2022年7月2日、沖縄アリーナで『RIZIN.36』が開催され、そのジャッジペーパーが「一般社団法人日本MMA審判機構(JMOC)」から公開された。
全13試合中、2つのスプリット判定、そしてユニファイドとは異なるRIZINジャッジの傾向が如実に表れた1試合について、下記で選手のコメントとともに紹介したい。
▼第13試合 フェザー級(66.0kg)5分3R×鈴木博昭(BELLWOOD FIGHT TEAM)[判定1-2]〇平本 蓮(ルーファスポーツ)
▼第12試合 女子スーパーアトム級(49.0kg)5分3R×山本美憂(KRAZY BEE/SPIKE22)[判定1-2]〇大島沙緒里(AACC)
▼第10試合 フェザー級(66.0kg)5分3R×カイル・アグォン(SPIKE22)[判定0-3]〇山本空良(パワーオブドリーム)
まず、前提として、RIZINのジャッジ・競技運営は、外部団体である「一般社団法人日本MMA審判機構(JMOC)」が行っている。基本的に、各試合の担当レフェリー・ジャッジのシフトはJMOCが決め、直前まで明かされない。
RIZINのジャッジはラウンド毎の10点法(ラウンドマスト)ではなく、「15分間の試合全体で評価」するトータルジャッジ。その評価基準は下記の通り。
◆RIZINの判定基準の優先順位
1. 相手に与えたダメージ(50%)D↓2. アグレッシブネス(30%)A↓3. ジェネラルシップ(20%)G
※イエローカード(減点)はマイナス20%。口頭による「注意」「警告」は判定に影響しない。
今回、公開されたジャッジペーパーを確認すると、まずメインイベントの平本蓮(ルーファスポーツ)vs.鈴木博昭(BELLWOOD FIGHT TEAM)の判定2-1での平本の勝利は、ダメージ(50%)、アグレッシブネス(30%)は両者ともに無し。ジェネラルシップ(20%)を2者が平本が支持、1者が鈴木を支持している。
序盤は平本の打撃が攻勢で、そこに鈴木がテイクダウンにトライもいい形で崩せず。平本のテイクダウンディフェンスが奏功する展開に。中盤から平本の手数が減り、鈴木の左オーバーハンドが目立つようになるが、互いに決定打はなく、判定は2-1に割れて、平本がMMA初勝利を掴んだ。
ジャッジは打撃でのダメージ、テイクダウンや手数などのアグレッシブネスでも甲乙つかず、リングジェネラルシップで平本がコントロールし上回っていたと判断した。
今後について、平本は「レスラー相手とも戦いたい」とよりテイクダウンプレッシャーの強い選手を相手にも自信を見せている。
▼第13試合 RIZIN MMAルール フェザー級(66.00kg) 5分3R×鈴木博昭(BELLWOOD FIGHT TEAM/65.90kg)判定1-2〇平本 蓮(ルーファスポーツ/65.85kg)レフェリー:豊永 稔ジャッジ:松宮智生/青・平本 [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20]豊島孝尚/赤・鈴木 [D 0-0/ A 0-0/ G 20-0]片岡誠人/青・平本 [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20]
鈴木博昭「(平本は)テイクダウンディフェンスが思ったより強かった」
──平本選手の試合を終えた率直な感想からお聞かせください。
「うーん。これ、まあどっちが勝ったって、正直、自分でも分からなかったような内容だったので“どっちだろう”ってなかなか決め手がない試合だったって感じですね」
──判定は割れました。聞いた時のご自身の印象は?
「“どっちが勝ったんだろう”って。一本向こうに入って、一本こっちに入って、“どっちだ? どっちだ?”っていう。でも、本当にギリギリでどんな形でも、やっぱ星は落としちゃ行けなかったというのはあります」
──対戦を終えて、平本選手の印象は戦う前と違うところはありましたか。
「そうですね、テイクダウンディフェンスが思ったより強かったっていうのはありますね。今回、何だろう、MMAファイターとしてどうしても試したかったところはそれだったので。そうですね、“あっ、思ったより倒れないな”というのが率直な印象です」
──MMAファイターとしてテイクダウンを試したかった、と。今回のテーマは「仕留める」ということでした。仕留められなかったことはご自身で要因はどう考えますか?
