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インタビュー

【RIZIN】大晦日の鐘を鳴らすのは? 伊澤星花「“繋がれた”感覚があった」×パク・シウ「MMA的には自分が抜きん出ている」、浜崎は左腕骨折の手術、アナスタシアは母国へ

2022/09/29 12:09
 2022年9月25日(日)にさいたまスーパーアリーナで開催された『RIZIN.38』で、スーパーアトム級ワールドGP準決勝2試合が行われた。  同級王者の伊澤星花(フリー)がアナスタシア・スヴェッキスカ(ウクライナ)に腕十字で一本勝ち。パク・シウ(韓国)が浜崎朱加(AACC)に判定勝ち。結果、大晦日の決勝は伊澤vs.パク・シウの2021年10月の『DEEP 104 IMPACT』以来の再戦に決定した。  また、前王者で同級王座奪還を目指す浜崎が試合後、2Rに左腕を骨折していたことを公表。27日に手術を受けたことをSNSで報告している。 「試合で折れた腕を昨日繋げてもらった。これが→こう(手術前と手術後の写真)。オペをしてくださった先生に感謝です。ありがとうございました」「無事退院しました。試合→入院→手術→退院 4日間なんだか慌しかった。ほとんど入院してないけど外の空気はいい。手パンパン」  盟友の藤野恵実はレントゲン写真のツイートに「2Rの最初に折れて、この状態で最後まで戦いぬいたのはすごすぎる。心身ともに強くなきゃ無理。私なら多分泣いてやめる」と返信。浜崎は「親方、顔に出てなかっただけで死ぬほど痛かったよ」と苦笑マークで返している。 最後は身に沁みついた技、駆け引きでも疲弊した(伊澤)  GPで連続フィニッシュを極めたのは、王者の伊澤星花だ。  IMMAFのアマチュア世界大会で優勝し、ADCCキエフ大会で2階級制覇のアナスタシア・スヴェッキスカを相手に、1Rはスヴェッキスカのラバーガードからのヒジ打ち、足関節の攻防に粗さを見せたが、2Rには下から逆の組みでの三角で固定してヒジ打ちを返し、足関節の攻防では上を取るなど1Rの動きを修正。センタク挟みから下になっても三角から腕十字の得意のムーブで2R、残り4秒でタップを奪った。  試合後は、11月12日のDEEPでバンタム級王座防衛戦として石司晃一の挑戦を受ける、パートナーのCOROと弟の風我とともにYouTubeを更新。スヴェッキスカとの試合を「キツい中での楽しさがあった」と振り返った。  1Rにポジションを失うこともあったことについては、会見で、「前戦のRENA選手がすごい打撃の強い選手だったので、一回戦ではアナスタシア選手が打撃の選手に見えましたが、寝技はデータ通りすごい強くて、パスさせなかったり、させてもガードに戻したり、寝技のポジションを取らせない動きが凄くうまかったです」とスヴェッキスカの寝技をあらためて評価。  同時に、COROとの振り返りでは、「1Rは極めなきゃという思いが強すぎて、ポジションどうでもいいから(一本を)取りに行こうとスクランブルで仕掛けて雑になってしまった」と反省した。  フィニッシュは、三角絞めからの腕十字。相手も警戒する定番の動きを試合のなかで極められるのは、MMAのなかの柔術をやり込んでいることがうかがえる動きだった。 「あれは身に沁みついた技。三角は(相手の)右手が(三角のなかに)入っていたから極めるのは無理で、残り10秒(拍子木)の音が鳴ったから、3Rに行こうかどうしようかと思って、ワンチャン十字に行けると思って行ったら、ハマッて極めた。駆け引きでも疲れた試合だった」  フィニッシュ前に、セコンドの横田代表が珍しく「水を用意しろ」と指示するほど、伊澤にとっては「それくらい疲れていた」2Rだった。試合後は、恒例の号泣マイクは無し。リング上で笑顔で決勝への意気込みを語っている。 「今回は泣かないぞ、と決めて試合に臨みました。期待していた人にはごめんさい。