MMA
インタビュー

『ストロング本能』青木真也が『棋士と哲学者』戸谷洋志と語る勝負論。

2019/05/24 07:05

――それで最近、知ったことは何かありますか?

青木 周りには、僕より金持ちや優秀な人はいっぱいいますよ。この間の試合後に食事していた時、たまたま元UFCのチャンピオンたちが来たので一緒に写真を撮ったんです。その時、メンバーの中で自分が一番稼いでないことに気付いた(笑)。さらに自分より優秀か、社会的に影響があるかを考えたら、自分が一番下だと思ったけど、僕の中では自分が一番豊かに生きていると思ったの。僕の中では自分が一番だって。経済的に成功するかどうかは、ジャンルの強さだと思うんです。メジャーな野球と格闘技の違い、みたいな。僕はやりたいことがあって好きなことができているから、僕の中では一番だと思っている。

青木 ちなみに戸谷さんは、勝負は好きですか?

戸谷 じつは勝負は嫌いで、白黒つけるのが怖いんですよ。

青木 それわかる! でも白黒つけると解放感があるじゃないですか。それってドキドキしない?

戸谷 勝ち負けが記録に残ると、負けた事実が覆せなくなってしまうじゃないですか。だから勝敗をはっきりさせずに、解釈の余地を残しておきたい。

青木 そうなると戦わないことが一番で、進めない生き方になっちゃう。僕の考えは違って、例えば負けたことを人に言われたとしても、「だから何?」って受け取れる。負けたことをそんなに悔やむ必要はないと、最近は思えます。仲の良い北岡悟選手はレコードが全然綺麗じゃないけど、彼は昔から負けても「だから何だ」と言っていて、まさにその通りだと思いますね。

戸谷 なるほど。

青木 格闘技が好きなのと、勝負が好きなのはまた別のこと。そこはやっぱり深いなあ。

戸谷 そういえば僕は子どもの頃に空手を習っていて、練習は好きだったけど、試合はめちゃくちゃ嫌いでした。ひたすら基本稽古をやるのが楽しかった。試合に向けた対策とか嫌だったなあ。

青木 やっぱり僕は勝負が好きですね。格闘技が好きだと、勝負に対して厳しくなりますよ。「相手と楽しもう」というテンションとは違うじゃないですか。格闘技選手である前に勝負師なんだから、勝ち負けにはこだわろうと思うんです。日本の格闘技ですごく嫌いなのが、「勝敗を超えた」という表現。ほんとバカなんじゃないかって思う。それ言ったら見る価値なんてないじゃん、勝負なんだから。勝敗を超えた試合に人が感動する理屈も分かるけど、でもいい年した大人がどんなことをしてでも勝ちたいと、徹底的に勝負にこだわるからこそ、そこで初めて勝敗は超えられると思うんですよ。ようやく勝者も敗者も称賛される。それを最初から言ったら、すごく安い試合になっちゃう。だから、勝負にはこだわるべきだと僕は思います。

戸谷 日本の哲学者に内田樹という方がいるのですが、彼は合気道を評価しているんです。何故かというと、技を掛ける瞬間、自分と相手が一体化する感覚が得られるから。そこでは敵と味方の区別がなくなるのだそう。青木さんの話を聞いていると、そのように相手と一体になるよりも、相手に勝つことが大事だと?

青木 まずは勝負だからね。試合の組み立て方にも表れているけど、僕の試合は面白い内容ではないと思う。「男だったら打ち合えよ」って他人は言うけど、バカなんじゃないって思う。だって危ないじゃん、負ける可能性あるのに。僕の組み立て方は、徹底的に負けるリスクを排除する。実は勝負にこだわっているスタイルだと思います。(世間では)エンターテインメントと勝負とを、悪い意味ではき違える傾向にあるよね。

戸谷 ある種、勝ちにこだわっているからこそ、勝負事は運の要素もすごくあると思う。だからと言って、運を天に任せるとかじゃないけど。

青木 僕は着飾らずに(自分から)「運が良かったよ」とか平気で言っちゃうけど、全然努力してない人に思われるんですよ。運って言うと、日本人は安易な印象を受けますよね。でもそれは、もう最終的に「運しかない」と思えるところまで努力し尽くしたということ。逃げの意味じゃない。そこを勘違いする人が多い。「これほどの努力を人は運と言う」と、幻冬舎の創業者・見城徹さんはおっしゃったそうですが、僕はこの言葉が大好きで、まさにその通りだと思います。だからこそ勝負は面白いんです。

戸谷 最初から勝つことがわかっていたら面白くないですもんね。

青木 一回でも勝負に魅了された人は、人生においてそれ以上の刺激は現れないと思う。僕も36歳だから、「もう大往生でしょ。これ以降は右肩下がりだよ」って、よく人に言われます。でも、本当に人間って面白いもので、もう一回ピークが来ると思っている。それってセックスもドラッグも全部一緒で、最初の興奮が忘れられず追い求めちゃう。だから止められないんだなと思います。

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