2022年6月9日(木)と6月10日(金)の2日間にわたりシンガポールで1回戦が開催される『ROAD TO UFC』。
ABEMAでの完全無料生中継も決定した同トーナメント(※1回戦が6月、準決勝は9月、年末に決勝戦。優勝者がUFCと契約)には、フライ級、バンタム級、フェザー級、ライト級の4階級に“七人の侍”が出場する。
本誌では、トーナメント出場7選手にインタビューを行った。初回の松嶋こよみ、2回目のSASUKE、3回目の堀内佑馬に続く、4人目は、バンタム級トーナメントに出場する“生まれながらの総合格闘家”中村倫也(LDH martial arts / EXFIGHT)だ。
カエタノ戦は試合1カ月前に練習を1回ストップして解き放たれた。「こっち側」にも強くなる方法があった
――いよいよ「Road to UFC ASIA」(※中村は6月10日に出場)です。常々語っていた目標の入り口に立てたという感じがするのですが、出場が決まったときの率直な心境はいかがでしたか。
「4月24日にアリアンドロ・カエタノ戦があって、正直タイミング的にはひと息つこうと思っていたところに来た感じだったので、“やっぱUFCチャンピオンになるって簡単じゃないな、ここに来たか”みたいな感じでした。でも舞台が舞台なので、1回見送りとか一切よぎらず、すぐに決めて、もう何がなんでもつかんでやろうと思っています」
――中村選手としては、例えばラスベガスでのコンテンダーシリーズを待って一発勝負で上がっていくということも考えたりはしなかったですか。
「カエタノに勝てば、その枠を取れるのかなという気はしてたんで、一瞬“あっ、マジか”とは思いました(笑)。でも“あっ”というときは経験上チャンスなので。レスリングからMMAの転向のタイミングもそうで、MMAキャリアのスタートが遅ければこのトーナメントに間に合わなかった。このトーナメントで何が得られるかなと考えたときに、やっぱりすごいいろいろたくさんのものがあるなと感じられました。安定したコンディション作りとか、単なる強さを求める以上に大事なことがいっぱいあるので、UFCに行く前の最後の大きな試練として、すぐにめちゃくちゃ燃えましたね」
――あの大流血戦からひと月半。どう調整してきましたか。
「一旦ちょっと足首の骨折とか、鼻の骨折とか、治したいところもあったので、ゆっくりリフレッシュさせることに注力して、慌てる気持ちとは1回付き合わずに、しっかりリフレッシュしきってから、1カ月くらいでしっかりまたもとに戻していくというイメージで作ってきました。現在はめちゃくちゃいいコンディションで、しっかり臨めそうです」
――怪我の間は、しばらく練習がしばらくできなかったと。
「まあでも分かりやすい練習はできないですけど、呼吸も意識すれば練習になるし、歩くことだって意識すれば練習になるしというところで、常に、日常のなかでも試合は意識しつつ生きてましたね」
――見取り稽古的にジムにも行ったりしていたんですか?
「いや、そういうことはせず、けっこうしっかり1回切ってました」
──不安になりそうなところでしっかり切れる。その代わりに意識面での練習は途切れていない。そのあたりも中村選手の強さですね。タイミング的には厳しい連戦になった。でも4月に修斗ブラジル王者にカットされながらもしっかり勝ち切れた、あの試合ができたことは良かったんでしょうか。
「そうですね。あの試合は、やっぱり試合前の作り方とか、いろいろ含めて、UFCに行く前の経験として、とてもいい勉強になりました」
――『POUND STORM』では、厳しいマッチアップばかりで「格闘DREAMERS」勢が厳しい結果が続くなか、メインイベントでいろいろなものを背負って戦っていたと思います。改めてあの試合をどんな思いで戦ったか。それが今回のこの「ROAD TO UFC」にどう生きてくると考えていますか。
「前回の試合は……、正直に言うと、試合前に内臓を壊して、なぜか食べても吐くとか、無理やり飲み込んだら腹を下すので、通常、体重が68kgくらいなんですけど、試合1カ月前に、朝起きて64kgぴったりくらいまで落ちちゃって、“なんだろうな、これ”と。けっこう心の中で抱えているいろいろなものが、内臓で浮き彫りになってきて、1回すごい落ちちゃったんです。そこで練習を1回ストップしてやっと解き放たれたんです。毎日練習して、うーっと頑張るだけが練習じゃなくて、1回引いた分、そこから無理やり遠ざかった分、こっち側にも強くなる方法があったりした。
日本人が世界で戦って勝つには何が必要かとい考えたときに、特に僕はMMAに転向した時点で、足首も2カ所骨折してて、ヒザも靭帯を3本やってて、肩を2回脱臼して、ヘルニアを抱えてという状態で来ているので、やっぱり、本当にここからトップになっていくのには何が必要かというものを見直す機会を得たので、すごいいい経験になりましたね。それを乗り越えて、あの試合に向かえれたので、何があっても動じなかった。そういうものを手に入れることができた気はします。
