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2022年2月12日(日本時間13日)米国テキサス州ヒューストンのホンダセンターにて『UFC 271: Adesanya vs. Whittaker 2』が開催される。
メインイベントは、ミドル級王者のイスラエル・アデサニヤ(ナイジェリア)が、前王者ロバート・ウィテカー(豪州)を迎え撃つ王座防衛戦。この試合の見どころをWOWOW『UFC-究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛に語ってもらった。
MMAのいろんな要素が詰まったトップ・オブ・トップの戦いが見られる
――今週末の『UFC271』はミドル級タイトルマッチ、アデサニヤとウィテカーの2年4カ月ぶりの再戦となります。高阪さんはこの試合をどう見ていますか。
「前回の試合が終わったあと、まず心配だったのはウィテカーの状態でした。アデサニヤに敗れたあとに、いわゆるバーンアウト、燃え尽き症候群に陥っていたという発言があったので。実際、負けてから次の試合まで10カ月もの間隔が空きましたよね。おそらくその期間にいろいろと思うところがあったんでしょう。心情的なところを察するに、地元オーストラリアの大観衆の前でKO負けを喫して王座陥落したというのは、現実逃避してもおかしくないくらいのショックだったと思うので」
――しかもウィテカーvs.アデサニヤが行われた『UFC243』は、オーストラリアのマーベル・スタジアムに5万7,127人を動員して、UFCの観客動員記録を塗り替えるほどのビッグマッチでした。
「そういう大一番での完敗でしたから、これは燃え尽き症候群になっても致し方ない、というところでしたよね。それでもその後、3連勝してアデサニヤとの再戦に漕ぎ着けたのは、さすがだなと。その3試合の映像をあらためて見返してみて、ウィテカーの現在の状態というのが、今度の試合のキーになるかなと思ったんです」
──ウィテカー本来の強さがどこまで戻ってきていて、前回とどう変わったのかと。
「そうですね。まず1試合目のダレン・ティル戦では、1ラウンドの立ち上がりこそパンチの空振りが目立ったり、カウンターでヒジをもらってフラッシュダウンもして“これ大丈夫かな?”というところが見られたんですけど、途中から持ち直したんですよね。最終的に自分の打撃をしっかり当てて、タックルでテイクダウンもして判定勝ち。
次のジャレッド・カノニア戦では、ウィテカーより長身でパンチ力もある選手でしたけど、ウィテカーはそのパンチを当てさせない遠い距離設定をとりながら、自分は速い踏み込みで効かせる打撃を入れるという、彼本来の戦いがしっかりやれていたと思うんですよ。このカノニア戦でしっかり感覚と自信を取り戻して、3戦目のケルヴィン・ガステラム戦でも同じような戦いで、なおかつ打ち合っても勝ってたんで。自信が確信に変わったのかな、と」
――では完全復活と見ていいわけですね。
「ただ、“それがはたしてアデサニヤにも通用するのか?”ということだと思うんですよ。アデサニヤは手足が長くて打撃がすごくテクニカルというだけでなく、相手がプレッシャーをかけてきたらそれを回避するためにバックステップをして、サイドに回りこむ動きをよく入れる。正面からの打ち合いはしないタイプじゃないですか」
──相手に打たせずに、自分の打撃を入れることができる選手ですね。
「ウィテカーは踏み込みが速いので、前回のアデサニヤ戦でも遠い間合いから踏み込んで、一発目の打撃はしっかり当ててるんですよ。でも、一発当てて“いける!”と思って追ったところで、アデサニヤのカウンターをもらってしまっていた。だから今回の再戦でウィテカーは、一発当てたあと“二の手、三の手を出すべき時なのか、逆にここはいかずに引くべきところなのか”を考えてくるんじゃないかという気がするんですよね」
――ホントに行くべき時なのかどうか、勝負所の見極めですね。
「前回と同じ轍を踏まないためにも、そこがキーになってくると思います」
――一方、王者アデサニヤ側のポイントはどのあたりにあると思いますか?
