MMA
インタビュー

【Bellator】スコット・コーカー代表インタビュー(前篇)「堀口の今後とフライ級新設は検討の段階」「年末は榊原サンと話し合っている」

2022/10/03 14:10
 Bellatorフェザー級ワールドGP、バンタム級ワールドGP、そして2023年にはライト級でも世界規模のGPの開催を企画しているスコット・コーカー代表。  日本では堀口恭司(アメリカントップチーム)が、金太郎に肩固めで一本勝ちし、あらためてフライ級カムバックプランを語るなか、『超RIZIN/RIZIN.38』後に、本誌ではコーカー代表に単独インタビューを行った。  テコンドーの黒帯でもあるコーカー代表は、堀口の格闘家としての資質や、再起戦の勝利とフライ級について、さらにアイルランド大会の成功を通して、日本大会のプランなどを1時間以上にわたり、熱く語った(※中篇に続く)。 もし3連敗していたら? 堀口がこれまでBellatorで戦ったレベルを考えてほしい ──今回はビッグマッチが続くなかインタビューを受けていただき、ありがとうございます。日本では『超RIZIN/RIZIN.38』が行われたばかりです。スコット・コーカー代表も米国でご覧になったそうですね。 「堀口恭司の試合とメイウェザーの試合は見ることができたよ。朝倉(未来)とメイウェザーの試合は、思ったよりも朝倉のパンチが入ったなとは思ったけれど、やはりメイウェザーは一流のボクサーだね。結果には驚きはしなかった。  堀口の試合については、対戦相手の金太郎が打撃が強い選手だというのは聞いていたし、決してイージーな相手ではなかった。マイク・ブラウンらATTの皆もそれは分かっていたから、グラウンドでサブミッションの試合にするのが元々の戦略だったはずなんだ。ただ知っているように、1Rで強い左が入ってしまって堀口がフラッシュダウンしたけど、それは相手がサウスポーで打ってきた事、タイミングも良かった。彼は常に動いていたし、いいカウンターパンチだったね。それで堀口は一瞬、倒れたけれど、すぐに立ち上がったし、特に影響はなかったように見えた。  2Rでテイクダウンを取ったら、すぐに決着がつくなって思ったよ。もともとゲームプランとしてテイクダウンをしてサブミッションで勝ちにいくっていう事は知っていたから、特に堀口が打撃中心で戦う事は期待していなかったんだ。堀口の武器は、彼がオールラウンドプレイヤーだという事だ。蹴りも突きもパンチも、テイクダウンもサブミットも完璧なんだよ。堀口の経験が、彼のファイターとしての素質が生きた試合だったのではないか。対戦相手については、彼も本当に強くなる選手だと思う。ただ、MMAでもっとグラウンドとレスリングを磨かないといけないだろうね。MMAは打撃だけじゃないからね」 ──試合前、RIZINの榊原信行CEOから「堀口選手は3連敗したらBellatorリリースの危機」との発言もありプレッシャーがかかった試合だと思います。 「私が堀口について、そういう話をしたことはないけれど、一般的に格闘技業界において3連敗をするとリリースを検討する事が多いのはたしかだ。ただ、堀口がこれまでBellatorで戦ったレベルを考えてほしい。とても強いセルジオ・ペティスというチャンピオンクラスを相手にした、堀口がほぼ圧倒していた試合と、パッチー・ミックスというとても背が高い、体格差で不利な相手との接戦、この2人と連続で戦ったんだ。負けが続いたと言っても、かなりタフな相手との試合しかしてきてないんだよ」 ──その体格差ですが、堀口選手はフライ級へのカムバックプランを語っています。 「Bellatorにおけるフライ級は現在まだ検討中の段階なんだ。堀口とダン・ランバート(ATT代表)に話したのは、フライ級についてはまだ何も決まっていないという事。現時点で125ポンド(フライ級)の階級はBellatorに無いからね。だから、どうするのかを考えなければいけないと思っている。その上で最高のプロフィールの選手と堀口の実力を試せるような、意味のある大きな試合をマッチアップしていかないといけない。それが我々の仕事でもあるからね。そこでどんな結果を出すかを期待しているよ。ただ、新階級については一歩ずつゆっくり進めていくしかないんだ」 ──たしかに、もし階級を作るなら、ランキングが出来るくらいに選手を揃える必要もありますから簡単ではありません。