「選手としての後悔はないです」ときっぱり言い切った寺山。爽やかな表情を貫いた
2022年3月15日(火)都内にて記者会見が行われ、RISE QUEENミニフライ級王者・寺山日葵(TEAM TEPPEN)の引退が発表された。
寺山はジュニア時代から数々のアマチュア大会で好成績を残し、高校生になった15歳でプロデビュー。2018年11月にJ-GIRLSミニフライ級王座、2019年9月に初代RISE QUEENミニフライ級王座に就き2冠王に。2020年の10月・11月に行われたRISE GIRLS POWER QUEEN of QUEENS 2020優勝。2021年5月にはAKARIを判定に降して初防衛に成功し、9月にはRISE QUEENフライ級王者・小林愛三(NEXTLEVEL渋谷)との女王対決も制した。戦績は20勝(1KO)2敗1分。
昨年12月、自身のSNSにて「怪我のため年内手術をすることになりました。9月の試合からしばらくあきますが、しっかり治して復帰できるように頑張りたいと思います」と綴っていた寺山。その後、手術を受けたこと、リハビリ中であることをSNSで報告していたが、今回、引退を決意した。
会見に出席した寺山は「この度はキックボクシングの現役を引退することを決断いたしました。手術は成功したんですが、1年近く復帰にかかるというのと、左足も同じような症状が出る可能性があって、またそれで手術をしてしまったら合わせて2年くらい選手として出来なくなるのがひとつ。そして9月の小林愛三選手との試合で勝った後、今後の目標を聞かれて、普段ならすらすらと言葉が出たにもかかわらず、その時に少し言葉が出なかったことがあって。この気持ちで続けるのは違うなと。怪我があって思うように練習が出来ないもどかしさだったり、その状態で自分がベルトを持ってRISEの先頭に立って引っ張っていくのは違うなと思いますし、まだまだ女子格闘技の選手がいる中でずっと私がそこでモヤモヤグダグダしながらベルトを持っているよりかは、引退してその座を譲った方が女子格闘技がもっと盛り上がると思いますし、それが私の今できることだろうなと思って決断をいたしました」と、引退を決めた理由を語った。
続けて「伊藤代表、那須川会長、応援してくださるたくさんの皆様に迷惑をかけてしまって、こういった大きな会場で発表させていただく申し訳なさとありがたい感謝の気持ちがあります。本当にありがとうございます。格闘技は大好きですし、女子格闘技と格闘技自体がどんどん盛り上がっていってほしい想いは今も変わらずあるので、今後も別の形で格闘技に携わって行きたいと思います」と、格闘技を応援していきたいとした。
続いての質疑応答で怪我はいつからだったのかと聞かれると「股関節に痛み、違和感を感じたのが1年半前くらいで。本格的に痛みが出てきて自分の思うような練習が出来なくなったのが去年のELDORADO(2月)の前か終わったあとくらいですね。それでいろいろ病院にまわってみたんですけれど、あまり症例がなかったのかなかなか原因が分からず。格闘家って人を殴ったり蹴ったりの競技なのでどこかしら怪我をしていてもおかしくないし、そういうのがあるのは普通だと思っていたので最初の方は特に気にすることなくやっていたんですけれど、愛三選手との試合が決まった7月くらいにはもう蹴るのも凄く痛くて。でもやっぱり蹴らないと国内最強の愛三選手には勝てないと思って、試合1カ月前から蹴りの練習を始めて。でも万全で挑んだつもりが試合の途中で痛みが出て来てしまって、試合が終わった頃には日常生活で歩く時も痛みが出てしまって。病院をいろいろ回ったら原因が分かって手術をすることになり、今に至ります」と、1年半前から自覚症状があったと打ち明ける。
1年半前は寺山が優勝したトーナメントの時期だ。「その辺りから痛みというよりは違和感、動きづらいなって違和感があって。本格的に痛みだしたのはELDORADOの前くらいですね」