その厳しい経験があったおかげで得ることができた勝利だとも思いますし、余計自信がついた。正直すごく良いコンディションではなかったんですけど、この集中力で、この仕上がりで出来るんだ、と思ったときに、もともと僕はそんなビッグマウスを言うタイプじゃないですけど、口からぽろっと『これ、UFCチャンピオンになれるわ』って言っちゃって。でも、本当にそれくらいの自信が、心の底から湧き上がってきた試合の一つではありました。だから、カットしたときも何も動じなかったし、MMAでのゾーンの入り方も分かった。本当にいろいろなものを得られたので、出た言葉でした」
――カエタノの左でカットした。あの経験を踏まえて、改善したこともあったでしょうか。
「完全にボクシングテクニックですね。パンチの当てる角度の作り方と、あとはもうちょい散らしをたくさん使うという点が課題としては残りました」
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「見えないトーナメント」はずっとあった
――トーナメントで優勝すればUFCとの契約が確約される。勝ち上がるキーは何になると考えていますか。
「トーナメントということで3試合、大きな怪我をせずにやり抜く力が必要だし、3試合、ちゃんと1試合1試合相手に勝つ力も必要だしと、格闘家としていろいろな面での力が必要になってくる、試される場だと思うので、すごい楽しみです。その意味で、UFCに行く前の力をつける段階としてふさわしい舞台なのかなとは思います。対戦相手というよりは、自分のベースをしっかり12月に向けて上げていく、それをまず一番に考えていて、そこをしっかり12月まで取り組んでいければ、全然問題なくいけるのかなと思います」
――対戦相手うんぬんではない、ということですが、初戦のググン・グスマン(インドネシア)については、どのくらいまで研究をされていますか。
「研究は、相手のストロングポイントだけ押さえているというくらいですね。荒い打撃、奥手と奥足を当てたい選手なんだなという。奥足のハイキックがすごい出てくるので、それを被弾しないということくらいですかね。そんなパターンも多くないですし、組み立てはしやすい選手だなとは思います」
――主にマレーシア、インドネシアで戦い、8勝3敗。ワンツーの右、そこから右ハイに繋いでラッシュから組んでもくる。デビュー初期の2敗を除けば、ここ7年は1敗という選手です。
「正直インドネシアの選手って、インドネシアの国自体がレスリングの土壌も全然発展していない国なので、触って、身体の力がどの程度あるのかとか、まったく分からないので、高めにすごい見積もってはいきますけど。経験上そんなに、サプライズを起こされるような気はしてないですね」
――MMAとは競技が異なりますが、この6月、9月、12月という「トーナメント」は、レスリングでも代表戦に向かう、ふるい落としの長期戦に近い感覚もあったりもしますか?
「まったく一緒ですね。やっぱり社会人で優勝して、6月に全日本優勝して、夏の世界選手権で優勝するという、そういう見えないトーナメントがずっとあって、世界の頂点に立つという感じなので、同じだなという感じですね」
――という意味では、中村選手にとっては、ここまでずっと次々と課題が与えられてクリアしてきているという……。
「そうですね。LDHの『Fighter Battle Audition』がずっと終わっていない感じもありますね」
――1試合、1試合が勝負でありながら、最後に勝たなくてはいけない。それがさっき言った「12月までに上げていく」という意味なんですね。
「はい。その経験はレスリングのときを同じように作っていければいいかなと思います、経験はあるので」
――先ほどインドネシアのレスリングの土壌について話された。つまり、レスリングで組み合った肌感覚が、中村選手のなかで身体の強さとかのひとつの基準としてあるわけですね。そして、各国の土壌が、MMAで武器になっていると。
「もちろんそこはあると思います。今は強い選手が移住して、アメリカとかタイに固まったりして練習しているので、一概には言えないんですけど、でもやっぱりその国の土地の色というのは選手を見たら残っているものはありますし、そもそも骨格とか筋力とか、特徴があるので、その国の色というのは出ると思います」
――瞬発力に強い、持久力に強い……さまざまな特色がある。日本の軽量級に関していえば、例えばレスリングや柔道の結果を考えるなら、日本も可能性のある国と考えていますか。
「成功例もありますし、日本の軽量級はもちろんMMAでも通用すると思います。ただ、どうしてもロシアとか韓国とかに比べて、骨とか腱が強い国ではないと思うので、生き物単体としてのぶつかり合いとしては劣っちゃうところがあると思います。そのあたりは日本人特有の『3本の矢』になったり、束になって頭使って戦えば強いんだぞというところを、個人競技ですけど、いろいろな面から見せたいなと思います」
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覚悟の決め方が、他のバンタム級の選手とは絶対違う自信がある
――個人競技だけど総力戦で戦うと。今回、優勝を目指す中で、強敵だなと思う選手は?
