようと試みるマッキーだが、その頭を抜いてバック、亀になったマッキーの右腕を掴みながら、得意の後ろ三角からの前三角、腕十字を狙うサトシだが、マッキーは足を組ませず、すぐにヒジも抜いて上を奪取。サトシがこれまで見せてきたMMA柔術のムーブを完全に研究している動きでトップを奪取した。
マッキーのグラウンドでの動きをサトシは「1Rの三角絞めはちょっと入ってはいなかった、足を殺して絞められなかったから。柔術の選手が見たら分かるね、まだ入ってない。2R、3Rのバックは極めるチャンスがあった。でも、彼がディフェンスできるし、私の手がちょっと疲れたからできなかった。でも、もうちょっとだね。チャンスがあるけどちょと失敗したな」と、組み技のクラッチで腕の力を使い続けたことで握力が足りなかったことを吐露する。
もともとサブミッションを得意とするマッキーは、今回の試合前に柔術家たちを招聘。徹底的にサトシ対策を練ってきたことを明かしている。
「コーチ、父、練習仲間、柔術を見せてくれた人達に感謝したい。サトシはウォリアー、戦士だった。タフなヤツだよ。三角絞めを狙い続けてきた(苦笑)。彼が自分を落とそうとすることが、まるで自分を、深い海の底へと引きずり込んで、溺れさせようとする、そういう感じだった。でもね、ラッキーなことに俺はスイマーとしても優秀なんだよ!」
頭と腕を抜き、トップを奪ったマッキーはサッカーキック、フットスタンプも繰り出し、ハーフからヒジ。セコンドの声を聴き、立ち上がり体を離して2Rを終えた。
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「マッキー」という姓の名誉を取り戻さなきゃいけなかった
3R、スタンドでの蹴り合いから40秒経過でサトシは勇気を持ってシングルレッグ、左手で右足を掴み、右手で頭を抱えながら足を刈り、後方に引き込みへ。
ここですぐに右足を後ろに飛ばしてにスプロールしようとするマッキーに、サトシはなおも足を手繰りテイクダウンに成功。そこにカウンターのダースチョークを極めに行くマッキーだが、対角にパスしているサトシは首を抜いて上に。
残り4分、立ち上がるマッキーはスタンドバックを許しながらもケージ代わりにコーナーマットまで歩き正対。しかし、ここもサトシはボディロックを組むと、引き出して、今度は大内刈でテイクダウン。すぐに足を効かせて脇差し立ち上がろうとするマッキーにサトシはアームインギロチンチョークも、サトシのスイープに合わせて立ち上がり首を抜くマッキー。
みたびスタンド。右目を腫らしながらもマッキーの左の蹴りにカウンターで練習していた左ジャブを当てるサトシ。互いに消耗するなか、遠間からのサトシのダブルレッグをスプロールしギロチンチョーク狙いはマッキー。
サトシはほどなく首を抜き、ハーフ、サイドから肩固め狙い、マウントを嫌ったマッキーの亀からの立ち上がりにバックを奪い4の字ロックで首もとに左右の手を入れ変えて差し込むが、後ろ手を剥がして首を守るマッキーにここまで握力や腕力も使ってたサトシも極め切ることが出来ず、試合終了のゴングを聞いた。
判定は3-0でマッキーが勝利。試合後、リング上でマッキーは「私を漢にしてくれたすべての人たちに感謝したいです。またぜひここに戻ってきて、今度はもっと大きなものを賭けて戦いたい」と王座挑戦での再戦を希望。
大将戦で敗れたサトシは、試合後のバックステージで敗因を「私にとって世界のトップ選手(との戦いは)初めてで、まだ緊張して硬いからちょっと失敗した。もっと打撃のポイント見直して、もっと強くなりたい。海外出稽古もあるけど、日本にももっとこれから選手が練習に来るから、まだポテンシャルがある。それから、まだ私の日本との約束があるから、2022年に言った約束を頑張ります」と語り、RIZIN王者としての力を世界に証明する、変わらぬ決意を見せた。
また、勝者はあらためて父が敗れたさいたまスーパーアリーナでの勝利を「自分はマッキーという姓の名誉を取り戻さなきゃいけなかった。つまりこれまで、『マッキー』という名前の人間が最後にこの地に立った時というのは、自分の父親が青木真也戦で眼窩骨折をした時だ。だからこそ、自分はみんなの前で素晴らしい試合を見せるって心に決めていたんだよ」と語り、同地での歴史を塗り替えた意義を語った。
「毎試合、“この相手を1Rでノックアウトしてやるぞ”って自分に言い聞かせている。これって自分の中にある信条みたいなもの。俺は自分自身の技術だったり、自分がやること、そして自信が全てだって思ってるから。
それで、この試合は疑う余地もなく、自分が経験した中でもいちばんキツい試合の一つだったと言えるよ。両目が真っ黒だろ、こんなことになったのは初めてだ。サトシには脱帽だよ。それだけ彼は戦い抜いたし、自分だってタフな試合になるってことは分かっていた。とにかくサトシはウォリアーだよ! 彼はビーストだ。彼がチャンピオンだってことにはそれだけの理由があるんだ」とサトシを讃えたマッキー。