「ひっ倒して上になってボコボコにする、っていうのが今回の仕留める作戦だったんですけど、なかなかそれが上手くいかなかったという感じですね。“立ちでやりたい”って言っててそのまま立ちでやったらキックボクシングと変わらんやないかいっていうのがあったので。ただ思った以上に倒れなかったから結局キックボクシングみたいな内容になっちゃったかなというのはあります」
──試合を終えたばかりですが今後の展望を教えていただけますか。
「またイチから練習のし直しです。よく言うのですけど、本当に正直ヘコんでいるのはあるんですけど、ヘコんでるヒマがないって、みんないつも、『戦うんだったら、前を向いてやるだけ、下向いてるんだったら辞めとけや』ってよく言っちゃうんで、それを自分が体現しないといけないというのはあります。なのですぐ練習です。強くなるための練習をしたいと思います。まあ怪我もないので、すぐ練習します、はい」
──相手の印象として、懐を深くして待ちになっている感じがしましたか?
「思ったよりガンガン(来る)というよりかは、ちゃんと見ているなというのはありましたね」
──そういう意味では、スタンドだけど打ち合って無理やりにでも倒してやるという感覚は向こうにはなかったような感じですか?
「でも打ってくるっていうのは……、まあでも打撃はイメージ通りで威力もこんな感じだよね、という想定の範囲内ではあったっていう感じですね」
──たとえば2R以降とか、打撃で自分も全振りしてテイクダウンとか考えずに行ってやろうかなというような感じではなかったですか。
「全部混ぜてこそのMMAというのがあるので、そこで一方的な展開に持って行きたかったっていうのがあるので、うーん。なかなかそれがうまくいかなかったというのが今回の印象ですね」
──オープニングの時に感極まっているような表情でした。
「本当にこの格闘技に賭けているのはもちろんなんですけど、日常ずっと過ごしてきて、“ああ、俺いまこのために日常を捧げてるんだな”と思った時に、オープニングの音楽を聞いて、入る時に何か、日常を賭けてきたものが込み上げてきたというのはありますね。何かこう、このために生きてんだなと思いました」
──平本選手から計量で挑発的な態度を取られ、試合コール時も中指を立てるジェスチャーがありました。どんな感情でしたか。
「“おう、いいよ、かかって来いよ”というだけですね。別に、いいですねっていうのはありましたね。別に喧嘩売られることは今までも何度もあったのでそのうちのひとつという感覚でしたね」
──すぐに練習再開したいとのことですが、平本選手へのリベンジは?
「もちろん巡り合わせが来たらすぐにでもやりたいですね。何かこう、悔しいですね。悔しいですね、とにかく。巡り合わせが来たらいつでもOKです。それが何年越しだろうが、割と近い将来であろうが。負けたまんまで終わっていられるほど優しくないのかなというのはあります」
──先ほどご自身がおっしゃったように「キックボクシングになってしまった」という中で、平本選手が左回りでジャブや三日月蹴りやレバー打ちをして、有効打を当てていたのだとしたら、どんなところが上手かったと感じましたか。
「有効打? うーん。僕的には1回左ジャブみたいなのを食らったかなっていうので、あとは全部クリーンヒットもらってないっていう印象があったんで、三日月とか食らっても、ひとつも僕の、何だろう、腹の攻撃はひとつたりとも効いていなかったから。まあそれがいけなかったというのもありますね。
だから、プレスかけて下がって行ったから、当てさせずにいて、たまに、有効打を撲が当ててっていう感じだったのかな? まあでもダメージを与えてないからね。何だろう、審判にどっちが勝っただろうっていうのを言うのもまあ、僕=ファイターが言うのは野暮なんで、審判が言うことが絶対だから、勝負決められなかった、ちゃんとしたダメージ与えられなかった僕が悪いかなと思ってます。ただ効いてはいないです」
──中盤から鈴木選手の左が当たり始めた、あの距離が変わってきたのはどのような要因が?
