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【THE MATCH】武尊の盟友・松倉信太郎が語る、武尊と那須川“戦いの哲学”の違い「相手のジャブは“拳を頭で割ろう”と。試合後、武尊から『ごめんね』と言われて──」

2022/06/21 15:06
 2022年6月19日(日)東京ドーム『THE MATCH 2022』のメインイベントで、那須川天心(TARGET/Cygames/RISE世界フェザー級王者)vs.武尊(K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST/K-1 WORLD GPスーパー・フェザー級王者)の“世紀の一戦”が行われた。  5万6千399人の観衆によるチケット売り上げ20億円、50万件(25億円)以上のPPV購入があった同大会のトリを飾る最後の試合は、那須川が判定5-0で勝利。7年間実現が期待されてきた一戦にピリオドを打った。  試合後、現WBA世界ライトフライ級スーパー王者の京口紘人をはじめ、多くのファイターがこの一戦について語っているが、本誌『ゴング格闘技』2022年5月号で、武尊と同級生対談を行った松倉信太郎が、交流のある秋山成勲のYouTubeチャンネルに出演。武尊がいかに那須川との試合に臨んでいたかを明かした。両者の証言と本誌の取材を交えて、試合で何が起きていたのかを考察したい。 武尊は勝ち方にすごくこだわっていた  武尊とKrush時代からの盟友である松倉は、武尊の練習会「teamVASILEUS」の第一号選手でもある。今回の試合に向かう姿をつぶさに見て来た。  試合前の本誌の取材で、武尊の苦悩を近くで見ていて、どんな思いだったかと問われ、「難しいですね、どこまで言っていいのか……。僕だったら、武尊みたいに我慢は出来ないし、いろいろ言っちゃうし暴れてるでしょうね。僕から言えるのはすべて耐えて、我慢して、受け入れて進んで行ってるんで。だけど、武尊は何を言われてもずっと『やる』と言い続けてきたんですよ。武尊の凄さは、勝ってきた数や勝ってきた相手とかいろいろありますけど、僕は『ワンデートーナメントに3回出て、3回とも優勝した』っていうことが一番凄いことだと思ってます。実力もあるんですけど、強い覚悟と意志が無いと出来ないことだと思うし。もちろん格闘技の神様に愛される部分もないと達成できないと思うし。だから天心戦のことも、僕はすべて知っているわけじゃないし、いろんな面があるとは思いますけど、俺は“武尊が作っていったもの”だと思ってます。いろんな人の協力があって実現したことですけど、その舞台を一番欲して、一番作っていったのは武尊だと思うんで」と、武尊の葛藤について語っている。  そんな松倉は、武尊と那須川の試合をどう見たか。  秋山との対談で、松倉は那須川戦について、「フラットな目線で見れていないですけど」と前置きしながら、武尊と那須川の“戦いの哲学”の違いについて、語り始めた。 「天心君のように技術・スピードがある選手を相手に、武尊は勝つことも大事だけど、勝ち方にもすごくこだわっていて、ほんとに“倒すこと”を一番に考えていた。だから、3Rでも最後は倒すんだろうなと思っていました」という。  一方の秋山は、「天心選手が判定で勝つだろうなと思っていました。ルールは天心君寄り。そこで『中立の舞台を作ってくれてありがとう』と言った武尊君はかっこいいなって」と試合前の予想を語る。 [nextpage] ジャブに関しては「受けよう」と決めていました  戦前の多くの予想では、圧力をかけて前に出る武尊に対し、那須川はステップを使ってヒットアンドアウェーでポイントアウトを狙う。それを武尊が捕らえることができるかどうか、というものだった。  秋山は1Rの展開を、「武尊選手はいきなり行くのかなと思っていた。でも武尊選手が右ストレートに行くと、天心君の左ストレートが来る。武尊君が確実にプレッシャーはかけていて、1Rが一番大事かなと思っていたら、天心君の縦拳のようなジャブが7、8割当たり出した。