2022年8月20日(日本時間21日)に米国ユタ州ソルトレイクシティのビビント・スマート・ホーム・アリーナに18,321人の観客を集め、チケットが完売した『UFC 278: Usman vs. Edwards 2』メインでの、劇的な最終ラウンドKOの反響が試合後も続いている。
パウンド・フォー・パウンド1位で、ウェルター級の“絶対王者”ウスマンは、6度目の防衛戦。UFCデビュー以来、15連勝中で、勝てばアンデウソン・シウバの16連勝に並び史上最多タイとなるはずだった。
対するエドワーズは、2015年12月のウスマン戦後は負け無しで、1つのノーコンテストを挟み9連勝中も、2021年6月の前戦ではランク外のネイト・ディアスに判定勝ち。現ランカー相手では2017年3月に7位のヴィセンテ・ルケにしか勝っていなかった。
オッズはウスマンの完全なフェイバリット。アンダードッグのエドワーズには約3倍の倍率がつけられていた。
左ストレートを残したまま左ハイKO
試合は、1Rこそエドワーズが両脇を差して小外がけで“テイクダウンを許さない男”ウスマンからテイクダウンを奪い、そのままマウント、バックに回る場面を作ったものの、以降は王者が胸を合わすことなく防御し、テイクダウンを奪い返すと打撃をヒット。挑戦者にとって、後がない状況だった。
迎えた最終5Rも、ペースはウスマンで、エドワーズは手が出せず。ウスマンの左右ボディ打ちからのダブルレッグで金網を背に。エドワーズが左で差し上げたところで動きが膠着し、ケージレスリングが「ブレーク」となった。
残り2分25秒。サウスポー構えから左ミドルを当てるエドワーズ。2発目がローブローとなり中断からの再開で残り1分52秒。
ウスマンの右前蹴りに左インローを当て返したエドワーズはこれで距離を掴んだか。残り59秒、右ジャブのフェイントから左ストレートを伸ばしてウスマンに右手で内側にパーリングさせて、右に頭を傾けさせると、左ヘッドキック一閃!
側頭部から首筋に受けヒザから崩れ落ち、失神したウスマンにエドワーズは追打の必要もなく、両手を挙げてKO勝ち。左手を相手の目の前に残したままの左ヘッドキックだった。
[nextpage]
エドワーズ「英国でもチャンピオンになれるって言っただろ?」
歓喜のエドワーズはマットに座り込んで涙。ベルトを肩にかけると、ジョー・ローガンのインタビューに「言葉に出来ない。長い長い4年間だった。みんな自分のことを疑っていた、自分には無理だと言っていた。今の俺を見てくれ。パウンドフォーパウンドを倒したんんだ! ナンバーワンのヘッドショットだ。ここまで鍛えてきた、やることをやってきた。人生を賭けてここまでやってきたんだ。チームメイトのために、英国のために、やったんだ。パウンドフォーパウンドはもういない。ベルトは誰かの絶対的な所有物じゃない。やったよ。
言った通りになっただろ? 神が味方をしてくれたと思った。パンデミックもあり、2年間、何も出来なかった。ジャマイカで生まれ、何も無いところから出て来た。この日をずっと待っていた。ダナ、ありがとう。何も無かった俺にチャンスを与えてくれて。苦境を乗り越えて来たんだ、やり遂げるまで頑張ってきた。見てくれ! これは俺の後に続く人々のためだ。英国で練習していてもベルトを獲れると言っただろう? 母さん、あなたのためにやったんだ!『人生を変える』と言っただろう? 今の自分を見てくれ!」と歓喜の言葉を語った。
控え室に戻るときには、ベルトを片手に母親に電話。「なぁ、言っただろ? 母さん、『俺は勝つ』って。母さん、俺やったよ」と涙を流した。
試合後の会見では、「俺はジャマイカで何も持たずに生まれた。家はトタン屋根で木造の小屋だった。そこからすべてが始まっているんだ。だけど、今の俺を見てくれ。パウンド・フォー・パウンドのトップをヘッドショットでKOしたんだ」と、辛苦のなかでベルトを掴んだ想いを語った。
さらに、「自分が子供の頃と同じような立場にいる子供たちに、“何もないところから来ても世界のトップに立つことができ、人生でなりたいものになることができる”ということを証明したい。旅は、自分が始めた場所で終わる必要はないんだ。両親や家族の足跡をたどる必要はない。一生懸命に努力すれば、家族の未来を変え、人生でなりたいものになることができる」と、恵まれない環境からも懸命に努力すれば、自身が望む人生を掴むことができると、後進に訴えかけた。
また、試合前にジャマイカの英雄ウサイン・ボルトから激励の言葉を受けていたことも明かしている。