でも泣いてウザいという声もあったので(笑)、泣かなかったので、次回も応援よろしくお願いします」 [nextpage] 相手がダウンしたからといって、無闇に入って行くことはしなかった(パク・シウ)  もうひとつのGP準決勝で勝ち上がったのは、前王者の浜崎朱加に判定勝ちしたパク・シウだ。  ベースであるキックボクシングの強さに加え、さらなるフィジカルの強化と、KRAZY BEEでの山本美憂とのレスリング練習が結実し、一気に成長を進めている。  試合は“ゴジータブルー”の青をイメージしたパク・シウが、サウスポー構えの浜崎に対して、内側に踏み込んでの右ストレートを当て、浜崎のニータップにも蹴り上げありのルールを活かしてすぐに立ちがることに成功。  右ミドルハイで浜崎の左前腕を赤く腫れ上がらせると、3Rには一転、左の外足を取って真ん中に右ストレート一閃、浜崎からビッグダウンを奪った。パウンドラッシュでフィニッシュも考えられた場面だが、パク・シウは1発だけを落として身体を離して追い打ちはせず、浜崎の立ち上がりを待てるほど冷静に、堅実に戦える強さがあった。  試合後の会見でパク・シウは、この場面について、「浜崎選手は、MMAの面で完成された選手。本当に色々な意味でうまいですし、キャリアも豊富です。今日はとにかく落ち着いて臨もうと思っていましたので、相手がダウンしたからといって、無闇に入って行かないというのが自分の今日の戦い方でした」と、浜崎の得意な局面で勝機を与えずに戦うつもりであったことを語る。  また、直前に扇久保博正と激闘を繰り広げたキム・スーチョルの勝利に、「スーチョル選手がいい試合をしていたので『私も頑張らなくてはいけない』と思いましたが、同時に『ちゃんと落ち着いていこう』とセルフコントロールしました」と、刺激を受けながらも、熱くなり過ぎず冷静さを失わずに戦ったことを明かしている。  大晦日の決勝は、伊澤との再戦に決まった。 「1年くらい前に一度試合をして負けましたが、現在はその時よりも伊澤選手も自分も、2人とも成長しています。決勝戦で当たれば、面白い試合になるんじゃないかと思います。伊澤選手はグラップリング、自分は打撃が得意なので、その2人が当たればまたその面白さが出るんじゃないかな、と思います」と、互いに別人として、決勝に臨むことになる、とパク・シウは言う。  前戦から自身が伊澤より上回っている部分を問われ、「伊澤選手は子供の頃から柔道をやっていたそうで、柔道式のテイクダウンが得意だと理解しています。あとはグラップリング、サブミッションに秀でている。ただMMA的には自分のほうが一歩抜きん出ているのではないかと思っています」と、トータルファイターとしての完成度で自身に分があるとした。 [nextpage] 急成長を続ける伊澤もパク・シウも「MMAで勝つ」  それは伊澤も同じ考えだ。  DEEPでの初戦では、試合前に右ヒザを傷めていた伊澤は練習が十分ではなく、試合でも蹴ることが出来ず、グラウンドでもヒザを着いての動きが制限されるなかで、1Rはパンチでパク・シウを上回っている。  伊澤はパク・シウについて、「打撃の強い選手なので、打撃の展開も多くなるし、そこから組んで寝技の展開も作っていきたい。このトーナメントで寝技の強い2選手と戦って、久しぶりにストライカーと戦うけど、自分のなかでこのトーナメントに向けてオーソドックス構えの相手との練習をめっちゃ増やしてきたから、前回やった打撃も結構良かったけど、それよりも上がっていて、打撃でも自信があるから、打撃も組みも寝技も含め、『MMAで勝つ』」と、奇しくもパク・シウと同じ言葉を発した。  その上で、決着させる武器があることが、MMAでは大きく作用する。テイクダウンプレッシャー、寝技の極めの強さがあることで、相手の打撃を制し、自身の打撃も当てることが出来るのが、MMAだ。 「やっぱりテイクダウンがカギになると思う。テイクダウンディフェンスが強い選手だと思うので、それに対しての対処をこれからしっかりやっていって、寝技の展開に持っていけるようにコントロールしていきたいなと思います」  試合後は、スヴェッキスカとウクライナの旗をリング上で掲げた。 