2021年10月27日(日本時間28日)、米国フロリダ州フォートローダーデールのハードロックホテル&カジノにて、「PFL 2021 #10: Championships」が行われ、メインイベントで五輪柔道2大会連続金メダリストのケイラ・ハリソン(米国)が、2R 腕十字で一本勝ち。自身のMMA戦績を12戦無敗とし、PFLとの契約を満了。柔道時代の練習仲間のロンダ・ラウジーに続く、UFCチャンピオンへの道に進むことになるか注目されている。
2021年の各階級決勝が行われる今大会。メインは、PFL2021年女子ライト級決勝で、米国代表初の柔道五輪金メダリスト(ロンドン&リオ78kg級連覇)のケイラ・ハリソン(米国)と、Invicta FCのバンタム級から2階級上げてPFLで3連勝中のテイラー・ゴールダード(米国)が対戦した。
▼女子ライト級決勝 5分5R○ケイラ・ハリソン(米国)153.8lb/69.76kg[2R 4分00秒 腕十字]×テイラー・ゴールダード(米国)154.4l(70.03kg※ハリソンがPFL2021年女子ライト級王者に
1R、先に詰めるゴールドダードに、右で引き手掴み引き寄せたハリソンは、大内刈でテイクダウン! 左でパウンドを入れながら右足でパス。ハーフから左で脇差しパスガード! サイドを奪うが、ゴールドダードも片足をからめる。
ハーフから左腕をキムラクラッチにとらえ、アメリカーナも狙うハリソン。亀になるゴールドダードにバックから右でチョークを狙いながら細かいパウンド。しかしゴールドダードも腰を切りフルガードに。中腰から右を大きく振るハリソンを掻い潜り、下から立ち上がる! 右を振るゴールドダードの引き手を掴んだハリソンは払い腰! そのまま袈裟固めもゴング。
2R、サウスポー構えから左ストレートで飛び込むハリソン。左ハイから組んでボディロックテイクダウン! フルガードのゴールドダードに中腰で金網に頭を詰まらせパウンド。右で脇差し、左でパウンドしながらパスガード。
マウントから頭を防御するゴールドダードのボディにパウンド。いったん背中を向けたゴールドダードだが、正対したところにハリソンはマウントから腕十字! 両手をクラッチしたゴールドダードだが、ハリソンはそれを切って腕を伸ばして極めて、タップを奪った。
UFCかBellatorか──自分にとってベストなことをするだけ
これでハリソンはMMA12連勝。2020年はInvictaで初めてフェザー級に落として勝利しているが、PFLライト級では、全試合1Rフィニッシュで決勝に進出。決勝こそ2Rに持ち込まれたが、きっちり腕十字で極めている。
2つの金メダル、2児の母となり、2R一本勝ちで、PFL2連覇を果たしたハリソンは、100万ドル(約1億1千万円)の小切手のボードを手に「フロリダに戻り、子供達と休んで学校に連れて、出来るだけ早くATTジムに戻る」とマット上で語った。
今回の試合で、無敗のハリソンはPFLとの契約を満了し、しばらくの間、MMA最大のフリーエージェントとなり、PFLとの更改交渉、さらに他団体との交渉に臨むことになる。UFCやBellatorはハリソンの獲得に乗り出す可能性がある。
まだ31歳。同じジミー・ペドロ門下生として、北京五輪銅メダリストのロンダ・ラウジーの後輩にあたるハリソンは、ラウジーに続き、UFC王者を目指すか。コナー・マクレガーが登場するまで、UFC史上最もPPVを売るスターは、ロンダ・ラウジーだった。
1試合につき7桁の報酬を求めていると報道されるハリソンについて、UFCのダナ・ホワイト代表は、会見で「もし私が彼女だったら、彼女がいる場所(PFL)に留まって、あそこにいる人たちを食い続けるだろうね」と、PFLとUFCにはレベルの差があると警告。その言葉に、ハリソンは「他の人が私や私のキャリア、私の選択肢について何を言おうと、本当に気にしない。私は自分にとってベストなことをする、それだけ」と語っている。