あれは効かなくてもイライラする。武尊君は焦って動けなくなったのかな」と動画を観ながら語る。  そこで松倉は、武尊陣営が“倒す”ために大きな選択をしていたことを明かす。 「ジャブに関しては“受けよう”と決めていました。天心君のジャブはコンパクトで速いけど、ジャブじゃ倒れないし、勝ち方のなかで“肉を斬らせて骨を断つ”じゃないけど、相手がジャブから作ってくるのは分かっていたので、受けて無視して“拳を頭で割ろう”、くらいの感じだった」  額で受けて、相手の拳を壊す覚悟で詰めに行く武尊に対し、その頭を跳ね上げさせる那須川。この攻防も、那須川は瞬時に作戦を変えている。 「僕、相手のセコンドの声がよく聞こえていて『ジャブは捨てろ』と相手のセコンドがずっと言っていたので、あえてジャブを踏み込もうと思って思い切り打ちましたね。それでジャブで止めることが出来たので。本当はジャブをポンポンと(軽く)打とうと思っていたんですけれど、相手セコンドの声が聞こえたので踏み込んで強く打とうと思って打った感じです」  秋山は那須川の出入りを賞賛する。 「武尊選手はフックがすごく強い。でも中に入ると天心君はバックステップで距離を取る。天心君側としては作戦通りかな。相手のストレートに合わせて左……うまいね。頭を下げて左を打っている。残り10秒切ったところでダウンを奪い、これで取ったら、逃げ切れると思っただろうね」  オーソドックス構えの武尊に対して、那須川はサウスポー構え。右利き同士だと、武尊の得意な右フックから返しの左フックを一番いい位置で当てることが出来るが、相手がサウスポーだと、相手の肩と前手が邪魔になり、また相手の頭が少し近いため、右からの返しだとパンチが入りにくい。  さらにサウスポーだと左ストレートを合わせられてしまう。武尊の得意のパターンが、危険な瞬間を作り、その頭を下げて打つ左の相打ちは、那須川の得意技だった。  那須川は「会心の左でしたね。カウンターというかコンパクトに狙う、大きくならないで刀のように刹那というか、それを意識していました」とその瞬間を語っている。 「でもあそこですっと立った武尊選手もスゲーなって」という秋山に、松倉は「ダウンを取られたのは良くはないですけど、今までも無くはない。割と序盤はキツい展開も武尊はひっくり返す、逆に火がついたかなと」と1Rの展開を振り返った。 [nextpage] バッティングに投げ、「天心君はこういった場面で、しっかり休めるハートの強さを持っている」  2Rのゴング。 「武尊選手にスイッチは入っている。でも武尊選手のインローはかわされ、武尊君が前に出ているから、天心君の細かい攻撃は受けている」という秋山。  ここもサウスポー対オーソドックス構えの妙があった。  元来、武尊は対オーソドックス構えの相手には左インローを得意とする。この左インローを起点に右から左フック、あるいは左ボディへと繋ぐのが黄金パターン。しかし、対サウスポーだと左ローがアウトサイドローになり、パンチをもらいやすくなる。さらに対サウスポーには右ストレートが遠いため、攻撃の起点を作りにくい。  その対策として、武尊が右の蹴りをどう使うかも戦いの焦点だった。那須川のジャブに対して右インローを先に当てて入れなくすること。あるいはジャブをかいくぐって右ミドルを当てられるか。  しかし、那須川はハンドスピードもさることながら、その身体の出入りのスピードが速く、武尊に右の蹴りを当てさせなかった。一方で武尊は、細かい打撃は被弾覚悟で詰めて仕留めに行こうとしていた。  そのさなか、バッティングが起きた。あるいは焦れる武尊が前に出てきたところに那須川はジャブを突いて、すっと近づきクリンチへ。それを剥がしたい武尊は那須川を投げてしまう。  秋山は、この場面でも那須川の冷静さを語る。 「近づいたらクリンチして距離をゼロにしてしまえばいい。ここもK-1ルールでは許されない動きだから。