得意の蹴りを多用したことで負担がかかったのかと聞かれると「関節唇損傷になる理由が、元々股関節が柔らかいという特性が私の身体にあるらしくて、普通の人なら骨がくびれているところがなくて股関節が動きやすいという特性と、そのボコっとなっている骨がぶつかり合ってしまって関節唇というところに亀裂が入ってしまったという怪我で。同じところをずっと酷使しているものなので、本来なら40代の人が手術することが多いらしいんですよ。普通に生活していて少しずつ傷が入って行ってそれが痛みになって手術をするのが。その足をずっと酷使していたから20代で手術することになったんじゃないかなというのはお医者さんに言われました」と説明した。
伊藤隆RISE代表からは「2年、3年後でもまだ23、24歳。RISEとしても待っています」と、怪我が治ったら復帰して欲しいとの声がかけられたが、寺山は「いつまでもグダグダとリフレッシュとの理由で、はっきりしないまま続けているのは他の選手の失礼に当たりますし、何より応援してくださっている方は、この会見が発表されてまだ1日も経ってないのに気にしてくださっていて、自分のわがままで何も試合を決めずにやっていたらずっと期待させてしまうじゃないですか。それはファンの方にも失礼ですし、自分が試合をしないことによってRISEのベルトが動かないわけですから、それは他の選手にも応援してくださっている方々にも失礼。だったらスパっとやめてしまった方がファンの方にももどかしい気持ちをさせないと思うし、他の選手もベルトを狙えるのでスパっと決断しました」と、いつ復帰できるか分からない状態でいるのはよくないとした。
これからの女子格闘技には「大きくなって欲しいですね。寺山日葵って名前が、誰そいつって言われるくらい、そんなやついたんだって思われるくらいたくさんの選手が活躍して、たくさんの選手が有名になって行ってもっともっと盛り上がってくれたら嬉しいですね」との期待をかける。
「ベルギーで試合が決まっている小林愛三選手と宮崎小雪選手はチャンピオンですし、そのおふた方が引っ張って行くと思いますし、引っ張っていける存在。自分の階級で言うならAKARI選手、宮崎若菜選手、erika選手、大倉萌選手と皆さんキャラが経っている選手が沢山いるので、みんなで切磋琢磨してもっともっとRISE女子を大きくしていただきたいと思います」
3月19日(土)ベルギー・ハッセルトのTrixxoアリーナで開催される『GLORY 80』では、その小林がGLORY女子スーパーバンタム級王座に挑む。寺山は「本当に9月の試合、小林愛三選手が国内最強だとずっと思っていて、それが最後の試合になって私は凄く嬉しいです。日本の代表としてベルギーで勝ってきてください。日本から応援しています」とエールを送った。
私生活では何をするのかと聞かれると「元々ただの一般人なので、人を殴らない蹴らない女の子に戻りますね」と言い、「選手をやってきたことは無駄ではないので、いろいろな形で格闘技に携わっていきたいとの想いがあるので勉強しないといけないです。でも、格闘技しかやってこなかったので、それこそバイトとかもやったことがなくてそれがコンプレックスでもあったんですよ。だからレジ打ちも出来ないし、居酒屋の接客もできないわけですよ。だから社会経験を積みたいなって思うので普通に働きたいなと思います」と、普通の女性としての生活をしてみたいという。
「『いらっしゃいませ』ってやってみたいですね(笑)。コンビニとかで。ちょっとそういう経験をしてみたいというか。大きい大会とか、それこそ今度のELDORADOとかを客席で何も考えずに見るのは楽しみだなって思います」
引退試合に関しては「まだリハビリしているので、2カ月くらい何もしてないんですよ。なので引退試合してくださいと言われても何もできないですね(笑)」としたが、伊藤代表は「近いうちにセレモニーはしたい」と引退セレモニーを行うとした。
自分のベストバウトは何かとの質問には、「ベストバウトって難しいですよね。どれも思い出に残っているので。でもトーナメントの準決勝・決勝の2試合は強く残っていますね。試合だけではなく1回戦からそこまでの3週間が密だったので。自分の短いプロ生活の中でどん底に落ちた時期でもあり、そこから這い上がった時期でもあり、支えてくださっているたくさんの方の存在を知れたのがその3週間と当日だったので。ベストバウトは難しいですが、11月1日は自分の中で思い入れのある2試合ですね。
