控室に戻るまで泣き止まなかった。でも戻ったら──
キック40戦無敗の那須川について、ロッタンは「進化している」と評する。
「彼は僕との対戦以降、とても成長・進化していると思う。彼の武器はよりアグレッシブに、有効的になっている。ボクシングルールでも試合をして、タイにもトレーニングで来ていたよね。そして、彼のムエタイスキルを向上させるようなタイ人のコーチからも、日本で指導を受けている。
以前の彼のスタイルは出入りするものだったことを覚えているけど、今はよりアタックしていくし、打ち合っているように思う。立ち方や打撃の応酬などを見ると、進化していると感じるよ。前よりパワフルに良いファイターになっているね。だから決して甘く見たりはできないよ」
初戦から3年半を経ても、那須川との試合は忘れられない、という。「判定結果を聞いて、涙が止まらなかった」──その思いを、ロッタンは一気に語り始めた。
「僕は彼に勝てると思うし、負ける可能性だってある。でもそれは気にしていない。ノックアウトを狙いに行くしし、彼もそうするだろう。前回の結果が僕の頭にずっと引っかかっていて、早くそれを払拭したいんだ。
僕はファイターで、これは僕のキャリアの一つだ。このスポーツは面白いよね。見て学んだり、やって学んだり……興味深いアートのようなものだ。僕は彼との試合で日本に行った。タイを代表して、彼のホームタウンで戦った。彼らは日本に行く費用を払ってくれて、僕は万全の準備をした。出来ることは全部した。それまで経験したことのなかった寒い国での減量も、ね。体重を落とすために爪すらも噛んだ。それくらい簡単なものではなかったんだ。
当時、僕は日本では誰にも知られていない、無名のタイ人ファイターだった。でもテンシンは本当のスターで、そんなことは気にもしなかったけど、ただ試合をしたくて自分の可能性を見せつけるために日本へ行ったんだ。
5ラウンドを終えて、引き分けの結果が出た。その時、ちょっと疑問を抱いたことを覚えているよ。だって、3ラウンド、4ラウンドは天心がしゃがんだり、ガードする事しか出来なくなるまで僕はかなり攻めたから。
そして延長の6ラウンド目まで行った。彼より僕の方が打っていたと思うから、結果のコールを聞いた時は涙が流れてきた。僕は控室に戻るまで泣き止まなかった。ただ、嬉しいことに控室にいた日本のファイターたちは、僕が部屋に戻った時に、拍手で迎えてくれたんだ。日本でもこうして支持してくれる人がいると知って気が楽になったことを覚えている。
僕はこのファイトスポーツを愛しているし、自分のキャリアも好きだ。全身全霊をかけて戦う。その上で何を大事にしたいかと言ったら、フェアで公平なものを見せたいということ。僕たちファイターはそれを支えないといけないし、真のスポーツにしないといけない。真に良いファイターを支持してもらうためにも、フェアでなくてはいけない。それがスポーツだ」(ロッタン)
彼を倒すさ。あの試合結果で僕の心は折られた
那須川もまた、あのときの悔しさを、キックボクサーであるうちに背を向けずにけりをつけたいと考えている。
初戦の試合直後、那須川は、「3Rに初めて怖くなりました。いくら打っても倒れないので、どうしたらいいのか分からなくなりました。左手を痛めたのも3Rだったので“左を打てないで勝てるのか”と思いました。最後まで気合いで立っていた感じです。ロッタンとはまたいつか、やることになるんじゃないかなと思います」と、悔し涙とともに再戦について語っていた。
果たして、那須川は“キックボクシング卒業マッチ”で自身が望むロッタンとの試合を実現できるか。ロッタンの次戦は、もうひとつの“ミックスルール”(※3分4R制で、1R&3Rがムエタイルール、2Rと4RはMMAルール)である、ONEでのデメトリアス・ジョンソン(DJ)との試合が予定されている。その「ONE X」での試合は、当初予定されていた12月5日から「2022年初頭」に延期が発表された。
ロッタンは、2022年初頭に、DJ戦、那須川戦と2つのビッグマッチに向かうことになるか。
「DJとの試合が延期になったけど、練習は続けている。ポジティブに捉えているよ。実際、僕のグラウンドゲームのスキルを向上させるためにもっと練習が出来るから、僕にとっては良いことだ。この試合が終わっても、可能であればMMAの練習はしたいと思っているよ」と、新たな挑戦を語る。
もう一つはリヴェンジだ。
「同時に、もう一回だけでいいから、テンシンと戦いたい。5ラウンド全て自分が勝つし、彼が6ラウンド、7ラウンドを要求しても結果は変わらない。彼を倒すさ。あの試合結果で僕の心は一度、折られた。だから、彼を倒したい」。