バッティングも投げも、天心君はここでしっかり休んでいたね」  松倉は「天心君はこういった場面で、しっかり休めるハートの強さを持っている」と、超満員の大観衆のなかでも焦らず回復に努めた那須川の試合運びのうまさを語る。  視界が“ダブルビジョン”になっていた那須川はポイントアウトを狙うが、中断で息を整え、詰める武尊。「やりにくいし疲れる。逃げる相手はとらえにくい。ストレスだと思う。ただ、RISEも攻撃をしない組みは禁止なんですけどね」と、RISEとK-1の双方のマットを経験した松倉は、今回のワンキャッチワンアタックありのルールを語る。 [nextpage] 考え方、生き方が違うもの同士の戦いだった  3R、那須川はジャブで武尊の頭を上げさせるが、武尊は構わず詰めて、右をヒットさせる。 「天心君もこんなプレッシャー受けたことないでしょうから、相当キツかったと思う」と那須川の最終ラウンドを語る松倉に、秋山も「少しバテてきたからね。でもガードも上手。無理をしないで戦っている」と、技術力の高さを評価する。  終了のゴング、秋山は放心したような表情で「ぽっかり穴があいちゃったような、すごい試合だった」と両者を讃えると、松倉も「2人あっての大会だった。みんなこの試合を楽しみにしていたし、メインの空気はほかの試合とは比べものにならないものだった」と、大きなプレッシャーと覚悟のなか、“世紀の一戦”に臨んだ那須川と武尊のための大会だったと語る。  そしてあらためて松倉は、このメインに、両者の戦いの哲学の違いが出たという。 「K-1と言ったら武尊、RISEと言ったら天心君。その団体の選手はそのトップを目指す。そのトップで団体の色が出る。対抗戦を観て思ったのは、RISEはより競技で勝つことが評価される、K-1はより倒すことが評価される。もちろんRISEも倒すことを意識していると思いますが、K-1はそこに、より特化している。だから今回の試合は、ちょっと考え方、生き方が違うもの同士の戦いだった。もちろん天心君の戦い方が悪いことをしているとは思わなくて、武尊はああいう戦い方で、それぞれが違う」  戦前、本誌の取材に那須川自身も「ほんとうに対照的ですね。僕の遠い距離と、相手の近い距離。“打ち合わない”僕と、向こうは“打ち合い上等”ですし」と、水と油の部分はあったとしても、試合後は武尊について、「一番感じた部分としてはプレッシャーっていうのを凄く感じましたね。今までやった選手の中でも、一番強かったんじゃないかなって。本当に僕と真逆のスタイルだったけれど、そこの中で勝ち切れたのは大きい」と、過去最大の圧力を感じたことを認めつつ、そこで「勝ちきれた」ことに胸を張った。  互いに「すべてを賭けて」臨んだ大一番。  試合後、松倉は武尊と直に話したという。 「ちょっと喋りました。すごいなと思ったんですけど、会った瞬間に謝られました。『ごめんね』と言われて。常に武尊は周りのことを気にしていて。“終わっちゃったな”じゃないですけど、まだ整理しきれてないとは思うんですけど……」と、試合直後の盟友の気持ちを慮った。  5万6千人を超える観客、50万件のPPV──『THE MATCH』は、すべてが規格外の大会だった。  会場に流れたのは、プリンスの『Endorphinmachine』。フジテレビ中継時のK-1 WORLD GPシリーズのテーマ曲だった。フジテレビは離れたが、格闘技はそこにあった。  秋山は、「あのK-1の曲を聞いて『(石井)館長、これは!』と言ったら、『これなんだよ』って。格闘技はこれで終わるわけじゃないし、『THE MATCH』も2、3と続いてほしいし、武尊君はまた新しい格闘技人生が始まると思うから期待したいし、天心君もボクシングという新しい舞台に期待したい。ものすごくいいものを観させてもらった」と両雄が並び立ったことに感謝し、今後にも期待を寄せている。  この“世紀の一戦”を観て、将来の那須川天心と武尊たちが、この舞台を目指すことになるだろう。「実現不可能」と言われた両者の試合は、未来に向けて大きな種を蒔いた。
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