2023年にBellatorライト級ワールドGPの開催も予定されるなか、果たしてAJとサトシの両者が再び対峙する瞬間は訪れるか。マッキーインタビューの全文は以下の通りだ。
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マッキー「サトシは自分を深海の底へと引きずり込んで、溺れさせようとしていた」=全文
──日本での試合を終えた、率直な感想を伺えますか。
「こうして日本に来て、日本のファンのために試合をしたっていう、一生に一度の経験じゃない? そういう全部をぎゅっと受け止めてる感じさ。日本のファンは、よりこの格闘技文化についてありがたみを感じてくれているから、自分がここにいるんだ! って気持ちになれる。だからここにいることを名誉に思うし、素晴らしいショウを見せられたことを誇りに思ってる」
──「リングで練習してきた」とのことですが、コーナー下を使い、サッカーキック、フットスタンプと、RIZINルールをフル活用していましたが、練習してきたのでしょうか。
「すごい楽しかった。毎試合できるかどうかというと分からないけど、とにかくめちゃくちゃエンジョイしたってことは言える。またやれたらいいなとは思う。願わくば、RIZINが今回の試合をよく評価してくれて、また自分を呼んでくれたら、たとえばタイトルマッチとかね、そういうところで出していければいいよね」
──サトシ選手の印象は?
「彼はウォリアー、戦士だった。タフなヤツだよ。三角絞めを狙い続けてきた(苦笑)。彼が自分を落とそうとすることが、まるで自分を、深海の底へと引きずり込んで、溺れさせようとする、そういう感じだった。でもね、ラッキーなことに俺はスイマーとしても優秀なんだよ!」
──あなたがコーナーに押し込んでいるときに「ストップドントムーブ」がかかりました。あのときはどのように感じましたか。あれがケージだったらもっと削ることができたような場面でした。
「自分達がリングのコーナーにいるかコーナーへと詰めていたりすることに気づいたら、自分としては彼をリングに当てるようにしたかった。彼は動くことが出来ないわけで、自分が打撃を与えるチャンスだったから。だからレフェリーに止められて戻されて再開するっていうのは、彼に柔術の技をかける機会を増やすことになったわけだから、『え、俺たちは別にリングアウトしたわけでもないし、何でもないじゃん』って思った。だからちょっと腹が立ったけど、文句を言うことはできない。だから試合を続行したまでだよ」
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落とされても、タップするつもりは無かった
──さいたまスーパーアリーナの印象は?
「いや、もうほんとうに自分が戦ったことのあるなかでも最高のアリーナのひとつだね。会場もなんか驚異的な感じで、ファンも、格闘技カルチャーも、本当にフェノメナル。ここで試合をできたってことは本当に光栄で、とてもいろんなストーリーを聞いているしね、たくさんの名勝負がここで繰り広げられてきたんだってこととか。ついにここに来て、その一部を築くことができた。
それから知っての通り、自分は『マッキー』という姓の名誉を取り戻さなきゃいけないものがあるというか、つまりマッキーという名前の人間が最後にこの地に立った時というのは、自分の父親が青木真也戦で眼窩骨折をした時だ。だからこそ、自分はみんなの前で素晴らしい試合を見せるって心に決めていたんだよ」
──鎧(※10万ドル、25kgの本物)を着て入場したのはどうしてですか?
「俺はウォリアーだ。戦(いくさ)に備えなければいけない。だからそういう面での自分が持つ文化と日本の文化とを関連づけ、そして融合するっていう感じかな? 自分は、試合にウォリアーとして臨む覚悟だったし、それってつまり、もし彼の三角絞めがああやってセットされたり、あのギロチンが極まったりして、もはやフィニッシュが免れない状況となったとしても、タップをするつもりがなくて、そうなったら落とされるつもりでいたんだ。
そういう心構えのようなものが、自分はウォリアー的なタイプの人間だと思ってる。だからこの装束が自分のキャラクターにはとても合っていると思った。楽しんでもらえたのかなあ、だといいけど。正直、敬意を持った人間ではありたかったから、ちょっと分かんなくて。誰かがこういうことによって腹を立てるような、そんな行為はしたくなかったんだよ。だから、どうだったのかなって。自分はただただ素晴らしいショウを皆さんに見せたかった、しかも自分たちの文化について共感を持ってもらいながらね」
──2023年の展望は?