[nextpage]
「ロッキー」を5R、鼓舞し続けたセコンド
アンダードッグからの大逆転劇を成し遂げたレオン“ロッキー”エドワーズ。その勝利を支えたセコンドの叱咤にも注目が集まっている。
コーナーマンとしてついたデイブ・ラヴェルは、ウスマンに取り返された2R終了後に、「頑張れ、負けるな、レオン。いまで1対1だ。行くぞ。あいつに屈するな」とゲキを飛ばすと、3R終了後に立ったままケージに両手を置くエドワーズに、「座れ、座るんだ。聞け! もっと泥臭く戦え。2つラウンドを落としたぞ。ヤツに支配されすぎだ。もっと手を出せ」と送り出し、4R終了後には、椅子に座り下を向いているエドワーズに、「聞け、お前、何を落ち込んでるんだ。どうした? 負けるなよ。火事場のクソ力を出してみろ! カモン、レオン、さあ、行け!」と、エドワーズの尻を叩き、鼓舞している。
そして、フィニッシュの直前、エドワーズの得意技を「ヘッドキック、レオン!」とコーナーマンが叫んだ瞬間、左の蹴りがウスマンの頭を打ち抜いている。
ウスマン「立ち上がり復讐を果たす」
ウスマンはUFC初黒星。UFCでの連勝も「15」でストップし、アンデウシン・シウバの記録に並ぶことはできなかった。
試合翌日、前王者は、SNSで「チャンピオンも時には失敗する……だけど、俺たちは立ち上がり復讐を果たすよ! くそっ、俺はこのスポーツが大好きだ! いろんなことが起こるけど……神に感謝し俺たちは動く。おめでとう、レオン・エドワード」「すべてのサポートに本当に圧倒されているよ。俺は大丈夫、ちょうどいいところに当たってしまっただけで、こういうことは起こるものだ。俺たちはそこから学び、偉大さが必要とすることをするのみさ」と、悔しさとともに、リヴェンジに向けて気持ちを切り替えていることを記している。
ウスマンと同じマネージメントで、ともに練習もしていた元パウンド・フォー・パウンド1位のハビブ・ヌルマゴメドフは、ウスマンの王座陥落について、「翌朝にUFCを見て、正直言うと驚いたよ。少し動揺したと言っていい。俺とカマルには深い友情があるからね。それに、もちろん現時点で世界最高のファイターが、残り50秒しか残ってないのに、あんな酷いKO負けするのを見るのは辛い。一瞬、すべてがうまくいかなかった。彼は手を間違った場所に置いた。適切な防御が行われていない場合、視界が消える可能性がある。ロッカールームで目覚めれば、それで終わりだ」と、勝利目前でのKO負けにショックを隠せず。
続けて、「俺はもうトリロジー(3戦目)が組まれている方向にあると知っている。ウスマンがエドワーズに勝てると信じている。ただ、あのようなKOから立ち直れない選手もたくさんいるから、どうなるか見るのは興味深いね。これで彼らは1勝1敗だし、俺はトリロジーが見たい」と、ラバーマッチが組まれる可能性を示唆した。
[nextpage]
ダナ代表「3戦目は英国になるだろう」
エドワーズは英国人として、2016年のマイケル・ビスピン以来のUFC世界王者に。2015年にウスマンにフロリダで判定負けし、ソルトレークでKO勝ち。もし、3戦目が組まれるなら、次はエドワーズのホームになる可能性が高い。
ダナ・ホワイト代表は、試合後の記者会見で、「ウスマンは完璧な戦いをしたと思ったよ。それはファンにとって最もフレンドリーなスタイルというわけではなかったかもしれないけど、彼はパンチ、ヒジ打ちと大きなショットを打っていた。ただ、ウスマンは最後の最後まで完璧な戦いをすることができなかった」と、王者の陥落を語り、「それが起こるのがこのスポーツだ。それこそがMMAをMMAたらしめている」と、最後まで何が起こるか分からないのが、MMAだとした。
さらにダナ代表は、エドワーズが3部作の次は母国の英国で行われることを望んでおり、ウェンブリー・スタジアムが可能性として考えられていることを明かした。
「3戦目は英国になるだろう。ウェンブリー スタジアム? 英国は天気が最高とは言えない。英国では外に出るのが怖いね」と、客席は屋根に覆われているものの、ピッチは屋外となる同所での大会開催にリスクがあることも語っている。
旧ウェンブリー・スタジアムは、ライヴ・エイドでクイーンが伝説の21分間を演奏した場所。現在のウェンブリー・スタジアムでは、2018年9月に、アンソニー・ジョシュア(英国)がアレクサンデル・ポベトキン(ロシア)と世界戦を戦い、8万人以上の観衆を集めている。
サッカー英国代表が使用する“聖地”ウェンブリーで、「ウスマンvs.エドワーズ3」は実現なるか。