このところのファンの間のドリームカードは、ハリソンと現UFC世界女子フェザー級&バンタム級王者のアマンダ・ヌネスとのマッチアップだ。しかし、両者はアメリカントップチームのチームメイトであり、階級も現時点では異なる。
Invictaでフェザー級で戦ったことがあるハリソンが、本格的に階級を落とした場合、選択肢は広がる。UFCではフェザー級はヌネス一強が続くが、Bellatorではランカー10人が並び、その頂点に君臨するのが、女子フェザー級王者クリス・サイボーグだ。ヌネスには敗れたものの、UFCでホリー・ホルムやフェリシア・スペンサー、Bellatorでジュリア・バッドを降しているサイボーグと、ハリソンのマッチアップが実現すれば、“売れる”カードとなるだろう。
「ベストなことをする」──その選択は、試合直前のハリソンの決意表明にも表れていた。
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「2つの小さな命を預かることに恐怖を感じていた」ハリソンが、試合前「正式に2児の母になった」ことを告白
1984年にロンダの母アン・マリア・ラウジー・デマルスが獲得して以来、26年ぶりに米国女子代表として世界選手権で金メダルを獲得したハリソン。2011年には、柔道時代の前コーチから性的虐待を受けていたことを、同じケースに巻き込まれた人々を力付けるために公表した。その後、出会ったジミー・ペドロが、ロンダもハリソンもメダリストに育成した。
そしていま、ハリソンは2人の子供と養子縁組を結び、ともに暮らしている。養女のカイラは今回の勝者コールをケイラとともにマットの上で聞き、ベルトを手にした。
今月初め、ハリソンは姪のカイラを養子にし、今週は甥のエメリも養子にした。どちらもフロリダで何カ月も一緒に暮らしてきての決断だった。継父のボブ・ニコルズが亡くなり、母親のジーニー・ヤゼルが健康上の問題を抱え、妹が「自分の悪魔と戦っていた」とき、彼女は子供たちを家に連れて行ったという。
ハリソンは試合直前に、子供たちと車で移動する写真をインスタグラムにアップし、以下のように記している。
「この写真は、オハイオ州からフロリダ州へのドライブ中に撮ったものです。私の人生が一変した日です。私はこの日のことを、苦い思い出としてずっと覚えています。私たちはボブを失い、私は彼を悼み、2つの小さな命を預かることに恐怖を感じていました。自分が何をしているのか分からず、私も彼らと同じように泣きました。私は圧倒され、疲れ果て、悲嘆に暮れ、孤独でした。
今日まで早送りします。2021年10月25日、私は正式に2児の母となりました。以前から母親になったと感じてはいましたが、子供たちを守り、育て、導き、愛することが永遠に私の仕事であるという安心感は、何物にも代えがたいものです。
これで、私たちの家族は完成しました。これが私の人生になるとは100万年前には考えもしませんでしたが、他の方法では望んでいません。私たちはオオカミの群れです。ジェイコブ・エメリ・ハリソン君、君を愛し守ることを約束するよ……君を導くことを、君を支えることを、永遠に大切にすることを……私はいつもあなたのためにここにいます」
ファイターとして、母として、宝物を手にしたハリソンは、試合後の会見で、これまでとこれからについて、「この世に与えられたものなんかない。全ては自ら獲得しなきゃいけない。私は恵まれてて毎日一生懸命、頑張って励めるいうことに、周りの全てに、感謝してる」と語り、娘とベルトの写真に「この旅に参加したすべての人に感謝します。この道のりで私を助けてくれたすべての人たち。家族、コーチ、チームメイト、友人。毎日、好きなことを仕事と呼べることは、本当に幸せです」と記している。