2022年7月2日(日本時間3日)、米国ネバダ州ラスベガスのTモバイル・アリーナにて『UFC 276: Adesanya vs. Cannonier』が開催される。
メインイベントは、ミドル級世界王者イズラエル・アデサニヤナイジェリア・22勝1敗・UFC11勝1敗)が、ジャレッド・キャノニア(米国・15勝5敗・UFC8勝5敗)を迎え撃つミドル級王座5度目の防衛戦。
さらにフェザー級世界王者アレクサンダー・ヴォルカノフスキー(豪州・24勝1敗・UFC11勝0敗)と、元王者マックス・ホロウェイ(米国・23勝6敗・UFC19勝6敗)の3度目の対戦となるフェザー級タイトルマッチも組まれている。
今回は、メインのミドル級タイトルマッチの見どころをWOWOW『UFC-究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”髙坂剛に語ってもらった。
3秒に1回のフェイント、歩いてスイッチ、グラウンドの対応力──アデサニヤの進化
――『UFC276』のメインイベントは、ミドル級の“絶対王者”と言ってもいいアデサニヤに、ミドル級随一のKOパワーを誇るキャノニアが挑戦します。この一戦を髙坂さんはどう見ていますか?
「まず自分が感じているのは、アデサニヤがここにきてさらに成長してきているなっていうことなんですよ。前回のロバート・ウィテカーとの防衛戦の映像をじっくりと観てみたんですけど、3つの大きなポイントが見つかりました」
――どんなポイントがありましたか?
「一つはフェイントの数ですね。もともとアデサニヤはスタンドでフェイントを多用する選手ですけど、ウィテカー戦ではこれまで以上に頻繁に使っていたんですね。5ラウンド通して試合映像を観ると、あたかもそれが当たり前の動きのように見えてしまったりもするんですけど、よくよく見ると、とくに前半のラウンドでは下手したら3秒に1回くらいフェイントを入れてるんです」
――そんなに頻繁でしたか。
「それを5ラウンド通してやり続けていたので、相当相手にプレッシャーを与えることを念頭に入れて戦っていたんだろうな、と。また、そもそもアデサニヤはスタンドの距離設定が遠いじゃないですか。そこからどう距離を詰めるかというと、オーソドックスの構えから歩いてサウスに変えて詰めるパターンがあるんです」
――「歩いてサウス」とはどういうことですか?
「つまり、その場で前足と後ろ足をパッと入れ替えるのではなくて、歩くように後ろ足を前に出すように構えをサウスポーに変えて、またフェイントを入れたりしてプレッシャーをかけていたんですね。で、ここからが二つ目のポイントなんですけど、その場で足を入れ替えるスイッチと、歩くようにサウスポーに構えを変えるのは、相手にとっては大きな違いがあって、いわゆる“チェンジアップ”の効果を生むんです」
――野球の球種のチェンジアップのことですか?
「そうです。野球のチェンジアップは、ストレートの速いボールと同じ腕の振りで遅い球がくるからタイミングをずらされるじゃないですか。アデサニヤは速いスイッチと、歩くように構えを変えることを併用することによって、急に速く動いたりして、相手に反応させない形で打撃を入れるということを、これまた試合を通してやっていたんです」
――5分5ラウンドの間、いろんなフェイントを多用していた、と。
「そんなことなかなかできるものじゃないんですよ。だから5ラウンド目とか、アデサニヤはタックルでテイクダウンを取られているんです。ウィテカーが頑張ったのももちろんありますけど、さすがにアデサニヤも足が疲れたんじゃないかと思うんですね。それぐらいフェイントを仕掛けて、プレッシャーをかけ続けていましたから」
――では、その2種類のスイッチを使ってタイミングをずらしてプレッシャーをかけていたのが、ポイントその2ですね。
「そして3つ目は、組技技術全般の向上ですね。昨年3月に1階級上のライトヘビー級王座に挑戦したとき、ヤン・ブラホヴィッチに寝技でトップコントロールされて自分の動きを封じられて負けてるので、おそらく相当取り組んできたんでしょうね。グラウンドの対応力がすごく上がっていて、手首をつかむリストコントロールで相手の攻めを防いで、スタンドに戻す動きがすごく良くなっていた。だからウィテカーもテイクダウン取れているんですけど、結局、攻め切れなかったんですよ」