「寝技の攻防で自分がやりたいことと、アナスタシア選手がやりたいことの駆け引きであったり、攻めどきとかの見極めで、“あっ、同じようなことを考えているな”とか、戦う気持ちの面で通じ合えたのかなって思います。  母国が大変な状況のなかで来ていただいて──総合格闘技ってやっていることは、戦っているということなんですけど、そのなかでも今回の自分の試合のように、相手の気持ちを考えたり、相手の気持ちに寄り添ったり、今回は駆け引きという形でしたが──試合の中で相手の気持ちを考えることができると思っていて、そのなかでアナスタシア選手と“何かで繋がれた”という感覚があったので、一緒に国旗を掲げました」と、戦火のなかで練習し、母国を離れて試合を行ったスヴェッキスカに敬意を表した。 [nextpage] 「世界にウクライナの国旗を見てもらいたかった」(スヴェッキスカ)  試合前、スヴェェッキスカは、RIZINでの前戦を家族がネットでライブ観戦していたことを明かしていた。 「家族や友人がライブで見ていて、私は負けてしまったけれど、自分の頑張りや能力を最大限発揮したことに満足してくれました」  戦争が続くなか、GP1回戦後もウクライナで練習することを選んだ。ワルシャワで書類を準備し、いったんフィンランドに出て、長時間のフライトを経て、来日を果たした。 「1回戦後、別の国でトレーニングしようかとも思ったけど、自国で自分のトレーナーと、自分の慣れ親しんだ環境で練習するのがベストだと思いました」  予断を許さない母国の状況を思うとき、それが現在進行形であることを、スヴェェッキスカは語る。 「ウクライナにはとても良いニュースも入ってきています。ロシア軍によって占領された領土が部分的に戻ってきたり、その一方で、この間にどれほどの人たち、一般の市民、子供や軍人が命を落とさなければならなかったかと思うと、嬉しいだけの感情にはなれません。つい最近、両国で合意があって、戦争捕虜がそれぞれ一定の国に戻れました。(マリウポリの)アゾフスターリ製鉄所に立て篭もって抵抗していた軍人が捕虜となりロシアに連れて行かれましたが、一部(※215名)が戻ってきました、それは大きな喜びでした。製鉄所の下で苦しい戦いを強いられていたわけですから。それが影響するかというと、何の影響もありません。なぜなら私たちの国では“まだ戦争が続いています”。いくら良いニュースがあってもまだ戦争が続いている。毎日、市民が亡くなっている状況が続く限り、状況をポジティブに捉えることはできません」  そのなかで、MMAの試合を自身が見せることに、想いがある。 「自分の主な試合の目的やモチベーションは、全世界にウクライナを見せたいということ。強く美しく、独立した国であることを全世界にもっと認識してほしいと思います。国民に勇気を与えるだけでなく。強い意志を持った国であることを伝えたい」  敗者から復活し、勇気を持って臨んだGP準決勝で、女王と対戦した。前戦では見せられなかったグラウンドの実力を発揮し、1Rでは、伊澤を思い通りにさせず、下からのヒジ打ちで攻勢にも立った。 「グラウンドでの時間が長かったのは事実だと思いますが、グラウンドでの勝負がやりにくかったわけではありません。今思えば、もう少しスタンドの時間があって、それからグラウンドに持って行ったほうが良かったのかもしれませんが、自分がやれるべきことは全てやりました。  伊澤選手がスーパーアトム級で最強の選手だとはもちろん知っていました。非常によい機会でしたし、新たな経験を積めたことで、これから自分のスキルやキャリアをさらにより良くしていける試合だったと思っています」  三角絞め狙いからの腕十字、分かっていても極められた一本負けと、試合後の交流で感情が高ぶったという。 「試合後に感情的になってしまい、記者の皆さんには、遅れてしまって大変申し訳ありませんでした。私の試合に注目して見ていただき、本当に感謝しています。日本での2試合を通じて、十分にトレーニングして、準備もしてきました。