「一番意識していて、12月に当たると思っているのは、ROAD FCチャンピオンのキム・ミンウ選手(※8日の計量でミンウvs.シャオ・ロン戦の「中止」が発表された)ですね。偏っていないというか、立ちも寝技も高いレベルにある選手なので、その選手が上がってくるのかなと予想はしていて。別ブロックも何があるか本当分からないですけど。もし当たれたらめちゃくちゃいい経験になるし、最高だと思います。日本人選手については、2回戦で、もし勝てば当たる風間(敏臣)選手。前回は負けました(※「POUND STORM」で齋藤奨司の跳びヒザにTKO負け)けど、特殊な技術体系を持っていて、ゴールに向かって突き進む、なかいないタイプなので、ハメられる可能性ももちろんありますけど、そのへんはしっかり意識はしていて自信もありますね」
――他の選手とは戦いに向かう精神力が違うというのは?
「戦う理由ですね。これまでいかに格闘技と向き合って、戦う理由が自分の中にあるかという。あとはこれまでのストーリーも含めて、背負ってるものが違う。その背負ってるものが僕は力になっている。そして勝つごとにそれが積み上がっている。とにかく何よりも戦う理由が違うと思います」
――それは、父・中村晃三さんのPUREBRED大宮時代から、5歳でレスリングを始め、多くの格闘家たちのなかで、いわば総合格闘技の申し子として育ってきた、その宿命ですね。そのプレッシャーに押し潰されそうになることはありませんか。
「今ももちろんそれと戦うときもありますし、僕の背負った使命というのはやっぱり大きいものなので、潰されそうになることはめちゃくちゃありますけど、でも自分を愛して、自分を信じて、仲間を信じてやるだけですね。それがちゃんと心の底からできていれば、本当に潰れるということはないと確信しています」
――中村選手にとって、UFCに出ることが目標ではなくて、UFCで勝つことが目標のなか、POUND STORMの試合後にチャンピオンという言葉が口をついた。今回トーナメントであろうと、全部勝ち上がっていかないと、UFC本戦で頂点に登ることは難しいだろうという思いもありますか。
「そうですね。それはもう本当に当たり前だと思っています。ピョートル・ヤンだったら楽に上がっていくだろうなって」
――「ROAD TO UFC」ということで、UFCのダナ・ホワイト社長も見る可能性は十分あるかと思うのですが、ご自身の強みのどんな部分をアピールしていきたいと考えていますか。
「本当に僕みたいな能力のある選手が死ぬほどいるのがUFCなので、どこで見せるかって、技術とか、レスリング力とかももちろんあるんですけど、何よりも、戦いに向かう姿勢とか、精神力とか、そういうところの覚悟の決め方が、今回のトーナメントしかり、UFCの他のバンタムの選手とは絶対違う自信があるので、そこを代表だったら感じ取ってもらえるような試合になると思います」
――この試合までの間、平良達郎選手がUFCで試合をして、勝利しました。あの試合をどのように感じましたか。
「デビュー戦同士でああやって競り合う、あらためてUFCチャンピオンになるのって大変だなと思いました。3R、1回下になってポジションを取られかけたけど取り返した平良くんは、めちゃくちゃ大きな勝利を得たと思いますし、すごく嬉しかったですね。僕としては一緒に世界に向かっていく仲間だと思っているので、ああいう舞台でもちゃんといつも通りのパフォーマンスが出せる選手だというのもすごく分かりました。それでいて謙虚で、いい意味で日本人らしくもあり、一緒に戦っていきたいなという思いが強くなりました」
――最近、日本の選手が海外選手を相手に結果が出せていない現状があります。そんななかでUFCを目指す中村選手はどんな試合を見せたいと考えていますか。
「僕はLDHマーシャルアーツの第1期生として先頭を突っ走る立場でもあります。後ろにも繋げたいし、僕がすごいキツい思いをして得たものを全て見せられる場なので、そういう背中をなるべく多くの人に見てもらいたいという気持ちはあります。それを見せることで、後輩たちもどんどん自信を持って戦っていけるような試合を見せたいですし、日本MMAを世界に繋げる選手になりたいです。だから、誰が相手でも日本代表として、日の丸を背負って思いっきり暴れたいと思います」