MMA
インタビュー

【UFC】“50戦目”で引退試合に臨む女子MMAのパイオニア、ロクサン・モダフェリ「『次は君だ』と言いたい。次のジェネレーション、若い人に託します」=2.12『UFC 271』

2022/02/11 15:02
 2022年2月12日(日本時間13日)、米国テキサス州ヒューストンのトヨタ・センターで開催される『UFC 271: Adesanya vs. Whittaker 2』にロクサン・モダフェリ(米国)が出場。現役最後の試合を戦う。  日本留学中に、総合格闘技に出会ったロクサンは、2003年11月の「SMACKGIRL」でプロデビュー、TUFでの非公式試合を含め「50試合」目でMMAファイターを引退する。  まだ女子総合格闘技が日米で偏見の目で見られ、観客もまばら、それで生活することなど困難な時代から、日本文化と格闘技を愛し、強くなることを追い求め続けたロクサンは、TUF(The Ultimate Fighter)でチャンスを掴み、北米で人気者となった。 “ハッピー・ウォリアー”はいかに格闘技と出会い、強さを獲得し、今回、引退を決めたのか。最後の試合で、MMA8戦無敗・UFC3連勝中の新星と戦う、ロクサンに聞いた。 試合後にサプライズでプロポーズを受けて…… ――そちらは米国の夜ですね。インタビューを受けていただき、ありがとうございます。2月12日(日本時間13日)の「UFC 271」で現役最後の試合を迎えるロクサン・モダフェリ選手ですが……まず最初に、婚約おめでとうございます。 「(指輪をかざして)ありがとう!」 ――昨年末の「TITAN FC 73」でパートナーのクリス・ローマン選手のセコンドについていて、試合後にプロポーズを受けたようですね。 「そんな準備をしていたとは全然、知らなくて。そろそろ結婚しようかと思っていましたけど、まさか彼が試合の後でそうするなんてびっくりした! 彼は眼鏡ケースの中に婚約指輪を隠していて、そして、『眼鏡をお願いします』と言われて、私は知らずに眼鏡ケースを渡したら……」 ――それはロマンチックな……どんな気持ちでしたか。 「ショック(笑)。対戦相手が反則のヒザ蹴りを打って、彼がダウンしてとっても心配で、『大丈夫、あなた?』と思っていたら回復して、突然のプロポーズで、『あ、はい、よろしくお願いします』と。まあびっくりして、試合結果は最悪だったけど、とても嬉しかったです。全米放送でのプロポーズはちょっと大ごとだったけど(笑)」 ――ローマン選手もラスヴェガスの同じシンジケートジムの選手なのですか。 「シンジケートジムで会いました。でもあまり話さなかったんです。一緒に練習はしていたのに。私は自分のキャリアに集中していたから、あまり異性と付き合うことはなかったんだけど、1年前に、マッチングアプリで『アニメが好きな人』『格闘技が好きな人』という両方の条件を入れたら、彼の写真が出てきて……“あれ、この人、どこかで見たことあるな”って(笑)。それで、私からInstagramで話しかけて、それから付き合い始めました」 【写真】シンジケートジムでパートナーのクリス・ローマンと(写真提供=ロクサン・モダフェリ) ――それまでは同じジムにいても、同じ趣味だということも知らなかったんですね。 「そうそう!」 ――今は一緒に練習することもあるのですか。 「時々ね。彼は朝仕事をして、終わってから柔術のクラスに行くけど、私はもう朝から総合の練習をして、夜は疲れるからジムに行かないので、あまり練習時間が合わないけど、UFCから引退したらもっともっと一緒に練習したいと思います。彼は柔術が上手いから」 ――ロクサンよりも? 「うーん? まあまあぐらい(笑)。彼はレッグロック、足関節のスペシャリストで、私は他の技が好き」 諦めないで進むこと。それを日本で学びました 【写真】2003年11月10日の「SMACKGIRL Third Season-VII」でプロ総合格闘技デビューしたロクサン。 ――「足関節」とわざわざ訳していただきありがとうございます。それにしても今でも日本語が流暢なのですね。そのロクサンは、アニメが好きで、マサチューセッツ大学アマースト校で日本語と日本文学を専攻して、2003年から2004年6月までICU(国際基督教大学)に留学していたのですよね。 「そう。高校生のときから、『ドラゴンボール』を見て、『(美少女戦士)セーラームーン』も大好きになって、それから日本語を勉強し始めました」 ──格闘技は日本で始めたのでしたか。 「アメリカで柔道と柔術の経験がありました。