将来的にはフライ級でベルトを新設する考えもありますか。 「可能性はあるよ。実際、3カ月前にダンとその話をしたのだけれど、その時はまだ本当に実際に検討している段階ではなかった。堀口が現実的にフライ級に戻すことを考えていると知ったので色々と検討していかなければならない。いまは何も約束ができない段階である事は理解してほしい。ただ、検討中ではある。企業として階級を新設するのは、即決できる事ではなく、選手たちを新たに15~20人契約をしなければいけなくなるし、それを今すぐやるか、と問われたらまだ答えられないんだ」 ──大風呂敷を広げるのではないその回答に、コーカー代表の誠実さを感じます。 「企業として私たちのミッションはいい選手を確保する事だ。堀口はその頂点に立つ選手なんだ。ダンともいい関係を保っているし、ATTの選手の評判を聞けば、彼がいかにすごいファイターなのかすぐに分かる。135ポンド(バンタム級)で戦い始めると聞いたときは、すぐに駆け付けたよ。トーナメントでもいい仕事をしてくれた。彼にとってはうまくいかなかったかもしれないが、それでもまだ彼はエリートファイターであるし、世界でもベストな選手であると思っている」 [nextpage] 堀口はファイターである前に格闘家だと思っている ──フライ級で注目している選手はいますか。 「注目しているフライ級選手のリストはある。けれど、企業として単独のフライ級戦を組んでいくのか、階級を設けるのかは考えなければいけない。そこをまず解決しなければいけないね。ただ、堀口の事について、ひとつだけ皆に覚えておいて欲しい事がある。あらためて言うけど、あのペティスとの試合は、堀口は勝っていたんだ。試合途中にブーイングを受けてスタンドに戻して、あのスピニングバックフィストをもらうまでは。そこで捕らえられてしまった。この競技は皆、一度そういう風に足止めを喰らう時がある。どんなに強くても、どんなに優れた選手でも。格闘技ではそういう瞬間に当たってしまう事があるんだ。それでも堀口は勝利まで本当にあとわずかだった。しかも現チャンピオンを相手に、だ。そういった事を踏まえても、私は堀口は135(バンタム級)で戦えると正直なところまだ思っているんだ。これからも練習を続けて、Bellatorのケージにすぐに戻れるよう調整しよう、と伝えたいね」 ──元王者の堀口恭司選手のBellatorでの試合への敬意を感じます。 「彼の事は本当に好きだよ。いつも笑顔でいつもハッピーで、機嫌が悪かった時に会った事がない(笑)。私もダンも彼と一緒に働けるのはすごく嬉しく思っている。私にとって彼との時間は素晴らしいのだけれど、彼にとってはうまくいっていない期間かもしれない。それでも、私の彼の選手としての印象は常にポジティブだ。RIZINでも彼が135ポンドを切り拓いた。RIZINの試合前もメッセージを送ったんだ。『Bellatorがどんなものか、日本に見せてやれ』って。その後も何回かやりとりをしたよ。だから、私も堀口の為になる事はできる事をやりたいし、本当に一緒に働くのが楽しい選手の一人だ。彼は……負けると私に謝ってくるんだけど、なんだか逆に申し訳なくなるからもう謝ってほしくない。負けてプロモーターに謝る選手なんて他にいない。MMAはほんとうにタフな競技なんだ。個人的に彼の持っているエネルギーはすごく好きだし、彼が我々の最強選手のリストに名を連ねている事をとても誇りに思っているよ。  ひとつ言いたいんだけど、彼を見ていると……マーシャルアーティストと競技者でいる事は違う事だと感じるんだ。他の選手や自分の友人や格闘技を分かっている人達と話すと、彼らはその違いが分かるって言う。いいファイターが必ずしもいい格闘家なわけではない。私にとって堀口は、ファイターである前に格闘家だと思っている。格闘家はあるディシプリン(規範)のようなものに従って生きている。単なるファイターにそういうものはない。MMAに入ってくるレスラー達はそういった規律に順じてはきていないだろう。これまでの格闘技の師範たちの事を考えてみてほしい。例えばマス・オーヤマ(大山倍達)もそうだろうけど。堀口は生徒としてそういった師範(二瓶弘宇館長)についてきたと思うんだ。