2022年12月28日(水)『INOKI BOM-BA-YE×巌流島 in 両国』(U-NEXT生配信)にて、「大将戦」のMMAルールでメルヴィン・マヌーフ(オランダ)と対戦するイゴール・タナベ(ブラジル)と、「中堅戦」の巌流島特別ルールでジョシュ・バーネット(米国)と対戦するシビサイ頌真(日本)が23日、公開練習で“関節技の鬼”藤原喜明の特別指導を受けた。
かつてアントニオ猪木のスパーリングパートナーを務め、カール・ゴッチからキャッチレスリングを学び、ルタ・リーブリのイワン・ゴメスらとも練習して、独自に落とし込んだテクニックを持つ藤原組長は、イゴールとシビサイにその極意を伝授。
「2人とも骨が大きいのは財産だ。上からプレッシャーを与えて疲れさせて、相手が首や腕や足を差し出してきたところを極めればいい」とコントロールの重要性を伝えた。
また、テクニックについて「自己流に考えて自分なりにやりゃあいいんだ。“もっといい方法はないだろうか”と、常に考えること。バカは強くなれない」と説いた。
ゴッチ、猪木、藤原、佐山聡に連なる日本格闘技の源流のひとつはいかに生まれ、引き継がれたか。公開練習でのテクニック、その後のインタビューの一問一答全文は以下の通りだ。
力の強いやつとは「省エネ」で戦う
藤原 最近のやつはいいモン食ってるからか大きいな(笑)。
シビサイ・イゴール いえいえ(笑)。
藤原 でもこの大きいのってすごい武器だからね。せっかくご両親からもらったんだ。有効に使わないと……あれ、ヒザをやったの?
シビサイ 十字靭帯をやって手術しました。
藤原 ああ……みんなな、最後はみんな車椅子だ(苦笑)。でもね、いいと思うよ。一生懸命、何かに没頭して、最後は車椅子でも。そうじゃない方がいいけど、でも何かを成し遂げたならそれでもいい。
──2人を指導して、どのように感じましたか。
藤原 骨が大きいというのは財産で、なかなか壊れにくいということなんだ。関節も大きいだろうし、財産だから大事に使って、できるだけ長く戦って、車椅子になるまでな(笑)。でも、これはしょうがないんだよ。俺は首もヒジも足首もボロボロで、ヒザも曲がって、脊柱管狭窄症だし、でもな、ひとつのことをずっと一生懸命やってきたという誇りというかね(床をドンドンと踏んで)あっ、これはホコリじゃねえな(笑)。
──今日もシビサイ選手とイゴール選手にフェイスロックやアキレス腱固めの藤原さんならではのやり方を伝授されましたが、以前、藤原さんと猪木さんがリング上で、アキレス腱固めのテクニック体験をされたときに、猪木さんの口から「ボーン・トゥ・ボーンだ」という言葉が出て、その技が受け継がれていると感じました。
藤原 うん、もともと猪木さんが言ったんじゃないよ。(カール)ゴッチさんが言ったんだ。『ボーン・トゥ・ボーン』ってな。骨と骨、ほんのちょっとしたことなんだけどね。ここが当たるか、ここが当たるか、それで違う」
──その極意は、ゴッチさんから藤原さん、そして猪木さんと共有されてきたと。
藤原 猪木さんはスーパースターだったから、忙しくてそう動けない。だから俺を送り込んだんだ。給料をいただきながら半年間、ゴッチさんのところに行かせてね。ずっと毎日、教わる。アパートに戻ると詳しく覚えていない。それでダメだと思って、次の日からノートに書きこんでいくようにした。『どうだ、分かったか?』ってゴッチさんから言われて『イエッサー』って言って。戻ってすぐに記入する。それをずっとやってた。
日本に帰ってから、佐山(聡)とか前田(日明)とかを実験台にしてね。でもって相手があまり弱いとつまんないんで、『これどうしたらいいですか?』と聞かれたら、『こうするんだよ』って言って、だんだん上達していく。そうすると自分も工夫する。そうして作っていったよ。
──では、猪木さんは藤原さんを研究員としてフロリダに送り込んだわけですね。その観点からも今日は、この新世代の2人の動きをご覧になって、どのように感じましたか。