でもICUにいたときにプロフェッショナル、総合格闘技のプロデビューをしたから、私の格闘技のキャリアはそのときに始まったと言っていいですね」 ――最初は大学に近いクロスポイントに入ったのでしたね。 「はい。キックも柔術もやりました。植松(直哉)先生に柔術を教えてもらって、ムエタイも……そう、ランバー(ソムデートM16)先生から教わりました」 【写真】03年のSMACKGIRLでのデビュー戦は1R、篠原光に腕十字で一本勝ちだった。 ――和術慧舟會に入ったのは2005年くらい? 「そうですね。アメリカで大学を卒業してから、日本に戻って、慧舟會に入りました。東京本部でした」 ――なぜ慧舟會だったのですか。 「他のアメリカ人の友達が『ここがいいよ』と勧めてくれて。だから行ってみたら、女子選手も多いなと思って。そして、宇野薫さんがいました」 ――いまはなき御茶ノ水の総本部は強豪選手が集まっていて、ただ、地下だったから換気が……(苦笑)。 「私は気にしないですよ。アメリカの道場も綺麗ではなかったから。私は普通の女子じゃない!(笑)」 ――それは失礼しました(笑)。あのジムで練習していた、気合が違いますね。あの頃は女子選手だと……。 「端(貴代)さん、大室(奈緒子)さん、ベティコ、sakuraちゃん……いっいぱいいたよ。今でもやりとりする人がいるし、男子にも強い選手がいっぱいいて、宇野さんや門脇(英基)さんたち、その後でグランドスラムに所属して、小見川(道大)さんたちとも練習して、みんな先輩だと思っています。そして守山(竜介)さんがいて……」 ――守山さんは「柳に風」と仰ってましたね。同時に総本部には「力なき技は無力」とも書かれており、ハードな練習、タフな夏合宿が有名でした。ロクサンもあの合宿に出ていたのですか。 「ああ、そうだったね! 思い出しました。難しかった。『腕立て300!』『ええ!?』って(笑)。私はできなかったけど……」 ――参加していたんですね。ちょっと効率的なじゃないかもしれないけど、そこで養われたものもあったでしょうか。 「門脇スペシャル!(笑)まあ、ハート、心ですね。身体が痛くても絶対に諦めないで進むこと。それはほんとうに大事な心がついたと思います」 【写真】2007年5月の「K-GRACE」1万ドル争奪無差別級トーナメント決勝でマルース・クーネンにスプリット判定勝ちで優勝したロクサン。マルースとは2009年11月の「Strikeforce」で再戦し、1勝1敗。 ――日本に来て、総合格闘技を学んだ。まだあの頃は「MMA」とは言ってなかったですね。日本でSMACKGIRL、G-SHOOTO、K-GRACE、 VALKYRIE、JEWELS……体重の重い選手にも勝って、米国の「The Ultimate Fighter」に出場した。たしかに日本での基礎はあったけれど、ロクサンが米国でいかに成長したかも重要です。当時から日本の練習との違いで感じていたことはありましたか。 「そうですね、科学的に進んでいた感じがしました。例えば、練習の後で、アイスバスで疲労を取って、そして、マッサージセラピーもやって、何を食べればいいかも勉強して。3時間ハードな練習じゃなくて、専門性に特化した具体的で、一番効率のいい練習のやり方、一番健康にいい練習のやり方を習いましたね」 ――練習環境の違いは? 「それぞれのパートにコーチがいて教えてくれます。アメリカに来るまではあまり打撃が良くありませんでした。でもアメリカの新しいコーチに会って、英語も話すから説明も分かりやすい。打撃が一番、向上しましたね。練習でも総合的な反復練習が多い。スパーリングでもシチュエーションスパーリング。場面・場面を決めて、どう動くかを指導しながらスパーリングをする。日本はいまは分からないけど、以前はフリースパーリングが多かったでしょう?」 ――そうでしたね。米国のように専門コーチもいるジムもありますが、常時コーチ同士で連携というのは規模の違いもあり、なかなか難しいと思います。ところで、いま現在のラスヴェガスでの練習環境は、ワクチンが行き届いたなかで、どのように行っているのでしょうか。 「今は普通通りやっています。もし誰かが疲れすぎて、もしかして病気かもしれないと感じたら、絶対に道場に来ないこと」 [nextpage] 脳のダメージへの恐怖感が芽生えた。柔術はやりたいけど、殴りたくない──その気持ちはMMAファイターにとって、致命的だった 【写真】2020年9月、女子フライ級9位のアンドレア・リーと対戦し、判定勝ちしたロクサン。(C)Zuffa LLC ――一時期に比べたら、練習はかなり出来るようになったわけですね。