そして、彼もいつかそのような師範になると思う。自分も若い時に格闘技を教えていた経験があるのだけれど、それは単にファイトだけではなく、格闘家として規範があってその中で生活をしているんだ。堀口を思い浮かべるとき、彼は偉大な格闘家の見本のようだなって思うよ」 [nextpage] アイルランド大会がこれからの「祭り」の始まりになった ──テコンドー黒帯のスコット代表にとって、そこまでの思い入れのある選手なのですね。ところで、階級転向といえば、元フェザー級王者のAJ・マッキー選手がライト級に転向しました。この路線は継続されそうでしょうか。 「スパイク・カーライルとの試合で彼はそれを決めるんじゃないかな。特に問題がなさそうなら155ポンドにステイすると思う(※試合後、コーカー代表は「Bellator史上最高の1Rだった」と評価)。それに、2023年に155ポンドのトーナメントを開催するかもしれないしね。この階級は本当にいい選手が揃っているから。ただ、AJが155ポンドで戦おうが、145ポンドで戦おうが、もう一度、パトリシオ・ピットブルと戦わせたい。それがBelletorの目標でもある。  ライト級と言えば──ひとつだけ言いたいんだ。日本では、RIZINのニュースで色々埋もれてしまったかもしれないけど、アイルランドのダブリンで行なわれた大会がすごく良かったんだ。アイルランドの観客は本当に最高だったし、ライト級でベンソン・ヘンダーソンはまた25歳に戻ったかのような試合をしたんだ」 ──日本のU-NEXTで拝見しましたが、38歳のヘンダーソン選手が、地元アイルランドのピーター・クイリー選手を相手にあのように5Rを圧倒したことに驚きました。それに、あのダブリンの観客の『ゾンビ』の大合唱! あの地ならではの盛り上がりを感じます。 「まさしく! ダブリンは年に2回大会を設けているけれど、あの環境は本当にどことも違う。皆が飲んで歌って、3試合が終った頃には誰一人シラフじゃないと思う(笑)。彼らはパーティーが好きで、ファイトも好きで、少し街を歩いただけでも、300年とか500年の歴史のあるバーがあって、とても歴史的で素晴らしい場所だ。観客は皆、『スウィートキャロライン』や『ゾンビ』を歌って、まるでサッカーの試合を観戦をしているような気分になったよ。米国ではこうならない。日本も格闘技の観戦で歌う事はしないだろう? 君たちは一度ダブリンに観戦に来なければいけない。次は2月24日(現地)だ。本当に素晴らしいから。日本もハワイも格闘技が好きな人がたくさんいて、日本の格闘技はとても特別だ。自分が格闘技の根幹を学んだところだから。ただ、ダブリンはまたちょっと違う世界なんだよ」 ──あの大会では、メルヴィン・マヌーフ選手の引退試合もエモーショナルでした。 「メルヴィンは日本でもK-1で人気の選手だったよね。彼がK-1で戦うのを見るのは本当に楽しかった。今回はキューバの強豪ヨエル・ロメロを相手に戦って、ロメロはメルヴィンをKOした。でもメルヴィンもファイトをした。この試合は、本当に全てのMMAファンが見るべき試合だと思う。メルヴィンが試合後に引退スピーチをしたのだけれど、家族もその場にいて本当に感動的だった」 ──たしかに。マヌーフ選手が、シドニー五輪フリースタイルレスリング銀メダリストのロメロ選手と最後のMMAを戦った。「自分に人生を与えてくれたこのスポーツに感謝」という言葉は胸を打ちました。 「K-1やDREAM、HERO'Sなどで活躍したスリナム出身でオランダ在住、立ち技からMMAに挑戦したマヌーフがダブリンであの試合を戦った。素晴らしい旅路だったと思うよ。  このアイルランドの大会が私にとってこれからの“祭り”の始まりなんだ。ダブリンから始まってLAのビッグカードが揃った大会、シカゴ、ミラノの大会を挟んで、その後は、12月9日(日本時間10日)にモヒガンサンアリーナでラフェオン・スタッツとダニー・サバテーロがバンタム級GP準決勝&王座戦を戦う。信じられないラインナップだ。そして年末は……榊原サンとはまだ話し合い中だけれど、いくつか企画を話している。どうなるか楽しみにしていて欲しい」(※インタビュー中篇に続く)
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