藤原 私らのときはまず乗っかることだった。乗っかって押さえ込んで相手を疲れさせると必ずチャンスが来る。どういいうときでも乗っかっている。でも、お客さん的にはつまんないよね。でも本当に勝ちたいならまず乗っかること。相手がうつ伏せだろうが、四つん這いだろうが、いつでも乗っかって体重を使う。
疲れてくると苦し紛れに相手が手を出してくる。そうしたら……“いただき”だよな。研究して、相手が亀でも乗っかって加重する。船木(誠勝)とも話したんだけど『私たちの頃は1時間くらいやってました』と振り返っていたよ。いまの練習だと10分くらいかな。私らの頃は、1時間乗ってコントロールして、相手を動かして動かして、ヤバいとなって手や足を出してきたらもらう。だから……何のことはない。“省エネ”でやってた(笑)。
ジョシュ・バーネットみたいに力の強いやつとやると、こっちの方が疲れて“早くウチに帰りてぇな”って頭をよぎるよな。“早くウチに帰ってビール飲みたいな”って思っちゃうだろ(笑)。そこでしっかりプレッシャーを与えると、“こいつ待ってんな”と分かっていても“もうどうでもいいや”と思わせられるんだ。
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教わったままやっているうちはまだダメ
【写真】ストレートフットロックで藤原は相手の蹴り上げを想定した動きを見せた。
──そういったゴッチさんのキャッチレスリングに加え、今日は、藤原さんがイゴール選手にアキレス腱固め、ストレートフットロックから、ヒールフックを見せました。外ヒールだけじゃなく、足を組んでの内ヒールも。当時としては珍しかったのではないですか。
藤原 あんなの誰でもやるよ(笑)。ヒールホールドは、昔、柔術をやっていたイワン・ゴメスとずっとスパーリングをやってたんだよ。教わったのはそれ1個だけな。あとは何ともなかったな。ブラジルで『チャンピオンだった』と言ってたけど、あんまり上手くなかったよ。蹴りとかも。
──アームロックもいわゆるキムラロックとは少し異なる形でした。
藤原 ゴッチさんからは『俺はこうしてやるけど、お前と俺では腕の長さも違うし筋力も違う。だから自分がいいように改良しろ。それで初めて完成だ。教わったままやっているうちはまだダメだ』と言われたよ。自分流に考えて自分なりにやりゃあいいんだ。だからアレもヒールもゴッチさんから教わった形じゃない。海外選手はすごい力が強いから。力比べだと負ける。持ち方ひとつで、すぐに外れたり、コントロール出来たりするんだ。
【写真】藤原は手首を持たずに手の甲を持ち、両腕を脇下に入れて極めた。
【参考】手首を持たずチョークのように組んで極める石井慧のアームロック。
──シビサイ選手とイゴール選手は、実際に体験してどう感じましたか。
シビサイ アームロックとか、自分が今まで教わってきたものと違う、初めての形だったので。身体の力が同じときに、拮抗してしまった時にああいうテクニックが生きるなと思いました。
イゴール 僕もフットロックで結構、手首を上げるのは柔術で意識していたんです。あまりその形でやる人が少ないんで、新しい発見かなと思っていたんですけど、全然、昔から……(苦笑)。
藤原 これは古いもんだ(笑)。栓抜きってあるだろ? これ(テコが)ブカブカだったら開かないだろ? テコが小さいからポンと開くんだよ。
イゴール ヒールホールドも、内ヒールで最近、流行っているじゃないですか。それもだいぶ前からある技だと知って興味深かったです。
藤原 46年前にイワン・ゴメスがやってて、“あっ、これいただき”ってな(笑)。
──藤原さんはゴメスが得意な外ヒールから、内ヒールにしていましたね。
藤原 ゴッチさんから言われていたからね。“もっといい方法はないだろうか”と常に考えることだ。日本とブラジルの両方の血をひいているんだろ?