「アデサニヤは、2021年3月にヤン・ブラホヴィッチが持っていたライトヘビー級王座に挑戦した際、1階級上とはいえ“寝かせてしっかり押さえ込んでしまえばなんとかなる”というところをちょっと露呈してしまった感がありましたよね」
――テイクダウンディフェンス能力は高いとはいえ、やはり寝技がウィークポイントなんだという。
「だから前回のマーヴィン・ヴェットーリ戦では、タックルのディフェンスはさらに上達してはいましたけど、やはり寝かされたシーンは何度かあって。また寝かされないにしても、スタンドの組みの攻防のあとは、ちょっとスピードが緩くなってたんです」
――組みの攻防で体力を使ってしまうことで、アデサニヤの生命線であるスピードに影響が出ていた、と。
「だから、そうやって体力を削っていくことができれば、突破口が見えてくる可能性がある。ウィテカーは空手出身のストライカーなので、タックルをゴリゴリ仕掛けてくるタイプではないですけど、要所要所で相手の状態を見てタックルに入るのが上手いんですよ。MMAって心理戦の要素も重要なんですけど、相手がちょっと焦っていたり、状態が崩れたところに仕掛けるのがウィテカーは上手い」
──いわゆる“ファイトIQ”が高い選手ですね。
「そうです。ラウンド終わりでしっかりテイクダウンを取るとか、そのへんのテクニックはかなりのものを持っているので、そういうのを混ぜることが出来ると、また前回とは違う試合展開になるのかなと思いますね」
──前回のアデサニヤvs.ウィテカーは、タイプの違う打撃のスペシャリスト同士のスタンド勝負という側面がありましたもんね。
「前回はウィテカーのほうに“俺は打撃でもアデサニヤより上だ”という思いが強すぎて、それ一辺倒になってしまった気もするんです。実際、アデサニヤに対して正攻法であれだけしっかり打撃を当てることができた選手って、ウィテカーぐらいだと思うんですよね。だから今回はその強みを活かすためにも、タックルを含めたMMAの技術をいろいろと混ぜながら、試合の駆け引きも考えた戦いをしてくるんじゃないかと思います。
ただ、アデサニヤの方も当然、ウィテカーが前回と同じような戦法で来るとは思っていないだろうし、ウィテカーが考えていることをさらに上回る対策を考えている可能性もありますから、もうこれはどうなるかわからないですね(笑)」
──いずれにしても、バージョンアップした両者による前回よりさらに高度な戦いが見られそうですね。
「それは間違いないと思います。そもそもミドル級という階級は、フィジカルが飛び抜けているだけでもダメだし、テクニックだけでもダメ。重量級のパワーと軽量級の技術を持ち合わせた上で、さらにスペシャリティを持っていないと勝ち残れない世界ですから。その頂点を決めるアデサニヤvs.ウィテカーというのは、MMAのいろんな要素が詰まったトップ・オブ・トップの戦いが見られるんじゃないかと期待してます」(聞き手・文/堀江ガンツ)
『UFC 271: Adesanya vs. Whittaker 2』放送・配信スケジュール
『UFC‐究極格闘技‐ UFC271 in ヒューストン ミドル級最強王者アデサニヤvs.最強挑戦者ウィテカー』
2月13日(日)午後0:00[WOWOWライブ]※生中継
(WOWOWオンデマンドで同時配信)
2月19日(土)午前0:00[WOWOWライブ]※リピート
(WOWOWオンデマンドで同時配信)
【メインカード】※WOWOW放送
▼UFC世界ミドル級選手権試合 5分5R
イスラエル・アデサニヤ(ナイジェリア)21勝1敗(UFC10勝1敗)
ロバート・ウィテカー(豪州)23勝5敗(UFC14勝3敗)UFC3連勝中
▼ヘビー級 5分3R
デリック・ルイス(米国)26勝8敗(UFC17勝6敗)
タイ・トゥイバサ(豪州)13勝3敗(UFC7勝3敗)UFC4連勝4KO
▼ミドル級 5分3R
ジャレッド・キャノニア(米国)14勝5敗(UFC7勝5敗)
デレク・ブランソン(米国)23勝7敗(UFC14勝5敗)UFC5連勝中
▼バンタム級 5分3R
カイラー・フィリップス(米国)9勝2敗(UFC3勝1敗)
マルセロ・ロホ(アルゼンチン)16勝7敗(UFC0勝1敗)
▼ライト級 5分3R
ナスラット・ハクパラスト(アフガニスタン)13勝4敗(UFC5勝3敗)
ボビー・グリーン(米国)28勝12敗(UFC9勝7敗)
【プレリミナリー】※UFC FIGHT PASS
▼ヘビー級 5分3R
アンドレイ・オルロフスキー(ベラルーシ)32勝20敗(UFC21勝14敗)
ジャレッド・バンデラ(米国)12勝6敗(UFC1勝2敗)
▼女子フライ級 5分3R
ロクサン・モダフェリ(米国)25勝19敗(UFC4勝7敗)※引退試合
ケイシー・オニール(豪州)8勝0敗(UFC3勝0敗)
▼フライ級 5分3R
アレックス・ペレス(米国)24勝6敗(UFC6勝2敗)
マット・シュネル(米国)15勝6敗(UFC5勝4敗)
▼バンタム級 5分3R
ウィリアム・ナイト(米国)11勝2敗(UFC3勝1敗)※UFC2連続KO
マキシム・グリシン(ロシア)31勝9敗(UFC1勝2敗)
▼バンタム級 5分3R
ロニー・ローレンス(米国)7勝1敗(UFC1勝0敗)
マーナ・マルティネス(米国)9勝2敗(UFC1勝0敗)
▼ライト級 5分3R
アレクサンダー・ヘルナンデス(米国)13勝4敗(UFC5勝3敗)
ヘナート・モイカノ(ブラジル)15勝4敗(UFC7勝4敗)
▼ライトヘビー級 5分3R
カーロス・アルバーグ(ニュージーランド)3勝1敗(UFC0勝1敗)
ファビオ・シェラント(米国)7勝3敗(UFC0勝2敗)
▼ミドル級 5分3R
ジェイコブ・マルクーン(豪州)5勝1敗(UFC1勝1敗)
AJ・ドブソン(米国)6勝0敗(UFC0勝0敗)
▼バンタム級 5分3R
ダグラス・シウバ・ジ・アンドラージ(ブラジル)27勝4敗(UFC5勝4敗)
セルゲイ・モロゾフ(カザフスタン)17勝5敗(UFC1勝1敗)
▼ウェルター級 5分3R
ジェレマイア・ウェルズ(米国)9勝2敗(UFC1勝0敗)
マイク・マテサ(ニュージーランド)3勝0敗(UFC0勝0敗)
【収録日・収録場所】
2022年2月12日(現地)
米国テキサス州ヒューストン トヨタセンター
【出演】
解説:高坂 剛、堀江ガンツ
実況:高柳謙一
■生中継前後に出演陣のYouTube配信
『スタジオ裏トークUFC271』YouTube「WOWOWofficial」