「分からない(笑)。ははは。とりあえずまずは家に帰ってスノボに行きたい。帰ってくるさ、日本にもまた来るよ。衣装を作ってもらったわけだけど、いくつかまた取りに来なくちゃ。なんていうか、侍、忍者、武士みたいな、ファイターらしいもの。それでいくつかを持って帰って、いつか子供たちに引き継いで、『なあ、自分はこれを着て、日本でスッゲー試合をしたんだよ。そして勝ったんだ』っていう、そうやって何かしら自分の子どもたちに繋いで『ねえ、これはお前達でもある』って感じてもらいたいんだよね、この戦士の血が、自分達みんなに流れているんだって。そうやって触れてもうことで、最高の自分っていうものを目指してそうなってもらいたいんだ」
──サトシ選手があなたを倒すためにはどうすればいいでしょうか。
「やや、それはいい質問だね。実際のところ分からない。自分がケージなりリングなりに上がるっていうことは『自分vs.自分』みたいな気分になるんだ。たとえば一緒にトレーニングしてもいいよ、ハハハ! 助けにはなると思う。彼は試合を通してすごくよくやってたと思う。ただおそらくね、分かんないけどさ、どうあれ俺が取るよ。自分はただ勝ち続けるだけなんだ。自分がどこにいようと、彼が自分のバックを取ろうと戦い続けられるし、それを見せることができただろ? 実際彼は俺のバックを取ったし、俺を極めようともした。でもちゃんと彼に分かってもらいたいんだけど、俺はずっと打撃を出し続けていたし、彼に向かい続けていたよね、それがたとえ彼のほうが有利なポジションにいた時ですらね」
──日本のファンが増えました、また日本で試合をしてくれる約束をしてくれますか?
「来年の大晦日? もちろん(笑)。座って連絡してさえくれればいいよ、俺はここにいる、そしたらきっとすぐだよ」
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「傭兵」として試合が決まれば、いつ何時どこで誰とでも戦う
──試合前、一番厳しい試合のつもりで臨んだ?
「いいや。毎試合、“この相手を1Rでノックアウトしてやるぞ”って自分に言い聞かせている。これって自分の中にある信条みたいなもの。俺は自分自身の技術だったり、自分がやること、そして自信が全てだって思ってるから。それで、この試合は疑う余地もなく、自分が経験した中でもいちばんキツい試合の一つだったと言えるよ。両目が真っ黒だろ、こんなことになったのは初めてだ。サトシには脱帽だよ。それだけ彼は戦い抜いたし、自分だってタフな試合になるってことは分かっていた。
特に、自分にとっては新しい階級(ライト級2戦目)に来たことでね。やっぱり階級を上げると、自分よりちょびっと大きかったりする選手ばかりだし、それだけのエネルギーを発揮することに慣れるためにちょっと大変ではあって。とにかくサトシはウォリアーだよ! 彼はビーストだ。彼がチャンピオンだってことにはそれだけの理由があるんだ」
──Bellatorライト級GPがどうなうか分かりませんが、2023年の半ばくらいにタイトルマッチにたどりつき、RIZINの選手なりと日本でのタイトルマッチも可能でしょうか?
「可能性はあるのかもしれないけど、結局のところ俺にはどうしようもないというか、スコット・コーカー代表次第。彼らから契約書が来て、自分はそこにサインをして、やるべきことをして、為すべきことをなすだけ。だから、誰とでも、いつでも、どこでも構わない。そういう契約が締結された暁には、しっかり魅せる試合をするってだけだ。(自分のニックネームである)mercenary(傭兵)だからね」
──試合直前にお父さんのアントニオ・マッキーさんが敗れた試合映像が流れたことは、感情的になりすぎたりはしませんでしたか?
「自分の父親がコーナーにいるっていうこと自体でいつだってエモーショナルだよ。俺は、自分のためだけに戦うんじゃなくて、彼のために戦ってんるんだよ。彼のレガシーのために、戦っている、それは自分のレガシーでもあるんだ。自分の弟達、16歳の出世頭と、5歳のほうは父親にビデオを送ってくるんだけど、それが家の中でトレーニングをしてて、彼のちっちゃなダブル(パンチ)をバッグに当ててるところだ。あの子は、パパが家にいなくったって俺は練習してるんだぞって言いたげだった。そういうことで、いつも自分の父親を誇れる存在としている。それが自分がメインとする目標で、つまり、自分の父親は誇れる人であり、最高の人だってことを、俺がそうさせること、だから精神的にも心の面でも、身体的にもひたすら成長し続けて、最高の自分にならなきゃいけないんだ」
──お父さんから何と言葉をかけられましたか?
「試合前は、『IT'S YOUR TIME』と。“お前の時間だ”って。試合後は、『Great Fight』、“素晴らしい試合だった、お前を誇りに思う”って言ってくれた。父ちゃんはいつも言ってくれる、『勝とうが負けようが引き分けようが誇りに思う』って。それは俺が、自分が勝負に臨み、そして出来うる限りとにかくハードに頑張ればこそね」