「(平本の)パンチが見えたんで。腹は効かないなっていうのがあったから、打撃はそんな怖さはないなっていう。1Rはうまく行かなかったかなというのはあったんですけど、うーんまあ、普段の練習と似たような感じがあったので、2R以降は。“まあ、これは自分がやられることはねーな”とは思いました」
──1者入ったのは、鈴木選手のテイクダウン・アテンプトによるジェネラルシップが評価されたと。
「なのかな? まあまあ、しょうがないです。判定になった時点で僕が言うことはないです」
◆平本蓮「今回は完全制圧が目標だった」次は「萩原京平をぶっ飛ばしたい」、朝倉未来のツイートには「塩試合のお前が言ってんじゃないよ」
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山本美憂がコントロールも、大島沙緒里がアグレッシブネスで競り勝つ
また、セミファイナルの第12試合、女子スーパーアトム級も判定が割れた。
階級下から挑戦の大島は、RIZINで浅倉カンナを撃破したように、サウスポー構えのレスラーに対して、強みを持つ。オーソからの右の蹴り、中央を取っての右ストレート。相手のテイクダウン狙いにはキムラやギロチンを合わせてのスイープが勝ちパターンだ。
一方で、山本は大島を研究し、右の打撃は受けたものの、自身の左ストレートを返して、大島の足技を際で潰して上になりコントロール。しかし大島のボトムからの仕掛けもあり、トップから大きなダメージを与えることは出来なかった。
ジャッジはダメージは両者無し、アグレッシブネス(ポイント30%)で2者が手数を出した大島を支持。一方、リングジェネラルシップ(ポイント20%)では、3者が山本がコントロールし上回っていたと判断した。
結果、下記の通り、判定は1-2で大島が接戦を制している。ダメージがつかない試合は差がつけにくく、どちらが勝っていてもおかしくない試合では、このRIZINのジャッジ基準の優先順位を考慮して戦うことが勝利へとつながる。大島はグラウンドで下になったことで失点し、山本は手数が必要だったといえる。
もし“空砲”のアグレッシブネスと、背中を着かせるテイクダウンがあった場合、どう評価するかなど、今後も注視したいところだ。
▼第12試合 RIZIN MMAルール 女子スーパーアトム級(49.00kg) 5分3R×山本美憂(KRAZY BEE/SPIKE22/49.00kg)判定1-2〇大島沙緒里(AACC/47.90kg)レフェリー:福田正人ジャッジ:松宮智生/青・大島 [D 0-0/ A 0-30/ G 20-0]豊島孝尚/青・大島 [D 0-0/ A 0-30/ G 20-0]片岡誠人/赤・山本 [D 0-0/ A 0-0/ G 20-0]
山本美憂「正直勝ってたと思っていた。自分に何か足りなくてこういう結果になったのか……」
──大島沙緒里選手との試合を終えた率直な感想をお聞かせいただけますか?
「うーん、まあ正直勝ってたと思っていたので、自分に何か足りなくてこういう結果になったのかなと思いますけど……うん、自分の中ではこう、試合全体を見ると勝っていたような気がするんですけど、自分の中ではもっとできたかなというのはあります」
──対戦を終えて、相手の印象は戦う前と違うところはありましたか。
「やっぱり寝技に持ち込んでくる選手だったっていうのは、あとまあ蹴りは来ていたんですが、そういうところは、蹴りとか打撃は全く自分のペースが崩れるところはなかったんですけど……まあよく分からないです」
──試合前、「今回は勝って沖縄に恩返しをしたい」という思いを語っていました。
「もうね、何て言ったらいいか。結果を見たら『またすみません』みたいな感じなんですけど、皆さん内容も見てくれたと思うので。『はいさい』と」
──試合を終えたばかりですが今後の展望を教えていただけますか。
「今後ですか? うちのKRAZY BEEがまた色々とこれからリニューアルして変わって、チームをどんどん強く、下も育てなきゃいけないので、あとはそうですね、チームメイトも試合を控えていますし、とりあえず自分の試合というよりはうちのチームの選手を勝たせることに今は集中したいかなって思いますね」
◆大島沙緒里「軽い階級を作ってもらえたらいいなと思ってまずは自分が頑張っています」
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ユニファイドならアグォンに、RIZINルールはダメージ優先で山本が金星掴む
一方、第10試合のフェザー級戦では、21歳の山本空良(パワーオブドリーム)がカイル・アグォン(SPIKE22)を破る金星を挙げた。
判定は3-0でジャッジ3者ともに山本を支持した。
試合はリポートでも記した通り、1、3Rはアグォンが強いテイクダウンとコントロールで支配。しかし、2Rに山本がアグォンの組みに合わせて打撃を当て、ニアフィニッシュを奪っている。
北米のユニファイドルールなら1、3Rを取ったアグォンが29-28で勝利とされてもおかしくない試合だが、RIZINは3R通じてのトータル判定でダメージの割合が50パーセントと大きい。2Rに山本が奪ったダウンとパウンドがニアフィニッシュとして評価されての、判定3-0での勝利だった。
敗れたアグォンも悔しさはあらわにしながらもその点は理解しており、「ジャッジに対しては全く怒りはなく、彼らみんなが山本選手が勝ったと思ったのなら、RIZINでは山本選手が勝ったということだと思っているので、そこに対しての不満はないですが、RIZINでこれからやっていくなら作戦のアジャストが必要」と語っている。
▼第10試合 RIZIN MMAルール フェザー級(66.0kg) 5分3R×カイル・アグォン(SPIKE22/65.70kg)判定0-3〇山本空良(パワーオブドリーム/65.90kg)レフェリー:柴田 旭ジャッジ:松宮智生/青・山本 [D 0-50/ A 0-30/ G 20-0]豊島孝尚/青・山本 [D 0-50/ A 0-30/ G 0-20]片岡誠人/青・山本 [D 0-50/ A 0-0/ G 20-0]
カイル・アグォン「自分のファイトIQの高さと試合に確実に勝ちに行くのは10ポイントマストシステムにおけるもの。RIZINのジャッジのシステムにはハマらなかったので研究したい」
──山本空良選手との試合を終えた率直な感想をお聞かせいただけますか?