あとミニフライ級の初代王座を決定する試合を佐藤レイナ選手とやったんですけれど、ずっとアマチュア時代から佐藤選手と切磋琢磨して、プロのリングで戦ってというのは凄く嬉しい気持ちになりましたし、あの試合がきっかけで佐藤レイナ選手と仲良くなって今もLINEしてごはんに行くような仲になれて。多分、格闘技がなくなっても生涯仲良くしていきたい方なので、そういう出会いがあったのでそこは思い入れが強い出来事かと思います」ということをあげた。
家族に引退を伝えると「弟は『えー、やめちゃうの、なんで?』って感じでした。あんなにつっけんどんですが、ああ見えて極度のシスコンなので、私が辞めることは寂しがっていました。父親が格闘技が好きで幼少期からトレーナーとしてやってくださっていたんですけれど、やっぱり父親はもう1年くらいは見たかって、私には直接言わないですけれど涙を目に溜めながら母親に言っていたそうで。でも母親はたくさん親孝行してもらったし、たくさん活躍しているところを見せてもらったから好きに生きたらいいよって相変わらず適当な感じが逆にありがたかったりしました」と笑い、「家族も自分の決断に反対はせずに応援してくれたので、そこはありがたいと思いますし、弟はフリーで活動していくと本人が決めたので、そこを姉としてまだまだガキなので支えて上げられたらと思います。その遼冴がどんどん活躍していって、それこそRISEを背負えるような選手になるまで私も彼の行く道を見守っていきたいと思います」と、これからは弟をサポートしていきたいとする。
(写真)会見中は泣かなかった寺山だが、会見終了後に小林愛三からのTwitterでのメッセージを見て涙
TEPPEN GYMでは、「会長には第二の父のようにお世話になっていまして、辞めるって伝える時に凄く緊張したんですけれど、会長も凄く自分の意思を受け入れてくださって。今後の自分の人生を応援してくださると。そしてチームメイトには直接は言ってないんですけれど、(那須川)天心にはずっとお世話になっているので直接電話で言って。『まあ、いいんじゃないの。お前は自分で時代を作る人間ではないけれど、置かれた場所で精一杯輝くことが出来る人間だから、それは今後の人生も役に立てて欲しいし、何か今後の人生であったらいつでも俺に相談にのるから連絡してこい』と言ってもらえて。ずっと先輩として私の前を走ってくれていて、最後の最後までカッコよくて、嬉しいなって気持ちと共に出来た人間すぎてちょっと腹立つなって思いました(笑)」と、那須川会長と兄貴分の那須川天心には直接伝えたという。
また、やり残したことはあるかと聞かれると「嵐に会えなかったことですね。選手としての後悔はないですが、応援してくださった方々への恩返しがまだ済んでいないのでそこは申し訳ないと思いますし、また別の形で恩返しできたらと思っています」と、ジャニオタらしい回答で場内を笑わせた。
そして最後には「復帰を心待ちにしてくださった皆さん、そしてここまで応援してくださった皆さん、携わってくださった皆さん、本当にありがとうございました。そして復帰という答えを出せなくて申し訳ありません。ですがこの決断をしたことを自分で一切後悔してないので、これからの人生を必死に生きて格闘技に少しでも還元できたらなと思っていますので、これからの人生で返していきますのでどこかの会場とかでいつでも声をかけてくださったら嬉しいです。格闘技のおかげで私はここまでこれましたし、小さい頃は自信がなくて毎日自分の不甲斐なさに泣いていた子なので、それが皆さんのおかげで格闘技で出会って皆さんと出会ってたくさんの応援をいただいて、大きい舞台で戦うこともできましたし、最終的に綺麗なドレスを着させていただいて立派なところで引退会見をやらせていただいています。本当に皆さんがいなかったら寺山日葵がここまで大きくなることもなかったですし、自分がこんな感じで生きてくることも出来なかったと思うので、絶対にどこか途中で心が折れてしまったと思うので、本当に皆さんのおかげで私が成り立っていました。本当にありがとうございました。これからも格闘技をどうぞ愛してください」と語った。