今回の引退試合に向けて、ロクサンの北米でのキャリアを振り返ると、Invicta FCを経て、2017年12月に「The Ultimate Fighter 26 Finale」でUFC世界女子フライ級王座決定戦を戦って、判定で敗れた。  そこから勝ち負けを繰り返しながらも連敗はなく、バーブ・ホンチャック、アントニーナ・シェフチェンコ、アンドレア・リーに勝利した。あのリー戦も息詰まる接戦を競り勝った。あのとき再び、タイトルマッチに行ける手応えを感じなかったですか。 「そうですね。感じたことは……、もっともっと頑張ればもしかしてタイトルマッチができたかもしれないなと思ってるけど……どうだろう。みんなインタビューでいつも聞いてきました。タイトルマッチしたい? と。『頑張ります』と答えるけど、それは目的じゃないですね。私は“勝ち続けたかった”。ただ“次の試合に勝ちたかった”。  タイトルマッチをまたやるか、やらないかは別にいいと思っていて、それは年齢的なものもあったかもしれない。いろいろな怪我があったから、ちょっと筋トレも、強くなる目的じゃなくて、治す、力をキープする練習になっていたから、そこからさらに上げるのは、ちょっと難しかったです」 (C)Zuffa LLC ――その後ビビアニ・アラウージョと戦い、前戦は2021年9月のタイラ・サントス戦。どちらも苦しい判定で、連敗したのは、2013年以来でした。あの2試合の連敗が、ロクサンの今回の引退の決断に繋がったのでしょうか。 「うーん、繋がってないと思う。私は6連敗も経験しているから、もっと頑張れば強くなって勝てるでしょうとも思うから、それが原因だとは思わないけど、そのときに考えたのは、年齢のこともあるし、結婚したいし、毎日起きて、別に殴り合いたくない気持ちが出てきたから……他の仕事をやる時かなと思ったんです。柔術はやりたいけど、殴りたくない。その気持ちはMMAファイターにとって、致命的だから」 【写真】2021年1月、元PANCRASE女王のビビアニ・アラウージョと対戦し判定負け。(C)Zuffa LLC ──……そうだったんですね。それはいつくらいからそういう気持ちが沸いていたのですか。 「どうだろう。1年前かな。自分が思ったように戦えていなくて、1年前、脳のダメージへの恐怖感が芽生えて、気を付けなきゃならないなと思い始めて、それから練習に集中しにくいというか……、スパーリングでハードに頭を打たれたくないと思ったら、ちょっとスパーリングのクオリティが下がりました。ただ、今回はヘッドギアをつけて一生懸命練習したから、しっかり準備ができています」 [nextpage] UFCのニコ・モンターニョとのタイトルマッチは忘れられない、それにもう一度、戦いたい選手が── 【写真】2017年12月「TU26 Finale」でニコ・モンターニョを相手に「UFC世界女子フライ級王座決定戦」に臨み判定負け。ファイト・オブ・ザ・ナイトを受賞した。(C)Zuffa LLC ――脳のダメージは後で出てくることもあるから、どこかで考えなくてはいけなかった。それで、引退のタイミングだと。 「そうですね。それに……試合を50回やりたかった。それから引退しようと」 ――プロ戦績は25勝19敗だから44試合……そうか、TUF18とTUF26の2つの「The Ultimate Fighter」での5試合は公式戦扱いではないけど、ロクサンにとっても我々にとっても、立派な試合でした。それで、今週末の試合が50試合目になる。女子選手でMMA50試合というのは、なかなかいないですね。 「いないよ。しなし(さとこ)さんだけだと思っています(※44試合)」 (C)Zuffa LLC ――50試合の中でロクサンが思い出深い、印象深い試合っていっぱいあると思いますけど、いくつか挙げるとどんな試合が印象深いですか。 「たくさんありますね。やっぱり、UFCのニコ・モンターニョとのタイトルマッチは忘れられない。残念ながら負けたけど、頑張りました。そして、実は端さんとまた戦いたい。1回やったけど」 ――端選手! あのときは端選手もロクサンもストライクフォースで女子ウェルター級タイトルマッチを戦った後で、ロクサンはヴァネッサ・ポルトにTKO勝ちしてFFFライト級のベルトを巻いていました。端選手はPANCRASEで、ポルトはBellatorでいまも戦っています。 「日本に戻ることが出来て、コロナウイルスの規制が解除されたら、もう一度練習したいですね、端さんと」 【写真】2012年3月「JEWELS 18th RING」で元同門の端貴代と対戦したロクサンは判定負け。以降、主戦場を北米に移した。これが日本での最後の試合となっている。 ――……つい感傷に浸ってしまいますが、最後の試合が待っています。