「自分が試合には勝っていたんじゃないかとは思っていました。彼は2R目に大きなインパクトを残していましたが、1Rと3Rは自分がコントロールしてしっかり取っていたんじゃないかと思います。打撃をちょっと効かされた時も自分は動いて常に前に出続けていたし、その後に仕掛けていたのでそういう部分では自分はダメージというものを、受けても前に動き続けていたとは思います。
本当にこの競技はいい時と悪い時の落差がすごくあります。最終的にジャッジがどちらかの手を上げるに委ねた自分のせいだと思っています。自分は常にフィニッシュを狙っていますし、今回自分はアグレッシブにやれたと思っているので残念です」
──対戦を終えて、山本選手の印象は戦う前と違うところはありましたか。
「印象は特に変わっていないですね。自分が油断して一発もらいダメージを受けてしまったという部分が全てだと思います。この競技は1ミリ、数センチ単位の世界の中でやっていますから、今回その数センチ、ちょっと自分の油断という部分でスリップの距離とタイミングをずらしてしまってもらってしまった。
そこから、生存するために戦っていたのだと思います。あとはちょっと自信過剰というか、自分が圧倒して勝てるという自信を持って上がっていたので、そういう部分があったのかなと思っています。いずれにしてもまだ自分が彼より総合的に実力が高いと思っていますが、今回その自信過剰な部分が出てタイミングなどミスしてしまったという感じです。印象としては何も変わらないです」
──2R目のインパクトのある打撃でプランが変更されたりスタミナへの影響はなかったですか?
「やっぱりいまだに自分の方がレスリングとかグラップリングが強いと思っていますので、早い段階でダメージをもらってしまったので作戦変更というか、寝技に持っていってセーフゾーンで戦って相手をコントロールして勝ちに行こうという方向になりました。
本当は最初の作戦ではスタンドで打撃勝負をしたかったのですが、本当に総合的に自分の方が優っているというのは変わりません。数センチの距離でやっているので、そこの距離を見謝ったという部分で2R、彼にビッグインパクトあったので、3R確実に取りに行こうという作戦変更がありました」
──試合を終えたばかりですが今後の目標を教えていただけますか。
「自分のファイトIQの高さと試合に確実に勝ちに行くという部分で、結構知られている選手だと思っているのですが、それは10ポイントマストシステムにおけるものなので、それが今回、RIZINのジャッジのシステムにはハマらなかったのだと思いますね。RIZINがまた呼んでくれるのであれば、10ポイントではなくてRIZINのジャッジングシステムをもう少し研究して自分の戦略というものをRIZINのジャッジシステムに合わせた練習と戦い方にアジャストしていかなくてはいけないのかなと思っています。
なので、1回白紙に戻ってまた作り直すという作業になるのではないかと思います。ジャッジに対しては全く怒りはなくて、彼らみんなが山本選手が勝ったと思ったのならRIZINでは山本選手が勝ったということだと思っているので、そこに対しての不満はないですが、RIZINでこれからやっていくなら作戦のアジャストが必要かなと。MMAファイターとして非常にレベルが高いと思っていて自分の技術力も高いと思っています。本当に内容の濃い練習を世界トップ選手たちともしていますので、そこに関しては自信を持って、引き続きやっていきたいと思っています」
◆山本空良「判定で勝って凄く悔しい」が父・山本喧一からは「胸を張って歩け」と言われた