イゴール はい。お父さんはブラジル人で、お母さんは日本人の孫です。
藤原 そうか……猪木さんもブラジルにいたし、ゴメスもブラジルから来た。日本に1年くらいいいて、いつもスパーリングパートナーだった。パスポートのことで車で連れて行っていたよ。縁を感じるね。
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ほんとうのテコの原理はみんな、知らない
──猪木さんの関節技の強さは?
藤原 アームロックとか首絞め、フェイスロックだね。やる? これじゃ曲がんないけど、骨を使う。
シビサイ ウワッ! 痛ッ!イゴール ウッ! これは……いけますね(苦笑)。
藤原 『その技は古い』と言ったやつもいたけど、古くても新しくても極まればいい。それで自分ならどうする? ってもっといい方法を考えればいい。これなら省エネで出来るな、とか。バカじゃ、強くなれない。チャンピオンはみんな頭がいいよ。みんな「スポーツマンシップに則り、正々堂々と」と言うけど、それだけじゃ勝てない。いかに相手にフェイントをかまして騙すか。だから“戦うときは詐欺師になれ”だ。いい言葉だろ。
──2人は、12月28日に『INOKI BOM-BA-YE×巌流島 in 両国』で戦うのですが、これだけは覚えておけ、ということは?
藤原 そうだな……一番大事なことは「怪我するな」ということ。ほんとうにこれヤバいなと思ったら参ったしてもいいんだ。次、頑張って極めればいい。意地張ってブチっとやっても何のアレにもならん。あんまり頑張ると、みんなおかしくなっちゃうだろ?
──さて、イゴール選手は大会のメインでメルビン・マヌーフ選手と戦います。ゴリゴリのストライカーを相手に、MMAルールでどう戦いますか。
イゴール そうですね。打撃が強いことはみんな知っていますが、ここでどれだけ僕の柔術を生かせるかが勝負になってくると思うので、打ち合う必要はないし、自分が隙を見つけていかに寝技に持ち込むかをずっとやってきてるので、自信はあります。どっちが自分の土俵に持ち込めるか。GENでMMAの練習をやっていて、打撃でも住村竜市朗さんや左右田泰臣に習っているので、2カ月間、僕はストライカーでした。GENは重量級選手も多いですし、これ以上いい練習はできないなというくらいやってきました。今日の藤原さんから教わった技も活かして戦いたいと思います。
──シビサイ選手はジョシュ・バーネット選手と「巌流島特別ルール」で戦います。
シビサイ 道衣を着用しない、ノーギの巌流島ルールです。闘技場下に転落した場合、ポイントが入ります。
──となると、道衣を使った投げも得意とするシビサイ選手にとっては、厳しいルールになりそうですね。
シビサイ 自分……途中まで「道衣着用あり」だと思っていたので、練習していた最中に「道衣無し」と言われて……、ただ今回、一緒に練習していたのが、貴賢神選手(元大相撲力士)だったので、結構稽古をつけてもらい、思い切って相撲のように戦えれば、というところでしょうかね。
それに今日、藤原さんにご指導いただいた技も活かして……あのアームロックも先端をコントロールされると力が出せなくて。そういう技も海外の大きくて力の強い選手を相手にするのに生きる。今回の試合で、誰が見ても“シビサイが勝った”という完全決着を心がけていますが、どんなに泥臭くても勝利を取り行きます!
◆特別指導を終えて──
藤原 指導というほどのものではないけど、日本人って西洋人に比べると非力。でもスタミナは日本人の方があるかもしれない。そこで効果的に戦えることを伝えようと。
『テコの原理』って言ったけど、ほんとうのテコの原理はみんな知らない。ゴッチさんも『力じゃない』と言っていて。こうした技は、『知りたい』という人がいるなら伝えていきたい。使う・使わないは勝手だ。見たいという人がいればこうした技も続くし、人間には闘争本能がある。それは戦争じゃなくこういうものに回した方がいいと思うよ。