そういった準備を通して技術的にも精神的にも、非常に成長したと感じています。自分自身、立ち技でも寝技でも“格闘技というものが大好き”なので、不足していた部分を改善し、これからもどんどん前進していきたいと思います。  そして、日本のファンの皆さんからメールや手紙をたくさんもらったり、街で会うと挨拶してもらったりして、温かなサポートを非常に感じています。私はマスコミの皆さんやファンの皆さんからのサポートの気持ちを強く感じています。将来さらに鍛錬してより良い試合を見せることができるように頑張りたいと思います」と、“外敵”として海外から参戦するも、新たな日本との絆や期待にも応えたいとした。 「いまはほんとうに国は大変な状況です、実際に今日もまだ戦争が行われています。自分たちがスポーツに専念できることは、ある意味では、いま母国を守っている方々の活躍のおかげだと思っています。彼らにも心から敬意を表したいと思っています」と語るなか、試合後の伊澤の連帯に、目を腫らした。  同じ1997年の11月生まれの伊澤と、24歳の初秋に拳を交え、格闘技で語り合った。 「私にとっては伊澤選手が、一緒に国旗を持って掲げてくれたことを深く感謝しています。本当に素晴らしいサポートの気持ちの表れだと思っています──日本の皆さん、世界の皆さんにウクライナの国旗を見てもらいたかった、この国旗の色を覚えてほしかった──そういう意味で非常に貴重な機会だったと思います。対戦相手の伊澤選手、日本でサポートしてくださる皆さんに、心から感謝したいと思います」。 [nextpage] 「2Rに腕を折った。テイクダウンができなかった」(浜崎)  7月のGP1回戦では、師匠の藤井惠に勝利した元UFCファイター。そして、東日本大震災の日に戦う予定だったジェシカ・アギラーと対戦した浜崎。三日月蹴りを効かせての連打でダウンを奪い、テイクダウンからマウントを奪うなど、同世代対決でしっかり競り勝っている。  今回の準決勝では、進境著しいパク・シウと対戦。9歳下のシウにニータップでテイクダウンを奪うも、得意の寝技に持ち込めず、1Rから右の蹴りを受けて左腕を赤く腫れさせると、2Rに左前腕を骨折。  サウスポー構えから左の打撃を出せなくなるばかりか、組みでも力を入れられるはずもなく、最終回に右ストレートを被弾。判定で無念の準決勝敗退となった。 「負けてしまって応援してくれた皆さんにちょっと申し訳ないというか、自分自身情けない気持ちです。(パク・シウは)思っていた通り、強かったです」と淡々と語った浜崎。  折れた腕で戦った後半戦、それはパク・シウに腕を潰されたともいえる。1R目に成功させたニータップは、2R目には防がれた。  左腕を吊るして会見に応じた浜崎は、「テイクダウンに臨んだんですけど、結構こっち(傷めている左)側が痛くて肩の方も。テイクダウン、できなかったです」と、厳しい試合を振り返った。 「腕、折れちゃって。ちょっとすぐには練習もできないんで。手術になるかもしれないし(※27日に手術を行った)、骨を折ったのは初めてなので、とりあえずちょっとゆっくり休みたいですね。そんなに試合終わってすぐに休むことがなかったので、まあいい機会かと思います」  2カ月置きのGPでは、日程や相手が決まる一方、欠場が出来ない難しさがある。女子MMAのなかで、柔道ベースに国内で無双する強さを見せて来た。天才的な動きのなかで、14年のキャリアを経ても、技術的にはまだまだ伸び代があるという。休養を経て、新たな境地でどう戦うか。  決勝に進出した両者については、「打撃戦だったらパク・シウ選手の方が強いと思いけど、伊澤選手はどれくらいテイクダウンできるか。多分、寝技もパク選手はできるんですけど、極めの強さで言うとやっぱり伊澤選手だと思うので……そうですね、予想はちょっと難しいです」と、語っている。  6カ月間で3試合を勝ち抜くGPで、最後に鐘を鳴らすのは、伊澤星花か、パク・シウか。
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