その相手が、24歳で8戦無敗、UFCでも3連勝中の新星ケイシー・オニールと決まって、UFCもキツい相手を当ててきたなと、正直、思いました。 「『次の試合が最後です』と言ったら、ズッファから『ケイシー・オニールはどうですか』って。私は『誰でも大丈夫です』と答えました」 ――すごいハードパンチャーだし、バックテイクも巧みで……。 「そう。とっても上手いですよ。でも大丈夫ですよ! それに私のパンチだって痛いよ!」 ――はい、そうでしたね。現役最後の試合というプレッシャーは感じませんか。 「うーん、プレッシャーは感じるけど、いつも通りの試合だと思った方がいいかなと思いました。楽しみたいなと」 【写真】ロクサンと対戦する無敗のケイシー・オニール。2021年10月の前戦ではアントニーナ・シェフチェンコに2R TKO勝ち。(C)Zuffa LLC ――しかし、無敗でパウンドも強い若い暴れん坊が相手とは……。 「UFCの選手はみんな強いから大丈夫。『私も強いから』と言い続けます。試合は、打撃戦にも寝技戦にもなると思う。打撃で優位になって上を取れれば。大丈夫です、やります。問題ないとは言わないけど、頑張ります。負けないぞ!」 [nextpage] 毎日毎日「強くなりたい」と思ってやってきたから、今回も「強くなった」と感じたい。そう思えるようにハードな試合をして勝つ、それが望みです フェイスオフ時の『ドラゴンボール』の髪色も最初は黒髪からスタートさせ、徐々に進化させた。(C)Zuffa LLC ――強い気持ちですね。ところで、今まで計量でいろいろなコスプレを披露してきましたが、今回も何か考えていますか。 「はい、あります。『僕のヒーローアカデミア』は知っていますか? オールマイトはランキング1位のヒーローだったけど、主人公の(緑谷)出久にワン・フォー・オールを継承し、さらにシリーズの中で彼は引退します。だから、私はオールマイトのヘアピースをかぶって、そして指を指して、(劇中のオールマイトのように)『次は君だ』と言いたい。次のジェネレーション、次の若い人に託す。いいじゃないですか」 ――なるほど。それは意味がありますね。『僕のヒーローアカデミア』のほかにもハマっているアニメなどはあるのですか。 「最近は『僕のヒーローアカデミア』と、それに『進撃の巨人』も見ています」 ――作者の諫山創さんも格闘技が大好きですね。 「そうそう。格闘技が入っているね、戦いの中で三角絞めとかやって、かっこいい!」 ──たしかに。ところで、MMAは引退しますが、格闘技は続けるのでしょうか。 「はい。これからは柔術だけはやりたいなって思っています。彼がすごく上手だから」 ――それはいいですね。試合に向けて、これまでずっとハードな練習を続けてきた。試合を終えて、もうあんな風に練習や試合の準備をしなくてもいいとなると寂しくならないでしょうか。 「そうかもしれないですね……。どうだろう、分からない」 ――パートナーもいるし、新しい生活でやっていくことになりますね。様々な才能を持つロクサンですが、格闘家の育成も見てみたいです。 「いろいろな考えがあるけど、まだ決まってないんです。でも決まったら絶対に発表します」 ――自伝も書いているようだし、いつかまた日本に来て、セミナーなども期待しています。 「ありがとう」 ――さて、最後の試合でどんな試合を見せたいと思っていますか。 「私は、今まで毎日毎日“強くなりたい、強くなりたい”と思って練習して試合してきたから、今回、強くなったと感じたい。試合をして、その後で“やっぱり私は強くなった”と思いたいから、そう思えるようにハードな試合をして勝つ、それが望みです」 ――ファイターとして強さを追求すること。それを最後の試合でも求めようとするロクサンの試合を見届けさせてもらいます。最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。 「今まで応援してくれて、ほんとうに皆さんありがとうございます。8年間日本にいて、いつも、“私の心は日本に置いてきた”とよく思っています。そんな日本の方々がいまでもまだ応援してくれて、とても嬉しいですし、大好きです。日本で格闘技のキャリアをスタートさせて、アメリカで戦っても覚えてくれてインタビューしてくれたメディアの皆さんにもありがとう。本当にハッピーでした。これまで応援、ありがとうございました」 ――次の試合もハッピーウォリアーに注目しています。 「ありがとう。日本で培った諦めない気持ち。心を見せたいです。頑張ります!」
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